第四話 不穏な気配
「旅に⋯⋯? 私がぁ? なんで⋯?」
そう言った彼女はやけにつまらなさそうでした。ですが、ここは想定済みです。そう思いながら僕は口を開きました。
「はい! 今日、学校で将来何をしたいのか聞かれたんです!その時に僕たちは全く決まりませんでした。」
「ふーん、それで? どうしてそう決めたの?」
と、若干だらけながら言うミア。⋯もうちょっと真剣に聞いてくれても良くないですか? そう僕が少しイジケていると
「あぁ、それは色んな進路先の先生が来たんだよな。その時に色んな話を聞かされてさ。それで思ったんだよ、俺たち。」
「俺たち? 言い出しはフィくんでしょう!」
「そうだったか?」
と、とぼけたように言うフィくん。それに僕は思わず口を開きます。
「そうですよ! フィくんが旅をしたいって譲らなかったじゃないですか! そして僕を誘いましたよね? まぁ、勢いに負けて承諾しましたけど。」
「そういえば、そうだったな! まぁ細かいことはどうでもいいだろ。」
いやいや、良くないんじゃ⋯⋯。こういうのって結構大事ですよっ! 絶対に! そう僕が思っていると
「旅は自由で良いんだよ? だから一緒に行く必要もないっ!」
と、僕を見て言い切るミア。いやいや、そう言われても⋯⋯。そう僕が思っていると
「それでよミア! お前はこれからどうするんだろうなーって気になってな。」
「私はやりたいようにやるよ? いつも通り気が向けば村から出て街に行ったり、飽きたら森を散策したり。そうやって自由気ままに、ぶらぶらと生きてきたんだから。
まぁ、たまーに管理人ちゃんやミラとも会ったりしてたんだけどね。」
「へぇーそうなのか。ならさ、それに俺たちを加えてくれよ!」
と、ミアが答えて直ぐに言うフィくん。お、押しが強い⋯⋯。いやでも! これならミアも頷いてくれるんじゃあ⋯。そう思いミアの方向を向くと何だか面倒くさいとでもいう顔をしています。
「えー⋯。やだよ、面倒くさい。お金とか道中稼ぐのは楽じゃないのに、それが二人も加わることになるなんて。」
と、案の定言ってくるミア。な、な! 確かにお金という問題は⋯厳しいですッ。そう僕がなんか悔しくて地面に膝をつき俯いていると
「そんな事言わずに、頼む! 絶対旅を楽しくしてみせるし、お金だってどうにかするぜ!」
と、言ってくるフィくん。おぉ、何だか頼もしいです。そう思い思わずフィくんの方を期待した目で見ているとあることに気が付きました。
「お金⋯? あれ、ミアはどうやって路銀を貯めてたんですか?」
「んー? あぁ、それはねー、ミスレニーって聞いたことあるかな?」
え、あ。考えてたことが口に出ていたんですか
ね? そう思いつつもミスレニーについて聞かれた気がして答えます。
「あー、あの有名な移動型ショップですか。なんでも現れると同時に完売するので有名ですよね。
アクセサリー・杖が主な商品だとか。強くとても品質の良い商品ばかり。特に人気なのはミスレニーでしか扱っていない謎の魔法鉱石が有名ですよね。」
「俺でも知ってるぜ。母ちゃんがよく言うんだ。一度でいいからミスレニーのアクセサリーを付けてみたいって。」
と、言うフィくん。へぇー、そうなんですね。フィくんのお母さんが。そう思っていると
「ふ、ふーん。やけに詳しいね⋯⋯。」
「そりゃ大昔からある評判の良いショップですから。教科書にも出てくるんですよ。」
「えっ! きょ、教科書にも?」
と、何故か驚いているミア。そのミアの様子に僕はどうしたんでしょう? と、不思議に思いつつも口を開きました。
「えぇ、ミスレニーは歴史的なショップですから。やはり誰しも一度は付けてみたいようですよ。
僕だって杖が気になります。ミスレニーにはアクセサリー型の杖があるそうじゃないですか。
特に杖は木で出来ているのに腕輪型に出来るミスレニーは凄いと思ってるんですよ!」
「そうだぜ。それにミスレニーは都市伝説としても有名だ。だって突然現れて颯爽と姿を消すんだからな。
しかもそれが大昔から続いてる。店主は黒い布のマントで素性を隠しているしな!
