第二章 それは始まり――。

第二十一話 変わった音

よし、先ずは情報収集ですね! と、街に着いた僕は思いました。


あれから僕は、途中キエトンルくまに襲われて死にものぐるいで逃げたり、途中変わった音が聞こえて辿った先が街だなんて!


いやぁ、僕ってば運が良いですね! だって情報収集といえば街が定番でしょう? そう思うとなんだか先行きが良いように思えますね。


よし、行き―――いやいや、先程の音が気になってしまうのは好奇心故か、それとも


「変わったことがあれば直ぐに知らせろ。特に元犬、覚えている内に報告しろ。」と、連絡先を登録した瞬間に音声付きで送られてきたからか? そう、あれからライアからも連絡先が送られて来たのです。


本人曰く「ごめん、忘れてた。はい、これあいつの連絡先。あ、それと先程言ったようにドンラウーで夜集合。フィが言うにはその時ミアとあれいさんを引き離すって。」


って言うじゃないですか! そうでした、探すのに必死になってて大事なことを忘れてたなんて⋯。


ていうかいつの間に僕の知らない間に二人、仲良くなってません? と、思いながらも足は音の方へ進みます。


好奇心と報告の為、好奇心の為⋯と、誰かに言い訳しながらもどんどん音は近付いて行きます。い、一体この先に何が⋯! と進むと


ん? あれ? 何もない? いやいや、音は聞こえているんですよ! な、何で何もないんです―――


「誰かいるのかい?」


と、しゃがれた声が聞こえてきました。え、ど、どうしましょう。なんて答えれば、あの、えっと。と、僕が焦っていると


「あぁ、突然すまなかったねぇ。つい見かけない子が居たものだからねぇ。」


と、後ろからしゃがれた声がするものですから慌てて僕が振り返ると


「え? だ、誰もいない⋯?」


と、思わず声に出してしまう程、僕は胸のざわめきが止まりません。あのことがあった以来、僕はずっと警戒しています。


簡単に人を信じて良いものかと。だって僕は特別強い理由じゃない⋯。そう思い悩んでいると


「ふむ、お主。悩んでいるな。どれ、儂に話してみぃ。」


な、なんで分かるんでしょう? と僕が思っていると


「顔に出ておる。」


と、直ぐに指摘されました。あっ。え? そんなに、ですか? と思っていると


「うん、それで良い。見知らぬ人になんて話さなくても良いのじゃよ。」


と、僕が黙っていたと思ったのかそう言う姿の見えない人。自分から言っておいて⋯? と疑問に思いました。悩み、ですか。


⋯⋯僕はどうすれば良いんでしょう。あの時、何も出来なかった⋯。刺されて気を失い痛みで叫ぶあれいさんや、あんなに苦しんで痛みに声を上げているミアが居たのに⋯。ぼ、僕は何も出来ない。特別な力があるわけじゃない⋯⋯。そう思い悩んでいると


「誰にでも悩みはある。そして悩みは一時で変わる者もおれば変わらぬ者もおる。話したくなったら儂はお主の悩みを何時でも聞くぞ。」


と、優しい声色で此方に言ってくる人。僕は⋯疑問に思ったことを聞かずにはいられませんでした。


「ど、どうしてそこまで言うんですか? どうせ何か狙いが―――」


ち、違う。こう言いたかったわけじゃない。あ、う⋯⋯。と罪悪感で言葉に行き詰まっていると


「お主が今にも死にたいという顔を取り繕っていたからじゃ。お主、取り繕うのが上手いじゃろう。その様子を見るに心の内にさえも吐き出せなかった。本当の悩みは違う。そうじゃろう?」


と、言う人。な、なん―――いや取り乱しちゃ駄目でしょう、僕。あ、合っていないですからね?!


