第3話 聖女の秘密

 聖女キミリアには秘密はない。

 特にお世話係であるウルスラは、聖女になる時に「何でも話せるお姉さんだから」と選んでなってもらったのだ。

 悩みも、困りごとも、何でもウルスラに相談し、手伝ってもらってきた。

 きたのだが……。


「ほわわわわわ」

 自室で一人、メアリにもらった『花園便り』を読みながら、キミリアは奇声を止められない。

 そして、何度も読み返すのも止められない。


 ――魔女はダンスのさなか、聖女様を背後から抱擁し、耳元に愛を囁く。

 

 ――二人の視線が絡み合った。その熱さに、薔薇も思わず花弁を散らす。


 ――魔女に抱きしめられ、顔を見上げる聖女。その目の中で、愛する人と踊れた歓びと、この時間が終わってしまう事への哀しみがせめぎ合っている


「こ、こんな恥ずかしいことをしていたとは……」

 夜会の時は上手く踊ることに必死で分からなかったが、周りの人からはこう見えていたという事で……。

 これはまずい。なんとかクーシンに直接会って謝らないと。


「キミリア様、よろしいですか?」

「ひゃい!」

 

 扉の向こうからのウルスラの声に飛び上がり、キミリアは『花園便り』を引き出しの一番奥に押し込む。

 なぜか、ウルスラにこの『花園便り』を読んでいたことを知られたくなかったのだ。

 入ってきたウルスラは、キミリアを見て少し眉をひそめる。


「キミリア様? 少し顔が赤いようですけれど」

「あー、芋ほりで張り切りすぎちゃいましたかね」

「体調が悪いようなら、明日の予定を……」

「大丈夫、大丈夫です! 明日も聖女の公務を頑張りますよ!」

 腕まくりして、ない力こぶを作ってみせるキミリア。

 ウルスラは何故かちょっぴり涙をにじませて、キミリアの頭をなでる。


 聖女キミリアには秘密はなかった。これまでは……。

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三つの秘密 ただのネコ @zeroyancat

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