第二十三話 困惑と感謝祭。

「え、お前のことだしどうせ嘘だろ? だってあのザンファールニーダだぜ?」


と、言うのはあの学生の隣にいるもう一人の学生。こてんぱん⋯⋯? 何を言って―――


「嘘じゃないよ! だって私見たよ、この人が手を下ろした瞬間に沢山の防壁がザンファールニーダを切り刻むのを。」


と震えながら言うあの学生。え、僕が防壁で切り刻ん、だ? ぼ、僕にそんな魔力はない。それに防壁が切り刻む⋯? 聞い――――


「聞いたことがないなぁ! 防壁が切り刻むとかよぉ。ハハ、こいつ嘘ついてるぜ。あぁ今度は嘘付きか! なぁエン?」


と、もう一人の学生があの学生を小馬鹿にした後、隣の背が小さい学生に聞く。な、いきなり何ですか! 僕がそう思うと同時に


「防壁が切り刻む⋯? 本当なら大発見だぞ! あ、あぁぼくの知ってる魔導書には書かれてない! お、おい詳しく聞かせろよ。」


と、興奮したように詰め寄りながら言う隣の学生。


「なぁ、おい。早く言えよ!」


と、あの学生に向けて怒鳴りつける隣の学生。その遠慮のなさにあの学生は怯えている。それを見て僕は


ッ! 限度ってものがあるでしょうが!


「その人、怯えてますよね?」


と、僕が言うと


「はぁ? なーに言ってるんだ! お前には関係ないだろ! ぼくは聞いてるだけだ! 話さないこいつが悪い!」


と此方を見て怒鳴りつけてくる隣の学生。は? 聞き方が悪いと思いますが。僕がそう思っていると


「みて、この人こんなに怯えてる。普通の怯え方じゃない。⋯⋯ねぇ、何をしたの?」


と、ライアが学生を鋭い目で見て言いました。そう言われて改めて見ると確かに、尋常じゃない怯え方です⋯。


「う、」


と、その目付きにタジタジになる学生。そうしていると目立っていたからか街の人が


「ねぇあれ見てよ。あの子、学生を見て酷く怯えているわ。」


「え、本当ね。これは呼んだ方が良いのかしら?」


と、言う言葉が聞こえた瞬間に二人は分け目も振らずに走り出しました。


「はぁ、何とかなった。ねぇ、君大丈夫?」


と、安堵した後にライアが学生に聞きます。すると突然、泣き出しました。


「え、ちょ―――」


「うぅ、あ゛りがと゛う。」


と、泣きながらお礼を言いました。その様子に暖かい視線を感じる中、その学生は立ち上がります。


「ぅ、お礼にお店のものあげるね⋯。」


と、俯きながら言いました。え、


「そんなお礼なんていらない。それよりもはい、これ。」


と言い布を渡します。それを見て僕はライアって気遣い上手ですよね。なんて考えます。


「う゛ぅ、でもお礼しなきゃだし。」


と泣きながら顔を拭いて言います。その様子に僕らが戸惑っていると


「んー、なら感謝祭について詳しく教えて。ボク、感謝祭って名前しか知らなくて。」


と衝撃的な言葉を放つライア。え、えぇ! と僕らが唖然としていると


「私も感謝祭について知らない。」


と呑気に言うミア。僕は更に唖然としています。すると


「か、可愛い! お人形さんじゃん!」


と、先程とは一変して未だに涙で顔がグチャグチャのまま目をキラキラさせて言いました。そう言われてミアは


「そ、そうかな⋯。」


と、照れています。え、あのミアが照れている?!


と僕は何かのショックを受け膝をつきました。音がし、隣を見ると同じように膝をつくフィくんが。


フィ、フィくん⋯。同じなようですね。前にミアを照れさせようとふざけた時を経験した仲間ですものね! と思いながら目が合います。


そうして僕らは下を向きました。あぁ、この間にも何か会話が聞こえてきます⋯。その、す、少しだけ気になったんです。そう思いながら耳を傾けてみると


「え、本当に綺麗だし可愛いよ! 何か秘訣とか⋯」


と女子らしい会話が聞こえて来ます! うぅ、ミアが⋯そう思い更に深く下を向きます。すると―――


「んあー、よく寝た。ん? お前ら、何変な格好を―――な、な! あのミアが! 女子らしいだと!」


と、言いました。で、ですよね! 分かってくれますか! そう思い向きます。


え?! あれ、いさん⋯? だったんですか。お、起きたんですね! と僕が独りでに喜んでいると


「いや、でもそれはないと思うわ。ほら、街の人を見てみろよ。みんな目を見開いてるぞ。なんでかは知らないけど。」


え、あ、あれいさん? ⋯⋯そうですか。あれいさんにも分からないんですね⋯。この! 僕らの気持ちが!


