第2話 お世話係の秘密
ウルスラには秘密がある。
聖女のお世話係としては、あまり褒められたものでないことは承知している。
だが、彼女自身がただの孤児だったころからの趣味なのだ。
孤児から孤児の面倒を見る神官になった後も、聖女となったキミリアに指名されてそのお世話係になってからも、なんだかんだで続けてしまっている。
しかし、その秘密は今、危機にあった。
「ウルスラさん。私はね、貴女にもう一つの才能があること自体は本当に良い事だと思っているの」
聖アンナ孤児院の長、バルバラは、ウルスラにとって母のような存在だ。
キミリア様と聖アンナ孤児院を訪れた時に、バルバラから「ちょっと貴女だけこっちに来てちょうだい」と院長室に呼ばれた時から嫌な予感はしていた。
「でも、題材は選ぶべきだわ。ナマモノはちょっと、ね?」
バルバラのいうコレは、机に乗せられた『花園便り』の最新号。
ウルスラは、アーシェのペンネームで『花園便り』に何度も寄稿していた。いや、主幹として編集に携わっていた事すらある。
もうその役目は後輩に譲ってしまったけれど、その後輩から「記事が足りないんですよ」と泣きつかれてたのが十日ほど前。
何を書こうかなぁと思っていた時にキミリア様から夜会の事を聞き、ついつい興が乗って書いてしまった。
「キミリア様自身がコレを見たら、どう思うかしら」
アーシェが得意とするのは女性同士の禁断の愛の物語だ。あくまで『物語』として存在を許されているものであり、実在人物を登場人物とするいわゆる『ナマモノ』はあまり褒められたものでは無い。
本人が見れば、多分良い気はしないだろう。
分かっている。分かっているのだ。もう少し時間があれば、別人だと言えるところまで脚色をくわえられたのだが。
「コレはもう出回ってしまっているから、止められないけれど」
うつむいたウルスラを見て、真意が十分に伝わったことはバルバラも察したらしい。
「貴女はキミリア様本人には見せないようにしてちょうだい。私は次号で別のネタを流させるから。そうすれば、皆すぐに忘れるわ」
解決策を提示され、ウルスラは顔をあげる。
しかし、バルバラは釘を刺し直すのを忘れない。
「万が一、キミリア様がみてしまった場合、貴女が書いた『物語』であることを説明して、許しを請いなさい」
「はい、わかりました」
最悪、泣かれて縁を切られることになるかもしれない。
でも、それだけの事をしてしまったのだ。
もう、止めよう。
今度こそ止めよう。
そう決意して院長室から出るウルスラに、後ろから声がかかる。
「勘違いしないでね。書くこと自体は止めないでちょうだい。おてんばワリーからのお願いよ」
それは、アーシェに何度かファンレターをくれた人のペンネームだ。
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