第二十九話 時は⋯運命は。

よし、もうそろそろ辿り―――


「ああ゛ぁあ゛あぁ゙!」


え、何の音ですか? ⋯⋯いや、待って下さい。この方向は⋯あッ! フィくん!


そう思い近付く為に走りました。何がどうなって⋯! そう焦る気持ちでどんどん進んで


「あぁ゙あ゛あ、⋯に、げろ。」


「うわ、何だあれ! 早くこんな所逃げようぜ。」


それを聞き僕は更にスピードを上げます。フィくん、フィくん! 無事なんですか! フィ!


「ッはぁ。はぁ。」


いや疲れてる場合じゃありません。早く、早く⋯。行かなくては。だって僕らは信友しんゆうなんです! 動け、動いて下さいよ! 足! もう何かを目の前で失うのはい、や⋯⋯? 何かを目の前で失う? そんなの記憶にないですよ?


「あ゛あぁあ゛あああ゛あ!」


あ、それより今は一刻も早く向かわないと。そう思い僕は足を更に加速させます。疲れ? は、そんなのどうでも良いですよ。だってフィくんのピンチですよ? そんなの気にしてる場合じゃ―――


「あ、あ゛あぁ゛。」


よし、段々声も近付いてッ? え⋯⋯? フィ、くんは? 何ですか、これと思いながら慌ててかわします。どうなってる――――。は、嘘ですよね?


今フィの姿がこの奥に確認出来たような。はは、いやいや冗談ですよね。だってフィくんは僕の帰りを待たざるを得ない筈。こんな所にいるわけがないですよ。そう思いながらまた慌てて躱します。


ッ! 本当に何なんですか、これは! あ、え? フィが膝を抱えまくみたいなやつの中で寝てる⋯? な、じゃあ見間違いじゃな、いんです、か? どうすれば、僕は、僕はどう―――


「こら、一旦落ち着かんか。」


え⋯⋯? とその聞こえた方向を見ます。な、なんでお前がここに


「今試験は前代未聞の事態と化しておる。中にはこれも試験の一貫ととらえてるやつもおるがのぉ。」


じゃあ試験の一貫でフィはこうなってるんですか? ⋯⋯いやでも、試験の一貫なら何故何も言われないんです。そう思い僕はミラを見ます。


「うん、落ち着いたようじゃな。まず、驚かずに聞いとくれ。フィの意識はもうない⋯。もう戻らないのじゃ―――」


う、嘘。だってフィはさっきまで僕と喋っていたじゃないですか! 巫山戯ふざけないで下さい! フィくんはここにいるじゃないですか!


「落ち着け。だからこそ今なら間に合うのじゃ⋯。フィムスは⋯、あの時のようにはさせん。」


あ、の時? ッ! あ、あぁ。そう、だった。思い、出しまし、た。その現実に僕は狼狽うろたえ座り込み思います。


⋯⋯あの時、僕は、いや僕らは間に合わなかったんです。いや、そうです。あれいさんの時もミアの時だって。止められなかった、間に合わなかった!


僕がもっとちゃんと説明しておけばミアがサーカス団の目前でどっかに消え、フィくんが洗脳状態にされあいつに喋って人質に―――ッ。あれいさんが消える、ことも⋯⋯。全部、全部! なかったんだ⋯。


あぁ、僕らのせいだ。僕らが旅に出るなんて言わなければこんなことも起きなかったです。僕は、いや僕らは巻き込んでしまった―――


「しっかりしろ! 結局お前は⋯いやあたしらはやり直したかっただけ、なんじゃよ。なぁ、リイラ。今じゃったら分岐点の時間に間に合い全てをやり直せると言ったらどうじゃ。お前は行くか? 代償を知っても。」


は、それは随分ずいぶん都合が良いですね。代償、ですか。代償⋯僕は知って、る? あ、あぁ! そうか、そうでしたか⋯。今は⋯何回目ですか? またここにいるということは無理だったんですか。


