第十五話 料理問題
「ミアー。まだ着かないんですかー?」
と、何処か疲れた声で僕は言いました。えぇ、そうです! 実際、今の僕は疲れ果てていますからね! その反対にフィくんはウキウキしています。
これは良いことのはずですが⋯、なんだか複雑です。
「俺を箱に入れて持ち運ぶのは良いけど、もうちょい揺れを抑えてくれないか? ミア」
あれいさんはというと、あれから最初の方はうるさ⋯⋯いえ、喧しかったですが、今はだいぶ慣れてきたのか少し大人しくなりました。
先程みたいに叫びませんからね。
「えい。」
と、ライアが箱を突きました。
「ちょ、辞めてくれぇ! 怖いんだよ! 美少年」
「だからボクの名前はライアだって。何度言えばその呼び方を辞めてくれるの?」
「いーや、お前は今といい、さっきから俺を突く憎しみも込めて美少年だ!」
「それって逆に言ってて悲しくなりません?」
「うぅ、辞めろよ、リイラくん。余計に惨めな気持ちになるだろうがよ。」
と、あれいさんが言いました。因みにあれから自己紹介も終わっています。あの時のあれいさんはうるさ⋯いえ、喧しかったです。
「どんまいです。あれいさん」
「うぅ、リイラくんは良い子だな。突かないしな。」
「えいっ。」
と、今度はミアが結構大きめに箱を突きました。
「ぎゃあああ! 揺れるぅう!! この! ミアめ。後でゼッテーにやり返すからな!」
「あの、大丈夫か⋯?」
「あぁー、フィムスくんも良い子! おじさん感激よ。」
「え、おじさんって年齢には見えませんが。同じくらいなんじゃないんですか?」
「え、嘘だー。褒めかたが上手いんだね、リイラくんは。
おじさんこっちに来てから一人で自分の誕生日を祝ってもう十年だよ? いくら何でもそんな若そうには見えないでしょ!」
「え、そうだっけ? 私は数年だと思うけど。」
「あー、そういうことか。」
と、フィくんが言います。え、どういうことですか?
「あのな、よーく聞いてくれ。色を伝えた人の本に驚いたことがあったって書いてあったんだがな。
色の人によれば
此処と向こうの世界の時間は違うらしい。」
「え、まじで? 色ってことは絶対同じ世界の奴じゃん!」
「此処は一日が長い上に日が二回半昇って一日なんだ。」
「え、てことは俺は何歳なんだ?」
「それは自分で考えて下さい。」
「リイラくんが冷たい⋯。」
「ん? 待てよ。じゃあ俺はおじいちゃん?」
「え、でも変わってないよ。最初会ったときから。ほら。」
と言い、ミアは
「え、凄。なーにこれ? 驚き過ぎて語彙力がないんだが。」
「見ないの?」
と、ライアが。
「今見るよ! 全くせっかちな美少年だ。」
と言い、S2に寄ると
「え! ほんとに変わってないんだが。え、もしかして此処は夢⋯?」
夢? 何言ってるんですか? この人は。
「現実ですよ。揺らしましょうか?」
「いや、ごめんって! でも俺はてっきりシワシワの顔が映るのかと覚悟してたものだからさ。びっくりして⋯。あ、でも今戻っても親はもう⋯。それにゴンさんも。」
「親⋯。」
あっ! フィくんの顔が少し濁ってきてます! な、何か話題を!
「で、でもドンラウーは食べたんじゃ⋯。」
「あぁ、あれはゴンさんじゃないからな。でも肉は本当に美味しかった⋯。」
「そういえばそろそろお腹が空いたね。」
と、ミアが。
「そうですね。」
「ねぇ、休憩場所はまだ?」
確かにそうですね。まだでしょうか? ライアと意見が合うのもお腹が空いたせいです。
「俺も空いたぜー。」
と、みんなでクタクタです。
「うーん、そろそろこの森を抜けたところに見えてくるはずなんだけど⋯。」
「なーんだ散々俺を煽っといてお前も迷子か? ミア」
と、あれいさんがグチグチ言います。
「うーん。絶対、此処ら辺なのになー。」
「そうなのか、じゃあ見つからなかったら今日は野宿だな!」
と、フィくんが楽しそうに言います。
「え」
と、ライアくんが嫌そうな顔をして言います。
「俺、野宿ってのを一度経験してみたかったんだ!」
「そういえば野宿は良いとして誰が料理をするんだ?」
と、あれいさんが。ま、まずい。
「はい! じゃあ私が―――」
「いや僕がやりますよ!」
「え、でもリイラって料理したことあったっけ?」
と、ミアに言われます。不味いです、このままでは⋯。
「えーと、それは⋯。」
「あ、俺が作るぜ!」
と、フィくんが。フィ、フィくん⋯!
