秘め事

かみひとえ

秘密

 月の明かりに青白く。

 星のない夜にこそ想ふ。

 闇に包まれた静寂の中。

 凍てつく貴女の首筋を。

 赤く染まった指先で。

 ぬるり、優しくなぞる。

 高鳴らぬ冷たき心臓。

 それでも汗ばむ二人の身体。

 狂う愉悦に見つめ合う。

 柔らかな唇が触れ合って。

 静かな愛を甘く誓い合う。

 咽せ返るような血の契り。

 貴女の首筋を舐め取って。

 その月明かりの青い瞳に映るは。

 貴女を見つめる赤き月。

 鏡に映らぬは秘めたる情愛。

 その白き肌に温度はなく。

 互いに合わせた乳房に鼓動はなく。

 杭穿つ胸に痛みはなく。

 ただ愛を貪る情熱のみ。

 磔刑を恐れること勿れ。

 それは神の冒涜に他ならない。

 狂乱に高らかに嗤い合う。

 禁忌の花が血飛沫のように。

 どくどくと、どくどくと咲き乱れ。

 滴る果実をそっと握り潰す。

 痙攣じみて震える身体。

 この胸を焦がす灼熱。

 夜風に舞い踊る長い髪。

 さあ、私と円舞曲を!

 唇を噛む喘ぎに死者は恐れ慄く。

 そこは私と貴女だけの秘密の庭。

 どろり、白き花弁が赤に染まる。

 誰も立ち入ることは許されず。

 死と狂気だけが祝福を囁く。

 身体を濡らす血と愛が。

 私と貴女の存在の証し。

 そう、だから。

 この首筋の傷は誰にも秘密、秘密。

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秘め事 かみひとえ @paperone

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