第三十話 鏡面

あ゛はぁ゙。指先が、脳が、足先が、どんどん分解されている、ッ。これで、良い。僕が居てこうなるのならこれで良いんだ。もう終わったんだ。あぁ゛、これでやっと楽に―――



は、ここはどこ? 鏡面? そうぼーっとした足取りで僕は歩く。綺麗⋯、でも恐い。亀裂がとても多くて今にも切られそう。刺され、そ、う―――ッ?


何かドロドロしたものが流れ、て。意識がぼんやりしていく中、ドロドロの方を向いていく。赤黒? これはな、に?


「あ――――う、――。こ――成こ――為な――だ。分かってよ。」






ッは。はぁ、はぁ。え、街? ということは夢⋯? いや夢なんかじゃッ! う、ぐ! 頭が揺れ、て。ミ、ア⋯水―――。


「どうしたの!」




▽十時間後


う、うぅん。ここは⋯⋯?


「あ、気が付いたみたい。わ、私。上の人を⋯わ! ⋯⋯ぁ、うぅ。痛ぃ。」


何の音⋯? あぁこれも夢⋯⋯? ならもう少しだけ。もう少しだけで良いから。そう思いながら目を閉じてい―――


「こぉら、寝るのは良いですが栄養を取ってからにして下さい! それとあなたはいつまでそうしてるおつもりですか! 患者さんの迷惑になります。⋯あぁそうですね。今度からコケたりしないよう紐で縛ろうかと思ってまして。」


紐、縛る?! え、と。⋯⋯え?


「ひぇ、けっちゃんのいじわるだ。酷ぃ。」


いやいじわるって問題じゃない気が⋯⋯。


「あなたが毎日転ぶからですが⋯。はぁー、毎時間ドタンバタン。よくそこまでコケれますね⋯。」


待て、ここは夢じゃない⋯? つまりまだ終わってな、いのか。あ、あぁ。この地獄はまだ続くというのか。


「私、迷惑⋯⋯。ごめんなさぃ、けっちゃんを困らせて⋯。」


「いや、そういうわけじゃ―――」


「あぁあ゛あ゛ああ゛ぁあ゛ぁ゙あ!」


「え、待って―――」


あぁ、もう嫌だ。もう御免だ⋯。何がこれでやっとだ。クソッ! もう終わりなんだよ、何もかも。あぁ゛、僕は―――もう終わりたい。



「そう。君にはもう無理か。じゃあいらないや⋯。ばいばい。」


は、何言って―――ッ?! 鏡⋯⋯? 僕。割れて、消えていく。そうか、終わったのか。でも結局、何だったんだろうな。僕の人生。あぁまるでこの鏡じゃないか。こんなに割れて⋯。今みたいに最後は消えて。ははは、疲れたな。まぁでもやれるとこまでやったし、もう―――。


「まぁ、何だろう。つまり言いたいのは、もっと周りを頼り苦悩せよ少年! ってことだよ。」


これは、ミアの⋯。この鏡面、は。僕の記憶⋯⋯? あ、あぁミア、フィくん、みんな⋯、笑顔だ。うん、笑ってる。⋯これはループ中の僕? いつも最後に絶望をして⋯⋯。


これは⋯ッあぁそうか、いやそうです。僕は、結局自分の為でした。助けたいと思う気持ちは本物⋯でも唯許せなかった。僕自身を。


でも、自分の為⋯でも良いじゃないですか。何回だろうが足掻いても良いじゃないですか。格好がつかなくても酷くっても。それも全て僕。あークソッ! 僕はもう一度取り戻す為に今までやってきたんじゃないか!


立て、立つんです。⋯ミアを。みんなを助けたいんでしょう、僕は!


「あぁ、良かった。ボクももう沢山だったんだ。君が、いや―――」



▽時は元に、いや運命の時間へと遡る



「ねぇ、何で話してくれなかったの!」


ここは⋯⋯サーカスの。うん、間違いない。この場所、何度も見ました。でも今度は記憶が、ある⋯。あ、あぁミアです。間違いない、あの頃のミアですっ!


「ねぇ聞いてる? 私だって話してくれれば⋯話してくれさえすればッ! あれいだってあんな風にならなかった⋯⋯! どうして、どうして⋯なの?」


あ、え。何で、どういうことですか、これは。あれいさんが⋯⋯? ま、まさかいつもの二日目じゃない? う、嘘だ。いやだっていつもは―――。こうじゃなかった! な、何が起こっている?


「もう良い。⋯自分で探しに行くよ。じゃあね、リイラ。」


「あ、待って下さ―――ッ。」


う、あぁ。どうして、どうしてですか! ⋯⋯いや、冷静にならなくちゃ。今回は記憶があるんです。この後は―――あ、フィくん。フィくんは何処にッ!


「俺、あれいさんの所に⋯行って、来るよ。」


ッ! これです! 急いであれいさんがいる所に、走るんです! 急がないと、ここで頑張らないとッ! 記憶があるのも全部! 無駄になるッ!



―――数分後―――


み、見えて来たッ! あそこのドアの向こうにフィくんが―――!


「凄い一生懸命だねぇ? あ、もしかして君、計画を知ってるの?」


計画―――? 何ですかそれは。って! 今はそんな場合じゃ!


