第二十七話 試験開始――。生き延びろ

「これより王の試験の準備を開始する。君らはリー始め、第一次クラスだな。それでは一人二組のペアを作ってくれ。」


と、目の前にいる試験監督官と思わしき長い髪を一つにくくった黒髪の女性が言いました。一人二組⋯⋯、それでですか! そう思いながらフィくんの方を向きます。


すると此方を見て、な! と言っているかのようにウインクしてきます。


え、フィくんウインク出来るんですか⋯と思っていると


「⋯今、君らの行動を全て国民に筒抜けにした。それでは、リークラスの第一試験を発表する。」


その言葉に思わず僕は息を呑む。筒抜け⋯ってことはもう既に試験は始まっているッ! より気を引き締めるしかなさそうです。それにしても第一試験発表ですか⋯⋯。これは容易ではないという噂を耳にしたことがあります。


「与えられた陣地を既定値まで広げ一週間死守しろ。一週間後、既定値まで広げている陣地を守れていれば試験合格と見なす。まぁ不合格となったら次頑張ってくれ。生きていればの話だが。


水と食料はエリア内にて自分で調達しろ。他人から奪うも良し。地形図と既定値については紙に書いてある。そしてエリアに着いたら試験開始となる。説明は以上だ。これより少しの時間の後、エリアに君らを一斉に転送させる。音がなればエリア転送だ。では私はこれで失礼する。忙しいんでな。」


え、広げるってことは⋯奪えってことですよね?! しかも最初から振り落としにかかってやがります。それにこれは⋯最悪ですね。殺し合いが始まりますッ!


「なぁリイラ。今の内にこの紙読んどいた方が良さげだぜ⋯。だって今も俺らの様子は国民にバレバレと先程あの監督官は言っていた。


ならアピールも重要になってくるということでほぼ間違いないだろう。だから一緒に読もう。」


と、小声で此方を見ずに言うフィくん。あ、そういえば先程そんなことを言っていましたね。なるほど、そして一緒に読むことで協調性をアピールしてるってわけですね。タイミング的に国民に元々の仲の良さはバレていないでしょう。


それを利用して協調性がありコミュニケーション能力の高い人物を演じた方がこういった場では有利に立てるでしょう。そう考えながら僕は既に読んでいるフリをしています。


目はゆっくりと横に進めては少し下に戻すを繰り返し違和感のないようにしています。いやぁまさか此処で旅で得たものが役立つとは。


でもそろそろ本当に読まないと不味いですね。そう思い違和感のないよう目線を持っていき同じスピードで見る。


えーと、陣地は400リリーで既定値は800リリー。だからつまり⋯ん? どういうこと? と僕はつい首を傾げそうになります。


「陣地は学校の運動場3周分。既定値は6周分だ。多分⋯。」


とそんな僕の姿を見て慌てたように言うフィくん。そしてサラッと首の位置を戻されました。う、常に意識するのってキツイですね。と、僕は思いながら考え込みます。なるほど、あの広い運動場を3周⋯⋯って、え?! 何かの冗談ですよね? あ、きっと見間違いをしたんじゃ―――


「時間になりました。これよりリークラスの第一試験を開始します。着いた場所がそのペアの陣地です。


尚、ペアを裏切る行為は反則です。発覚次第失格とさせて頂きますのでしないように。それでは、エリア転送とさせて頂きます。5秒前からカウント。5」


フフン! 心配しなく「4」てもフィくんのことを「3」裏切ったりしませんよ!


「2」それにしてもカウント「1」って何か緊張します。「0」


そう聞こえた瞬間―――。目の前が真っ暗闇になり何も見えなくなりました。


フィ、フィくん! と思わず不安になりフィくんのいた場所は見ます。ですが、フィくんの姿はおろか何も見えません。一体どうなって―――ッまぶし!


