第九話 著しくの休息と新しい仲間
「それじゃあよろしく。」
と、何処か遠くを見ながらこいつが言いました。え? と思いその方向を向くと階段を使わないと行けない場所が見えました。
高さからして3階でしょうか? そのくらいの位置にある足場に人が立っていました。何か口を動か―――え? まさか! そう思っていると
「いや、母ちゃんを殺したやつと一緒に旅なんて出来るか! リイラだってさっきのこいつの狂気を見ただろう?!」
と、僕に詰め寄ろうとして足枷のせいで詰め寄れず目で訴えてくるフィくん。狂気⋯⋯。確かに⋯と言いたかったですが、他に謎が多すぎてそっちの方が気になるというか⋯。
「ん、あの術の移し方は知ってるけど解除の仕方は知らない。」
と、未だに違う方を向きながら淡々と話しました。な、何故そんなに違う方を向くんですか? と思わず気になりその方向を向くと今度は別の人が。って! あれはザンギ? そう思っていると
「え⋯? 解除の仕方があるのか!」
「ボクは教わってないけど、あると聞いてる。」
「そ、そうなのか⋯。い、いや、解除しようがお前が母ちゃんにしたことは変わんねぇ! 今此処で勝負だ!」
「ボクはそれでも良いけど、君のお母さんはまだ生きてる。まぁ、状態的にそう呼んで良いのかは分からないけど。
あと、本当に元に戻したいの? 君が此処に来た原因の一因なのに。」
「ど、どういうことだ⋯?」
え、それってどういう―――? と、フィくん同様に思っていると
「ボクらは決して君のお父さんの研究結果に興味はない。むしろその逆。」
「は⋯? な、何言ってるんだ!」
「けしかけてきたのは君のお父さんの方。夫婦揃って仲がさぞ良いんだね。二人して別々の所から同じデータを盗むなんて。」
え、別々の所から⋯? 逆にどうしてそんな被る? と僕が疑問に思っていると
「な⋯。そ、そんな⋯、はず⋯!」
「どうやらその反応を見る限り、君は関係ないようだ。ごめんね、巻き込んでしまって。」
そう言われてフィくんは黙り込みました。あ、だからさっき⋯⋯と僕は納得がいきました。
「そ、その話が本当なら俺は!」
と、ガバっと奴を見てから何とも言えない顔で言うフィくん。
「⋯⋯すまん、ちょっと考えさせてくれ。」
と、今度は俯きながら何もない所を向き言うフィくん。それに対してこの奴は
「分かった。懸命な判断を待っている。⋯それでミアって人にはまだ会っていないんだけど。ねぇ、その人も侵入者なんでしょ?」
と、ちょっとワクワクしたようにソワソワして言いながらこっちをようやく見る奴。あっ! そうでした。ミアには何も話していません。というか一度も見かけませんでした。
「そうでした、ミアは何処でしょう?」
「ん? あ、リイラたちだ。そっか、やり遂げたんだね。」
そう言ってぐねぐねの通路から駆けて来るのは、ミアと―――え? ザンギ? あれ、さっきあそこにいた筈じゃあ? そう僕が思っていると
「⋯まさか、君がヴェルバー夫妻の事件を解決し、御子息のご興味も引くとは。フッ、ただの犬ではないのかもしれないな。ミア、君の言った通りだな。」
と、急に態度を変えるザンギ。いやいやそう言われても犬扱いされたことは忘れませんし、ミアはこいつに何を言ったんですか。というか何かいつの間に仲良さげですよね? 一体何があったんですか? そう不思議に思っていると
「ふふん! リイラはやれば出来る子だって何度も言ったでしょ?」
と、何故か自慢げです。え、いや本当に何故ですか?
