義理チョコ

第1話義理チョコ

　マジなんなの。チョコ代返せよ。私別にこのチョコ好きじゃないんだけど。

「ももーー、連休中にバレンタインチョコ作ろーー」

　さおりのヤツがまた面倒なこと言いだして、でも断れないじゃん？　だってさおりはスクールカースト最上位よ？　私が陰で金魚のフンって言われてることぐらいわかってるし。あの子がいなきゃ、私の立ち位置どうなんの。

　だから貴重な連休ほぼ費やして、材料の買い出しから、個包装から手伝ったんじゃん。しかもあの子、クラス全員に渡すって言い張って、なぜか私まで全員分作るはめになったんだから。

　で、いざ当日、さおりと渡していったらさ、チャイム鳴ってる中、最後に登校してきた矢田の分だけないの。さおりは「はい、矢田君」ってちゃんと渡してんのに。あれ、なんで？　朝数えたときはあったのにって思ったと同時に思い出した。弟の口が出掛けにモグモグ動いてたこと。アイツ、食いやがったな！

　で、空箱抱えた私を矢田がじいっと見てきて、気まずいったらない。

　知らん顔して、昨日はやり過ごしたけど、でもなんか、悪いじゃん？　一人だけあげてないって。

　だからわざわざ今日の朝、コンビニで買ってきたバレンタイン用のチョコに、メッセージまで書いたんじゃん。「昨日ごめん、弟に食べられて！　ハッピーバレンタイン！」って。

　しかも矢田、遅刻してくるくせに、一番に帰るからタイミングなくなって、放課後走って追いかけて。

「はい、これ！」

　って渡したら、

「なにこれ」

　って見ればわかるでしょ。

「義理チョコ」

　って突き出したら、表面のメッセージにさらっと目はしらせてさ、

「いらない」

　は？　一瞬フリーズしちゃったじゃん。え、なにコイツ。って思ったら、私に目、合わせてきてさ。

「義理はいらない」

　って馬鹿みたいに真剣な顔で、たっぷり十秒ぐらい？　それから何にも言わずに帰っていったの。え、何？　どういうこと？　

　さおりにも言えないんだけど。