第十一話 亀裂

「あの⋯さ、無理してない?」


と、ミアがこんな状況で言った。


「今はそんな事どうでもいい!」


「良くな―――」


「もう良い! 俺一人で探す。」


「あ! ちょっと!」


俺一人で探してやる⋯。リイラ待ってろよ! 何処かでまた痛む気がした。




一方その頃⋯⋯ミアは。



「ねぇ、何でああ言ったの?」


「それは⋯、不安だったから。」


「不安⋯?」


「魔法ってさ、万能じゃないんだよね。心が不安定になれば思ってもいないことが勝手に魔法で実現されてしまうことがあるんだ⋯。」


「それが不安なの⋯?」


「うん、余りに心の不安が蓄積したら、そりゃイメージだって狂うでしょ? だからね、私は不安なんだ。ライアの時だってあの子はきっと無理してた。


このままだと誰かを殺してしまうかもしれない。」


「え⋯?」


「だから、私は魔法が嫌い。今も私はZ47の魔法魔法行使の簡略化を無意識に既に発動させてしまっている。ずーっとね。魔力が抑えられないんだ。


もし構築式を無意識にイメージして相手を意図せず殺してしまったら? こんな事なら、覚えなければ良かった。魔法なんて。」


「そうなんだ。なんか分かるかも。ボクもずーっと土の声が聞こえる。寝る時でさえもね。だから、狙われたのかもと思っている。ねぇ、リイラは魔法は得意?」


「リイラかー。魔法を勉強する意味が分からないってあの子は言ってたな。でもね、あの子は必死になれば出来てしまう子。もし人を殺してしまうことがあるとしたら、それは⋯。」


「それは⋯?」


「ううん。リイラとフィムスにそうさせない為にも引き続き頑張って探してみようか。」


「そうだね。せめてボクらに出来ることを。」


そう思い、私たちは必死にリイラの痕跡を解析することにした。



一方その頃⋯⋯リイラは。



「あーあ、良いご身分だな! おい!」


と、言われまた殴られました。この状況を変える為にもまずは冷静に、そう冷静にならなくては。


それから僕はまた目を覚ましては殴られ蹴られを繰り返しています。今ので何回目でしょうか。いい加減この人が誰か突き止めなくては埒があきません。


「んん―――!」


やはり何度喋ろうとしても同じですか。冷静に、冷静にこの状況を変えるんです!


