第十八話 フィくんの告白、ミアは⋯⋯。
「ね、ねぇ、フィくん。み、ミアは、大丈夫ですよね⋯?」
と、震えた声を思ったよりも隠しきれずにフィくんに聞いてしまいました。
フィくんだって心配な筈です。僕がこんな風に震えてはフィくんに心配を掛けてしまいます。と、考えていると
「あぁ、心配な気持ちは分かるぜ。でもよ、親の方が俺らより心配してたからな。その⋯あの場では、何にも言えねぇよ。」
と、俯きがちに言うフィくん。親⋯ですか。そういえば、フィくんはもう親のこと吹っ切れたのでしょうか⋯?
と疑問に思いましたがあれだけのことがあって直ぐに吹っ切れる筈がないと今の考えを僕は僕自身で否定しました。
「フィ、フィくん⋯。」
それに比べて僕は⋯⋯、フィくんに怪訝な表情を先程向けてしまいました。駄目ですね、こんな僕では。と、僕はつい俯く。
「なぁ、リイラ。異世界人さんも助けてもらおうぜ。」
勿論、あれいさんも助けないといけません⋯。あれいさん、無事だと良いのですが。いや、きっと無事ですよね⋯?
なんたってあのすばしっこいドンラウーを追い掛けるくらい身体の強い人なんですから!
「それから大事な話があるんだ。」
え、大事な話⋯⋯? ど、どんな内容なんでしょうか。と、怯えながらもフィくんの話に耳を傾けます。
「俺さ、事が収まったら修行に出ようと思うんだ。」
その言葉に僕は唖然として何も言えません。口を開くこともしたくないくらいです。⋯⋯次の言葉も聞きたくなんてありません。
「だって俺が原因と言っても良いじゃないか。」
と、僕に半笑いしながら言うフィくん。な! フィくんが原因なわけないじゃないですか⋯。なんで、なんで⋯。そんなこと言うんですか⋯⋯。
「俺が異世界人だと言わなければ、こんなことにはならなかった⋯⋯。それに誘拐の時だってさ、元はといえば俺が誘拐されちまったからだ。」
と、また半笑いしてもう嫌だというような雰囲気を隠しきれずに言うフィくん。
な、何言ってるん、ですか。それも誘拐も全部、フィくんのせいじゃ、ないです⋯。悪いのは、誰だなんて決め⋯⋯とそこまで考えて何とも言えない気持ちになる僕。
「だからこれは俺なりのケジメの修行だ。ごめんな、リイラ。俺が旅に誘ったからこうなったんだよな。ごめんな」
―――っ!
「フィくんの馬鹿! フィくんは、優し過ぎるんですよ! それに考え過ぎです!
修行に出るのだって、そうです! 僕らと一緒に修行すれば良い話じゃないですか!」
っ。僕が涙で前が見えま、せん。
「いや、これはもう決めたことなんだ。例えリイラに言われようが俺は行く。」
と、きっぱりと言うフィくん⋯。そ、そんな。フィくんまで僕の前から遠ざかるんですか⋯⋯? い、嫌です。嫌です! 僕が火事があった時にどんな気持ちだったのか知らないでしょう!
あの時危険な目にあって、僕は思ったんです。フィくんはずーっとあの時から変わらないんだと。
「な、何でですか! この頑固者! 優しい馬鹿! 僕の心配も知らずに!」
と、思わず語彙力が低くなる程、僕は取り乱していた。
「嫌ですよ、いざ行くとなったら絶対行かせませんからね。」
「⋯⋯そうか、でも俺の気持ちも汲んではくれないか?」
と、余りにも辛そうな表情でフィくんは言いました。
「そ、そんなこと言われても⋯」
「頼むよ、親友だろ?」
そんな⋯。で、でも! 親友だからこそ、僕はフィくんを止めるんです!
「い、嫌です、フィくんまで。そんなの」
僕を置いてきぼりにするつもりですか⋯⋯。
「俺は修行に出るだけだ。でもミアは違う。
もし、記憶が戻らなかったら俺はミアの記憶を戻す方法も探しに行くつもりで言っているんだ。」
「そ、それは―――」
「だから今は承諾しなくても良い。もし記憶が戻らなかったら探しに行くだけだからな。大丈夫だ、俺とは生きていればまた会えるからな。」
「そんなこと急に言われても―――」
「あぁ、分かってる。だから今話したんだ。リイラのことだからな。後で話せば絶対に反対する。」
と、フィくんは話した。⋯⋯記憶については確かに納得は出来ます。でも、フィくんと離れるのは納得行きません。そう考えていると
「なぁ、返事は後で良いんだ。ほら、ドンラウーが待ってる。行こうぜ、リイラ!」
た、確かに。取り敢えず歩かないといけないんでした。仕方なく僕は歩き始めます。
歩きながらもフィくんが言ったことやミアについて考えます。
そうです。フィくんの言う通り、戻らない可能性もあります。なのに僕は⋯、ミアなら大丈夫だと勝手に決め付けていました。
あぁ、僕が馬鹿だったんです。本当に僕が馬鹿でした⋯。
ミア、ごめんなさい。今の記憶のないミアに謝っても何も分からないでしょうけど、それでも本当にごめんなさい。
っ! 僕は自分勝手に行動して、深く考えず大丈夫だろうと深く受け止めもせずに⋯。
「⋯⋯フィくん、僕ミアに謝りたいです。お見舞いに行きたいなんていう資格はありませんが、謝りたいんです。」
「それは、俺に言う事じゃないだろ。はぁー、仕方ない奴だな、リイラは。」
そう呆れ顔でフィくんは言いました。それから暫くして閃いたというような顔をしました。どうしたんでしょうと思っていると、
「なぁ、リイラ。ドンラウーなら知ってるんじゃないか? ドンラウー、ミアのいる場所って分かったりするか?」
するとドンラウーは首を傾げてお互いを見る。
「あ、駄目か。⋯⋯まぁ一応言ってみるけど、ミアは白い女の子なんだ。」
そう言うとドンラウーはくるくる踊りだした。
え? なんだか凄く嬉しそうです。一体どうしたんでしょうか?
