第七話 僕に出来ること
「⋯そう言われて名を名乗る馬鹿が何処にいる?」
「あっ! た、確かにそうだね。」
と、言うミア。いやいや確かにそうではありますが、え⋯⋯? 返す言葉がそれ? と思っていると
「ふん、まぁ良いだろう。ザンギエルト・アディールだ。覚えとくと良い。」
え、良いんだ。というか名乗るんですか。え⋯⋯さっきと本当に同一人物ですか?
「アディールさんって呼んでも?」
と、言うミア。え、えぇ? 真横にぶっ放した相手と会話しちゃうんですか? そう僕が疑問に思い何とも言えない顔でミアを見ていると
「あぁ、良いが。」
良いのっ?! いや本当にそれで良いんですか?! えーと、ザンギなんとか。
「それじゃあアディールさん、急に人の耳元に撃ってきて何の用かな?」
と、普通に会話を始めるミア。え、え⋯⋯? 会話をしない僕がおかしいんでしょうか? そう思わずにはいられずにいると
「不法侵入者が何を言うのやら。」
不法侵入者⋯⋯? え、僕らって不法侵入したんですか?! え、ちょ聞いてない聞いてない!
「そうだねー。でもさ、何も撃つことはない。そうでしょ?」
そう、ミアが言うとザンギエルトとかいうやつはミアの顔を鷲掴―――
「ちょ、ミアに、何するんです! 辞めろ、その手を離してください!」
と、思わず口に出して言うと
「君は犬か? 吠えているだけとは。はぁ、つまらん奴だ、お前は。⋯少なくとも此方の奴の方が手応えがあ―――」
「あ、あんまりなめないで欲しいな。」
と、ミアが言うと魔法陣が浮かんだかと思えばザンギエルトが急に後退りました⋯。え? 意味が分からない。
⋯⋯スーッ、何で?! どういうこと?! というか今、犬って聞こえたような―――いやいやきっと何かの聞き間違いですね!
「なるほど、見た目に合わず随分と気狂いな奴だな、お前。先程のは
と、突然わけの分からないことを流暢に話すザンギなんとか。え、今なんて言いました? Bがどうのこうのって―――
「それは⋯⋯。」
と、俯きながら言うミア。ど、ど、どうした? ミア。え、急に落ち込むじゃないですか。何で⋯⋯?
「ふむ、まぁ暫くこの船にいても良いぞ。」
「え! 此処、船なんですか?!」
というか良いんですか?! と、2連続で驚いていると
「あぁ、そうだぞ、犬。まぁ、お前もそちらのペットとしてなら此処に居ても良いだろう。」
い、犬ぅ?! え⋯⋯聞き間違いじゃなかった? な、何で僕だけ犬ぅ?! そう思いつつも慌てて口答えします。
「は? 僕は人間です!!」
「分かったよ。案内してもらえるかな?」
む、無視ぃ⋯⋯。何か辛ぁい。と、一瞬挫けかけたけども! もしかしたら聞こえてないだけかもしれませんし。それに⋯
「は、何でこんな奴の言う事聞くんですか。行きましょう、ミア」
と、僕が疑問に思ったことを聞くと、ミアに耳打ちされました。
「考えがある。私に任せてくれないかな?あ、あと⋯、A7-28。」
あ、え、この並びはあの時の。も、もしかして、やれってことでしょうか。突然過ぎますけどね! そう思いつつも取り敢えず答えます。
「わ、分かりました。ミアがそう言うならとりあえずは従います。」
「ふん、話は終わったか?」
ま、待っててくれたんですか⋯。え、実は良い人だったりします? ザンギ。
「うん、バッチリ! それじゃあ案内よろしくねっ! アディールさん」
「分かっている。あぁ、それとペットは別の場所にご案内させてもらおう。」
「ペ、ペット? いや、僕は人間です!!」
ぼ、僕は人間なのに、人間扱いしてくれません!
「あぁそうだったか? だが私の目には吠える犬にしか見えん。よってお前はペットだ。」
「は、はぁ?! 何ですかそれ!」
だから、僕は人間です!