「まぁ、君は何もしていないがな。」
と、腕を組みながらミアをチラリと見て言うザンギ。⋯⋯何か大人の余裕って感じがします! よく分かんないけど悔しい⋯。
「うっ! それは⋯ま、まぁ。ん゛ん。それはともかく、こうして解決出来た! それに新しい仲間も増えた。パーティーでもしようじゃない!」
と、ミアが咳払いをしてからそう言いました。え、今この状態でパーティー? 何考えてるんでしょう、ミア。ここは疲れたので帰る一択でしょうに。そう思っていると
「私は遠慮しておく。」
「ボクは外を見たい。」
「⋯俺は少し考えたい。」
「僕は疲れたので、もう帰りたいです。」
と、便上のようになったがちゃんと伝えると
「そう? この船をもうちょい見て回らない?」
「いえ、帰りたいです。」
と、ミアに向かって僕がビシっと言うとかなり驚いた表情をしてからやがて少し俯き
「わ、分かったよ。そこまで言うだなんて。じゃあ今す――――」
「ちょっと此方に来てくれないか? ミア」
「え、うん。分かったよ。」
そう言われて、ミアはあいつと通路の向こうに行きました。え、一体何を⋯⋯?
―――ミア視点―――
「君の耳に入れて置きたいことがあるんだ。」
「へぇー、どんな?」
「最近、私たちが研究している事が纏められたデータにヴェルバー夫妻以外の何者かが不正にデータを盗む事件が起きてな。
ヴェルバー夫妻は特定出来たんだが、この件の人物の情報は全く掴めなくてな。だが、位置情報は大方割り出す事に成功した。
それがなんと、君たちのいる村も含まれている。だが、もう一つ反応もあり、どっちが本物か分からないんだ。この分かった範囲も結構広めでな。
盗まれたデータが悪用されるとかなりどころじゃない大変なことが起きてしまう。
ミア、正直いって君でも危ないと私は推測している。だが、ボスは君に頼みたいようだ。でも私は、この件は迂闊に調べない方が良いと思っている。
だが、君の判断に任せよう。さぁ、どうしたい。」
「んー、そうだな。私自身に危険が起きれば未来が勝手に見えるし大丈夫でしょ。」
まぁ、対象は自身のみなんだけどね。
「いや、私が心配しているのはそういう訳では。」
「まぁ、大丈夫でしょ。あ、そうだ。A7−08の魔法(電話魔法)の登録をさせて。」
「あぁ、分かったが⋯。」
そう言ってアディールは、登録してくれたみたい。やっぱり良い奴だ。まぁ、初対面の印象は最悪だけどね。そんなことを思いつつも少し考える。
この件はアディールの言った通り、慎重になった方が良いと私も考えている。あ、あと⋯。アディールの方を向き直し言葉を発する。
「ねぇアディール、私たち旅をする予定なんだけどそこら辺はどうしたら良い? あと、引き受けるとは言ってない。」
「そうか。だが別に旅をしながらでも構わない。そこまで急いでいないからな。」
「え、どうして?」
「あの盗まれたデータは少々特殊でな。複雑な構築式を解かなければ開かない寸法だ。開けられても使いこなすのには相当の時間がかかるだろう。
私たちの方でも調査をしておくから、よろしく頼む。」
そこまで言うなら引き受けて大丈夫だろう。
「うーん、それなら良いよ。」
「本当か!? はぁ、やっと返事が聞けた。これで暫くの不安はなくなったな。」
「え、大丈夫? 過労?」
「あぁ、いや大丈夫だ。それより、仲間が待っているぞ。」
「あ、そうだね。もう行かないと。」
「あ、待て。ボスからの伝言だ。
「息子はかなり我儘に育ってしまった。そして何にも興味を示さなかった。頼む。親としては失格だが息子の面倒を見てやってはくれないか。」とな。私からも頼む。この組織では御子息をまともに育てられないだろう。よろしく頼む!」
と言い、此方をじっと見て来る。
「んー、そう。そもそもそちらが間違ってフィを連れてかなければこうはならなかったし、そちらの落ち度じゃない?
