秘密である内は、良くも悪くもならないんだから。

こたろー

第1話

 部活終わりの帰り路、俺は幼馴染の がくと一緒に氷菓を食べていた。


駄菓子屋の前の、錆びたベンチに二人で座る。


「あ、当たりだ。澄夏すみかは?」

 楽はそう言いながら、氷菓の棒を俺に見せた。


「俺は外れだったよ」

 俺は何も書かれていない氷菓の棒を、楽に見せる。


「もう一個貰って来るわ」


「いってら」



 楽は軽い足取りで駄菓子屋の店内に入って行った。


 遠くで虫の声が響いていて、空はオレンジ色に塗られている。

夏の終わりを感じさせる、独特な気温と湿度が妙に心地いい。


「♪~」

 楽は花歌を歌いながら、満足げに二個目の氷菓を頬張る。


 俺は前かがみになって、膝の上に両腕を乗せて、ガクリと頭を地面に降ろす。


心が、妙に落ち着かない。


 俺と楽は、幼稚園からの幼馴染だ。


喧嘩したことは一度もない。


 多分、誰がどの角度から見ても、俺と楽は”友達”に見えるだろう。


でも、俺は、楽に友達の振りをしている。


楽は俺のことを友達だと思ってるだろうけど……。


俺は、楽のことを友達だと思えない。


友達だったけど、大人になるに連れて、認識が変わった。


俺は多分、楽のことが好きなんだ。


人としてとか、友達として、とかではなくて。


俺は、楽のことを、恋愛対象として見てる。


自分の性別は、生物学的にも、性自認的にも、男だ。


だけど、部室で着替える時とか、嫌でも意識してしまう。


俺たちは仲が良い上に、楽のスキンシップが激しい。


楽は、ただ友達とじゃれる感覚なんだろうけど、俺はその動作の一つが引っかかる。


ほんと気持ち悪いよな。


下心を隠して、友達の振りをして、嘘をついてるんだから。


もし好きだと伝えてしまったら、今の関係ではいられない。


 俺には、自分に正直になる勇気も、嘘を貫く覚悟も無い。



 この気持ちは、自分で望んでいるんじゃない。


どうしようもできないから、取り敢えず、消去法で秘密にしてるんだ。


 秘密である内は、良くもならないし、悪くもならない。


「澄夏?」


「ん?」


「どしたの?」


「なんもでもないよ」


「そう」



 あ~もう。


 秘密って、自分の内に秘めておくものだけど、心だけで持つには重すぎるよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密である内は、良くも悪くもならないんだから。 こたろー @rotaro-24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