ははは、もう頑張れない。だって巻き戻っても記憶が全部ないんじゃ意味がないんです、よ。


「ねぇ、ミラ。僕と一緒に巻き戻って下さい。」


そうとうに諦めそうな僕はつい言ってしまいました。もう嫌なんです。耐えきれない、ねぇお願いです。頷いて下さい。もう僕には無理です、だって何回戻ろうが覚えていないんですから。はは、僕もう嫌です。目の前で人が何度も何度も死んだり消えていくの。もう嫌ですよ、ははは。


「ま、まさかお前。⋯そうか。今のお前は何回目じゃ? ッ吐け、言うんじゃ! どうにかするために!」


と、胸倉をつかみ揺さぶってくる。⋯どうにか? 僕が何度その為に命をかけたと思ってるんですか! 無駄だった、全て! 何もかもが! 僕はあと何回やれば良いんでしょうか? 何回死ぬのを見なくちゃいけないんでしょうか? ある時はミアも死に、あれいさんもあの時点で死んでいたり。


記憶はないのに何も変えていないのに! 違うことが起きるんです⋯⋯。何故だか分かりますか! 僕は戻ってるわけじゃないんですよ! 違う世界に行っただけ⋯。


「ッ! ⋯⋯なら、全て賭けるのはどうじゃ。この力も⋯。まぁあやつには怒られるじゃろうな。お前を、いや人を手助けしたとなれば。」


へ? と、僕がその言葉に唖然としていると


「二人分、いやこれを賭ければ何人分にもなるじゃろう。なら半分の力で事足りるか。これでこの世界を戻れるじゃろう。じゃとしてもあたしを⋯。まぁミアねぇを助けたい気持ちは一緒じゃ。


⋯それによーく聞け。二人だとメリットがある。片方が動けない時にもう片方は動ける。これは凄く助けられる可能性が増えるからの。」


そう目の前のミラは言いました。え? 良いんですか? そう思っていると


「それに半分の力を対価として賭ければ忘れることもないからのぉ。」


は⋯⋯? 本当ですか、それって。じゃあ⋯僕はミアをあれいさんをみんなを! 助けられるんですか? でも、僕一人では出来な―――


「そう落ち込むでない。お前のその表情を見てあたしは動く気になったんじゃ。ほら、急ぐぞ。分岐点が消えてしまう前に。」


あ、急がないと⋯。もし本当に助けられるというなら、僕は⋯⋯もう二度とッ! そう決意して僕は手を取りました。疲弊していても、希望がまだあるというなら僕は諦めなくて済む。もう何だって賭けられるんです。例え、壊れていても。



▽時は遡り、百四年前



あ、今はいつですか! ミアは? みんなは?


「なるほど。どうやらあなた達は夜まで遊ぶ悪い子のようだね。ほら、帰りなよ。お家の人が心配するよ。」


え、これってまさか―――


「なぁ、名前! なんて言うんだ?」


「私の名前⋯? うーんとそうだな。⋯⋯あ! ミアって呼んでよ。」


これは間違いないです! 初めてミアに会った時の―――


「ねぇ急にどうしたの? 顔が怖いことになってるけど⋯。」


え、あ。えーと何て言えば良いんでしょう。と思わずテンパっていると


「ミアねぇ、じゃ。本物のミアねぇじゃ!」


と、急に現れてミアに突進するミラ。は、ということは本当に僕らは戻ったんですね⋯⋯。ッ! 良かったぁ、本当に良かった⋯。う、ぅ゙。やっと! やっと終わる! ああ゛ぁ、本当に良かったぁ。


「お、おい、どうしたんだリイラ。」


「フィく゛ん。あぁ、生きてる。生きてます。」


と、思わず揺さぶって言います。記憶があって戻れたならもう、もう! みんなを失わずにす―――その瞬間、焼けるような痛みがしました。次々と移り変わる景色。それを見て僕は痛みよりも唖然とした感情が勝つ。


な、何故⋯⋯? 何で? 無理だったってことですか? 少しでも希望を持つことがッ! そんなにいけないんですか⋯? あぁ、もう無理です。限界なんですよ⋯! う、うぁああ゛ああ゛!


あぁ僕は⋯もう。頑張れない。あ、あぁ゙は。そうだ、全て賭けよう。僕の命も全て賭けるんだ。そう思い経つと僕の足は勝手に歩き出した。

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