第二話 実態と回想
――現在――
もう何度、時が戻ればと思ったことでしょう⋯⋯。切り替えないと、ですよね!
あ、そうそう昨日からミアの言葉が気になって考えてはいるんですが、悔しいですね。僕の頭では何も分からず⋯。
だって数年振りに発する言葉が「もうどうでもいい」ですよ。何か引っ掛かるんです。
⋯⋯あぁ、それにこんな場所では考えても記憶がより薄らいでいく気がします。
ふと僕は希望を持ち彼女を見ます。ですが、当然いつも通りです⋯。今日も彼女は、ボーッと何処かを見ています。
試しに彼女の前に浮いてみます。⋯はぁ、それでもいつもと同じようにボーッと何処か見たまま。⋯⋯やはり僕なんかじゃ彼女を
い、いや! うじうじしていては駄目ですよ、僕!
あ、そうです! 正気を保つ為にも一度状況を確認してみましょう。
み、ミアは大事な実験台だからか、水と食料など生活に最低でも必要なものは与えられています。ですが、娯楽もなく、日の光も見れません。
それとあいつはミアを綺麗なまま置くのがどうやら好きみたいです。風呂には毎日入れているようなので耳はふわふわの毛並みです。あ、あと毎日のようにわけのわからないものを注射されたり、食事にも何か入れているのを見ました。
部屋は盗聴、監視は当たり前。それが八十年半程続いてるとなると、とっくに心が破綻していても何もおかしくありません。
だからこそ昨日の言葉がやはりどうも気になります。何か意味があるように思えて仕方が無いんです。
意図を探るためにも、彼女についてもう一度よく思い出すんです。
―――前の回想から数年後、道端にていつもの三人で―――
「ねぇねぇみんなでさ、いつもの場所に集まらない?」
と、僕ら二人を見ながら言うミア。その言葉に嬉しくなった僕は直ぐ様口を開きました。
「いいですね。いつもの場所ですか。あそこは本当に勉強に適した場所だと僕は思います。空気は澄んでいて、とても居心地がいいです。
沢山ある本は読んだことの無いものばかり。落ち着いて勉強もできますし。あれ? そういえばなんででしょう。」
と、遊ぶ約束に喜んでいると突然疑問が湧いて思わず口に出していました。うーん、そういえばあの書庫不思議ですよね。そう僕が思っていると
「確かに、そう言われれば何でだろうな? あ、ミアなら何か知ってるんじゃないか?」
と、ミアの方を向き聞くフィくん。確かにミアなら。僕もそう思いミアの方を向くと
「えー、うーんと。まぁ⋯⋯、知ってるけど。これ言ってあの子から怒られないかな。」
と、面倒くさそうに言うミア。⋯ん?
「「あの子?」」
と、偶然フィくんと声が揃いました。揃わない時は揃わないのに⋯⋯。と、ふと思っていると
「うん、あそこの管理人ちゃんだよ。そういえばしばらく留守にするって言ってたな⋯。」
「え、あそこ管理人がいたんですか!!」
管理人⋯。そういう存在が居たことに驚きつつも僕がどんな人物か考えていると
「うん、じゃなきゃあの綺麗なままの空間は保てないでしょ?」
そう言われて考えてみれば確かにおかしな部分がありました。だってミアがお菓子を溢そうが直ぐに綺麗になっていたり。今まではミアが何かしているのかと思っていましたが⋯そうじゃなかったんですね。そう僕が考えていると
「確かに⋯無理だな。でも見かけたこと無いぜ。」
「えー、あ、そっか。あー、言っていいのか分からないけど、管理人ちゃん、たまに二人にちょっかいかけてたよ。」
え、全然気づかなかったんですが。直ぐ様口を開きました。
「え?! いつですか?」
「うーんと、勉強の合間によく⋯?」
と、目を泳がせながら言うミア。え、え? てことは今まで知らない人がいる中ッ? 嘘でしょう? そう唖然としていましたが僕は慌てて口を開きました。
「な、なんで教えてくれなかったんですか!」
「へぇーそうなのか。」
と、言うフィくんに僕は思わず
「なんでフィくんはそう平然としてるんですか!」
と、大声で言いました。だ、だってあれじゃないですか。それともそう思わずにいられないのは僕だけなんですか? と、僕が思っていると
「まぁまぁ、別にあの子も面白半分でからかってただけだし、そう気にしなくても大丈夫だよ。」
「そうだ、ミアの言う通りだぜ。それともなんだ、怖いのか? 相手はミアの知人だが。」
は、はぁ? そんなの⋯⋯。
「べ、別に! 怖くなんか⋯ないで、すよ! さぁ、ど、どうぞ? ちょっかいでもなんでもどーんと来やがれです⋯!!」
そうですよ! こ、怖くなんかちーっともありませんからね!?
