第八話 馬鹿な提案
「ねぇ、質問に応えて。」
「あ、あなたこそ迷子なんじゃないですか?」
と、聞きました。こんな所とはいえ、心配ですね。そう思い、近くに寄ると
「近寄らないで⋯。」
「な、な。何で。」
「それよりも質問に応えて。」
と、直ぐに僕に言って来る子供。え、えーとどんな質問でしたっけ? そう思っていると
「そ、その声はライア様。」
へぇー、それがこの子の名前ですか。⋯⋯ん? あれ、何で名前を知って―――
「会話の邪魔をしないで。」
と、ドアの向こうをキッと睨め付けながら言うライアという子。―――ひっ。いやいや子供相手になーにビビっているんですか、僕。目の前にいる相手は唯の子供ですし大丈夫でしょう。
「わ、分かりました!」
と、大声で突然言う扉の向こうの人。それを聴き直ぐに目の前の存在はさっと瞼を閉じて此方を振り返―――
「ねぇ、何で答えないの? あの人はボクの言葉を聞いたのに、何で君は聞かないの?」
「え、と。」
と、その顔面の威圧感に思わずタジタジになってしまいました。⋯⋯うーん、今の会話を聞く限りは知り合いのようですし。えっ⋯! ど、どうしましょう! ミアは此処には居ませんし、僕一人でどうにかするしかないんでしょうか!
よし! 此処は僕が何とかして―――や、やっぱり怖いです! だけどこれも親友を助けるためです。
あ、そうです! この子から情報を聞き出しましょう!
「ねぇ、ぼくは何処から来たんですか?」
「⋯質問してるのはこっち。質問を質問で返して来るとか、君、馬鹿?」
な、な! く、悔しいですが何も言い返せません。あれ、そういえばさっき様付けされてたような⋯。い、いや気の所為でしょう。こんな子供が大人を従えてるなんて、あり得ない筈ですし⋯⋯。
あっ!こんな子供の質問に答える暇は無いんでした。急いでフィくんを助け出さなければ!
「ねぇ、無視? 話も聞けないどころか聞く耳もないの?」
「あ、忘れてました。質問は後にしてください! 僕はフィくんを早く助けないと⋯!」
「はぁ?」
「フィくん! フィくん聞こえますか!」
「あ、あぁ。何でリイラの声が聞こえるのか分からんが、聞こえるぞー!」
あぁ。良かった。いつものフィくんです。じゃあ、あの薄い線は何だったんでしょうか。あ、きっと気の所為ですね!
「ん? あ! もしかして君が噂の侵入者? へぇーそう。とても侵入出来そうには見えないけど。」
「こ、こいつ! いちいち毒を吐かなきゃ喋れないんですか!」
「あ、やっとこっちをちゃーんと見た。ねぇ君、ボクを連れて行ってよ。」
な、は? というかさっきから見てましたけど⋯。
「ライア様!?」
「うるさい、黙って。」
え⋯。
「返答がないから、もう一度言う。ボクを連れてって。」
「そ、それはどういう意味で、言って⋯。」
「意味? 強いていうなら、ボクは今まで一度も侵入者なんて見たことがなかった。侵入者⋯。それだけで君に更に興味が湧いた。これで十分?」
と、にっこりと笑い僕に向かって言ってきます。え⋯⋯? 侵入者を見たことがない? 一体どうしてでしょうか? そう疑問に思っていても僕からは何も言えな―――え、その表情は一体?
「え、と。」
取り敢えずあの表情といい、何かあるんでしょうか? ⋯⋯フィくんやミアに聞かないことにはなんとも言えませんね。
「そい―――」
「誰が喋ることを許可した。」
ん? 何か聞こえたような
「ライア様、一度だけ発言をお許し頂ければ幸いです。」
「⋯もう喋っているのに許可? 許可は与えない、却下。」
「は、はっ! 分かりました!」
え、えぇ⋯⋯? なんかとても偉そうです⋯。え、もしかして本当に偉いのですか?
「ねぇ、ボクを連れて行ってくれるの? どうなの?」
と、とりあえず答えましょう。この答えが正しいのかは全く分かりませんが。
「⋯フィくんとミアに聞かない限りは何とも。」
「フィというやつはフィムスだったはずだけど、もしかしてあだ名? じゃあ此処に居る奴だよね。⋯ねぇ、ミアって誰?」
「ミアは、ここまで一緒に来た友人です。」
「⋯もう一人いたんだ、侵入者。ねぇ二人でボクを楽しませて。何をしたら楽しい⋯? んー、あ、そう! ねぇ、フィムスというやつは大切?」
「そりゃそうですよ! フィくんは大切な親友です!」
「リイ―――」
「黙れ。」
ん? また何か聞こえたような。
「そう。なら、んー、彼はもう手遅れ⋯。あ、そう! 母親が居たはず。彼女に消えてもらおう。」
⋯手遅れ? 消えてもらう? 何言ってるんです、こいつ。だってフィくんは生きてるじゃないですか! 手遅れ? はっ、どうせ此方を揺さぶるハッタリでしょう!