そう思い何とも言えない顔でフィくんを見ます。すると同じ気持ちだったのか、何とも言えない顔で此方を見ていました。


「はぁー」 「あー」


僕らはズレたタイミングでお互いに溜息をつきました。


「ねぇ、それよりお店は大丈夫なの?」


と、言うライア。ん? お店⋯⋯? あ! そうでした!


「あ、あの。気絶で迷惑かけてごめんなさい!」


と、僕が本当に迷惑をかけたと思い勢いよく謝ると


「え、あー、あのことか。全然気にしてないよ。あれはタイミングが悪かっただけだし! それより私こそごめんね? 守られちゃったし迷惑かけちゃったみたいで。」


と、思い出したかのように言った後で罰の悪そうな顔で此方を見て謝って来ます。思わず口を開こうとすると


「うーん、改めてお礼したいんだけど店があるから。あ! 時間があれば店に来てよ! これのこの場所だから。それじゃ!」


「え、ちょっと―――」


と、僕が言う暇もないくらい矢継ぎ早に言い紙を指差して僕に押し付けた後、彼女は走り去っていきました。え、足早っ!


「後で行こうか。誘われたからね!」


と、ウキウキで言うミア。う、嬉しそうですね。


「それよりここ街か? 見た感じそうっぽいし――――」


「あ、名前の知らない人だ。」


と、あれいさんを見てミアが言いました。え、あ


「え、急にどうしたんだ? あ! 分かったぞ。お前のことだから俺を驚かせようとしているんだろ?」


と、笑いながら聞くあれいさんに僕らは黙ってしまいます。



「え、いや⋯⋯。え?」


と、そんな僕らを見てあれいさんは黙りました。


暫く僕らが沈黙しているとミアが


「あなたの名前は? 私はミアっていうよ。」


と、聞いてくるミアに僕は慌てて立ち上がりあれいさんに近付きます。


「え、どうし―――」


「あれいさん、ミアについて後で説明したいんです。それからあれいさん自身のことも。」


と、耳打ちしました。するとあれいさんは目を見開いてう


「俺、自身のこと⋯?」


あ、と思った時には遅くあれいさんは黙ってしまいました。


「あ、この人はあれいっていうあだ名があるんだ。」


と、すかさずフィくんがミアに言いました。それに対してミアは


「へぇー、そうなんだね。じゃあよろしくね、あれい」


と、ミアが言いました。すると考え込んでいたあれいさんが僕に


「後でちゃんと説明しろよな。」


と、小声で言った後ミアの方を向き


「あぁ、よろしくな。」


と、ぎこちない笑みを浮かばせながら言いました。


「うん! じゃあ、あれいも感謝祭というやつを楽しもう!」


「ん? 何かのお祭りでもやってるのか?」


と、興味津々で聞くあれいさん。その言葉に僕は


「あぁ、感謝祭といって―――」


「感謝祭⋯? セール的な何かか?」


と、神妙な顔で言うあれいさん。な! セールじゃありません! と僕が思っていると


「感謝祭は国全体で祝うお祭りだ。ほら、あのコケた像なんか感謝祭名物だぜ?」


と、フィくんが詳しく言ってくれました。へぇー、国全体だったんですね。道理でと思っていると


「「コケた像⋯?」」


と、ミアとあれいさんが不思議そうに言いました。ライアもイマイチよく分からないという顔をしています。


「それってなんでコケた像なんだ?」


と、あれいさんが意味が分からないという顔で聞いてきました。


そうですよね。僕も最初は変なおじさんが斜めってるくらいにしか思っていませんでしたし。


「あぁ、それはですね。このコケている人が感謝祭の起源であり、この人がみんなを笑わせようと精一杯にコケたというのが始まりだからです。」


と、言ったは良いもののイマイチ分からないという顔をされてしまいました。うぅ、と僕が落ち込んでいると


「まず前提としてこの人が来る前、この地は災害に見舞われたばかりでみんなの顔は曇っていたんだ。


そんなある日、当時旅人だった彼は此処を通りかかり昔と変わり果てた姿に随分と驚いたらしい。そして何にもままならないこの地で思ったんだ。


此処を再興し再び笑顔が溢れますように。このコケた像はそのおじさんが再興後に元気が出るようお祭りを開き、


みんなの顔を見てわざとコケながらお祭りの開始を言ったという話を元にしたものだぜ。」


と、フィくんが語りました。そのお話に三人は暫く大きく目を見開いています。するとあれいさんが


「はは、何だそりゃ。随分と変わった由来だな。⋯でも、良いお話だ。」


と、すっかり元気な顔色になりました。あ、良かったです。元気が出たようで。


「他にもその人の話、聞きますか?」


と、思わず僕が言うと


「それも楽しそうだが、異世界のお祭りも体験してみたいな。」


と、言うあれいさん。あ、確かにそうですよね。お祭りのお店とかって楽しいですよね!


