第十七話 ミアならきっと
い、今なんて言って? え、どういう―――
「あははは! あたしの魔法は完璧だ! 完璧なんだ! 完璧に仕上げたんだよ! だから、だから!」
と、座り込み苦しげな表情で笑いながらも彼女は強く叫んでいます。
いや、ま、先ずはミアのことです。ミア⋯、僕のことを忘れてしまったんですか? な、何故⋯⋯、ミア! と、焦りの余りたどたどしい言葉になる僕。
「あなたはだぁれ? あの人はどう、したの? そこの人もなぁに?」
と、ミアはボーッとした顔で何も分からないかのように言います。う、うぅ。嘘だ、そんな⋯。何でですか。覚えていないのですか! 僕はどうすれば―――。と、僕が取り乱していると
「全部お前らのせいだ! ははは! 抵抗なんてするから⋯、そうさ。あたしの魔法は完璧なんだ! なのに何故⋯⋯! 何故、魔法が使えないんだ!」
と、苦しげに笑う女性は、突然意味の分からないことを喋りました。
は、魔法が使え、ない? ど、どういうことですか⋯? そんなの聞いたことがありません、う、嘘ですよね? と思っていると
「まほ、う? なぁにそれー?」
え、え? さっきもこんなことを言っていました。つ、つまり魔法を知らない⋯? 一体何がどうなってるんですか⋯。とうとう僕は混乱を極めました。
「ミア、俺だ。フィムスだ!」
と、突如現状が耐えられないというかのように叫ぶフィくん。
「フィ、ムス? なぁにそれ? なぁんで私のなまえを?」
「な!」
え、そんな⋯⋯。
「フィくん⋯。ミア、その⋯」
「うぅ、魔法が。あたしの魔法が⋯⋯。」
魔法、この落ち込みようは嘘には見えません⋯⋯。う、もう理由が分かりません。
あ、そういえばミアも魔法は何? と聞いてきましたね。うーん、何か関係があるんでしょうか? それとも単なる記憶喪失? と、やっと少し落ち着いてきた頭で考えます。
⋯⋯聞いてみますか。
「ミア、魔法を知らないんですか?」
「ねぇなんで私のなまえを?」
と、不思議そうな顔で言うミア。ど、どうすれば⋯。と落ち着きから一転、混乱に戻ってしまった僕は
「そ、それは⋯。み、ミア! 僕らです! 分かりませんか?」
と、言いました。すると
「だぁれ? この人たち、なんか怖いよぉ。」
と、不安な表情をされました。こ、怖い⋯? な、ど、どうして―――
「パパ! ママ! 里のみんな! どこ? どこなの⋯。ここ怖いよぉ。」
え、どうして? ミア、僕らですよ!
そう思っていると
「誰だ! 娘を怖がらせたのは!」
と、何処からか声がする。
「お前らか?」
そう聞こえた瞬間―――珍しい色のドンラウー数匹が僕らに群がります。
「な、何ですか! これは」
「黙れ、きちんと説明してもらおうか!」
そう言われた次の瞬間――、ドンラウー数匹が突如光り始めました。
「な、何ですか! これは」
「黙れ、きちんと説明してもらおうか!」
そう言われた瞬間、ドンラウー数匹が光り始めました。
「な、何だ? 一体どうなって」
と、誰かが言った時にはもう目の前の景色は変わっていました。辺りは変わった木々が一面に生えていて、目の前には小屋があります。
「歓迎はしないがようこそ、バートラッドトハラドへ。」
と、小屋の方から声がしました。バートラッドトハラド⋯? どっかで聞いたような⋯。うーん⋯⋯と僕が現実逃避ついでに考え込んでいると
「な、何だここは。ははっ。」
と、唖然とした顔で何故か笑い声をあげた女性が言うと
「此方の質問が先だ! 答えてもらおう。」
と、急にドアを開けて言い放つご老人。隣に居る女性が何とも言えない顔をしています。うーん、バートラッドが入っていますし、きっとバートラッド族の里ですよね⋯?