「でも君も作ったことあるの?」
「うぐ、ないぜ。そういうライアこそあるのかよ!」
どうせ、こいつのことです。ないに決まって―――
「勿論あるけど。」
へ? え、幻聴でしょうか。
「おぉ、それじゃあ美少年よろしくな!」
と、僕らの行動を見てあれいさんは何かを感づいたのかライアに任せた。
「わ、分かった。」
と、ライアは不満げです。
「そういえば料理器具はあるの?」
と、ミアが。あぁー! そうでした!ないに決まって―――
「箱に念の為に入れてある。」
なんか慣れてません? ライア。と、思いつつも料理問題が解決して安堵―――いえ、まだ美味しいと決まった訳ではありません!
「それじゃあボクは料理するから邪魔はしないで。」
と、ライアは言いました。
「見ててもいいか? 異世界の料理が気になるんだ。」
と、未だに箱に入ったあれいさんが言います。
「邪魔しないなら良い。」
「よしっ!」
「じゃあ僕らは薪を集めてきますね。」
とっととミアを料理場から引き離さなくては。
「え、私も?」
「いいから行きますよ!」
「おう! そうだな!」
「お、行ってらっしゃい。」
と、あれいさんが言いました。
「ふん、
と、料理器具を箱から出しながらライアが言いました。
「はは、素直に心配すれば良いのによ。」
と、あれいさんが言います。
そうして僕らはミアを引きずりながら急いで少し遠くの方に行きました。
「痛い痛い。どうしたの? 急に。」
と、ミアが抗議します。
「あ、あぁ。なんだか森を急に見たくてな。」
と、フィくんが目を反らしながら言いました。フィ、フィくん。それじゃあバレますって!
「ええと、大地を感じたくて。」
と、言いました。あ、此処じゃなくても良いんじゃ。森だらけだと意味がないような。
「え、あんまり変わんなくない? 同じ森だけど。」
「そ、そうですかね。」
「うん。」
「あ、えーと、より新鮮な薪を広い集めたくてな。」
と、フィくんが。こ、これならいける!
「より新鮮って何⋯?」
あー、そんなぁ。
「い、いやー、感覚的な問題ですよ。」
「そう? じゃあそんなに言うならここら辺で薪集めて早く戻ろうか。」
は、早くぅ!? いや駄目です! 絶対に駄目です!
「い、いやゆっくりで良いんじゃないですかね?」
「そ、そうだぜ。リイラの言う通り、ゆーっくりと薪集めをしようぜ! 急ぐ理由もないだろ? な!」
フィ、フィくん⋯⋯!
「そういえば急ぐ必要もないか。なら此処に何があるのかが分からないんだけど。」
「いや、だからリイラの言う通り感覚的な問題だなー。」
「本当に?」
「「ウンウン。」」
と、僕らは必死に頷いた。まだ死にたくはないので。ミアの料理はグロいのです。
蠢くとかはないが固形のものが液状化してたり、何処からきたのか分からない色合い。味は大丈夫かと思えばとても人間の食べれる味ではないです。
「じゃあ薪集めをしようか。」
と、ミアがやーっと言ってくれました。
「ウン。そうだなー。」
と、フィくんが。
そうして薪をゆーっくりと集めた後、ミアを引き止めながら戻ることに。
「ま、待ってくれ! ミア」
「どうして? もう薪は集まったと思うけど。」
「いやいや、なーにを言いますか! 見て下さい! この薪を!」
「それがどうしたの?」
「あのなぁ、ミア。本気で言っているのか? もーっと良い薪が必要だと。俺達はそう思うんだ!」
ミアにバレないように引き止めなくては! そしてよくアドリブに合わせてくれましたね! フィくん! と思い、フィくんに目を向けると任せとけ! みたいな顔でこっちを見てきました。
此処はフィくんに任せ、僕は様子を見てきますね!
そうして僕は走りました。料理場所に向かって!
「え、ちょっと何処に行くの? リイラ」
「俺達はまだまだ薪集めだぞ! ミア」
と、後ろから聞こえました。フィ、フィくん⋯! あぁ、本当に良い友です。
そう思い慌てながらも来た道を引き返します。
そうして走っていくと、何やら良い匂いがします。これなら期待出来そうです。
まぁ、あいつが作ったというのが気に入りませんが。文句の言える立場じゃありません。
そう思い、もっと早く走ると―――
あ、見えてきました!
