第二十四話 お揃い

一行が店に着いて


「ほら、もうすぐ―――」


「おい、お前のせいで!」


という声がフィくんの声より小さめに何処からか聞こえて来ます。え、この印象的な声は! そう思い、僕はその聞こえる店の裏側に走り周ります。


「え、リイラ!」 「ふぉ?」




そんな僕を呼び止める声を無視しながら僕は走ります。あ、此処の角を周り右の方からです。


そう思いながら周り、右に進みます。あいつらめ、そう思いながら僕は走ります。


此処から聞こえて⋯⋯、あ! やっぱりそうですね。良く懲りずに来れましたね。そう思いながら声をかけます。


「なーにしてるんですか?」


「お、お前はあの時の! へ、へへーん。お前一人だったら別に―――」


「なぁ、あいつって良く考えれば防壁で切り刻んだって⋯⋯。」


と、急に二人肩を寄せコソコソし始めました。⋯聞こえてるんですが。と思いつつもそういえば防壁が切り刻んだって聞きましたねと、今更思い出します。


「え、それって嘘じゃないのか?」


と、若干戸惑いながら聞いている学生。そうです! 僕は弱いんですよ? そう思いながら気になる為聞いています。


するとあの学生が口を開こうとしています。慌てて僕は口を抑え静かにと小声で言います。


だって今この学生が喋れば焼け石に水のようなもの。学生二人組はなんたってこの学生を目の敵にしていますからね。


「嘘じゃないかもしれないんだ。だって良く考えてみろよ。魔法だぞ?」


と、この間にも学生が喋り続けています。た、確かに。魔法ですからね、でも暴走を見た今となっては魔法はまだまだ謎が多く、そして万能なんかじゃないとよーく分かりました。


「う、う。なら逃げようエン。」


と、僕の方を見て震えながら言いました。なんかまるで僕が―――


「あぁ、そうだな。」


と、言い走り去って行きました。ふぅー、釈然としませんがこれで大丈夫そうですね⋯。それにしてもまた懲りずに来るとは⋯⋯。


僕らがいなくなればまた来ますね、これは。僕がそう考えていると


「んんー!」


と言う声が―――あっ!


「す、すみません。」


そう言いながら慌てて手をどけます。


「いや気にしてないよ。だって一度ならず二度までも助けて頂いちゃったのは私だし! 本当にありがとね!」


と、言う学生。うーん、やっぱりこの学生僕らがいなくなればまたやられてしまうんじゃ⋯。そう思い、僕は喋ろうとします。


「あ、リイラと―――」


「あの⋯あなたのあの時の防壁、本当に凄かった!」


と、突然大声で言う学生。え、でも身に覚えが―――


「あ、なるほど。その話をしてたのか? 実は俺もさっきから気になってしょうがなかったんだ。


だってよ、リイラがそんなの使ってるの見たことないからな。それにリイラが切り刻むなんてイメージが出来る筈ねぇ。


なんて言ったって包丁を怖がるリイラだぜ。そんな優しいリイラがイメージ⋯。


だから物凄く気になっててよぉ。なぁ、良かったらでいいから詳しく聞かせてくれないか?」


と、フィくんが歩きながら聞きました。う、包丁の話は今しなくても良いでしょうが! ⋯⋯でも確かに言われてみれば。


それにあの時は混乱しててそんな余裕やそんなイメージはしていません。そう思い学生の方を見ます。


「あ、うん! 勿論良いよ! 私も気になってたし。⋯うーん、イメージか。そう言われてみれば切り刻むっていう表現は余り正しくなかったかも。」


と、かなり衝撃的なことを言う学生。え、じゃあ一体どういう? そう思い学生を見ます。すると学生の口が開きました。


「うーんと、あの時私は逃げ惑っていたんだけど⋯。その時にあなたが下に手を下ろしたよね? そしたら急に灰色の光が輝いて


大きな音のする方向を見てみれば、ザンファールニーダの群れを防壁が押し潰し始めたの! それで次に防壁が踊るように縦、斜め、横といった感じで切っていったんだ。


それに切られたザンファールニーダはみんな破片のようにキラキラでカッチカチになっていて⋯。


それを見て私は安堵と恐怖で逃げなきゃと思ったけどふと気付いたの。


怖くてもあなたが助けてくれたことには変わりないって! だからあなたの手を引っ張って逃げたってわけ! あの時は超混乱してたよ。」


え、踊るように? しかもそれが破片のようになって⋯? え、どういうこと? そう僕が混乱していると


「あ! リイラお前! リイラの母ちゃんから貰った石、そのポケットに入れてたよな! 位置的にそれじゃないか!?」


と、突然大きな声でフィくんが思い付いたように言いました。ん? そういえば手を下ろした瞬間にって!


