第二十二話 感謝祭へ行こう!

「あ、危ない!」


と、学生が言った方向を見る間もなく視界が真っ暗になりました。ま、まさか―――! これは奴らお得意の一度付着すれば七時間は外れないというあれですか。


う、これじゃあ魔法をどの範囲に展開すれば良いのか分からない⋯。もし奴らも範囲内に入っていたら終わりだ⋯⋯。


そう、魔法を使う者やそうじゃない者でも周りに当たってしまうかもしれないという厄介なものだ。それにこれだけじゃない⋯。


うぅ、少しずつ意識が遠ざかっていく。このまま僕が気絶してしまえば魔法の効果が切れる。踏ん張らないと―――。そう思っていると何やら口元ににもふっとした感触が。


も、もしかしてドンラウー? そう思っていると急に口元が痛くなってきました。い、痛いです! やめ、辞めて下さい! 痛っ!


その余りの痛さに悶絶し思わず僕は展開したままにしていた防壁を乱発してしまいます。


「わ、うぉ!」


と、うっすら聞こえる声。あ、え⋯? ま、不味いです! 乱発してしまいました!


「や、辞めてー!」


と、言う声が微かに聞こえる中僕の意識はまた遠ざかり始めました。そんな中ですが僕の混乱は収まりません。


思わず落ち着こうと癖で手を下に下ろすと何やら固い感触が。ん? もしかしてこの位置は⋯、あの石?


そう思っているとザザザというようなそんな大きそうな音が聞こえました。その後、


「ひぇっ」


と悲鳴が上がります。え、何ですか? どういうこと⋯? と思っていると


「わ、えぐ。あ、今の内に逃げ⋯あなたも!」


と、微かに聞こえた瞬間、手を引っ張られました。え? と状況の整理が追い付いていない中、めいいっぱいに引っ張られます。


更に意識が遠ざかる中で僕は迷惑をかけまいと精一杯足を動かします。


口元は未だにもふもふしています。な、何が起こってと言おうとしたら口の中にもふもふが入ってきます。


い、息苦しっ。と窒息と気絶を同時にしそうになっていると


「うぅ、此処まで走れば大丈夫かな? あっ、す、凄いことになってるね⋯。ん? こんなドンラウー見たことが⋯って! 今外すね!」


と、微かに聞こえる声は僕の苦しそうな表情に気付いたのか口元のもふもふの感触が遠ざかりました。


「う、助かり、まし、た」


と、最後の力を振り絞って言うと目の前が真っ暗になりました。


「え?! ど―――」







ん? あれ? 此処は―――って


「ライアとフィくん?! どうして此処に⋯?」


と、僕が疑問に思い聞くと口々に


「君が余りにも来ないからドンラウーに教えて貰って来た。」


「あぁ、リイラに何かあったんじゃないかって気が気じゃなかったぜ⋯。」


と、二人が言います。そうだったんですね。そういえば先程からもうすっかり暗くなっていましたから。ん?


「あれ? 前が見える⋯? まさかもう七時間経って⋯?」


「いや、ライアが急いで調合してくれたんだぜ。例え嫌いな相手でも礼を言っとけよ?」


と、すかさず答えるフィくん。う、まるで僕の考えを見透かしたように⋯。うぅ、それで助かったのは事実⋯、言いますか。


「ライア、ありがとう、ござい、ます。」


「はぁ、君は先ず僕よりも先にあの学生に謝った方が良いよ。」


と、ライアが呆れ顔で言いました。あの学生⋯? あっ! そうでした。僕、あの学生の前で倒れて⋯と段々頭がハッキリしてくる僕。


あの学生、急いでいたし悪いことしちゃったかもですね⋯。と僕が思っていると


「ボクらが来た時に「この人どうしよう⋯。此処に置いてけないし、でも私も感謝祭に行かなきゃだし⋯⋯。あー! もう、どうすれば良いの!」って酷い慌て様だったから⋯。」


と、少し同情するような顔でライアは言いました。そ、それは本当に悪いことを⋯。ん? 感謝祭⋯⋯? あっ! そういえばもうそんな時期でしたか。と思っていると


「あいつ、感謝祭で店を出す予定だったらしくてな? 俺らが知り合いだと知ると直ぐに走りながら自分の店の宣伝もして行ったぜ⋯。」


それはなんというか忙しない⋯。そう思っていると


「なぁ、少しだけみんなで気晴らしに感謝祭に行かないか? ミアとあれいさんも連れてさ! こんな時に⋯って思うかもだけど。」


と、フィくんが行きたそうな表情で言います。た、確かに気晴らしなら良いかもしれませんね。年に一度の感謝祭⋯。あれ、楽しいし面白いんですよね。というかあれって此処でもあるんですね⋯。と僕が思っていると


「良いんじゃない? 少しくらいなら羽目を外しても。ボクもあるのは知ってたけど忙しくて行ったことないし⋯。」


と、最後の方は小声で言うライア。⋯⋯ライア。よし、行きましょう! それを伝えようと僕が口を開こうとすると


「と、とにかく人も沢山居るらしいし、情報収集にも良いと思う。」


と、足早に言うライア。ら、ライアと思いつつも確かにと思いました。うーん、よし! なら尚更行きましょう!


