明日へ向かう君と、進めない僕

椎名

神は何を思うのか

 僕は彼女を殺した




 ある夏の出来事が僕の人生を大きく変化させた。

 高校二年の夏休み8月12日、僕は幼馴染で彼女である櫟和葉(いちいかずは)とショッピングモールに来ていた。

「久しぶりだね」

「夏休み勉強が大変だしね」

 何の変哲もない会話だ。

 ショッピングモールで買い物を続け家へ帰った。家へ帰り晩飯を食べ寝る。何か変わったことはしていない。


 それなら何故今時計に表示されている日付が昨日なのだろうか、スマホの表示も昨日になっている。テレビをつけてみる。日付は昨日だ。夢かなにかかと思った、ただこの感覚は夢では無い。とりあえず櫟と待ち合わせをしていたショッピングモールに行ってみた。その少しあと彼女が来た。昨日と全く同じ格好ここで確信した。今日は2回目の8月12日だ。

「久しぶりだね」

 前回と全く同じ言葉だ。恐ろしくはあったがすぐに治るだろうと思った。1回目とは別の店に入った。試してみたくなったのだ。その後も1回目とは別のルートを進んだ。夜眠りにつく。

 時計を確認する。日付は8月12日だ、3回目の今日が訪れた。お金も元に戻る。なんでも買える。夢のような世界になったのだ。しかし飽きも来る。漫画は更新されないし、新作のゲームも出ない、テレビは全く同じ番組だ。しかしすぐに治ると思っていた。


 10回目の今日が訪れた。何か変わった様子は無い。行き先を変えたりしてみたが何も起こらなかった。今回は家で一人で過ごすつもりだ。


 20回目が訪れた。何かが変わった気配は無い。そろそろおかしくなりそうだ。今まで何をしても無駄だった。いつまで続くのか怖くなった。ただ信じて過ごすしかない。


 100回目何も変わらない。


 200回目何も変わらない。


 300回目何も変わらない。


 400回目何も変わらない。


 500回目何も変わらない。


 数えるのを辞めた。何も変わらない。


 もう限界だ。死のう。首を吊り死ぬ。意識が遠のく、これでもう苦しまなくていい。


 目が覚めた。いや覚めてしまった。日付は変わらない。今回は一日中叫んだ。気絶するかのように眠りについた。


 日付は変わらない。


 僕は、色々な方法で死んだ、自分で自分を刺した。飛び降りた。一酸化炭素中毒など考え得る限りの死に方を試した。僕はもうおかしくなっていたのかもしれない。もう何度死んだかも分からない。絶望し何もせずに過ごす日が続いた。



 僕は櫟に会っていないことを思い出した。久しぶりに外に出た。ショッピングモールに向かう。彼女は笑顔で言った。


「久しぶりだね」


 僕は泣き出した。周りの視線が痛かったが関係ない。僕にとってはたった一言が救いだった。なぜもっと早く言わなかったのだろう。後悔した。櫟に全てを話した。最初の頃に話はしたが、あの頃はなんの危機感もなかったため冗談のようなノリで話した。今は違う。本気で話した。最初は到底信じられないといった感じだったが、涙を流しながら必死に話す僕を信じてくれたのかもしれない。彼女はとても優しかった。ずっとずっと話を聞いてくれた。いくらか気持ちが楽になった。このループから抜け出せる方法を探す意欲が出てきた。その日はそのまま家に帰った。次から脱出方法を探すつもりだ。


 また絶望していた。それもそうだ。今まで何千、何万回もループしているのだ。今更何か見つかるわけが無い。寝る。


 寝て、起きて寝る

 こんな生活が続くようになった。櫟は心配して電話や家のチャイムなどを鳴らしてきた。


 全て無視した。


 何も変わらない。



 今日僕は人を殺した。殴り殺した。嫌な感覚だ。どうせ戻る。何をしたっていいじゃないか。これがきっかけで元に戻るかもしれない、淡い期待だ。


 次もまた次も色々な殺し方をした。


 刺す、焼く、殴る。人間は思ったよりも頑丈らしい。

 肉にナイフが刺さる感覚、肉の焼ける匂い、音。とても新鮮だ。この停滞した世界ではとても素晴らしいことだ。


 頭が壊れないのは謎だが、多分ループする事に体調不良などもリセットされるからだろう。


 だんだん楽しくなってきた。


 結局何かが変わることは無かった。

 1人を除いて、町中の人間を殺した。世界一の犯罪者でもここまでのことはできないだろう。


 彼女だけは殺せない。彼女は害せない。何百、何千回と殺して都合がいいとは思うがこれだけはできない。彼女を巻き込んでしまえば本当に戻れなくなる。彼女は僕と違って1回1回明日へ向かっているのだ。彼女を巻き込んでは行けない。


 




 とうとう殺すのにも飽きた。


 何万と殺して満たされない。とっくに壊れていてもおかしくないが、ループがそれを許さない。


 ベットから起きることが無くなった。朝か夜かも分からないいつ戻っているのかも分からない。


 今日、



 僕は彼女を殺した。




 おかしくなっていた自覚はある。だが、止められなかった。どうせ生き返る。なんの問題もない。そう思っていた。どうせまた明日会える。



 朝起きると


 "8月13日"進んでいた


 僕が1番見たかった表示

 嬉しかった。耐えてきたことがやっと報われる。櫟に会いに行こう。


 勢いよく家を飛び出した。


 櫟の家の前に人だかりがあった。警察の車も止まっている。怖くなった。


 人だかりの中に櫟の母親を見つけた。

 話しかけるとすぐに状況を教えてくれた。

 

 櫟は僕とのデートを終えたあと家へ帰ると空き巣に襲われたことになっているらしい。



 どう考えても僕が殺した。デートにも行っていない。何かがおかしい。


 ひとつ言えるのは



 僕が櫟を殺した。



 ごめん


 ごめん櫟


 ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん





「櫟ごめん、僕もそっちへ行くよ」


 


 僕は首を吊った。







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明日へ向かう君と、進めない僕 椎名 @kotai_remonn

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