「何だよ、こいつ。絶望しねぇのかよ。うわ、引くわー。」


お前に引かれようがどうでもいいです。所詮は赤の他人ですから。⋯でも、少し傷付きました。


「んん―――!」


可笑しいですね。何故でしょう⋯、誰も助けに来ません。もしかして気付いていないとかでしょうか。


「あはははっ。少しは絶望すれよなぁ? まぁ潰しがいがあるから良いけどよぉ。今のお前に正直いって興味なんて湧きもしねぇがな。」


今のお前⋯? それってどういうことですか? と、思い口を開こうとしてもやはり開かず。


「んん―――!」


「ははっ。そうか、聞きたいか。まぁ言葉通りじゃないけどな。自分で理解しろよ。能無しが。」


は? ちょっと酷くないですか? というか言葉通りじゃないって一体。


「んん――――!」


「そう講義されてもな。俺はお前を一度痛めつければ十分だ。だからよぉ、大人しく絶望しろ。」


何ですか、この人。矛盾だらけです。


「おらっ! あははは!」


まるで狂ってます。


「じゃあな。時間切れだ。」


どういうことですか! と思いつつもまた意識が朦朧としてきた。





「り、リイラ!?」


「あれ、急に現れた。」


「此処は⋯?」


何か森っぽいような。


「何処に行ってたの! 心配したんだよ。」


「僕、何処かに行ってましたか?」


「え、だってリイラが急に―――あれ? そう言われればそうなような。」


「うん。ボクらの勘違いだったみたい。」


「あれ? そういえばフィムスは?」


「確かに居ない。何処に行ったんだろ。」


「え、またフィくんが居なくなったんですか! 今すぐ探しに行きましょう!」


「そうだね! 行こう!」


「ボクも行く。」


そうして僕らはフィくんを探しに行きました。取り敢えず木の所に戻って探そうとすると


「おーーい!」


「あ、フィくん! 何処に行ってたんですか! 探しましたよ!」


「え、そうだったか? まぁ、そうなのかもな。」


「ねぇ、みんなで旅をするって話らしいけど、それは何処にいったの?」


と、ライアくんが言った。


「あ、そういえばそうでしたね。」


「うん、じゃあもう暗いし、明日から旅に出よう!」


「え! 明日ですか!」


「うん、そうだけど。何か悪い?」


「準備とかがあってな!」


「ボクはそれで良い。もう支度は出来てる。」


「え、早いですね。」


「まぁ、準備して船から降りたから。そりゃそう。」


「「「た、確かに。」」」


「じゃあ早く準備して行こうか! また明日!」


「待って。ボク今日は何処に行けば?」


「あ、そうだよな。そういえば、俺も家がねぇや。」


「え、そういえばそうでしたね。ミアは家という概念がないですし⋯。仕方ないですね。僕の家でお泊り会をしましょう! 後は母を説得もしませんと!」


「おう! 俺らも説得手伝うぜ!」


「うん、手伝う。」


「え、みんなでお泊り会!? 良いなー、ズルい。」


「ミア⋯。ミアは女の子なんですから。」


「嫌だー! もうこうなったら男装してやるー!」


「ちょっとミア! やめてください! ミアの男装は女性が群がります。」


「え、群がる?」


と、ライアくんが言いました。


「ちょっと教育に悪いですよ! ミア!」


「えぇー、そんなぁ。」


「じゃあ僕らはこれで失礼しますので。」


「あぁー、ちょっとー!」


と何か聞こえるが、ミアは放っておいた。


「どんな所なの?」


と、ライアくんが言う。


「うーん、普通の家だな! リイラん家は。」


悪気は無いんでしょう。無いんでしょうけども⋯。


「フィくん⋯。その言い方は何かが傷付きます。」


「そ、そうか! 悪ぃな。」


「いえ、大丈夫です。」


「それでフィムスはどうするの?」


「何がだ?」


「準備。服とか色々。」


「え! そうなのか! 俺ん家が火事に。あ、因みに火事はお前らがやったのか?」


「いいや。」


「そうか。」


「多分、証拠隠滅の為に燃やしたんじゃないかな。ただ何故か火事があった事しか知らないから、今のは憶測だけど。」


「そうか⋯。少しだけ家に寄ってもいいか?」


「はい、構いませんよ。」


「うん、分かった。」


「みんなありがとな!」


「それじゃあフィくんの家に寄った後に僕の家でお泊り会をしましょうか!」


「⋯⋯。」


フィくん。やはり辛いんでしょうか。僕がちゃんと見ておかないとですね!


「うん。さんせーい。」


と、ライアくんが言いました。


それから僕らは歩きました。僕はというと何だか身体中が痛いです。正直歩くのも疲れます。何ででしょう。


「そういえば、ライアくんのいた場所は空飛ぶ船なんですか?」


「うーん、どちらかというと船だけかな。」


「え、なんでですか?」


「僕らは姿を空に溶け込ませている。そういった意味では海の景色に溶け込む船と同じだと考えてる。」


「なるほど。素敵ですね!」


「そうかな。えへへ。」


と、ライアくんが嬉しそうです。こっちまで嬉しくなって来そうな笑みですね。


「そういえばライアを拐った奴ってどんな奴なんだ?」


拐っ!


「え! ライアくん拐われてましたっけ?」


「あ、そういえばその時お前はトイレに行ってたよな。」


そういえばそうでしたね。


「あぁ、だから知らないんですね。」


「えーと、それが顔を隠してて。ごめん。」


「ライアが謝ることはないぜ!」


「そうですよ!」


「みんな本当に優しい。ありがとう。信じてくれて。」


「お礼なんて良いんですよ。」


「そうだぜ? 遠慮しなくて良いからな。」


「あ、そろそろ見えてきますね。」


「本当か? 俺、急に連れてかれて家がどんな状況かも知らないんだ。」


「あ、あれです!」


と、僕が言うとフィくんは絶句していました。


「⋯⋯。」


「⋯フィくん。」


「俺、全然親のこと何にも知らなかったんだな。⋯⋯周りの家まで燃やすなんてよぉ。


お、俺、ご近所さんに謝りてぇ。」


と、フィくんが言いました。てっきり僕は⋯。い、いえ愚問でしたね。フィくんは優しいですから。


「あ、ゲホゲホッ。フィ⋯ゲホッ。 じゃないか?」


「ッ―――!」


フィくんの目が大きく開かれました。勿論、僕もです。まさか居たなんて。


「くそっ! 何処か安堵している俺がいるだなんて⋯! こいつはやっちゃいけないこと。ましてや火事まで起こしたんだぞ! っ⋯⋯。」


フィくんはとても辛そうです。


「火事⋯か。そうか、ゲホッ。バレたのか。ははっ! ゲホッ。」


「あれ? 何でおじさん仮死状態じゃないの?」


「そりゃな。ゴホッ。こいつで毎晩こっそりと実験してたからな。ようやく最高のものが手に入ったよ!ゲホゲホッ。」


僕とフィくんの目が大きく開かれます。今、目の前のやつは何と言いました? 実験? ははっ、何の冗談ですか。そんなはず⋯。


「⋯⋯っ。じゃあ俺の身体能力が足の速さに長けてたり、手にある変な傷も全部お前が! 付けたものか!」


「あぁ、そうさ。ゲホゲホッ。足の速さは予想外の方向に伸びたが、ゴホッ。毎晩こっそり薬を打っているのも私だ。ゴホッ。」


「て、てめぇ!」


そう言い、フィくんが元父親に掴みかかりました。


「フィ! ゴホッ。お前、恩を仇で返す気か!ゴホッゴホッ。正気に戻れ!」


「正気に戻るのはてめぇの方だよ!」


それを僕らは手出しするべきじゃないと思い、黙って見ていた。


「このクソ息子! ゴホッ。」


いや、やっぱりムカつきますね。


「ねぇ、ライアくん、エイラー水精の実って持ってますか?」


「え、うん。まだ持っている。」


「じゃあちょっと貸して下さいね。」


と言い、僕はこいつの口にぶん投げました。


エイラー水精の実は様々な味があります。つまり一気に食べるとどうなるでしょうか。答えは簡単です。


「がっ!」


「え、リイラ!?」


「⋯⋯おえぇええ。」


こいつは目を見開いてやがて顔を顰めると吐きやがりました。


「こんなクソは放っといて、早く家に必要そうなものがあれば取りに行きましょう?」


「い、いややっぱり良い。今ので目が覚めた。⋯ありがとな、リイラ。」


「そうですか?」


「あ、あぁ。早くリイラん家でお泊り会しようぜ!」


「分かりました! 行きましょう!」


と言い、向かうことにして歩き始めるとあのクソが気になることを呟く。


「まぁ良い。後で後悔すれば良いさ、リイラくん。おぇええ。私がした実験は⋯。おえぇええ。」


と、吐きながら言った。ふん! あんな奴は知りません!

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