第六話 え、誰⋯?
僕たちは今、フィくんの家に転移しようとしています。
ミアは僕でも知っているあの
噂通りなら当然、転移もあっという間でしょう。そんなことを考えていると、
「よし、行こうか。さぁ、手を。」
普段はだらしないですが、意外とこういう所は格好良いんですよね、ミアって。少し失礼なことを考えつつも、ミアの手に僕の手を重ねてぎゅっと握る。
「はい。お願いします。」
「⋯」
魔法陣が見―――あ、もうつきました。瞬きする間もありません。⋯やはり、未だに燃えていますね。
あ、隣の家やその更に隣の家も、と辺りに述べられない数の家々が燃えています。今、気付きました⋯。余程、周りが見えていなかった証ですね。周りには野次馬も大勢います。
⋯ですが、フィくんのお父さんは見当たりません。何故でしょう? そう考えていますと
「ッ―――。」
ミアが一目散に駆け出しました。
「あ、待ってください、ミア。僕も一緒に行きます。」
急いでミアを追いかけます。何やら野次馬も騒いでいますが、そんなの関係ありません。そうでした、急がないと痕跡が消えてしまいます。
「え。」
ミアが水の泡を纏い、中に入って行きます。
「ま、待ってください! 僕がまだ―――」
「水の泡ならもう付けたよ。」
そう言われて、自身の体をみると僕にも全身に水の泡がありました。き、気付きませんでした。
さすがミアです。魔法だけは素早い。というかこれどういう仕組み何ですか? 息ができています。
これを機に魔法に興味が湧くかもしれません! それに先程ので、僕は正直気まずいです。よし、聞いてみましょう。
「この魔法、どういう仕組みなんですか?」
と、話をしながらフィくんの家を進んでいきます。
「この魔法は
「え、今ですか!? しかも
「うん、でも火事場に飛び込むならやっぱり水が必要だし。
なら、こういう構築はどうかなーって、リイラの話を聞いた時から思っていたんだ。」
「はぁ、思い付きですぐに成功だなんて、学者が聞いたら泣きますよ⋯。それでどういう構築を編み込んだんですか?」
「んーとね、外は火から守るために当然風を一番外にして火が此方にあまり来ないようにしつつ、次に水多めで一定に保ちつつ、熱いから次に氷を一定に保ち、最後に|防壁《
バリア》を全身に囲うでしょー?
内側は
「まぁ、防壁だけじゃ熱いですし、ヤケドしますよね。」
「まぁね。でも、防壁って相手の捕縛に結構便利だよ。」
「へぇー、どうやって捕縛するんですか?」
と言いつつ、部屋に向かう。あれ? 何処に魔法の痕跡があるのか分からないのに、さっきからミアの足取りに迷いがないな。つ、ついて行こう。
「まず、
「え、それ物理じゃ―――」
「次に
ふんふん、なるほどです。
「最後に一番硬くした防壁で相手を閉じ込め、そして
「ってそれ、
「あ、本当だ。それと、着いたよ。」
「⋯え、そうなんですか?」
「うん。ここから
「そ、そうなんですか。」
やっぱりミアは凄いですね。僕には何も感じませんけど、今だってこういう風に分かってしまうんですから。少し、胸が痛んだ気がします⋯。
「じゃあ、少し待って。今集中するから。」
「は、はい。分かりました。」
こ、こんなあっさりと⋯? ミアってほんと何者なんでしょう?