一通り踊った後、ドンラウー数匹は駆け出します。残り数匹は僕らを見ています。
「え、あ、何処に行くんだ? あ。なぁリイラ、付いて行ってみないか?」
「え、どうしてですか?」
「あの様子から察するにきっとミアの居場所を知っていると思うんだ。」
「な、なるほど。そういうことだったんですね。」
「あぁ、勘だけどな。それにあのおっちゃんはドンラウーに着いて行けと言ったよな? なら、着いて行くしか無い。そうだろ?」
と、急に悪どい笑みを浮かべ言うフィくん。そ、それって怒られるんじゃ⋯⋯。そう思いつつも僕はこれに乗ることにしました。
「はい! 行きましょう!」
そうして僕らは急に方角を変えたドンラウーたちの足取りを追うことになりました。
ですがドンラウーはすばしっこい為、何処に居るのか分からず困ったことになりました。
「なぁ、ドンラウー何処だー!」
と、フィくんが叫ぶと先程此方を見ていた数匹と似ているドンラウーたちが何処からか出て来ました。
それからついて来いとでも言うかのように僕らの服の裾を引っ張ります。
「わ、分かりましたから。」
そう僕が言うとドンラウーにしてはかなり遅めに走ってくれます。ど、ドンラウー⋯! と、思わずドンラウーを更に好きになっていました。
それからしばらく走っていると、先程の大きく目立つ時計のようなものがまた見えました。
「はぁ、結局さっきの時計のようなものがある所じゃないですか⋯。」
「いや、これなんかさっきのと違くないか?」
「え、同じじゃないですか?」
「いやいや、よく見ろよ。後ろの物が違うだろ。」
「え、誰かが別のものを置いたとかじゃなくて?」
「はぁ? この数分で誰がそんなことをするんだよ。しかもこんな時に。あ、それにさっきの方角とは違う方角だっただろうが。」
「そ、そういえばそうでしたね。疲れた頭だとつい忘れやすいものですから。」
「そうか、確かにな。」
と、頷きながら言うフィくん。疲れると変な考えも起きますよね⋯。と思っていると
「ん? なんか此処に彫られてません? 数字? いや文字? どちらも違う気も⋯⋯。」
「確かにどっちとも合ってない気がするぜ⋯。それにしてもさっきの時計にこんなのあったか⋯⋯?」
「うーん、なかったような気が⋯」
「あ! それより俺らミアの所に行かないとだぜ!」
「そうでした! 急ぎましょう!」
そうして僕らは待って居てくれたドンラウーとまた走り出しました。またしてもドンラウーが好きになります。ドンラウー⋯⋯!
あ、いや先ずはミアの状態の把握です! 大丈夫であって下さい⋯!
そう思いながらもひたすら走り続けます。そうしていると、ドンラウーが数匹外に居る家が見えてきました。
その家で僕らを案内してくれたドンラウーも立ち止まりました。
思わずフィくんの方を向きます。すると視線が合いました。どうやら考えは同じですね。よし、行きましょう!
そう思い、ドアを開けようとするとフィくんに手を引っ張られました。
「な! ど―――」
突然、フィくんに口を押さえられます。
「しーっ。先ずは窓から見てみようぜ。状況確認は必要だろ?」
「もご」
「あ、すまない。」
と、言い手を離すフィくん。
「僕は謝りに来たんです!」
そう言いながらドアを開けます。
「あ、ちょ―――」
「な、誰だ! ⋯⋯ん、何故お前らが此処に?」
中には当然、椅子に座るミアパパと、その斜め隣の椅子に座るハイサナさんがいました。あれ? ミアは⋯? そう疑問に思い、聞いてみると
「そ、その僕らはミアに会いたくて。」
「なるほど、そういうことか。それなら―――」
「ミア様でしたらあちらのドアを開けた先の奥に。⋯⋯ただ余り希望を持たずに行ってらっしゃいませ。」
と、言さり気なく言葉を遮って言い辛そうに言うハイサナさん。その言葉を聞いて僕は唖然としながら最悪の事態が頭を過ぎっていました。
ミアは治らず、フィくんも何処かに行き、あれいさんも助けられない。そんなことが頭を過ぎってしまいました。
しばらく僕が立ち尽くしていると
「⋯⋯行こうぜ。リイラ」
と、泣いたまま僕に話しかけるフィくん。⋯⋯っ! いや、まだそう決まった訳じゃないんです! そう意を決してドアに向かいます。
ミア、ミア⋯⋯!