「連れて行け。」
「はっ! 分かりました!」
え、何処に―――などと思う間もなく、気付くと僕は羽交い締めにされていました。
「え! い、嫌です! 離して!!」
そう言い必死に抵抗しますが、な、何故ですか! びくともしません!そんな抵抗も虚しくそのまま運ばれてしまいました。
えいやっ! と運ばれる最中、僕は思っていました。先程、何にも出来ずにいたことを。悔しいが、さっき言ったあの男の言葉通りです。
⋯⋯僕は、一人では何も出来ません。今だってミアに頼りっぱなしです。
確かに、生きてきた時間を考えるとそりゃ当然だろうと思います。でも、それを理由に頑張らないのは、もっと違う気がします。
犬扱いを脱出するためにも、今僕に出来ることをめいいっぱいやらなければ⋯⋯!
そう、僕は心に決めました。
「着きましたよ。此方がペットルームになります。」
そうこう考えている内にどうやら着いたようです。え、ペ、ペットルーム⋯?
「あ、あの僕は人間ですが⋯。」
「そうおっしゃる気持ちもよく分かります。ですがザンギエルト様の決定されたことですので。申し訳ありませんが、此処で暫くお過ごし下さい。それではごゆっくり。」
「⋯⋯。」
意味が分からないですよ。そう思いつつも辺りを見回します。そう、僕にはやるべきことがあるからです。
よし、流石にもう行きましたよね? なら、さっき言われたあれをやりましょう。
「あ、そうそう言い忘れてました。ん? 何のポーズですか、それ。」
「あ、いやー、何だか急に体操がしたくなりまして。」
と、咄嗟に違うポージングを始める僕。き、気の所為ですかね? 隠してる面越しの表情が凄く目を見開きつつこっちを
「アハハー。」
と、思わず僕が引き攣って笑っていると急に前のめりで僕を見て口を開きました。
「な、何の体操ですか? 私にも教えてください。」
「え、えと。え、エナムー体操⋯ですかね?」
え、急にどうしたんでしょう? ていうか勢いで適当に言ってしまいましたよ! 何ですか、エナムー体操って! 僕、体操知りませんよ! あぁきっと一文字も掠っていないんでしょう⋯。咄嗟の嘘にも程があったんです。
というか⋯体制がとんでもなく辛いっ!
「へぇー、エナムー体操ですか。聞いたことがあります。何でも独特な感じだとか。」
え、え。か、掠ってたー! あぁもう本当に良かったー⋯⋯。そう安堵している場合じゃない! 早く何か言わなくては、怪しまれる可能性も!
「そ、そうなんですよ。こ、こんな感じで。」
こんなことしてる場合じゃないのに! 一刻も早くこの人との話題を終わらせなければ―――!
「ね、ねぇ、僕と此処にいて良いんですか?」
「⋯あ! そうでした。仕事が残っているんでした。すみません。あなたの話も気になりますけど、此処はお暇させてもらいますね。」
「え、はい。さようなら!」
よし、何か良く分かんないけど運が良かったみたいです。はぁー、良かった良かった。あ、いやでも運が良かったら今日一日こんなことになっていないというのに!
あ、それよりも先にフィムスくんです! 万が一のためにと、ミアがくれていたこのペンダントでフィくんの位置を大方割り出すんです。ミアが言うまでペンダントのことすらも忘れていました。
ですが、これは魔法を行使する必要があります。あの成功したことが一度もない魔法。果たして今の僕に使えるんでしょうか⋯。
いいや、弱気になっていては駄目です。ミアに任されたんです。僕がやるしかありません。 よし! 気を引き締め、頑張りましょう。
まず、ペンダントに向けて手をかざす。次にミアが新たに生み出していた中の一つA7-28の魔法を使います。
呪文の構築、何をするか、探したい人物。この全てを具体的に思い浮かべつつ、魔法構築を編みます。
途中で別のことを考えると、即失敗します。そして目を瞑り、魔法陣をなぞります。ここまでは順調です。更にもう一度、先程の手順を繰り返します。
今度はペンダントに向けて先程の手順をやります。そして最後にまた先程の手順を今度は魔法陣が被らないようにやります。
そうして、ペンダントに手を再度かざします。この間もずっと呪文の構築、何をするか、探したい人物。これらを全て考え続けなければいけません。さぁ、ここで魔法陣が現れれば完成です。
っ! だ、駄目ですか⋯⋯。そう落胆し、俯きました。はぁ、やっぱり僕なんかじゃ、無理なんでしょう。そう思い、顔をあげると目の前には魔法陣が。
え⋯? 思わず目を瞑りもう一度目を開けます。え、夢じゃない? や、やりました! 遂にやりましたよ、ミア!