「と、特別な力が欲しいで合ってるんですから!」


と、僕が矢継ぎ早に言いました。そうです、合ってるんです! それがきっと⋯⋯。


「本当にお主は特別な力が欲しいのか? 儂にはそうは見えんがな⋯。」


じゃ、じゃあ僕は何がしたいんですか⋯。もう自分でも分からな―――あ⋯。


「ふむ、その顔。何か心当たりがあるようだな。」


と、嬉しそうな声色で言う人。確かにあります⋯、でも先ずは⋯⋯。


「あります。でも、今はミアの記憶が戻ったら直ぐに謝りたい気持ちでいっぱいなんです⋯!」


「そうか⋯。それはずーっとは難しいじゃろうな。」


と、不思議なことを言う人。え、どういうことですか⋯? 僕がそう思っていると


「一時的になら可能ということじゃ。」


と、希望のあることを言う人。ほ、本当ですか⋯? と、僕が思っていると


「唯、本当に一時的だからのぅ。明日になったら覚えてないじゃろう。


もし後に治った時に覚えていたとしたら―――まぁ理由は自分で考えなさい。」


と言う人。本当に信頼出来るのでしょうか、この人。良い人だとは思うんですが。と、この間の一件で警戒する癖がついた僕はそう考えました。


それにしても治った時に絶対戻るわけじゃないんですね⋯。と、少しガッカリしていると見かねたのか姿が見えない人が


「うーむ、そこまで警戒するというのならこれを思い出させたい人に触らせてみるといい。」


と、言われると目の前に小さく丸い粒が浮いていました。え、なんですか? これは。間違って捨てそうなくらい小さい、小さすぎる⋯。そう思っていると


「それにしても本当の願いが気になる所じゃが、人のことを考えれるお主はやはり良い子じゃのう。キーさんにもそう伝えておこう。じゃあのう。」


と、気になる言葉を残して多分去って行った人。不思議な人だったなと思―――いやそれよりキーさんって誰?


と聞きたかったし、これ本当に効果あるのかな、騙されてないよね? と疑ってしまう僕がいました。


取り敢えずこれは持ち歩いたほうが良いんでしょうか⋯? と思っていると思い出させたい人に触らせると言っていたのを思い出し、慌てて手を引っ込める僕。


あ、危な。触る所でした⋯。うーん、てことは上から袋で被せる⋯? いやそれだったら失くしそう⋯⋯。あっ! 箱に入れるのはどうでしょう!


そう思い、小さな箱アイテムボックスを探します。えーと、あ、中身がパンパンです。新しい小さな箱は、えっと何処にありましたっけ。


⋯⋯ん、あー、もう。こんなことなら普段から整理しとけば⋯。と後悔しながら探していると


ん? 何か音が聞こえるような⋯。先程の音とは全く違いますね。ん? こ、この音はまさか! そう思い慌てていると


運良く見つかりました。あ、ありました! 新しい小さな箱! い、急いで入れて此処を離れなくては。と、大急ぎでガバっと入れます。


よし、後は逃げるだけ。そう思い、地面で驚いているドンラウーを抱え―――ん? 何に驚いて? そう思い抱えながらその方向を見ると


「助けてー! 遅れるー!」


と、泣き叫ぶ人がいました。んー? あの身なり⋯学生でしょうか? それに遅れるって何に⋯? と疑問に思い考えてしまいながらも目の前に危険と学生が迫って来ます。う、嘘⋯ですよね。ぼ、僕って弱いんですよ?!


そう思っていると驚いていたドンラウーが今度は危険に向かって行くじゃないですか。ん? え、ちょ!


慌てて僕はドンラウーを追い掛けます。あぁ必死に走るドンラウー可愛いです⋯。じゃ、なくて! 待って下さい! これ不味いです!


だって僕の言う危険とはキエトンルくま型の中で特にやばい奴らの集団です。何がやばいのかというと―――




あ、ドンラウー! 見知らぬ人、危ない! そう思い気付くと僕は庇っていました。


あぁ死ぬ瞬間ってとても長く感じますね。それに今更僕には何も出来ない。せめて僕が此処でちゃんと守れ―――


すると突如走馬灯のように船での出来事が蘇る。っ! そうです! 諦めちゃ、駄目! 防壁展開! 僕らを守れ!


そう思い必死に防壁に意識を集中する。不味い、このままでは破―――ッ! そう思っているとライアのことを思い出す。確かに防壁は早く展開が出来る、でも早すぎたし硬すぎました。な、何かライアはしていなかったでしょうか⋯?


そう思っている間にも防壁はどんどん破れていく。ッ! もう持た―――ライアがしていたこと。あっ、大したことじゃないと気に止めていませんでした、そういうッ! ライア! 借りますよ!


そうして僕はあの時ライアが次の魔法陣を出しながら防壁にサラッと書いていた謎の文字を加える。


よし、多分こんなものでしょう! 適当でも似てればきっと! 発動しますよね! あぁ早く発動しないでしょうか、待ち遠しいです。⋯⋯ん、可笑しいですね。


な、何故発動しないのでしょうか⋯。そう思っていると更に防壁は破れていく。ま、不味いです。


「ひょえぇ。」


と、後ろから声がします。うっ、こうなったらひたすら貼り直しです! そんなに魔力量が多いわけじゃありませんが一か八か。


僕は集中して防壁を展開していきます。そう、補うような感じで集中、集中。一瞬、僕は学生に手伝って貰うことも考えました。ですが、見る所まだ一年生のよう。防壁を習っていないでしょうね。


あ、それよりも集中! 急いで僕は次々に防壁を貼っていきます。ですが、やはり相手の数が多すぎます。


う、もう駄目です。僕一人では到底持ち堪えれません。これじゃあみんな仲良くお陀仏⋯になるのも時間の問題です。


だって相手は何百とわんさかいるんですから。流石にこの数は無理です⋯。


そう数の方に考えが囚われていた僕は何故こいつらが危険なのかをすっかり忘れていました。

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