「ふーん、とりあえず奴らが転移した場所に行こうか。さぁ、もう一度手を。」
「はい。お願いします!」
い、いよいよですか。間に合うと良いんですが。ミアの手に僕の手を乗せる。
「⋯」
あ、ここってもしや
噂通りですね! 辺りは
「んー、ここから歩いて移動したみたいだ。でもここが転移先で間違いなさそう。」
「あ、あの水の泡は解かないんですか?」
「ん、このまま行こうか。じゃないと
「わ、確かにそうですね。それで、フィくんたちは何処に行ったんでしょう?」
「⋯ん?たち?」
「え、あ、はい。言ってませんでしたっけ。」
「い、言われてない。」
「それはすみません。気が動転していたもので。フィくんのお母さんも誘拐されたんですよ。」
「そ、そうなの? なら尚更急がないとじゃん!つ、着いてきて!」
僕も急いでミアの後をついて行く。どうやら何か分かるようだ。
「あの、何で居場所が分かるんですか?」
「んーと、さっき痕跡を視た時にその人が持つ魔力の羅列も視えてしまって。それで暗記したんだー。
少し面倒だけど、一人一人必ず違うから便利で助かるよ。」
「ま、魔力の羅列? な、何ですかそれ? 聞いたことがありません!」
「まぁ、これはバートラッド族じゃないと視えないから、仕方ないよ。」
「へ、へぇー。あ、ところでバートラッド族って何ですか?」
「んー。話したら私の首がもげるから無理。」
「え、え! く、首が?!」
「うん。まー、もし里に招待されることがあれば知ることが出来るんだけどね。」
「しょ、招待ですか⋯。」
まぁ、そんな重大そうならきっと行くことは無いのでしょう。
「うん。あ、そろそろ痕跡が結構着いている場所に。」
「え、本当ですか!」
「うん⋯⋯。あ、でもここはもしかしなくても休憩地点だね。」
そう言われて見た場所は確かに食料の袋が残っている。え、
そう思い僕は
でも、奴らが途中で休憩するくらいには僕はもたついていたらしいです⋯。
「まぁ、気を落とさず行こう。」
「は、はい。」
そう言って僕らは再び歩き出しました。辺りは相変わらず何も無いです。
「そういえばさっき言ってた里はどんな雰囲気の場所なんですか?」
つい好奇心に負けて聞いてしまいました。
「雰囲気? まぁ、それなら大丈夫か。雰囲気はね、割と良いよ。みんな優しいし。
特に私は図書館に入り浸っていたなー。あそこ変わった魔法が結構あるんだよ? いつもの場所の本よりもっと沢山の変わった魔法が!」
「へぇー、そうなんですか。」
「え、聞いた割に興味無さげだね?」
「いや、あの。言って良いのか悩みますが、まぁミアなら大丈夫でしょう。僕正直、魔法の勉強の意味ってあるのかなって最近よく思いまして。」
「そうなんだね。⋯私は、勉強に拘る必要は無いと思っているよ。それに意味なんて人それぞれだしさ。
だから、そう悩まなくても良いんじゃないかな?」
「え、でも今日みたいなことがまた起こったり、僕一人の力では何も出来なかったです⋯⋯。それにミアに八つ当たりまでしてしまいますし。」
「んー、確かにあれは効いたけど。そう悩むこともないんじゃないかな?
泣きたいときに泣いたり、笑いたいときに笑ったり。それって感情があるってことでしょ? ある人の特権だよー?
それに人生は何が起こるか分からないのが面白いところ。まぁ、何だろう。つまり言いたいのは、もっと周りを頼り苦悩せよ少年! ってことだよ。」
少年ですか⋯。なんか懐かしい呼び方ですね。
「な、なんですか、それ。あぁーもう、ミアに話してたら馬鹿らしくなってきましたよ。」
「⋯⋯私はね、今日だってどうせまた周りに遠慮して私のとこでやっと吐き出しただろうリイラに、もっと頼って欲しいんだ!」
「な、なんでバレてるんですか?」
「それくらい、考えれば分かるよ。いつものことだもん。それに、あの吐き出し具合。さぞかし他にも悩みがあるね?
