第十二話 説得
「⋯。」
向かっている途中、フィくんは俯いていました。実験について考え込んでいるんでしょうか? そう思っていると
「⋯なぁ、リイラ。改めて言わせてくれ。こんな俺の為に助けに来たりクソみたいな俺の父ちゃんに反撃して目を覚まさせてくれて、複雑だけど感謝してるんだ⋯、俺は。
あの時さ凄く混乱して、とにかく父ちゃんが許せなくてな。隣の家の人ともあんなに仲良くしてたのに、火を放ったり⋯。ライアの所の重要データを盗んだりな⋯。
礼を言う。本当にありがとな。」
と、唇を噛み締めながら言われました⋯。ほんとは気持ちの整理など付いていなかったのでしょう。
でも、あの場から去りたかった。そうなんですか? フィくん。
「フィくん⋯。泣いてるじゃないですか。そんな顔してまで言わなくて良いんですよ⋯。」
「いやでも、俺は⋯。」
「良いんです。泣いても。」
「いや⋯⋯。」
「やはりフィくんは意地っ張りですね。僕がいないと駄目なんですから⋯。」
「別にリイラが居なくても俺は⋯。」
と、相変わらず顔中に涙を垂らしながら言うものだから、説得力がない。
「フィくん⋯。はぁ、そうですか。僕が居なくても良いんですね。そうですよね⋯、僕傷付きました。あーあ。」
「なっ! そういう意味じゃ⋯。」
「なら何だと言うんですか! ⋯その、もっと僕を頼って下さい!」
は、恥ずかしいけどフィくんの為に⋯!
「なっ。」
と、フィくんの目が見開かれる。
「⋯⋯その、良いのか。泣いても。」
「勿論ですよ! さぁドンと僕の胸を借りて下さい!」
「え⋯、いやそれはいい。」
「え⋯⋯? なんでですか!?」
「ねぇねぇ、お話は終わった?」
と、ライアくんが言います。
「あ、はい。」 「お、おう。」
「それよりまだ着かないの? ボクもうクタクタ。」
「あ、いえもうすぐですよ!」
「ほら、見えてきました! あれが僕の家ですよ、ライアくん。」
「え、ボロ⋯。」
「え」
ボロ? え、ボロって言いましたか? この子!
「ボロいとはなんですか! こいつー!」
「お、落ち着けよ。リイラ」
「でも、こいつ今僕の家をボロって! ボロって!」
「まぁまぁ。落ち着けって。な?」
まぁ、フィくんに免じて⋯、なーんて言うと思いましたか!
「後で覚悟して下さい。」
「え」
こいつが目をまんまるにしてますがそんな事、こちとら知りません!
「そ、それよりもリイラの家でお泊り会なんだろ?」
「あ、そういえばそうでしたね。」
「じゃあ、早く行こうぜ!」
「まぁ、そうですね。」
そう言い、僕らは僕の家のドアに向かって一直線に走った。
「とうちゃーく! へへっ。俺が一番乗りー!」
良かったです。フィくんもすっかり元気になりました。心配だったんですから、もう。
「えと、さっきはボロなんて言ってごめん。」
「ごめんですか。そりゃライアくんからしたら僕の家はボロいでしょうね!
⋯良いですよ。僕に
「お前も素直じゃねぇな。というかこいつ扉ぶっ壊してたけどお前、勝てんのか?」
「あ。⋯じゃ、じゃあやっぱり許しましょうかなー? 急にそういう気分になってきました。」
「本当! ありがとう。」
「あら、リイラ急に魔法陣で目の前から消えたから驚いたのよ?」
「あっ。そういえば母の声が聞こえたような⋯。」
「もう、フィくんを心配してだとは分かるけど勝手に何処か行って。リイちゃんまで居なくなるんじゃないかと心配したのよ。」
「母! フィくんは無事ですよ! なんたって此処にいますから!」
と、言って僕の後ろに隠れてたフィくんを見せる。
「あ、フィくん! あぁ、本当に良かった、無事だったのね。心配してたのよ。」
「すまん、リイラの母ちゃん。心配かけちまって。」
「ん? あら? その子もお友達? ミアちゃんはどうしたの?」
「この子はライアくんです。
その⋯、今日だけこの二人とお泊り会をするんです! ミアには申し訳ないですがお泊り会なのでいません。」
「あら、そうなのねぇ。こんにちは、ライアくん。みんな今日だけと言わず、ずっと此処に居てもいいのよ?」
「こんにちは⋯。」
「ずっと⋯。いえその⋯⋯。僕は⋯。」
と、言い淀んでいる僕を見て、フィくんは。
「あの、リイラの母ちゃん! 大事なお話があるんだ!」
フィくん⋯。
「あら、急に改まってどうしたの?」
フィくんが言ってくれる場を作ってくれたんです。此処は僕がきちんと言うべきでしょう!