「おーい! あれいさん! ライア!」
「あ、お帰り。早いな、あれ? 薪はどうしたんだ?」
「薪を集めに行って薪を持たずに帰って来るなんて。馬鹿⋯?」
と、こいつが言いました! こいつには僕の苦労が分からないんです、そう自分に言い聞かせながら料理に目を向けると
「わぁー、凄いです!」
「だよな、美少年ったらめちゃくちゃ手際が良いんだよ。」
「へぇー、意外ですね。あっ! ポエットルがあります!」
と、僕は呑気に料理に夢中になり、忘れていたのです。足止めしている親友のことを。
一方その頃⋯フィムスは。
遅いなー、あいつ。
「ねぇ、フィムス。この枝はふぉう?」
な、なんか変色してるー。え、なにこれ、どういうこと? て、その口に咥えてるのは何ぃ?!
「こら、ミア! ペッしろ。」
あれ、俺はいつからミアのオカンになったんだ⋯? 最近は色んな事だらけだなー。あ、いやいや違う! 正気に戻れ、俺!
例え黄緑や紫に変色した枝があっても普通―――いや、それは変だぞ? え、黄緑とか何ぃ! 平然と食べてるミアも怖え!
「こえはねぇ、意外と美味しいふぉ。」
なんで食べるの?? なんで?? え、ていうか美味しいのか⋯。そうか、良かっ―――いや、良くねぇよ! そしてリイラはまだ?!
そりゃさ、確かに俺は此処は任せろ! って格好つけたよ? でもいくら何でもこれはなくないか?なんだろう、なんかでかーい赤ちゃんか? ミアは。
本来湧いちゃいけない方のものが湧いちゃってる気がする⋯。
そうやって現実逃避をしても目の前でミアはもしゃもしゃ食べてる。
「ご、ご飯はちゃんとした物の方が良いぞー。」
「ふぉう? いつもふぉえあよ。」
なんて? なんて言ったの?
「ごめん、もう一度言ってくれないか?」
「そこにねぇ、ふぉちててね。こふぇ、いつもふぉえてうふぉふ。」
んー? 全く分からん! あー、誰か助けてくれぇ! 意味が分かんねぇよ。
「ふぉっふぉふぉふぉおう。」
ふぉ? あ、そうか! 俺も真似すれば理解出来るかもしれん!
「ふぉうふぉう?」
「ふぉおうふぉ。」
「ふぉえもー、どふぉー。」
「ふぉぬふぉん。」
んー、駄目だ! もっと成りきらねぇと!
「ふぉえふぉうすふぉう?」
「ふぉうふぉうもふぉうあ」
場は戻り、リイラはというと。
「ねぇ、あの二人はどうしたの?」
「あっ! そうでした! 忘れてました!」
「すぐに呼んで来ますね!」
「あ、じゃあ俺も着いて行くわ。」
と、あれいさんが。
「あ、はい! じゃあ一緒に行きましょう!」
そうして僕はあれいさんの箱を持ち、元いた森へ戻って行きました。
「あれいさんはなんで着いて来たんですか?」
「あぁ、それはちょっと此処ら辺は来た事が無くてな。此処がどんな場所か見て回りたかったんだ。」
「そうなんですね。じゃあ早くミアたちと合流して景色を見ましょう!」
「あぁ、そうだな!」
そうして僕らは走って走りました。すると
「ちょっと待て! 何か聞こえるぞ。」
と、あれいさんが僕に小声で話しかけてきます。
「本当ですか?」
と、僕も小声で話しかけました。
「あぁ、変な鳴き声の奴らだ。」
そう言われて耳を澄ますと、確かに何かの鳴き声が。
音は、はっ! 先程僕が居た方角からです! フィくんたちに何かあったのかも。
「あれいさん! 先程居た方角から聞こえました! 何かあったのかもしれません! 急ぎましょう!」
「マジか! じゃあ早く行こうぜ!」
「言われなくても!」
そうして僕らは終始無言で音の方へ走っていきます。すると、近くに来たのかさっきよりも聞こえてきます。
僕は一旦止まり、箱に居るあれいさんに小声で話しかけました。
「あれいさん、聞こえますか?」
「あぁ、なんだこれは。珍獣か?」
「珍獣って何ですか?」
「い、いや何でもない。それよりも相手がどんな奴らか分かんなきゃ太刀打ち出来ない。」
「つまり⋯?」
「あぁ、もう少し見える所に行くぞ!」
そして今度は慎重にゆーっくりと近づいて行きます。すると、え?