それにミスレニーのアクセサリーや杖などを買った人の話によると、あれから怪我の痛みが治ったとか大怪我するはずが何ともなかった、なーんて沢山の話があるんだぜ。
一説によると店主は実は此処の外から来た人とか魔法よりもっと強力な力を使えるんだとか未来人なのではとか色々言われてるぜ!
こういうのも研究者の息子としては気になってな! つい周りに聞き込みをしちまうんだ! それに俺の父ちゃんもミスレニーのことは謎の一つだ! とか何とか言ってたし。」
と、僕らが
「わ、分かった分かった。うぅ、そこまで言われてたなんて。これじゃあ言い辛いよー。」
ん、もしかして⋯
「ん? 言い辛いって何がだ?」
「わ、私が! そのミスレニーの店主なの!」
「えぇ!!!なーんだってぇぇぇーーーー!!!!」
「「う、うるさ(いです)。」」
う、うぅ、耳が。キーンと。⋯フィくんに驚いて衝撃のミスレニー店主発覚の印象が全て消え失せましたよ、もう。でもそれよりも耳が⋯⋯。そう思い口を開きました。
「耳が破けたかと思いました。」
「うん、分かる。というか獣人族の私からしたらその百倍は、うるさかった。頭を通り抜けて響いたよ。今だってあんまり聞こえないもの。」
「分かります、それは僕も同じです。あとそれは魔法医学営院に行きましょう。あ、ついでにミアの頭も診てもらいますよ!」
と、僕が再び催促するとミアは凄く嫌そうな顔をして口を開きました。
「い、いやいつもより聞こえないだけだから大丈夫! それに頭も痛くない気がしてきたよー。」
「す、すまん!!つい驚いてしまってな!!!」
う゛、あ。み、耳が本当に死ぬッ! もう辞めて下さい! 本当に! そう思い慌てて僕は口を開くハメになりました。
「き、気持ちは分かりますが、あの、もうちょっと声のボリューム下げてください。それ以上は本当に耳が死にます。」
「わ、分かった。」
「そう、しょぼくれた顔をされましても。それとミア、ミスレニーのことって本当なんですか? 本当なら! 僕ら二人くらいなら養えそうですよね?」
と、不思議に思い真剣な表情で問いただしました。でもそれって人に頼りっ放しになるんじゃ―――
「げっ。た、確かにそうだけど、やっぱりこういう将来の事ってもうちょっと真剣に考えた方が良いし、それにー、⋯ねっ?」
「ねっ? じゃないですよ、もう! 確かにフィくんの熱意には押されましたが、僕も旅がどんなものなのか気になるんです。」
「えと、なんで?」
と、唖然としつつ言うミアに僕が旅に興味を持った理由を話します。
「ミアと会った年にサーカス団が来ましたよね? あの時、お兄さんが言ってたんです。
「僕たちは旅するサーカス団なんだ。旅するっていうのは仲間と沢山の時間を分かち合い、沢山の事柄を一緒に経験して色んな人に自分のことを知ってもらい、
色んなものを目の当たりにし、そしてこの目で
そう椅子に腰掛けて夜空を見上げながら言うお兄さん。そのお兄さんの姿が何ていうかとてもカッコ良かったんです! それで僕は見てみたいと思ったんです、世界を。そう、ミールムヌを!
