第三話 慌てた誘い

あぁ、一度思い出せば思い出すほど、僕自身がとった行動が嫌になってきます。それでも覚悟を決めていかなくては。今、ミアを助ける行動ができるのは僕しかいませんので。


厭々ですが⋯、次にとった行動を思い出すとしましょう。今度こそ、この状況を打破するものが思い出せると良いんですが。


⋯そういえばあの時の内容をあの後フィくんに長々と語られた挙げ句に再度謝られたことがありましたっけ。



―――――前回の回想から一年後 フィムス視点から―――――



「ミア! 聞いてくれ!!」


と、俺が大声で言うと


「どうしたのー? そんなに急いで。ん、あれ、今日は一人で来たの? 珍しいね。」


と、余りにのんびりと衝撃的なことを言うミア。


「一人だ⋯?いやあいつも隣に――――。あれ? さっきまで此処に居たはずなんだが。」


慌てて辺りを見渡すもいつも一緒にいるリイラは見当たらず。んー? どこに行ったんだリイラは。


「⋯えーと、さっきまでっていつ?」


「ん? 学校から外に出たときだぞ?」


「えー⋯、まさか無意識に置いてきぼりにしたの? それと、学校からはさっきじゃないと思うなー。」


あ、まじかよ。俺ったら気を付けてたのにリイラを置いてきちまったのか? うぅ、ごめんなリイラ。そう思いつつミアにこうなった理由を話す為に口を開く。


「いやーその、無我夢中で走らずには居られなくてさ、そっか。リイラに謝らないとな。」


「それで? 話があるんじゃないの?」


「あぁ勿論だぜ! ⋯⋯でも呼びかけといてなんだが、リイラも揃ってからで良いか? この話はリイラもいないと駄目なんだ。」


そう、この話はとても大事だからな。俺はこの日をずーっと待っていた。小さい頃にあの人の話を聞いてからずーっと憧れちまってたんだ。そう俺が思っていると


「ふーん、分かった。一緒に待とうか。」


そう言ってミアは読書をし始めた。⋯⋯うーん、暇だな。あ、そうだとある村の人の気持ちになってミアを観察してみるか。そう演じるのにハマってる俺は観察と演技を始めた。


やはり横向きでも彼女はとても美しい。流石、村いち―――いやミアなら世界で一番美しいに違いない!!