「あの、聞いて下さい。」
「どうしたの? リイちゃんまで。」
「僕達、旅に出ようと思うんです。」
「旅⋯? え? 聞き間違いね、きっと。」
「いいえ、違います! もう一度言います。僕ら、旅に出たいんです。」
「⋯本気で言っているの? 今日だって火事が起きた。きっと外はもっと危険よ。」
「それでも! 僕は行きたいんです⋯! 危険だって自分で何とかします!」
「でも⋯」
「リイラの母ちゃん! 俺からも頼みます! 俺らで
「ボクからもお願い。初対面だけど彼は良い人。」
「⋯⋯はぁ、そこまで言われちゃ止める訳にもね。でも、危なくなったらすぐに逃げること。
どうしても対処出来ない時はこれを使いなさい。」
「母⋯。これは⋯。」
「そうね、これに何の価値があるのかは私には分からない。でも、この魔石はリイちゃんが持っていて。
それにリイちゃんの魔石、もう古いでしょ? それで魔法を使おうものなら、割れちゃうわね。」
あ、確かにもう僕の魔石は古いですが⋯。
「でも、本当に良いんですか?」
「えぇ、良いのよ。ただの魔石かもしれないし。」
「母! ありがとうございます!」
「じゃあご飯にしましょうか。それと準備も忘れずにね。」
「はい、母!」
「それじゃあ僕の部屋に案内しますね。」
「おう! まぁ、俺は知ってるけどな。」
確かにフィくんは何度も来てますからね。
「じゃあ着いてきてください。ライアくん」
「え、俺は?」
「フィくんは知ってるので迷いませんよね?」
「お、おう。」
それにしても僕の部屋に三人も入るだろうか⋯。まぁ、大丈夫でしょう! 多分⋯。
そして部屋に着くと
「此処です! じゃあ中に入りましょうか!」
「俺、一番乗りー!」
「なっ! もうフィくんたら。」
「ははっ! もう変な奴ら。」
と、ライアくんが笑っ――――
「ら、ライアくんが、笑いましたー!?」
「そりゃボクだって笑う。」
と、ジト目で見られました。
「それより何処で俺らは寝れば良いんだ?」
「うーん、ちょっと母に聞いてきますね!」
そう言って部屋を走って出ると、まだ身体中が何故か痛いです⋯! ちょっとそこら辺の部屋で確認しましょう⋯。
そう思い、ドアを開けて鍵を掛け、誰も入らないようにしました。
うーんと思いながら、服をガバっと捲るとそこには無数の痣―――え? 痣⋯?
な、何ででしょう? もしかしてフィくんを助けた時に着いたとか? いやでもそんな事はありませんでしたし。
⋯⋯。あー、考えても考えても分かりません。そりゃこんな痣が沢山あれば―――いやいや、何で? なんで痣が?
記憶にないんですが。なんで、なんで? 意味が分かりません、怖い怖い、怖すぎます。い、いつからですか⋯?
そうしばらく考えていました。すると母の声が
「リイちゃんー! フィくんー! ライアくんー! ご飯出来たわよ!」
なーんだ、母ですか。と、ホッとしました。
その安堵も、つかの間。
「あれ? なぁリイラの母ちゃん!」
と言いながらドアの開く音がしました。
「どうしたの? フィくん」
「リイラ、そっちに聞きに行くってさっき出て行ったんだけどよぉ。」
「あら、可笑しいわね。私の所には来ていないわ。」
という会話が聞こえます! い、急いで服を着ませんと。それに心配かけたくないんです。ただでさえ、ああなったフィくんには。
うぅ。思いのほか音が⋯。
「なぁ、何か聞こえないか? リイラの母ちゃん」
「そう言われてみれば確かに⋯。」
「あ、こっちの方から聞こえるぜ!」
ま、不味いです。特にフィくんにはバレないようにしませんと!
足音がどんどんこっちに近付いています。服はもうすぐです。急がないと不自然にかかった鍵といい、怪しまれます。
「なぁ、リイラなのか?」
と、どんどん近くに来る音がします⋯。
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