あ、あー! なるほど。⋯⋯どうして? そう混乱した僕は、ポケットを漁ろうとします。


「待っって? リイラ、お前。話聞いてたか? 話を聞いた限りだと触れちゃ不味いんじゃないのか⋯?」


と正気を疑う目で僕を見て言うフィくん。た、確かにそうですね。そう思いながら慌てて手を止めます。


「い、良いか? そーっと手を下ろすんだ。石に当たらないように。」


と、此方を伺うように見て言うフィくん。うぅ、はい。その緊張感に僕は震えが止まりません。


ん? あれ、でも一つだけそれだと変じゃないですか?


だって母に渡された時には、そんなことは起こっていませんでしたよ。それにいつも身に着けていた母は⋯?


そう疑問に思った僕は勢いよく手を石に下ろします。


「あ、よせ―――」




⋯⋯。



⋯ん? 何も起こりませんよ? それに何とも言えない顔になります。


「え、え? 本当に起きたんだけど何で!?」


そう学生があたふたしています。でも、何も⋯起こらないです。


するとそんな心が顔に出ていたのか、学生は


「う、うぅ。起きたんだって⋯!」


と、言います。あ、慌てて僕は


「えと、僕は信じてますよ。あったら格好良いですし!」


と、言いました。う、それにしても張本人が言うという理由の分からないことになってしまいました。


「いやいや、そう言う時点で絶対信じてないじゃん!」


と、学生が言います。う、否定出来ません。で、でもー


「し、信じていますよ。ねぇ、フィくん?」


と、思わずフィくんに同意を求めてしまいました。


⋯⋯。


ん? あれ? 返事が来ないです。そう思いフィくんを見てみると


「うーん、何らかの理由で発動しないとか⋯?」


と、考え込んでいて聞いていません。でもそのフィくんの様子を見て学生は確かにというような表情をします。


え、そうなんですか? そ、それならもしそうだったら⋯格好良いですね! これからはみんなを守れますし⋯


それにもうミアが記憶を⋯⋯記憶? あ! そういえば、あの姿の見えない人に貰ったもの、どうしましょう? し、信じてみても良いんでしょうか? ⋯⋯ぼ、僕は。⋯ッ! よし!