「駄目だよ? ここは誰も通さないよう命令されててね? だから君を行かせるわけには行かないというわけさ。」


「ッ邪魔です! 退け下さい!」


何なんですか、こいつ! ⋯今はこんな奴の相手をしてる場合じゃないってのに! あぁクソ! ドアは目の前だっていうのに。何でこんな⋯⋯!


「うんうん、その一生懸命さ。良いねぇ、とっても才能あるよ。」


は、こいつ何言ってるんですか。⋯いや今はこいつをくぐりドアに飛び込むんです。今ならまだッ!


「君の絶望を聞かせてよ。」


ッ! いつの間にこんな近くに! ―――でもッ、振り向きながら―――膝の関節、ここだッ!


「ッ――――?!」


よし、今です! そう思いながら走―――


「待って。」


ぐ、ぁ゙あッ! がッ! 足を引っ張られ、た? う、顎が物凄く痛い⋯。


「あははっ。これは予想外だったけど、まぁ真面目にやらないとね。うちのボス、怒ると怖いんだぁ。こうキーッとね?」


な、不味い。どうにかしないとッ!


「もう遅いよ。ごめんねぇ、手荒な真似で。まぁでも怒らないでよ?」


何言って―――ッ! 身体が動かない?! あ、あぁフィくん、あれいさんッ! クソ、ドアは目の前なのに!


「わぁ、顔が怖いよ? うーん、君――どう――す――い。」


う、そだ。





「ほらぁ、起きて。起きなよ⋯。」


「何ですか、この人は。何か関係でもあるんですか?」


「けっちゃん、この人怪我してるよ。」


けっちゃん⋯? 何処かで聞いたような―――あ、それよりフィくんは!


「えー、俺の方が怪我してるんだけどなぁ。」


「キカ、ここではけっちゃんじゃないですよ。」


そう思いながら僕は目を開ける。フィくんはまだ無事ですか!


え、この前の人? 一体どういう―――


「おい、兄貴。また時戻りを使った奴がいる―――ッて! お前は試験の時の!」


その声の方を見上げると⋯⋯え? あなたは試験の時に突っ走った―――な、何故。


「あー、いやなんでもねェよ。それより兄貴、頭が呼んでたんだが。こいつといい、どうせまた何かやらかしたんだろ。」


「ねぇ、ちょっと最近俺に向かって冷たくない? うぅ、弟が反抗期だぁ。それにしても時戻りって、ネーミングセンスないなぁもう。」


「がッ、誰が知らない奴に親友の情報を―――」


「良いから吐いて。そして言え。さもないとこうなる。」


この声はフィくん⋯⋯? そう思いながら僕はその方向を見る。ッ嘘。 くだ、管、管。管しか見えない。あれがフィくんなんですか? 本当に―――


「あ。切らしていた。そうだ、七。あれを持ってきて。」


あんな子供が⋯フィくんに? それにこいつらは何なんです―――いや、まさかあいつの!? ⋯⋯あいつに仲間が居たなんて。知らなかった⋯。僕はあいつの姿しか見たことがない。


う、嘘だ。ようやく救えると思ったのに、何故だよ⋯⋯ッ。


「え、それなら一が失くしたとか言ってたような⋯」


「⋯⋯その失くす前に取っとくのが七の役割の筈。」


「いや! 違うからね?!」


あ、今の内に! んー、んんー! は、ハズレないし頭以外動かせな、い。何でですか! 今、動かないと!


「あと名前で呼んでよぉ、二。七じゃ味気無いって!」


「兄貴! 二さんにまた迷惑かけて!」


「いや迷惑じゃな―――」


「ありがとう、八。七は迷惑だと思ってたからとても有り難い。」


「え、え?! う、酷い。みんな俺をうぅ。」


「げ、元気出して。これでも飲む?」


「い、いやぁそれは良いかな。き、気持ちだけで! 十分だよキカちゃん。」


「それよりも、この人は何でここにいるんですか!」


「兄貴! 頭が呼んでるって言っただろ!」


⋯詰め寄られてます。なんか可哀想ですね、あの人。にしても全く動けないッ! 早くフィくんを助けないといけないのにッ!


「おい、七ッ! これはどういう了見だ。目立てと言った覚えはない。みっともなくそこの奴に転ばさせろと言った覚えもないッ!」


え、⋯⋯。急にさっきの人の襟を掴んでいる。ど、どこから来たんですか⋯?! こんなにあいつに部下が居たんです、か?


ッ! 対して僕は一人。でも先ずはこの状況をどうにかしなくてはッ! 頭は動く! なら⋯作戦その一、頭を振る。作戦その二、大声を出して助けを呼ぶ。ただし、外に聞こえない場合最悪死ぬ。


作戦その三、いっそのこと泣き喚く。多分、殺される。作戦その四、連絡を取る―――ッこれだ! でも問題はつながったとして相手に声を出さないで欲しいと頼めない。でも、どうこう言ってる場合じゃないッ!


そう思いながら僕は頭を二回上下に動かす。頼む、出て下さい! そして記憶がもしあなたにもあるならッ!


「え、どうしたんだお前。頭なんて振ってよォ。」


あ、不味い。もし今ッ―――


「ん、なんじゃ?」

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