「申し訳ありません。何かトラブルが起きていたようです。皆様、無事にいらっしゃるでしょうか?」


と、聞こえた瞬間―――。僕の目の前の風景は先程の真っ暗闇とは随分ずいぶん変わり果てていました。


目の前に広がる景色はとても自然豊かで果物なども実っていて綺麗です。僕はその景色につい夢中になってしまいます。うん、これなら食べ物に困らなさそ――――


「今、皆様が見ている景色はそれぞれ違うことでしょう。荒れた土地だったりデスレッオル動物が一匹もいなかったり。


また逆に自然豊かな陣地が当たっている方もいるでしょう。まぁ要するに運も実力の内ということですね。


そんな皆様は協力関係を結ぶも良し、ペアじゃない陣地同士の協力関係は裏切り行為も良しとしています。奪ってしまうも良しです!


それぞれの陣地の場所は先程渡した紙にて確認出来ます。それに所有者のペアの名前も随時ずいじ更新となりますので誰がどういった人物なのか分かりやすいかと。」


と、言う説明が聞こえました。ペア⋯あれ、フィくんの姿が見えません。ど、どうして―――? と辺りを見回します。い、いないですね。


「リイラ、俺は此処だ。」


と、後ろの方から声がしました。直ぐにそちらに目を向けると木があります。下から順番に見ていき葉っぱの部分も見ます。すると少しの違和感に気付きました。もう一度葉っぱだらけの中によーく目を凝らしてみるとフィくんの姿がありました。何で木の上に⋯と思っていると


「リイラ、もう試験は始まっている。さっき言ってただろ? 転送した時点で開始だと。ほら、リイラも取り敢えず隠れろ。作戦会議の為にな。」


と、言うフィくん。あ、確かにそうですね。と思い慌てて僕も木を登ります。ふふん、木登りなら小さい頃からやっているので得意です! と思いながら登っていきます。


「それで紙には何て書かれているんですか?」


と、僕が聞くとフィくんは紙を見せてきながら小声で


「静かにしろ。どうやらこの紙、陣地の豊かさまで書いてるぜ。」


と真剣な表情で紙を見ながら言うフィくん。え?! それって結構ヤバいんじゃ⋯⋯と思いながら聞きます。


「まぁ具体的な豊かさは書いていないがな。説明に果物一つでもあれば豊かという表記にするって書いてるしよ。だからか、余り動いていないペアが多そうだな。ほら。」


と言い、紙の地形図部分を指差すフィくん。あ、本当―――って! 何処どこにいるかも分かるんですか?! と僕は思いました。


「まぁ代表に設定されている片方の居場所しか分からねぇんだけどな。」


と、此方を見て言うフィくんに僕は思わず首を傾げてしまいます。代表って何でしょう?


「あ、代表ってな、ペアの内一人がなってるんだけどよ。俺らの場合は俺が代表だな。」


へぇーと思いながら聞いているとフィくんが急に真剣な表情で此方を見ます。それに思わず僕も真剣にフィくんの方を向くと


「ここからが本題だ。この紙を見ずに飛び出している奴が数名いる。多分、先程の死守しろという話を聞いてなかった奴らだろう。案の定、奴らは陣地を奪われそうになっている。」


と、言うフィくん。そういえば言ってましたね、死守しろって。後半の奪うとかに気を取られて忘れてました。いやぁ、危ない所でした。


「俺ら片方、いやリイラがもしこいつらにその情報を伝えたら? 間違いなく恩を売れる。まぁ馬鹿でも協力するに越したことはないだろう。


それに与えられた陣地を既定値まで広げるってことは、与えられた陣地は最後まで守る必要があるだろう。」


つまり陣地をフィくんが守りつつ協力関係を僕一人で出来るだけ結び恩を売りながら奪えってことですか! 僕一人で?! いやいやそんなの無――――


「無理じゃなくてやるしかないんだ。俺は此処を守っている。ほら、これ。コピーしたものだが難なく機能してる。リイラはこれを使え。」


と、フィくんに手渡されました。い、いつの間に! あれ、フィくんが凄過ぎて僕何もしていないですね⋯? ま、不味いです! これも木に隠れているとはいえ見られてる可能性があります。


急いで行動に移さなくては。僕の夢とミアの為に! そう改めて決心を固めた僕は、紙を手にしっかり持ち走る準備をしてフィくんに向けて言う。


「よし、それじゃあ行ってきますねフィくん! 良い知らせをそこで待っていて下さい。全部僕にお任せあれです!」

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