「あの、すみません。此処ってバートラッド族の里ですか?」
「あのな、質問に答え―――って何故それを?」
「あの、ぼ、僕とそこの薄緑のやつはミアと友達で! だ、だから―――」
「友達? ミア、こいつらはお前の友達か?」
そう厳しい表情で言われました。息を呑み、ミアを見る。そこでふと思い出す。も、もしかしてミアは―――
「だぁれ? 知らないよ?」
う、そんな⋯。やはりそうなんですか? そ、そんなの信じたくありません!
「知らないと言っているが? 何だ嘘を吐くな!」
「嘘じゃ、ミアは多分⋯⋯記憶が。」
「そんなお前らにとって都合の良いことあるわけないだろう!」
「い、いやでも信じたくありませんがあったんですよ⋯⋯。」
「はぁ、話にならん。ミアはお前らを知らないと言っている。それが事実だ。」
「そ、そんな」
「おっちゃん! み、ミアは本当に俺らの友達なんだ! なぁ信じてくれないか!」
「黙れ! ミアは知らないと言っているだろうが! なぁミア?」
「うん、でもこの人たち怖いよ。私の名前を知ってた。」
「なんだと! 友達どころか名前まで勝手に知っているとは!」
ち、ちが
「ねぇねぇ、パパ。」
「何だ、どうした?」
「パパ、老けたね。どうして?」
「あ、な、いやいや、え? い、今なんて?」
「パパ老けたねってふふっ。言っていましたよ。」
と、隣の方が若干笑いながら言いました。えぇ、み、ミア―――?
「な、何故だ、ミア。ミアがそんなこと言う筈が。ふ、老けてなどいないだろう?」
と、震えながら聞いています。
「ううん、老けた。」
ミア―――? どうして?
「い、今な、なんて?」
「ううん、ふふっ。老けたと言ってふふっ。ましたよ。」
と、また笑いを堪えようとしながら隣の方が言う。笑いを凄く堪えきれていません。
「お、おっちゃん。大丈夫だぜ。ミアは忘れてんだよ⋯⋯。」
と、忘れてると言った時に悲しげな表情をしつつもフォローを入れるフィくん。フィ、フィくん⋯。
「ええと、具体的には何処ら辺が⋯?」
と、震えながら聞く多分ミアのパパ。
「うーんとね、全部!」
「あ、え? ミアがこんなことを言う筈が⋯。まさか、ミアは本当に。本当に! 忘れてしまったのか? じゃなきゃ言う筈がないんだ! うぅ。」
と、ショックのせいか座り込んだ後、突然のたうち回りながら言うミアパパ。
するとそんなミアパパを呆れた目で見ながら隣の方が口を開きました。
「そんな筈がないでしょう。どれ、ミア様。私―――」
「あ! あとねハイサナも老けたよー。」
「な! み、ミア様? き、気の所為でしょうか、今ミア様が何か言っていたような。」
と、かなり動揺しながら言いました。
「いや、言っていた。そう。ふ、老けた、と⋯⋯。」
と、凄く落ち込みながらも隣の方に教えたのはミアパパ。ミアパパ⋯。
「な、ミア様がそんなころ言う筈が。あっ! もしかして本当にそこの二人が言ってらしたようにミア様は記憶が無くなられて―――?」
「⋯⋯そんなことが本当にあるのか? 信じられんな。だが一応。⋯なぁミア。最近の印象に残っている出来事は何だ?」
「うーんとね、パパが黄緑の棒を美味しいと食べてたこと。」
「あ、それは昔―――」
「どうしてミア様が、昔、教育に悪いと禁止していたことを知っているのでしょうか。」
と、隣の方がミアパパをじーっと呆れた目で見ている。すると
「それはその⋯」
と、タジタジになるミアパパ。
「あ、あれって親から受け継いだのか⋯。」
と、フィくんは唖然としていました。ん?