獣人族特有のもふもふとした耳は今は誰もいないのをいい事に腰辺りまで垂れ下がっている。白く先になるに連れ瓶覗かめのぞき色に染まっていてとても綺麗だ。


そして腰まで長い白い髪と白い睫毛の先には又もほんのりと瓶覗かめのぞき色が乗っている。髪と睫毛には艶があり大事にされているのが目に見えて分かる。


肌も白く透き通っていて寒いのか頬はほんのりと赤らいでいる。瞳は、透明水彩のようだ。色合いは瓶覗かめのぞき色である。


いつもはパッチリとした眼も今は伏せている。何処か慈愛に溢れている眼だと、毎日のように思ってしまうのも彼女が優しいからなのだろうか。


鼻はスッと通っていて、口はぷるんと艶やかで薄い桜色だ。顔は幼気だ。


っていうのが本当に好きだったら思わずにはいられないんだろうな。リイラとか、さ。まぁ俺には無理だろうぜ。


そういえばミアについて村の女の人たちはこう言ってたな。あれだけ美人だと嫉妬を通り越してもはや見惚れるし心が浄化されると。


嫉妬? 村のみんなも凄く綺麗だけどな。あとは最近綺麗すぎてお近付きになりたいと言っていた女の人もいたなー。


そうどれだけ俺が呑気に観察していようがミアが俺を見ることはない。余程、本に集中しているのだろう。




――――――数分後―――――――



「フィくんーーー、どこですかーーーー?」


そう遠くから、疲れたのか歩いてくる姿がみえた。その様子に俺はこうほのめかす。


「お、ようやく来たようだな。」


「置いてきぼりにした張本人がなーに抜かしてるのさ?」


案の定、ミアが乗ってきてくれた。でもこれは本当に申し訳ないな。そう思い俺は口を開く。


「う、それは本当に悪かったって。」


「それは謝る相手が違うんじゃないの?」


「ぐぬぬ。」


「おーーい、こっちだよーーー!リイラーーーーー!!」


「おい、そんな大きな声出していいのか?」


何を思ったのだろうか、彼女は耳をクルッとキエトンルくまの耳にした。


「なんで? 今、いつものキエトンルくまの耳の方にしたし、大丈夫だと思うけど⋯⋯?」


「いや、そうじゃなくてだな。もしここに居るのがバレたら⋯、俺たち怒られないか?!」


そう―――あの人に。


「なんで? 別に怒られるようなことなんて何もしてないよ。」


「お前は知らないだろうけど、今! 俺たちがいる此処は村の外の人からすれば観光スポットなんだ!! だからそんなとこでお菓子をボリボリ食べてたら怒られたりする気が―――。


は、え?今、おい何をした? 泉の中にお菓子が入っていかなかったか?!」


な、ど、どういうことだ。心なしか泉に入ったお菓子も消えてるような⋯⋯。す、凄い! と思わずまじまじと見入っていると


「今更じゃない? それにこのお菓子美味しいよぉー。食べるー?」


「いや、なーに呑気なこと言ってんだ。そんなことしてたら⋯、いやそれよりもさっきのどういうことだ⋯?」


と、俺は考え込まずにはいられなくなった。



―――――ここからリイラ主人公視点―――――



あ、良かったです。二人がいました。場所はこっちの方でしたか。まさか置いてきぼりにされるとは思いもしませんでしたけどね⋯。まぁ、フィくんが突っ走る気持ちも分かりますよ。


「あ、二人とも、もうつい――――」


「こらーーー!!なぁに、そこで食べてるんだ!!!神聖な泉に入ったらどうする気だ!!!」


あ、この人は⋯あの怒鳴ることで噂になっている! まぁ、名前は知りませんけど。


「神聖な泉? 確かに前はそうだったかもしれないけど、今では泉は生き物の住処と化しているよ? 試しに入ってみる? まぁ死ぬかもだけどね。」


「す、住処!?だからミアは、前沈んでいたのか!!」


と、ミアが言った言葉に対し目を見開きながら言うフィくん。ちょ、ちょっと話についていけないです。そう僕が思っているとミアが


「沈む⋯? あぁ、あれは遊――――」

「そ、その話本当か?!」


と、怒鳴る人が急に大声で言いました。え、今何かミアが言おうとしてませんでした? 僕がそう疑問に思っていると


「あぁ、こいつが沈んでいた?のを俺たちは見たぜ。」


「あぁなんてことだ。それが本当ならとんでもないことじゃないか⋯。」


「どうして?」


そうキョトンと怒鳴る人を見て言うミア。えーと、どういうことですか? と、話についていけずにいると


「ど、どうしてだと? そりゃそんな危険な生き物が居るならお客様を危険な目に合わせるとこだったじゃないか!」


え、この怒鳴る人って良い人だったんですか? そう思って怒鳴る人を見ていると


「危険な⋯? 確かに遊び過ぎだとは思うけど、危険ではないと思うなぁ。」


遊び過ぎ⋯⋯? 何が? あ、沈むのがでしょうか? え、えぇ? い、いやもしかしたら僕の知らない遊びかもしれないですし。


「で、でも沈んだとさっき⋯⋯。あ、溺れたんじゃないのか? ど、どうして無事なんだ? いや無事なのは良い事なんだが。どういうことだ⋯?」


と、困惑している怒鳴る良い人さん。そうですよね、僕もそれが不思議で不思議で気になっていたんです、少しだけ。


「そりゃ当然生きてるよ。生き物たちはただ遊んで欲しかったんだ。殺意があった訳じゃないからね。


それと危険だと思うなら、住処を荒らされなければいい話だよ。誰しも自分の住処を荒らして欲しくは無いだろう? だから住処さえ荒らされなければ危険なんてなーにもないよ。」


