第三十三話 代償と再び暗転。

「代償を溶かす? ⋯⋯ん? それなら何故おぼれていたことを知ってたんですか?」


と、疑問が生じた僕は思わず泳ぐ魚と戯れながら目の前に浮いているキカさん? という人に質問を投げた。こんなことをしている間にもきっとミアは非道い目に合っている。


早く話して欲しい。その一心で僕はキカさんを急かすように見る。すると、キカさんはその視線に気付いたのか此方を振り返り


「それは⋯見れば分かるよ。あなたに付いてるそれを見れば。」


と、言うキカさんに僕は思わず何を言ってるんだ、この人は。付いている? 何がだ、何も付いてなどいないだろう。そう思いながらも渋々口を開く。


「付いてるそれってやつについてと代償について僕は知りたいんですが。」


「えーと、付いてるそれについては何でかあなたに成しげて欲しいというおもいの持つ人が急遽きゅうきょやったようだけど⋯。


さっきあの集合体に見つかったということは、あまりに多くて溶かし切れなかったんじゃないかな? でも、番人に見つからないってだけであなたは相当運が良いよ。」


僕はますますわけが分からなくなった。その衝動で思わず頭を抱える。そして俯きながら僕は思考を漏らす。


成し遂げる⋯⋯? あぁ勿論、成し遂げて欲しいとその誰かに願われなくとも僕はやるつもりだった。だというのにその誰かに願われる程、今の僕は無様ですか? はは、笑えてきますね⋯。


勿論、感謝はしますとも。ですが、これは僕の願いなんです。⋯⋯確かにあの時はミラに泣き縋ってしまいましたが、それももう絶対にしない。だってそんな暇があれば僕は。


そんなことを考えていると聞いてないことがもう一つあったことにハッと気付く。慌ててキカさんの方を向き僕は口をふっと開いた。


「代償については?」


「あぁうん、今話すから。」


そう言って詰め寄りかけている僕を右手で制すようにしながら此方を見る。それに僕は思わず従順に動きをスッと止め話を聞く姿勢を示した。


「えーと、私の知る限りだと代償に全部払ってしまった人は⋯、どんなに足掻あがこうが最後はみんな集合体の一部と化した。零の二人さえも。」


零って二人だったのか。と、今更気付く僕。それにしても集合体ですか。と、僕の頭にはモジャモジャの中にアチラコチラを見る沢山の目。いやそれぞれ色、艶、健康状態が違い赤く染まっているものもあれば白過ぎて死人のような目もあった。それが此方を見るのを想像―――いいや、先程のものはそうだった。見れば見るほど変形する先程のものはそうだったと。思い直していると


「それで⋯唯一残ったのはやっていなかった私とけっちゃんだけ。あとね、事情の知らなかった七の人は弟がそうなって助けようとしてしまった。弟の家族全員という願いも虚しく、ね。」


と、俯きながら話を続けたキカさん。同じだと言っていた人か。⋯⋯でも同じなわけがないと内心思う所があった僕としては同情も何もない。と思っていると


「それでねっ? これはあなたにも関係があるの。そのトップの二人があんなことになってからあなたの伝えたことも全て無駄むだと化した。そう、あなたの言っていた人が組織のボスになったの。それは―――六だった。当然裏切りだったの。」


へぇー、僕のやったことが全て無駄に⋯⋯って、え、あんなに僕が一生懸命になってやったことが全部。はは⋯、クソですかよ? いやそういえばそうですね、最初からクソでした。旅の時点で。⋯でも、それが僕ららしくもありました。だからこそ僕は動いている。どんなに嫌になろうが動いている。だというのに何だ、何なんだろうか。そういう運命だとでもいうのだろうか。簡単に奪うなら奪われない方法だって簡単に出来ても良いのではないか。何故、そんなに―――奪う。何故だ。と、グルグル考えても何も分からなかった。


というか六だったって言われても本当にそうかは知りませんし。それに六さんがどなたか僕は存じ上げませんし。と、思っていると


「だからこそそんなみんなを見ていられなかった私はちまちまと色んな研究所を周り探し紐解きそしてやっとこの隠された迷路になっている海の先に存在するさらなる海に辿り着くことに―――」


「いやその経緯よりも早く方法を教えて下さい。それと何であなたがそれを使わないのかも。」


と、さっさと話せオーラをバラ撒きながら僕は言った。気付けば言っていた。だって何故そんな所からちんたらちんたらと話す? 寧ろ、簡潔に言えや、オラ。くらいに僕の心が暴走してますよ? そう本当に僕、いえリイラの心は暴走しているのだ。


「あ、使わないんじゃなくて私じゃ使えないの。何ていうかとある一族じゃないと開かないんだ。」


「使えないのぉ」? は、今使えないのぉって言った?? いやいやいや、え⋯? ドユコト? ⋯⋯スーッハーッ。うん、夢じゃないのぉ。じゃなくって! 使えないのぉじゃないですよっ! あなた、使えない。それすなわち、! 「使えないのぉ。」ってことになるん! そこんとこお分かりぃ゙?! そうますます混乱するリイラ。ッ、だって使えなかったら意味がないじゃないか。


「いやいや、そんな変な目で見ないでよ⋯。まだ試してもいないのに諦めるのはもったいないって!」


え、今この人変な目って言ってましたか? ハーッ⋯⋯すると僕の頭の中で合図の音が鳴る。改めて考える僕。何を考えているのか、それはッ―――こいつ、やっちゃう?