「へぇー良い人じゃないか。今の一言でアクセサリーのアイディアが浮かんだよ。」
「おぉー、本当か! それ。なぁ、出来たら見せてくれないか? どんな作品になるか見たいんだ!」
ミスレニーがこの言葉で作るアクセサリー? それって絶対に素敵でこの世に一つしかないものじゃないですかっ! そう思い僕は居ても立っても居られないという気持ちで口を開きました。
「僕も気になります!」
「分かった。出来たら見せるね。それと⋯店の手伝いをしてくれるなら連れて行ってもいいよ。」
「ほ、本当ですか!それじゃあ、すぐ準備に取り掛かりましょう!」
「おう、そうだな!やったな、リイラ!」
「えぇそうですね、フィくん」
本当に良かったです。あぁこれで三人で旅が出来ます。計画通りです! そう気分が上がる僕は直ぐに口を開いて言います。
「それじゃあ家に一度帰って準備しますね!」
「あ、そうだな。ん? というかそろそろ帰らないと、母ちゃんに叱られちまうぞ。
そう言われて空を見上げると日が落ちかけてきています。それを見て僕は慌てて帰る準備をしながら言います。
「そうでした! もうこんな時間ですか! すみません、ミア。また明日会いましょう。」
「それじゃあミア!また明日なー!」
と、ミアに向けて手を振るフィくん。それを見て僕も慌てて手を振ります。すると
「うん。二人ともまた明日、此処で会おうね。私は二人に見せるためにも今から会心の出来のアクセサリーを作るよ! 楽しみにしといてね!」
そう言ってからミアも手を振り返してくれました。それを見て僕は、いや僕らはお互いに顔を見合わせ笑い合ってから口を開きました。
「あぁ、楽しみにしてるな(ますね)!」
と、言って僕らは解散しました。
それにしてもサーカス団のお兄さんの一言をアイディアに作るアクセサリー本当に楽しみですね。あ、そうです! 旅をしていたらあのお兄さんにも会えそうですし、今度会ったら見せたいものですね。
―――――翌日の朝―――――
ん、もう朝ですか。あっという間ですね⋯。さて、今日はあの大きな木の集合場所に行かなくては!
「お、起きたのね?リイラ」
と、何処か慌てた様子の母が扉の向こうからやって来ました。
「お、驚かないで聞いてちょうだい。フィくんのお家で物凄い火事が起きたの。今
それを聞いて、僕は一目散に駆け出しました。
「あ、待って! 話を聞いてちょうだい―――!」
そう言う母の静止も聞かぬまま、僕は走り続けます。
僕とフィくんは昔からの付き合いです。そんなフィくんの家が火事なんて。そう思うと余計走らずにはいられなかったのです⋯。
なんでですか、フィくん! なんでフィくんの家なんですか⋯⋯!
なんで⋯。とそう何度も思い無事を祈りながらフィくんの家へ走る。すると、火が燃え上がる家が見えてきました。
僕はこれまでで一番早く走れたんじゃないかと思うくらい、めいいっぱい走りました。
燃え上がるフィくんの家が見えてきました。ですが、そんなことは気にしている場合ではありません。入ろうとすると、案の定
「だ、駄目だ!危ない!」
と、大人の人に羽交い締めにされました。
「嫌です! 離して、離してください! 親友が! 親友が!! 中に、いるんです!!! 離してください!!!!」
「リ、リイラくん⋯⋯。ゴホッ」
僕は必死に抵抗します。だってフィくんの姿が見えないのです。フィくんのお父さんの姿は見えるのに⋯。
「⋯親友? あ! 君はもしかして昔からフィムスくんと一緒にいた子じゃないか!!」
そう僕のことを思い出していたのか、大人の人の手が緩みました。今です! 手の間をするりと抜け出し、一目散に家に駆けようとすると――。
「あっ! おい、君!!」
さっきの大人の人や周りから静止の声が聞こえました。それでもフィくんの為なら! 僕は止まりませんッ!
「ッ⋯。」
もう家は目前! 熱っ! 熱すぎるッ! で、でも! 此処を進めばフィくんがいます!!
「ま、待ってくれ! ゲホッ⋯⋯。」
「待ってくれッ!!! ゴホッゴホッ」
声の大きさに思わず足を止め、振り返るとフィくんのお父さんが。
「フィムスは、ゴホッ⋯フィは!! ゲホッ、中には、いない⋯。」
「じゃ、じゃあ何処に⋯⋯?」
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