「そ、そうなのか。なら良いか。でも君たち、あんまり遅くまで遊ぶんじゃない。」


え、良いんだ⋯。本当に良い人でした。と、僕がポカーンと間抜けな顔をしていると


「なぁ、ミア。正直に答えてくれ。住処を荒らされなければとさっきは言っていたが、それだとお前も住処を荒らしていたことにならないか? ミア」


え、え? どういうこと? と、混乱に混乱を足すという状況に僕の脳内でなっていると


「そんなぁ⋯。誤解だよ!フィ厶スが気になっているだろうお菓子はあの子達が強請るからあげてただけで。


住処の泉を徹底的に汚そうとしたわけとかじゃあないんだよ!」


「あぁ、そういうことか。ん? じゃあ、沈んだ時のあの大きな音は何をしていたんだ?」


え、どういうことですか? 僕、何も分からないんですが! そう思いつつもあの大きな音については気になっていた為に口を開きました。


「あ、それは僕も気になります。」


「それは⋯⋯。あの時、突然耳を引っ張られてそ、その驚いた勢いでパニックになって頭からぶつかって」


「え? そうだったのか! それはすまない。それとリイラにもすまないことをしたな! 置いていってしまって悪かった。この通りだ、すまない。」


置いていかれたことよりも今は別のことが気になりますね。そして脳内は未だにパニックですよ。そう思いフィくんへの返事も何とか考えつつあの時も何とか思い出しながら僕は口を開きました。


「⋯いえ、僕は別に気にしていませんよ。それにアリスさんに言われるがままに僕もミアの耳を引っ張ってしまいました。同罪ですね。すみません、ミア」


「ん? アリスに言われるがままにって今言った⋯⋯? リイラ」


と、目を大きく見開きながら僕に聞いてくるミア。その様子に僕は戸惑いつつも口を開きました。


「あ、はい。アリスさんが引っ張ればどうにかとか何か言っていましたよ。」


「へぇー、そうなんだー。後で呼び出さないとなー。」


え、えぇ⋯⋯それは流石に。そう思い僕は口を開きました。


「あ、アリスさんの自業自得とはいえ、なるべく優しく―――――」

「え? アリスを庇うの?」


そう言った彼女はとても圧がありました。美人が怒ると怖いとはこの事なんでしょうね。


「か、庇わないです。はい。」「も、勿論。俺も庇わないぜ。」


そう僕が思わず言うと、フィくんも少しバラバラに言ってきました。続く沈黙。それに耐えきれずチラリとミアを見ると


さっき見た顔とは今度はまるっきり違うのです。かなり驚きましたが、嬉しそうにしてると何も言えなくなります。


「んふふ。冗談だよー。これくらいで怒る訳ないよ。だって可愛いイタズラだもの。」


彼女は案外、お茶目なようです。そして温厚ですね⋯。それに安堵を感じながら僕は口をゆっくりと開きました。そう言葉に気を付ける為に。


「そうなんですか。やはりミアは温厚ですよね。怒ったところを見たことがありません。」


「うーん、言われてみれば確かに怒った事がない気がする。」


「そ、そうなんですね。それは健康的にもあまり良くないんじゃないでしょうか?」


健康について詳しい訳じゃないので合っているかは分かりませんがミアが心配ですね。そう僕が思っていると


「うーん、なるほど。心配してくれたんだね。」


あ、もしかして分かりづらくて読み取ったりしたのでしょうか? いやミアが心を読み取れるかは知りませんけども。言われてみればそうですね。この言い方だと少し伝わり悪かったかもしれませんね。