「じゃあお店、みんなで周りましょうか。」


そう僕が言うとみんな目をキラキラ輝かせてそれぞれ行きたいと言いました。


ですよね! そうして僕らはみんなでお祭りを周りました。


コケた像にコイン一枚当て倒す遊びや見えなく加工した泡をお手玉のように店員さんがし、どれか選んで景品を当てたり。


あれいさんはコイン一枚当てて倒すゲームに今ハマっています。


「あぁ、駄目だ。全然倒れねぇ。」


ミアはもしゃもしゃ何か食べています。


「ふぉいしい。」


ライアは何故か一発でコインを当てました。まぁ、一等賞ではありませんでしたが。


「え、凄い。おじさんにやり方をご享受下さい!」


「なんか出来た。」


「うぅ、く、悔しい! おいちゃん、もう一回!」


「あいよ。」


なんていうかみんな自由ですね⋯。そう思いながらフィくんと歩きます。


「なんか小さい時に戻ったみたいだぜ。」


と、言うフィくん。確かに⋯そうですね。こうやって二人で歩いてよくお祭りを周りましたっけ。


最近は忙しくて行けなかったり。お祭りに行かないで勉強したり。


こうやって二人で歩いてお祭りを周るのは数年振りですね⋯。そう思いながらも歩く。


「そうだ、どっちが早くコイン当てられるか競争しようぜ!」


と、気合いの入った声で言うフィくん。勝負ですか! 負けません! そう思いながら


「良いですね。この勝負僕がもらいます!」


と、言いました。すかさずフィくんが


「いいや、俺が勝つ! おっちゃん、これで!」


と、フィくんが自信満々に言いました。なるほど、お手並み拝見といきましょうか。


「あいよ。」


そうおじさんが言い、コインを一枚渡されました。因みにこのゲームの考案者はコケたおじさん御本人なので安心して遊べます。


「⋯⋯。」


余程、集中しているのか狙いを一点に定めているのか⋯。えっ! 狙うのは二等賞?! ふーん、フィくん。臆しましたか。そう思い、黙って見つめる。


「なぁ、お前ら―――はっ、何だこの迫力!」


と、あれいさんが言いました。確かに⋯今のフィくんの凄まじい集中力は侮れませんね。


そう思っているとフィくんが確実に狙いを定めてからコインを回転させながら弾きました。


うーん流石ですね、フィくん。回転を使って来るとは。


「え、え?! 嘘ー! 当たってる! しかも二等賞?!」


と、何やら騒ぎ立てるあれいさん。そう騒ぎ立てたからか外野が集まってきました。


うーん、余り集中出来ませんね。そう思いつつも僕は


「おじさん、これで。」


と、お金を置き、コインをもらいます。


ふー、二等賞に勝つとなると狙うは一等賞! そう思いながら僕はコインを持ち狙いを定めます。


何やら後ろからフィくんの残念がる声が聞こえますが気にせず狙いを定めます。


「り、リイラ! よせ!」


えっ? そう思った時にはもうコインは僕の手にありません。今、まさにコインは軌道を変えることなく一直線に当たりました。


「おめでとうー、一等賞だよ。」


と、悪魔のように言いながら渡されたのは⋯え、いらな――――


「あ、あれいさん。要ります? 先程あんなに笑ってたじゃないですか。」


と、言いながらあれいさんの身体に押し付ける。


「え⋯、え?!」


と、困惑しているあれいさんの手に乗せました。さ、それでは先程言われた学生のお店に行きますか。


そう思いながら僕は歩きます。その様子を見たミアは


「ふぉこ行くのー?」


と何か加えながら言いました。因みに二等賞はラディオーブル厶うさぎのデカいぬいぐるみで、今フィくんが何とも言えない顔でミアに


「要る? これ」


と、聞いています。それを聞いてミアは


「かさばふぉからいらなふぉ。」


と、何となく分かる言葉で言います。その答えに死んだ目でフィくんはぬいぐるみを持ち僕に着いて来ます。因みにそのフィくんの頭にはドンラウーも乗っていて凄く重そうです⋯。


「やらなきゃ、良かった⋯。」



と、更に死んだ目で言うフィくん⋯。そして、そんな僕らの様子を呆れた顔で見るライア。ライアの景品は料理器具っぽいです。


⋯ん? あれ? もしかして書いてました!? そう驚きと困惑を抱えながら僕は歩きます。まぁ、実際抱えているのはドンラウーですけど。


あれいさんはというと何とも言えない顔で此方をジーッと見ています。


う、後で覚えてろという顔です⋯。まぁ、恥ずかしい訳じゃないし良いじゃないですか。


そう思いながら店に歩いて行きました。


「お店、ふぉのしみー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る