そう思う程、僕の足は自然と早まり、ドアに近付いて行きます。
そして、とうとう手をかけました。
「開けますよ、フィくん」
と、僕が言うと僕の手にフィくんは手を重ね、口を開きます。
「あ、あぁ。」
僕らはお互いを見合い、一緒にドアを開けました。するとドアの向こうにはボーッと何処かを見ているミアの姿が。
誰かの息を呑む音が聞こえました。慎重に僕が声をかけます。
「み、ミア。」
「あ、え。怖い人たち。何で此処に居るの?」
こ、怖い人たち。う、嘘ですよね? ミアの記憶は⋯⋯っ。僕が何も言えずに立ち尽くしていると
「なぁ、本当に俺らが分からないのか? ミア」
と、フィくんが焦ったように言います。そ、そうです! 本当に分から、ないんですか⋯? と祈る思いでミアの答えを待ちます。
「だぁれなの? 怖いよぉ、とつぜん。」
と、ミアが震えながら言いました。こ、怖い⋯? そ、そうでした。
ミアからすれば僕らは⋯⋯、知らない人。僕は⋯っ! 本当に気を使えていなかったのですね。
「すまない、ミア。えと、俺らはその⋯⋯。」
と、フィくんが何と言えば良いのか分からず視線をあちこち彷徨わせながら言っていると
「すみません、ミア様。その二人は私の知り合いでして、それでミア様のことを知っていたのです。」
と、ハイサナさんが心苦しい顔で言ってくれました。ハイサナさん⋯⋯。助かりました。
「あ、そうなんだ。それなら早く言ってよぉ。もういつもそうなんだから! ハイサナは。」
ホッ。し、信じて貰えたようで、良かったです。
「はは、すみませんミア様。それと二人ともミア様と仲良くなりたかったようですよ。」
と、ハイサナさんが言う。その言葉にハイサナさんへの好感度が爆上がりしていると
「そ、そうだったの? それはごめんね。⋯パパが許してくれないと」
と、申し訳なさげに言うミア。え? 許す? そう考えているとハイサナさんに小声で言われます。
「すみません、調べた所、ミア様の記憶は少女期くらいまで戻っていました。
その為、当時から過保護だった長の言っていた事を覚えているのでしょう。そもそもミア様は家出のような形で此処を出て行かれましたし。」
と、最後の方はボソッと言っていました。つまり、どういうことですか⋯?
二人でぽかんとしていると慌てた様子でミアパパが言います。
「えと、パパも固くなりすぎた。好きになさい。」
「あ、ずーっと後悔されていましたよね。家出から。だから、ですか。」
と、呆れ顔でハイサナさんはチクチクと刺すように言いました。
「そ、それはその―――」
「パパ、良いの⋯⋯? っ! わーい! 今日から自由だぁー!」
とミアは、凄くはしゃいでいます。よっぽど過保護だったんでしょうか?
するとフィくんが
「なぁ、ミアに謝る件だが逆に今のミアに心労をかけることにならないか⋯?」
「た、確かに。」
それはつまり、僕が知っているミアにはもう―――。そう思わずにはいられませんでした。
「ね、ねぇ。フィくんは何処か行かないですよね?」
と、嫌な予感がして言うと
「すまない、異世界人さんの一件が片付いたら俺は探しに行くつもりだ。」
「い、今異世界人と言いましたか?」
「あ、」
だ、大丈夫でしょうか? またあの時のような反応をされたら! そう思い、ハイサナさんを見ます。すると―――
「か、彼らがどうかしたのですか?」
と、凄く心配な顔で震えながらハイサナさんは言いました。よ、良かったです⋯。悪いイメージの方じゃなくて。
「えと、あれいさんという人がかなりの重症を―――」
「た、大変だ! 何故それを早く言わない!」
い、言う暇がなかったからでは? と思いつつも
「急いで案内して下さい!」
「あ、えと此処に来る前に起きたんですが」
「な、なんだと?! え、つまり⋯暴走、異世界人の負傷、記憶喪失。そんなことが起きていたということか⋯⋯。」
と、唖然としているミアパパ。改めて言われると凄いですね⋯⋯。
「それなら尚更です。急いで元の場所に行きましょう、長!」
「あ、あぁ。そうだな。」
そうハイサナさんに言われてやっと落ち着きを取り戻したミアパパ。
「直ぐにでもドンラウーで元いた場所に移動しよう。」
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