「僕もあの学生に謝らないといけませんし、感謝祭行きましょう!」


「あぁ、これで決まりだな。それじゃあドンラウー、感謝祭の場所に着いたらミアとあれいさんをよろしくな! それじゃあ行こうぜ!」


と、ドンラウーに向けて言うフィくん。ドンラウーたちはというと、頷いています。そして僕は歩きながら考えました。


な、なるほど。持つのは疲れるからドンラウーにお願いするわけですね!


持つと言えばドンラウーって少し重たいんですよね⋯。と思いつつもその少し重いドンラウーを持ちながら歩いて行きます。


「そういえば此処って中心街じゃなかったんですね。」


と、疑問に思い聞きました。どうやら僕が先程いた場所は古い方の街だったようです。


いやぁ、確かに誰もいませんでしたね⋯。はぁ運が良いわけじゃなかったんですか⋯⋯、と落ち込んでいると


「んー、まぁ確かにややこしいな。俺だって知らなかったら迷子になってたぜ⋯。」


「はぁ、君ら地図も持たずに進むから。ほら、これ。」


と、またしても呆れ顔のライアに地図を渡されました。す、凄いです! 最近の地図ってこんな風になってるんですね⋯。親が持っていたのと全然違います! と眺めていると


「⋯早く取って。」


と、ライアに言われました。あ、そうですね。と受け取ってから思いました。


「え、あのお金は⋯?」


と、僕が言うと全力でフィくんも頷きます。え、そんなに振って頭取れませんか⋯? と僕が震えながら心配していると


「良いから。それより迷子になられる方が困る。」


と、フィくんの頭を抑えながら言いました。顔を上げたフィくんは心做しか涙目で此方を見ています。


うっ、そんな顔しても駄目ですからね? 街に着いたら病院に連れて行きましょう。と思いつつも街まではまだ遠いようです。



――――数分後――――



「ま、まだですか⋯。地図で見たら近いのになんでこんなに⋯。」


「はぁ、地図は縮小してるから。こればかりはしょうがない。」



――――それから更に数十分後――――



「や、やっと街、です。あー、もう駄目。」


と、僕は肩で息をしながら言います。や、やっと着きました! こ、此処まで長ーい道のりでした。


ぐねんぐねんに曲がった上り道や次は急過ぎて崖。もう崖そのもの! ⋯⋯あれはもう道じゃないと僕は主張したいです!


なんでこんな道が多いのか気になった僕は地図の文字の部分を見ました。う、ううん? えーと、僕たちが通って来た道について書かれてますね⋯。


えっ! この道はデスレッオル動物対策の道です。間違えて通らな、いように⋯?


な! さ、先に言って下さい⋯⋯!


と、少しの悪態を付きつつこうも思います。此処まで僕は来れました! と、僕が一人で百面相をしていると


「どうしたんだ⋯? リイラ」


と、変な人を見る目でフィくんに見られてしまいます⋯⋯。つ、つらい。


「ほら、もう着いたぜ! あれ見ろよ! あのコケた像! 流石、感謝祭だな!」


その様子を見かねたのか憐れんだのか、フィくんはそう僕に言いました。その言った方向を見ると、そこには感謝祭名物兼由来のコケた像がありました。



「あ、本当ですね。コケた像です! あれ、面白いですよね。」


「な、リイラ! そういうこと言っちゃあ怒られるんじゃ⋯⋯。」


と、震えながら言うフィくん。た、確かに前、フィーンサ村で


「変なおじさんー、コケてるのが更にー!」


と笑いながら言った時に母に怒られましたっけ⋯。うぅ、今となっては変とは思いませんが⋯⋯。


「キー、キルルーッ! キルリュイ!」


と、ドンラウーが⋯え?! ミアとあれいさん?! 今此処で?! と僕らが混乱する中ドンラウーたちはムフンと自慢気に此方を見ています。うぅ、可愛いです、ってそうじゃなくって!


「ドン、ラウー⋯?」


と、フィくんが言うとドンラウーたちが一斉にフィくんの方角を見ます。気が付けば街中騒いでいるじゃないですか!


そりゃそうですよ、ドンラウーたちが二人を寝た状態で運ぶから! 街中で寝てるじゃないですか! だ、駄目ー!


そう思い、僕は


「ドンラウー! 二人を運んで下さい!」


と、一先ずドンラウーに言いました。するとドンラウーたちは二人を持ち上げます。


そしてまたしても此方を見て出来たよと自慢気じゃないですか! いや、もふっとした身体が揺れて可愛いですけども!