あ、それならフィくんにも伝えないといけませんね。そう思いフィくんに声をかけます。


「フィくん、おーいフィくん!」


「あ、え? あ、リイラか。どうしたんだ? そんなに大きな声で俺を呼んで⋯。」


と、驚いた顔で此方を見て聞くフィくん。その様子を見て僕はフィくんに近寄り耳打ちします。


「実はですね。もう一つ不思議なことが起きたんです。」


と、僕が小声で言うとフィくんは目を見開きました。それから暫くして僕に


「それで?」


と催促してきます。信じて貰えるか分かりませんが、そう思いながら僕は口をゆっくり開きました。


「その、姿の見えない人に記憶を一時的に戻すというものを貰ったんです。」


と、僕が言うとフィくんは怪訝な顔をしています。うぅ、信じていませんね? まぁ僕も半信半疑ですが⋯。そう僕が俯いていると


「⋯事の経緯は?」


と、聞こえました。フィ、フィくん⋯! そう思いながら僕はフィくんに経緯を説明しました。



「なるほどな、リイラ。お前そんなこと思っていたのか。⋯⋯すまん、気付いてやれなくて!」


と、僕に謝―――え、え?! フィ、フィくん? そう僕が驚いてフィくんを見ていると


「それでそいつの言ったことを信じているのか?」


と、僕に真剣な眼差しで聞くフィくん。それに僕は⋯


「あ、あの人は良い人でした。ですがだからといって信じたわけじゃありません。正直、半信半疑です。


ですが、僕は! 藁にも縋る思いなんです! それに⋯⋯、ミアにちゃんと謝らないとこの先きっと僕はずっと後悔します。」


と、僕は今の気持ちを全てフィくんに話しました。思わず反応が怖くなり、地面を見ようとします。


ですが見えるのはドンラウーのもふもふの毛だけ。そんなことを考えていると頭に重みが。


え? そう思い顔を上げるとフィくんが僕の頭を撫でそれから手を下に下ろし真剣な表情で口を開きました。


「分かったぜ、リイラの気持ちは。リイラがそこまで言うなら良い人だったんだろうな。確かに信じて藁に縋るってのもありだな。」


と、今度は笑顔で言うフィくん。え、ということは⋯


「それ、里に行って落ち着いてからやろう。今は人が沢山居るからな。」


と、優しい声色で言うフィくん。あ、確かにここだとあれですよね。そう思い、僕は頷きます。


「あ! やーっと見つけた! おい、お前ら。どーこほっつき歩いてたんだ? フィくんも見つけたなら言いなさい!」


と、あれいさんがカンカンになって言いました。うぅ、と僕がショボくれていると


「あと、これは返すな。」


と、サラッとドンラウーの上に乗せました。あ、落ちますよ。そんな乗せ方したら―――


「待って! その人は私をもう一度あいつらから助けてくれただけなの!」


と、学生が言いました。その言葉にみんな驚いているようです。


「え、そうだったのか⋯。なんかごめんな。そうとは知らずにさ。」


「え、君、またやられてたの?」


と、あれいさんが言うとほぼ同時にライアが言いました。た、確かに⋯。それに僕らがいなくなればまたあいつら来そうですね。そう僕が思っていると


「じゃあ家においでよ。」


と、突拍子もないことを言うミア。え、え?! それってどういう―――?


「ドンラウーが居れば何時でも逃げれるし、それに学校を抜け出してこっそり遊びに行くっていうのも出来るよ。」


と、またハチャメチャなことを言いました。逃げるという単語には難色を示していましたがこっそり遊びにとミアが言うと直ぐに目を輝かせています。


み、ミア⋯。何ていうか相変わらずですね。そう思っていると


「その提案、乗った! とっても面白そうで良いね!」


と、好色的な反応です。えーと、つまり仲間が増え、ました? と僕が思う中ミアは、はしゃいでいます。


「なぁ、そろそろ感謝祭も終わりじゃないか?」


と言うフィくん。そういえばそうですね。そろそろ感謝祭も終わりの時間が近づいています。


「あ! いけない、私は店があるんだった! ん? あなたたち、私の店まだ見てないよね? なら、最後に見ていってよ。」


と、慌てたように言う学生。あ、元々その予定で此処まで来たんです!


そうして僕らは慌てて店に向かいました。




「はい、これなんかどう? コケた像のネックレス!」


と、学生がおすすめしてきます。え、い、いらないです。それが顔に出てたのか


「えー、じゃあこれは! 全部で七個入りのブレスレット! お揃いで如何?」


と、挫けずに勧めてきました。これが商売というものなんでしょうか? というかそれだと一個余りません? そう僕が思っていると


「みんなでお揃い⋯?」


とミアが引き寄せられました。え、買うんですか?! そう思っていると


「ねぇねぇ、これ買ったらみんなで付けようよ。」


と、此方を見て言ってきます。う、うぅ。⋯⋯でもお揃いですか。この後、きっと離れ離れに何度もなるんでしょう⋯。そう僕が思っていると


「こういうのも悪くないな! それにこのデザインなら余り目立たなくて付けやすいぜ?」


と、フィくんが言います。た、確かにあんまり目立つものは嫌ですがそれくらいのちょっとしたものなら⋯。


「お、買う感じ?」


と、学生が茶化してきます。するとミアが学生の方に行き


「あなたともお揃いが良いな。駄目?」


と、覗き込むように言いました。そのミアの様子に


「う、可愛い。わ、分かった! 私もお揃いね!」


と、慌てふためきながら言いました。その様子を見てた店の人が


「あら、お友達でお揃いなんて良いわね! うん、良いもの見れたお礼に安くしとくわね!」


と、言う店の人。その店の人の言葉に驚いている学生。


「え、え? ちょ、チョワさん!」


「良いのよ、いつもお手伝いしてくれてるお礼も兼ねてね。」


「え! これ以上は貰えませんよ!」


というようなやり取りがありましたが結局押しに負けて安くされたものを購入。


今、僕の手にはみんなでお揃いのブレスレットが着いています。とても目立たないものなのでこれじゃあ逆に失くさないか心配ですね。


そう思いつつも歩き続け人が少ない場所まで来ました。先程の学生も勿論一緒です。


「此処でどうするの?」


と、不思議そうに聞いて来る学生。その瞬間、ドンラウーたちが僕らにくっつき


次にはもう里


「え、え? えぇ――――!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る