「どうしたんですか? フィくん」
「あ、いやー、その。な、何でもねぇよ!」
うん? それにしては反応がやけに―――
「そ、それよりもさ! これで俺らが嘘を吐いてないって分かっただろ⋯?」
「うーん、だが昔食べてたことだし⋯。なぁどうすれば良いと思う? ハイサナ」
「はい、今のは自白ですか? あ、それと伝え忘れてましたが。そこの二人は大丈夫かと。ただあちらの女性からは暴走したものが感じられますので、早急に対処が必要かと。」
「な! じ、自白じゃ⋯。それよりも先に言え!」
「じゃあ、何だと言うのでしょうか。」
と、またじーっとミアパパを見る隣の方。
「うぐ。そ、それは―――。」
「あ、それからもう一つ。ミア様にも暴走のものがびっしりとこびりついていますが。」
ミアに!? だ、大丈夫なんでしょうか? それにミアは―――。
「⋯は!? な、何故お前は毎度先に言わない! い、急いで
ワバたちとは?
「二人は如何いたしましょう?」
「あ、あぁ。二人はこいつに付いて行くと良い。
おい、ドンラウー案内しろ。」
と、慌てた様子で言うと目の前に先程のドンラウーたちがいました。
「わっ! さっきのドンラウーです!」
か、可愛いです⋯
「あぁ、そいつらに取り敢えずは付いていってくれ。それじゃあな。」
と、先程のように慌てて何処かへミアと女性を連れて行く二人。
混乱しつつも、ふと思い付きます。そうです! フィくんならきっと⋯! そう思いフィくんの方を向くと
「わっ、くすぐったいぜ。」
と、言いながらドンラウーたちと遊んでいます。こんな時に⋯と、思わず怪訝な表情を向けます。
ですが―――あ、ふわふわの体、真ん丸く此方を除く底知れぬ目! それに加えて見たことの無い色合い! か、可愛いです!
う。し、仕方ありませんね。取り敢えずはドンラウーたちを眺めながら付いて行きましょう!
そう思いながらも歩きます。歩いていると変な景色はゆっくりと別のものになっていきます。
「なぁ、あれ何だ!」
そこには大きな時計のようなものがありました。これ、なんでしょうか? そう思い近付こうとするとドンラウーが必死に僕を引っ張ります。
わぁ、必死なドンラウーも可愛いです。
「なぁ、これは触っちゃ駄目なやつかな。」
と、フィくんが目を輝かせながら言いました。
するとドンラウーたちは精一杯頷いています。
「時計に似ているということは時間が戻ったり⋯?」
と、少し期待を込めて言ってみます。なんて、ドンラウーたちに聞いても分かりませんよね。そう思いながらもドンラウーを見ると、
ドンラウーたちは精一杯首を横に振っています。
「そうな―――え、あれ? 言葉が分かるんですか!」
「あ! ほ、本当だな。す、すげー! こんなドンラウー始めて会ったぜ! 凄いな、お前ら!」
そうフィくんが言うとドンラウーたちはもふもふの体を跳ねさせています。うっ、可愛い⋯。
「じゃあこれは何なんだ⋯?」
そうフィくんが聞くと首を傾げてお互いを見るドンラウーたち。
うーん、知らないんですね。
「なぁ、リイラはこれ何だと思う?」
と、突然僕に聞いてくるフィくん。
「え、うーんと、分かる理由が⋯。」
「だ、だよな。さ、早く先に行こうぜ!」
と、ドンラウーたちと走り出すフィくん。今、少しフィくんの顔が暗かったような⋯。まぁ、気の所為ですよね。
そう考えつつも慌ててフィくんに付いていきます。
そう走っていると、ふとこんな考えが頭に過ぎりました。み、ミアは何処かに連れて行かれましたが、大丈夫なんでしょうか?
やはり心配です。それにあの様子、何か大変なことが⋯。でもきっとあのミアのことです! すぐにでも大丈夫になります、よね。
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