「それじゃあ僕らはこれで、お、お騒がせしましたー! 失礼しまーす!」


と、僕が慌ただしく言うと何かを察してか、フィくんとライアも慌てて着いて来ます。


「え、えーと取り敢えず屋台はあっちみたいだしさ、椅子に二人を座らせて起こそうぜ! なぁ、ドンラウー。縦に持てないか?」


そうフィくんが言うと無理と言うように頭をブンブン横に振ります。


うーん、どうしましょう? 迷惑になりますし⋯と、大通りを出て裏路地に着いた僕らは思いました。


因みに先程はフーミ噴水近くに居たのですが⋯、大通りだって歩く人の邪魔になってましたよね⋯と、僕らがショボくれながら反省していると


「うーん、良く寝たー。⋯⋯え、此処何処?」


と、ミアが戸惑いつつも起きました。⋯⋯あ! そうです。もう起こせば良いんです! そう思い経った僕はあれいさんを揺らしながら起こしにかかります。


「あれいさんー! 起きて下さいー!」


と、声をかけてみます。フィくんの戸惑いの声が聞こえますが気にしてる場合じゃありません。


「あれいさんー! 起きてー! 起きろー!」


と、僕が言うと目を見開いたままのライアが


「え、え? 君、何して、るの?」


と、凄まじく動揺しています。何って起こそうと――――


「んん、俺を揺らすなぁ。箱が壊れるー。」


と、寝ぼけたことを言うあれいさん。あ、あれいさん。箱と揺らすってことは、まだ記憶があるんですか⋯?!


うーん、分かりませんし決め付けない方が⋯。それでも少なくとも箱の記憶はあるようですね。と、少し安堵しました。それでもミアは⋯と考えていると


「ねぇ、聞いてるー? あ、見たことない人もいる。んん? そういえば私、あなたの名前知らないなぁ。勿論、見たことない子も。」


と、僕を揺らしながら言うミア。ちょ、ミア! 揺らさないで下さいよぉ!


それにしても名前⋯⋯ですか。うん? 僕とライアだけ⋯? そう思っていると


「そこの子は知ってるよー。初対面で言ってたもの。「俺はフィムスだ!」って!」


と、自信満々に言うミア。あ、そういえばフィくんは名乗っていましたね⋯。それにしても初対面⋯⋯と、僕らが何も言わず黙っていると


「え!? あ、合ってるよね⋯?」


と、慌ただしく聞くミア。合ってますけど⋯。ッ! と苦しく何も言えずに僕らが口籠っていると


「ボクはライア。そこのフィムスの名前は合ってるから⋯。まぁ、何ていうかよろしく。ミア」


と、ライアが言いました。あ、良かった⋯。そう思っていると


「そうなんだ、ライアって言うんだねー! よろしくー。」


そうライアの方向を向き言い終えた後に、此方をクルリと向き


「ねぇねぇ、あなたの名前は⋯なーに?」


と、グイグイ服を引っ張りながら聞いて来ます。え、えーと、名前⋯。


「僕の名前は⋯⋯、リイラ、です。」


と、思わず俯きながら言う僕。ミア、本当に分からないんですね⋯⋯。覚えているのは僕ら、だけ⋯。


「な、なぁ。感謝祭に行こう、ぜ。」


と、肩を震わせ俯いたままのフィくんは震える声で言いました⋯⋯。


「感謝祭かぁ。良いね! 行こー!」


と、ミアが元気いっぱいに言いました。そうしてあれいさんはライアに背負われ、ドンラウーを抱えて歩きながら僕は思いました。


ミア⋯、元気そうで何よりです⋯⋯。そう思いながら僕は彼女の後ろ姿を見つめます。祭りと聞いてからはとても楽しそうです。楽しいのは、良いこと、の筈なのに⋯


何故こんなにも胸が痛み息苦しいのでしょうか⋯⋯? あ、もしかして何かの病気と、か? はは、それなら納得です、ね。⋯⋯と、僕が黙って俯いていると


「ねぇ、ミアとあれいのことなんだけど。」


その言葉に僕は思わずその言われた方向をガバっと向きます。



「⋯⋯ワガたち医療班が症状をなるべく抑える薬を作ったらしい。だから今のミアは思春期くらいになってるって。


あれいの方はミア程重くなくてそんなに前と変わらないらしい。だからしばらくは大丈夫だろうと。それでも⋯時間が経てば必ず悪化していく。」


と、僕の顔を見て驚いた後に何とも言えない顔で耳打ちされました。ミア⋯⋯、先程よりは良くなったんですね。でも⋯⋯、それでも。僕らのことは⋯、何も、ですか。




と、何とも言えない雰囲気で僕らは黙って俯いたまま歩きます。すると、設置されている椅子と机が見えてきました。


⋯⋯取り敢えず座りましょう。


そう思い、そこまで無言で人を躱しながら向かいました。


そうして座った瞬間に疲れがどっと押し寄せてきました。意外に疲れていたようですね⋯。と、思っていると


「あ! あなたはザンファールニーダをこてんぱんにした人!」



後書き


感謝祭=2/4 この世界では一日は60時間くらい。つまり此方で表すと二日半の間、感謝祭が行われる。


追記、17時13分に後半の可怪しかった部分を大幅に直しました。申し訳ありません。

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