さぁさぁ、私に言ってごらん? 歩きながらお悩み相談をしよう!」
「え⋯⋯。なんか結構です。」
「な、何で!? 悩みがあるなら話したくなったりするんじゃないの!」
「んー、正直、ミアよりフィくんの方がちゃんと聞いてくれますし、別に良いです。」
「え」
ミアは唖然としていたが、気にしないで行こう。
「それで、まだ着かないんですか?」
「あ、えーと、もうすぐかな?」
「そ、そうですか。」
「あ、いや見えてきた。」
そう言われて辺りを見ても何も無い。
「え、何もないですよ?」
「いや、此処で二回目の転移をしたらしい。」
「ず、随分と用心深い奴らですね。」
「まぁ、そうだね。さぁ、もう一度転移としようか。お手をどうぞ、少年?」
「み、ミア! その呼び方は辞めてください!」
そう言いつつもミアの手にまたも手を乗せる。
「⋯」
また転移をしました。なんか転移のし過ぎで疲れてきました。辺りを見ても何もありませんよ、きっと。
「で、次はどうなんですか?」
「しっ!静かに!」
そう、ミアに小声で言われました。
「別に何もないですよ?」
と、念の為小声で言いました。
「あそこを見て。」
そうミアが指差す方角を見ると人がいました。
「ひ、人がいますね。」
「いや、それだけじゃない。⋯え、視えていないの?」
「え、いや何がです?」
「あそこにあんなに大きな建築物があるじゃない!」
「え、ミア、なーに寝惚けたこと言っているんですか。何もないですよ、何にも。」
「え、嘘だー。そんなの。あんなに目立つとこにほら!」
「幻覚でも見てるんじゃないですか?」
「そ、そんなはず。いやだって、あそこに明らかに風変わりな建物みたいなのがあるよ!」
「いや、人は見えても、建物なん――――え?ひ、人が魔法陣も見えることなく消えましたよ、ミア!」
「え、ただ建物に入っただけじゃん。」
「え⋯⋯。ま、まさか本当にあるんですか?建物が。」
「うん、だからあるってさっきから言っているでしょ!」
「そ、そうなんですか? いやでも、幻覚の可能性もまだあります。」
「ていうか今更だけどさ、これ私たち目立ってない?だって周りにあれ以外何にも無くて隠れられてないよ。」
「た、確かに。奴らからしたら気付いてそうですね。ん? え、これもしかしなくても気付かれてません?」
「あ、あいつら逃亡する気だ。今、建物が宙に浮き上がって来てる。行くよ、リイラ!」
「え、行くって何処にですか!」
「良いから着いて来て!」
そう言われて手を引っ張られました。ん? あれ、浮いてる? あぁああ! 地面がどんどん遠くなってます!!
「み、ミア! こ、怖いです!」
そう僕が言うと、此方をチラッと見て
「落ちたくないならちゃんと私に掴まった方が良いと思うよ。」
と、平然と言われました。
「ひえっ。」
い、急いでミアにしがみつきます。この際、カッコ悪いとかはどうでもいいです。きっと手を離した瞬間、落下するのでしょう。正直言ってとても怖いです!
「あ、飛ばすからしっかり掴まってね。あと叫ぶと舌を噛むよ。」
え。次の瞬間、僕は死を覚悟しました。何がなんでも振り落とされては駄目だ、死ぬ。気絶するのも終わる。その一心です。
それくらい速く、正直言って落ちそうです。ミアの忠告通りになりたくない。そういったことを考える暇もないくらいです。
下なんか絶対見たくありません。
⋯⋯まだ着かないんでしょうか。心なしか段々速くなっていっている気がしますが、気の所為でしょう。
すると突然、ミアが空中に手をかけました。少し考え込んだ後、魔法陣が見えました。
「⋯」
手を引かれるまま着いていくと、急に目の前は室内に。し、室内?
「さぁ、着いたよ。ここがどうやら奴らのアジトらしい。」
「あ、え、はい?」
あ、アジト? もう何がなんだか分かりません。目が回りそうです。というか具合が⋯⋯。
「よし! もうバレてるだろうし、このまま直行だー!」
「う、ま、待ってください、ミア」
「どうしたの?」
「内臓がぐるぐる言ってる気がします⋯。」
「え、だ、大丈夫?」
ミアが心配そうな顔をしてこちらを覗き込みます。それを見て休もうとすると―――
?! み、ミアの耳元を魔法弾が通過しました。それと同時にミアは目を大きく開きながら後ろを振り返り
「ッ―――。だ、だれ!」
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