常に考えてなきゃいけないという状況でよくやりましたよ僕! 正直集中が切れそうでしたが、何とか出来ました。そう思わず一人で喜びジャンプをする僕。
あ、ジャンプしてる場合じゃなかったです。えーと、成功していればこの現れた線が道案内してくれるはずです! よし、線を辿って進みましょう!
そう、内心はしゃぎつつも歩みは止まらない。そしてスキップしそうでもあります。更に鼻歌も歌っちゃいそうです。だって、やっとフィくんに会えるんですから。
待っていてください! フィくん! そう思ったところで、ふと気付きます。
あ、あれ? 可笑しいですね。フィムスくんの線が凄く薄いです。な、何故ですか? 急いで向かわなくては⋯!
そう思い、僕は急ぎ足でフィくんの元へと走り出した。何事もなく、無事でいて欲しいです。だって僕、フィくんに何も恩返し出来ていません!
僕が泣いていた時いつも助けてくれたのはフィくんです! 生きていなきゃ許しません!! そう思いつつも、僕の足はどんどん速まっていく。
ん? 人影です! 壁の角を使い、やり過ごしましょう! そう思いササッとすばしっこく壁に隠れます。
「でさー、今日ザンギエルト様に褒められたんだよ!」
ザンギ⋯? あぁあのムカつく奴ですか!
「そ、そうなのか! それは羨ましい⋯。」
へぇー、ザンギって意外と部下に慕われてるんですね! 割と良い奴何でしょうか? いやいや、人をペット扱いする奴が良い奴な理由ないでしょう!
あ、通り過ぎていきましたね。早く行きましょう! んー、なかなか入り組んだ道ですね。まるで迷路です。何処に続いているんでしょう。
そうして道を進んでいくと頑丈そうなドアが見えてきました。薄くなっている線は此処を指しています。もしかしてこの中にフィくんが⋯!
そう思い、慎重にドアノブに手をかけようとすると何やら音が聞こえてきました。
「や、やめろ!か、母ちゃんを離せ!」
「私はどうなっても良いですから、せめてこの子だけでも家に帰して下さい!」
「嫌だ、母ちゃん! 母ちゃんも一緒に帰るんだ!」
フィ、フィくん! 良かった、無事だったんですね。
「黙れ。どちらか一人だけ特別に帰すと言っているんだ。これ以上の譲歩は無い。」
と、言う低い女の人の声が聞こえてきました。どちらか一人だけ⋯? それってどういう―――
「そ、そんなの、横暴だ! 母ちゃんは俺と一緒に帰るんだ!み、認めない!」
「何もお前に認めてもらう必要などない。これは決定事項だ。分かったら大人しくしろ。」
と言い、何か激しい音がしました。慌ててドアの中に入ろうとすると、開きません。な、どうしてですか!ガチャガチャとドアノブを回すが、全く開く気配がない。
「ん、幹部の方ですか? ⋯ん、でも幹部の方ならばすぐ入ってくるはず。だ、誰だ!」
ま、不味い、見つかってしまいました⋯! ど、どうしましょう。魔法で抵抗をするとか? いやでもッ僕! 魔法は授業の実践でしかやったことがありません。ど、どうすれば良いんでしょう! ミアは今、いませんし。そう慌てていると
「ねぇ君、何処から来たの? もしかして、迷子⋯?」
ッ! 急に後ろからふわふわした声がしました⋯。
「だ、だれですか!」
と言いながら慌てて振り向くと、幼い子供がいました。
「え? こ、子供?こんなところに⋯?」
何だ、子供ですか⋯。
⋯⋯ん? 迷子?
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