「へぇー、なんでも? じゃあ、今度会ったらそう伝えとこうかなー。」
「なっ、ミア! まさか⋯僕をハメたんですか?!」
「さぁ? どうだろうねー。」
――現在――
ミアは相変わらずでしたね。フィくんもです!僕を二人してからかって、もう。⋯でも、これじゃない気がします。
けど、これで思い出しました! あの管理人なら何か助ける方法を知ってるかもしれません。もう少し管理人の情報を詳しく思い出してみますか。
―――前回から数ヶ月後―――
「みーんな聞いて! 今日は前話した管理人ちゃんが帰ってくる日だよ!!」
そう言って、慌ただしく木から降りてくる彼女は見事顔面から着地した、かと思えば木の周辺の泉に丁度真っ逆さま。バシャーンと落ち、当然僕らにも水がかかった。
「⋯う、」
「「う?」」
「うぅ、痛い⋯⋯。」
ミアは自前のクルっとしていた耳を今度は真っ直ぐに伸ばし下に垂らしながら俯いた。
「あ、耳。また伸びていますよ。
ほんと不思議ですよね、クルっとしてる時はふわふわの毛に覆われて
「それは分かるぜ、初めて見た時は新種の生き物かと思って、母ちゃん、父ちゃんに知らせちゃいそうだったぞ。」
新種の生き物って⋯。というかその演技まだやるんですか? よくもまぁ飽きないですね。そう若干フィくんに呆れつつも僕は口を開きました。
「あぁ、ありましたね。そんなこと。ですが流石に知らせるのはどうかと思いますよ。だってフィくんのお父さんは研究者でしょう?
フィくんのお父さんを信頼していない訳ではありませんが、こんなことを知らせたらミアの身が危ないです。」
と、僕の見解を述べます。⋯本当に信頼していないわけではありませんが、こんな変わった内容です。そもそも信じてもらえないのがオチですよ。そう僕が思っていると
「ねぇー! 話すのはいいんだけど、誰も助けてくれないのー?!」
と、ジタバタ暴れながら言うミア。それに僕は更に呆れた目でミアを見ます。そして渋々口を開きました。
「いや、だって自業自得ですし。」
「そんなぁ。」
そう言ったミアをみると心なしかどんどん体が沈ん―――し、沈んで?!
「見てください! ミアの体がどんどん沈んでいきます!!」
と、慌ててフィくんに伝えると
「え、あ、ほんとだな!?」
と、フィくんも目を見開きながら言いました。え、これって引き上げなきゃ不味いんじゃ⋯⋯。そう思い沈みゆくミアを見ながら口を開きました。
「急いで引き上げましょう。」
「せーのっ!!」
そう言って持った体はその、服に水が吸われたのか、少し重かっ⋯あ、それはミアに対して失礼ですよね。なんて思っているとフィくんも慌ててミアを引っ張ろうとして目を見開いています。
「お、重い⋯。」
「ば、ばかフィくん。それを言っちゃあ駄目でしょう!」
「ゴボゴボ、ごボボ」
え、え? なんて言ってるのか全く分かりませんが何かミアが伝えようとしています。そう思ってミアに聞きます。
「なんですか? ミア」
「い、息が。」
息⋯? 息、息⋯⋯。
「あっ! 急いで引き上げましょう!! フィくん!!!」
「で、でも俺たちの力だけじゃ引き上げられないぜ?心なしかどんどん重くなってるし!」
「これが心なしですか?! めちゃくちゃさっきより重くなっていますよ!!」
こうして話している間にもミアはどんどん沈んでいく。もはや何を言っているのかも分かりません。成すすべはもうないんでしょうか⋯⋯。そうこうしているとミアが何も言わなくなりました。ま、不味いんじゃ⋯
「フィくん、もう一度引っ張りますよ! せーの!!」
「無理だぜ、これ! 重すぎて大人を呼んでも助かるかどうか⋯。」
「大人は駄目よ。呼んじゃ駄目。」
そう何処からともなく声がしました。
「それと彼女の耳を引っ張ってみなさい。そうすればどうにかなるわ。」
そう言われて見たミアの姿は、いつも腰まで垂らしてる
「「あ! 耳が!」」
え、え? 耳? と、慌てて二人して混乱しながらも言われた通りに耳を引っ張ると―――。
彼女の足が急に沈んだ。えっ? 沈んだ?!
泉と思っていましたが、もしかするとここは―――。
「ゲホッ。」
と噎せながら、あれだけ沈んでいたにも関わらずケロッと飛び出てくるミア。
え、え。どういうことだ?