「な、どうしたんだ、あいつら。」
「も、もしかすると珍しい
「え、そんな奴らがいるのか? さ、流石異世界。」
「はい、居ます! これは主犯を倒さないと戻りません!」
「探して助け出しましょう!」
「あ、あぁ!」
そして僕らはまた慎重に敵に気付かれないよう、ゆーっくりと辺りを探しました。
「あれ? 見当たりませんね。可笑しいです。特性上近くにいるはずなんですが。」
「そうなのか、それは妙だな。」
「まぁ、取り敢えずフィくんたちの所に行きましょう!」
「おう、といっても近くだけどな!」
そうして僕らはフィくんたちに近づきました。
「フィくん、ミア、大丈夫ですか! あぁ、きっと喋れないんでしょう。」
「あ! ⋯⋯ふぉうふぉう。もご。」
え、フィくんがミアの口を抑えてます。
するとフィくんが此方を見て訴えかける。
「ふぉくふぉって! ふぉぬんふぉす!」
な、まさか意識を残すタイプのたちの悪い奴のパターンだったなんて! なんて卑劣な!
「ふぉうふすふぉう!」
わ、分かりました。こんな姿は見られたくないんですね。フィくんのその心意気! 感動します!
「絶対フィくんをこんなにしたやつを倒しますから!」
「ふぉうふぉう!」
え、倒さなくてもいいと? ⋯⋯あっ! まさか、奴が眠りにつくまでそのままでいるんですか!
「分かりました。それなら料理を食べながら待つとしましょう。」
「もが。」
「ふぉうふぉり!」
あぁ、こんな鳴き声になってもはしゃぐフィくん。やはり怪物は許しません!
そう思いつつも料理のある場所へ僕らは向かいました。
「も、もご!」
相変わらずフィくんがミアの口を何故か抑えてますが⋯。
気にせず僕らは歩き続けます。
「なぁ、あいつらあのままで良いのか?」
と、あれいさんが。
「元凶が眠れば元に戻りますし、料理が覚める前に食べたいですよね?」
「確かにな。」
なんて話していると、料理が見えてきました。
「も、もがが!」
「ふぉめふぉ!」
「どうしたの? そのヘンテコな声は。」
と、ライアがこちらに駆け寄り聞きました。
「それがあの珍しい
「ふーん、とてもそうは―――」
と、ライアが言うとフィくんがミアの口を塞ぎながらも何やら耳打ちしています。どうしたんでしょう?
「ふーん、面白そうだし、良いよ。」
ん? 何の話でしょうか?
「じゃあそろそろ料理を食べてもいいか?」
と、あれいさんが言いました。
「どうぞ、お好きに。」
と、ライアが言いました。
「ではみんなで
と、言い目を食事に合わせました。
「
と、ライアが。
「ふぉうふぉうふぉーんぐ。」
と、フィくんが。
「もごごぐー。」
と、未だに抑えられてるミアが。
「え、何だそれ? ザンファールナングって何だ?」
と、あれいさんが。あ、そうですね。あれいさんは知らないですよね。
「ザンファールナングとは食事への感謝です。」
「へぇー、いただきますみたいなものかー。」
「じゃあ俺は、やっぱりいただきます!」
と、あれいさんは手を合わせて言いました。
「へぇー、変わってますね。」
「ふぉうふぉ!」
「いや、俺からしたら食事をガン見も怖えよ? あとフィくんはなんて言ったの? 今」
「そうですか? あとフィくんは興奮してるだけなのでお気になさらず。」
「マジか⋯。」
そんな会話をしつつも僕はポエットルを食べています。やはりポエットルは至福。
「美味し―――」
と、思わず言いかけて思い出しました! そうです、こいつが作ったんです!
「へぇー。」
と、こいつが面白そうに言います。
「い、いやなんでもないです。」
「もごごー!!」
なんか未だに抑えられてるミアが暴れています。どうしたんでしょう?
「ふっ。」
それを見てライアが笑っています。何故でしょうか?
そうして暴れてるミアの口にフィくんが料理を突っ込みました。
「ふぉいふぉう。」
なんか大人しくなりましたね。そして無言でミアは食べ続けてます。余程美味しかっ、たのでしょうね⋯。
何故かライアは楽しそうです。まぁ、良かったですね⋯⋯。
それにしても悔しいくらいに美味しいです。こんな料理スキルいつ身に着けたのでしょうか? 不思議です。
そう思いながらもポエットルを噛み締める。うん、野宿も悪くないのかもしれませんね。
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