「手遅れ⋯? フィくんはこんなに元気なのに何理由の分からないことを言ってるんですか。」
「あれ、気付かない? 君の親友はあと4分を待たない内に死ぬ。」
なっ! そんなデタラメが通じると思わないで下さい! そう僕が思っていると
「私―――」
「黙れ。」
と、また何かの音が聞こえました。え、一体何なんで―――
「いいや、死ぬ。まぁ、誰かが肩代わりしてくれるというなら話は別。あ、でもそんなに大事なら人質にしたほうがいいはず。
じゃあお母さんを殺すのは変わらないとして、君の親友は特別に生かしてあげる。特別にね⋯。ねぇ、優しい選択だとは思わない?」
そう目の前の奴は笑顔で言い僕ににっこりと聞いてきました。な、何を言ってるんです、こいつは。イカれています。
そういえば、やけに自信満々です。何故、何故そんなに自信満々なんですか。
ま、まさか本当にこいつの言う通りだとでも言うのですか? いや、フィくんは元気でした。こいつの―――
「ゴホッ。」
え、今のは咳⋯?
「ゴホッゴホッゴホッ。」
と、扉の向こうから咳が聞こえます。まさか、本当にフィくんが⋯⋯? で、でもさっきまで普通に会話してたじゃないですか。何で急に―――
「あ、君がボクの話を疑っている間に大事な大事な親友くんは苦しみ始めてしまった。」
「え」
「可哀想に。あの時、君がボクを連れて行くとさえ言っていればそもそも苦しむことなーんて何にもなかった。
あぁ、君のせい。そう君のせいで大事な親友くんが苦しんでいる。」
な、ぼ、僕のせい⋯?
「ねぇ、君はどういった選択を取るべき?」
と、真剣な表情で僕に聞いてきました。僕をじーっと見つめています。その言葉と表情に僕はタジタジになり
「ぼ、僕は⋯⋯。」
「やめろッ! ゴホッ、ゴホゴホッ。」
「フィくん!」
と、思わず僕が叫ばずにはいられずにいると
「ねぇ、ボクに聞かせて。時間はどんどん過ぎていく。残り、一分。」
と、僕を覗き込むかのように見ながら言ってきました。無機質な表情なような、どんな感じ方も出来る表情です。ッ! 本当に一分で⋯⋯と僕は焦りに焦った表情をせずにはいられず口を開きました。
「い、一分! そ、そんな」
「⋯そ――か。あー、つまらない。普通はもっと藻掻き苦しむものなのに。あ、飽きた。母親に移そ。」
と、言った次の瞬間。何も見えなかったです。そう本当に何も見えませんでした。でも⋯そんな中で一つだけ分かることがありました。
それは―――。気付いたらドアが壊されていたことだけ。そう唖然としてドアを見ながら思っていると
「これでよし!」
と、聞こえた方を見るとさっきの奴が退けた場所には、顔色は真っ青で苦しみ藻掻き続けるフィくんのお母さんの姿が。フィくんは唖然としています。僕も唖然としずにはいられません。
「ごめんね。」
と、伏し目がちに此方を見て何かを言う奴。え、今なんて―――
「あ゛ぁああ゛ぁあ゛」
と上を向いて叫んだ後に、キッと此方を見て手を伸ばすように倒れました。
全身真っ白で、急激に痩せ細っていて骨のよう。目は虚ろでびくとも動きません。え、まさか本当に死―――
「んー、まぁそ――なる――ね。⋯⋯つまんないよりはマシ。」
こ、こいつ、人を殺しといて!
「お前! 母ちゃんを元に戻せ!!」
そう、叫ぶ方角を見るとフィくんがいました。⋯フィくんがこうなっていたかもしれない、それだけでとても恐ろしいです。
そして何処か安堵してしまう自分がいたことが腹立たしいです。
「うーん、うるさい。叫ぶな。⋯⋯それとも君もこうなりたい?」
と、凄くうるさそうに僕を見ながら言った後に何処か遠くを見ながら言うこいつ。
「い、いや。」
「ふーん。⋯⋯あ! やっと反応が良くなった! ねぇ、遊びの続きをしよう?」
それを聞き、フィくんがこうなってしまうのは嫌だと考えた僕は馬鹿な提案をしました。
「わ、分かりました。先程の提案を呑みます。君をここから連れて行きます。ですが、飽きたら帰ってください。」
「え、――む――? へぇー飽きたら? まぁ、それで構わない。確実に約束する訳じゃないけど。」
「ライア様ぁ?!」
「――んね。―――があ―て。聞いた通り。今のことを父に伝えて。」
と、何かを考え込みながら耳打ちして言うこいつ。え? 一体どういうつもりなんでしょう? そう思っていると
「わ、分かりました。ですが⋯。」
「ボクの言葉が聞けない?」
と、にっこり笑って言うこいつ。え、と⋯⋯? いやでもあんなことをした奴の考えていることなんか端からどうでも良いです! そう改めて思っていると
「い、いえ。伝えておきます!」
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