いきなり健康よりもまず相手にきちんと心配だと言わないと人によっては意図が読めず分からないままのことも多いです。


今度から気を付けないと、無意識でやらかしてしまうかもしれませんね。そう考えながら口を開きました。


「はい、そうです。ミアはストレスとかないんですか?」


「ストレスか、それなら記憶が忘れられなくてどんどん溜まっていくことかなー。よく頭が痛いんだよね。」


「なるほど。人それぞれ悩みが違えば抱えるストレスも違うということですね。あと頭痛は普通に病院に行きましょう。」


そう僕が催促すると


「え、病院⋯⋯?嫌だ、行きたくない。待ってる間が退屈でしょうがないんだよー。辞めてよー。あ、フィも病院は行かなくてもいいと思うよね?」


「あ、そうだ―――いいや、病院は大切だ。特に頭痛は怖いぞ⋯。まぁ、魔法医学があるし、大丈夫だろうけどな。死ぬ前には行っとけよ。なはは!」


と、フィくんが考え込んでいたのか頷きかけた後に真剣な表情をしたかと思うと笑い飛ばしました。ちょ、フィくんってば! 全く。そう呆れつつも口を開きました。


「もうフィくんは余計なことを吹き込まないでください。」


「分かった。フィムスの言う通り、私死ぬ前には行こうと思う。」


そうキリッとしたような顔でミアは言いま―――な、なーに言ってるんですか!


「ほーら! みたことか!!フィくんに流されないでくださいね! それと泉で頭をぶつけたと言っていましたし、絶対それじゃないですか!」


「あっ! なるほどねー。 それなら納得だぁー。」


「いやいや呑気に言ってる場合ですか!早く病院行きましょう!」


「でも、今日まで息もしてピンピンしてるし、大丈夫だろ。」


「いや、息もしてって⋯。そりゃそうでしょう。生きているんですから。えっ? 生きてますよね?」


「何気に初の安否確認だ⋯! わー、安否確認されちゃった!」


「いや、喜んでる場合じゃ―――」


「それよりもあれについて話さないのか?」


え、えぇ⋯⋯どんな喜びなんですかそれ? と、思いつつもあれについて必死に考えます。あれ、あれ⋯⋯。あ! そうでした! すっかり忘れてました、誰かさんたちのせいで、いや、割りかし僕にも責任ありますね。


「あれって何? ⋯⋯あ、もしかして来るとき言ってたこと?」


と、ミアが不思議そうに聞きました。ふふん、今の僕にはあれが分かりますよ! そう思っていると


「あぁ、話したい事があるんだ。」


と、フィくんが言いました。


「⋯⋯。」


え、何で誰も何も言わないんですかっ! それにしてもフィくんが凄い形相でこちらを見て来るんですが⋯何ででしょう? うーん⋯⋯分かりません、どうしてでしょう。そう思っているとフィくんの表情が更に険しくなっていき眉間みけにゴリゴリとシワが寄っています。


え、えぇ? 急にどうしたんですか。顔がゴリ―――


あっ! そういえば二人で言おうと決めてたんでした。それと合図は僕から、あ、あー! なるほど、それでそんなゴリラのような顔に。あ、あはは⋯⋯合図は僕からでしたヨネ。と、思わず僕は片言になり目を泳がせます。


そりゃ顔という力で表現してこちらを見てくるわけです。う、チラっと見たら! フィくんがじーっと僕を見てます! それにフィくんの眉間はどんどん濃くなっていきもはやゴリラ。いえ、ゴリラの奥義の顔に近付いていってます。やばいです、急いで合図をしなくては―――。


心なしかミアとフィくんの視線が僕にグッと、突き刺さるような。う、うぅすみません。そう思いつつも僕はそんな中、片方の手を二回音をたてないようゆっくりと叩き、フィくんに合図をしました。


そう! 僕は視線が突き刺さる中、やり遂げたのです! そう自慢気に思いながらミアの方を向き直して口を動かしました。


「「一緒に旅に出ないか(ませんか)。」」

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