「いやいや駄目だよっ! 本当に僕が変な目をしてただけかもしれないだろ!」


と、僕の心の中の存在である善人Aが言う。は、善人Aも僕に喧嘩売ってるでしょう、絶対! そう思い善人Aにパンチを繰り出そうと善人Aを見る。すると善人Aは目の前にシュッと紙を出して来た。は、⋯⋯グゥ。そ、それは―――バレンタインでのミアの写真ッ! お、お前。そいつを盾にするつもりかッ。だ、誰だ、こんな奴を善人だと言ったのは!? ⋯あ、僕か。それにその時の壁ドンの角度はッ、ぎりぎり見えるか見えないかのラインッ! グゥ゙! そう内心のたうち回っていると


「ほら、良いから行く。」


と、言う声で一気に現実に引き戻された。え、あえ? そう思うもつかの間。強引に背中を押してくる。そこでふとした疑問が湧いた。


――ん? そういえばここって息も出来てるし喋れてる? いやいやここ、海ですよ? と。スッゴク今更問題だが、馬鹿な僕、いや動揺中の僕ではそんなこと一切お構い無しである。


にしても先程から腹の辺りがなんか痛い。いや、なんかなどでは済まされぬ程の痛み―――。それに当然生じる疑問。え、何か食べたりしたでしょうか? そう思いながら手を顎に当てて考えてみますが、僕には何も思い浮かびませんね。そう思っていると更に腹が痛くなり僕は水中でバタバタともがく。


「え⋯⋯? 急にどうしたの? お腹でも壊―――」


お、ちょ待っ。う、気持ち悪ッ。待って、そこは―――胃のものがギュルギュルと込み上がって来―――思わず嗚咽と咳を漏らす。


「ちょ、え⋯⋯あ、大丈夫! ゆっくり、ゆっくりで良いから。」


と、妙に手慣れた手つきで背中をさすられた。それに僕が吐きかけると


「キーッ、キルルッ!」


と、小さな声が口元からした。え⋯⋯? と思わず口元を見ようとし目に写ったのは―――とても小さな泡の中に入ったドンラウーが。ってはぁ?! え? この模様、この形、お前まさか一緒に旅を続けたあのドンラウーか?


そう僕が思っていると少しずつ大きくなっていく。え、え? ま、まさかお前―――いやちょっと待って、吐きそ。ッ! いやここで吐くのは何か不味い気がします。だって人前だからね?! 駄目だ、耐えるんだ僕。大事な何かを失わない為にもッ!


そう気合いで上を向き、僕は飲み込むことに成功した。う、でもまだ気持ち悪さが凄く残ってる。き、気を抜けば吐いてしまう。頼むから揺らしたり、話させないでくれ。


「え、えぇ⋯⋯。」


と、何やら困惑と引き気味の声が聞こえるが、気にしないったら気にしないのです。そう思いながら僕は海で右を下にして横になる。でも僕は気持ち悪くて何も考えたくないとも思って思考を放棄ほうきした。


「しょうがないか。しばらくこうしてた方が良さそうだし。」


う、是非お願いしま―――うぷ。思わず口をサッと抑える。は、はぁ危ない。それから少し落ち着きドンラウーの方に目を向けると


「キー、キー。」


と、凄く反省しているのか俯きながら鳴いている。その反省具合に僕は何とも言えなくなった。⋯⋯今は安静にしましょう。



―――数分後――――



「もう大丈夫です。すみません、急に。」


「え、あ、全然大丈夫。こんなこと想定も出来ないから。その⋯⋯それより早く試そう。」


「え、えぇとそうですね。」


そういえばそうでした、すっかり忘れてました。そして再び押される背中。そうしていると


「キー、キールリュイ!」


と、いつの間にか元のサイズに戻っていたドンラウーが僕に突進ってちょっと! 痛い、重いー。でも、かつての旅の仲間と再会を果たしたことにより僕の気持ちはすっかり良くなった。まぁ疑問は残っているが。


「キーッ!」


とドンラウーが言うと目の前に紙が現れる。思わずその紙を覗き込み紙面を見ると―――。


えっ? 字が書いてある。思わず紙に触れようとすると鋭い電撃が直ぐ様僕の手に走った。ッ―――? と、思わず身構えるが何も起こらず。不思議に思い手を見ると手の平側の手首に文字が書いてあった。


へ、「静かに」と。いやいや急にそう言われても。そう思っていると


「管理人、アリスのことは思い出せたか?」と今度は別の文字が浮かび上がってきました。え? アリスさんのことならもうとっくの前に―――


「声を上げるんじゃない。口を塞げ。そしてよく聞け。」と。何故、従う必要が―――いや今管理人さんのことを知ってたようですし、もしかして僕の知ってる人かもしれませんね。そう思い直して僕は文字の言う通りに口を塞ぎました。


「よし、それでいい。先ず、管理人が人質に取られたことや何故ミアが捕まっているのかに関してだ。」


「ッ!」


と、思わず叫びそうになり慌てて唇を噛みました。痛ッ! でももし今叫んでいれば⋯⋯ん? 何故叫ぶのがいけないんでしょう。そう疑問に思っていると


「そこは危ない。今いる子と一緒に別の場所へ行きなさい。人出は多い方が良い。」


―――キカさんに説明中。――――



「え? 絶対変だよ。もう行こっ!」


そう言われ押されて僕の目の前は真っ暗と化した。


「ちっ。」

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