手を貸す理由がない。さっきのは私たちにも危険が及ぶから聞いたけど、これは全く関係のない話だよね?」
「うっ。その⋯⋯。」
ん、そこまで落ち込むだなんて。それにそんな顔をされたら。⋯仕方ない。
「良いよ、引き受けても。だからその表情辞めて、罪悪感が沸く。あ、ただ、人格矯正とかは御免だね。」
「あ、あぁ。引き受けてくれるんだな。本当に頭が上がらない。それと、私たちも御子息の人格矯正が出来るとは思っていない。」
「そ、そうなんだ。」
と、苦笑しつつもリイラのことを思い出す。
「それじゃあ、お別れだね。バイバイ。」
「あぁ、事件が解決すれば会うことになるだろうがな。」
と言い、何だかんだで見送ってくれるようだ。
――――主人公(リイラ)視点――――
「じゃあ、村の木に帰ろっか。」
「あ、そうでした! 昨日待ち合わせしてましたよね!」
「うん。じゃあみんな手を。」
と言われ、それぞれ手を置きました。
「よし、じゃあ行くよ。」
そう言われ思わず目を瞑ります。そういえばミアとザンギは何を話していたんでしょうと思いつつ、目を開けると―――。
そこはいつもの村の木でした。はぁ、何ていうかこの景色を見たら気が抜けました。そう思い
「あー、なんかもうどばーっと疲れました!」
と言って伸びていると
「痛い。」
と、誰かが言いました。その方角を見ると、エイラー水精の実が。
「⋯何これ。見たことがない。」
と唖然としているライなんとか。その様子に僕は思わず口を開きました。
「え、知らないんですか? これはエイラ水精の実です。」
「随分とゴツゴツしているのに透明で綺麗。」
「あぁ、紺色っぽくて透き通っていて星みたいな形で綺麗だよね。それ、貸してみて。」
「え、うん。」
と唖然としつつも言ってきたミアに手渡しました。
「⋯⋯。」
⋯フィくんはあれからずーっと黙っています。僕としては、フィくんに何もなくて安堵しているんですが、どうしたんでしょうか?
「それっ!」
と言い、ミアがねじってエイラー水精の実を半分に割りました。あぁこの実、割れやすいですからね。それに村曰くここにしかないらしいですし。そう思っているとライなんとかは唖然としていました。
「はい、どうぞ。中にある実が苦かったり甘かったり辛かったりして面白いんだよね。」
「え、うん。」
と言い、ライなんとかはしばらくじーっとエイラー水精の実を見つめた後にパクっと食べました。
「っ!」
あ、この反応は辛かったんでしょう。大きく目を見開いています。うぅ分かります。初めて食べた時に僕もそんな感じの反応をしました。まぁ、僕が初めて食べたやつは苦すぎて一種の不味さを感じるという随分と変わった味だったんですけど。
「あ、水⋯! んー、あ、泉の。いやでもあれ今は飲水じゃないし。」
と、焦ってあちこちを行ったり来たりするミア。しばらく経つと落ち着いたのか辺りを見渡し無邪気な笑みを浮かべました。
「ねぇ、あれは!」
それにミアが答えていきます。こいつにもこんな一面があったんですね。そう思い、ふとフィくんを見ると、目を大きく開けていました。
しばらくしてフィくんは何ともいえない表情をしていました。
あ、そうですね⋯。お父さんに憧れていたフィくんにとって先程の事実はとても辛いものでしょう。
ん、あれ? フィくんのお母さんは⋯?何のためにやって⋯? と、思いましたが、僕の頭では全く分かりませんでした。
それにしてもあんなに性格の良いお二人がこんなことをするとは⋯。未だに信じられません。
「⋯もう少し色々考える時間をくれ。」
そう言ってフィくんは何処かへ走り去ってしまいました。
「あ、待ってください! フィくん」
そう言ってもその言葉が届くことはありませんでした。だってあっという間にフィくんの姿が見えなくなったのですから。
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