思わずいつもの尊敬の話し方を忘れるくらいには動揺してしまいました。開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのでしょうね。いやいや普通にどう考えてもおかしいでしょう?!
「どうしたの? 二人とも唖然として。」
「えっ? 何が起きたんですか? 変な声の言われるままに、急に足が泉に入ったと思っていたら何か激しい音がしてミアが上がって⋯」
「あら、変な声とは失礼な子ね。」
「え! また何処からともなく声がした⋯。」
「んー⋯。耳に水が。」
そう何処か
「⋯管理人ちゃん、出ておいで。どうせまたそこにいるんでしょ?」
「えぇ、いますわよ。ミア姉さん。」
と、言って姿を現した人物は木からふわりふわりと着地して此方を鋭い目で見た後にミアの方向を向きました。
何というか全体的に赤いし大人⋯。いやいやそんなことよりも今は別の驚きがあります。そう、あのミアがお姉さんと呼ばれてることです!
「だから、そう
「そう何度も言われましても、尊敬する方ですし。」
え、ミアを尊敬? 一体どこに尊敬する所があるんでしょうか? そう僕が不思議に思っていると
「初めて紹介する人にはいつも困惑されるから、ほんとにやめてって言っているのに。」
えーと⋯⋯? どういうことですか?
「それでもやめませんわ。」
「そんなぁ⋯。それで私の普通の生活がこれまで何度ぶち壊されたことか! そこんとこ分かってる?」
と、頭を抱えながら言うミア。え、えぇ? ぶち壊されたって一体⋯⋯? そう僕が思っていると
「そう言われましても、なんで私の尊敬する方に対しての行動がそうなるのか理解できませんの。」
「はぁー、管理人ちゃんったら! ほら、よぉーく自分の行動を振り返ってみなよ!」
「姉さんとの日々を語れば良いのですね! お任せ下さいなっ! 私、それは誰よりも得意だと自負していますので。」
―――管理人の回想―――
今日は姉さんに会いにいく日。そして今話題の最新のドレスが出る日―――!
これは姉さんに会うためにおしゃれして颯爽と現れろということに違いありませんわ!
早速予約していたドレスを取りに行き、着て姉さんに会いに行きましょう!
―数分後―
やっぱり最新モデルなだけあってとても素敵ですわ。さっそく移動魔法で颯爽と姉さんの前に現れましょう!
「⋯⋯。」
ここはいつも姉さんがいる村ね。ということは姉さんは起きて私を待ってくれてるんだわ! きっとそうよ。
あ、あんなところに姉さんがいますわ!
「おーい姉さんー!」
「えぇっ!管理人ちゃん?何故此処に⋯。」
「あ、あの有名なアリスさんが何故此処に⋯⋯。」
と、何だか周りが急にざわつき始めましたわ。あら? ミア姉さんの反応が思っていた反応と違うわね⋯⋯。
「あ、あぁ、管理人ちゃ、じゃなくてアリスちゃん、一旦何処か違う場所に行こうか⋯?」
名前で久方ぶりに呼んでくださるなんて⋯。うぅ、思わず感激で目の前が⋯。
「え、早く行こうよ。人が集まってきてる。」
「はいっ! 喜んで。」
―――回想終了―――
「なーんてことがありましたわよね! 私、名前で呼ばれたのがつい嬉しくて!」
へぇー、そんなことがあったんですね。
「いやいや、あの後村の人に問い詰められて、数週間大変だったんだからね! それと名前くらい言ってくれればいつでも呼ぶよ。」
え、数週間も?! ⋯ん? 村の人に問い詰められ、て⋯? うーん、そういえばアリスさんってどこかで見たことがある気がします⋯。
「ほ、ほんとですか! じゃあ今後は管理人ちゃんじゃなくてアリスとどうぞ呼んでくださいな。
⋯あぁそれと名前の件ですが、ミラも役職についてからはミアねぇが名前を呼ばなくなったなどと愚痴をこぼしていましたよ?」
役職⋯? ってなんでしょう?
「そうだったの? それで少し前から雨がずーっとポツポツ降り続けてるなーんて言わないよね?」
え、あの雨が⋯? そんな方が知り合いなんてミアってほんとに普通の獣人族ですか?
「それは⋯彼女に聞いてみないことには何とも言えませんわ」
「そう⋯。じゃあ、今度会いに行こうかな。」
「それがいいと思いますわ! きっとミラも喜びます。」
「そうかな?」
「あのー、そろそろ話しかけても良いですかね?」
「え、ずっと待っててくれたんだ?こんな昔話なんて退屈だっただろうに。」
「いや、割と気になる話だったから立ち聞きしてただけだ。そういえばこうしてみると俺たちってミアについて何にも知らないんだなって思ってさ。」
確かにフィくんの言う通りですね。学校がある間はミアに会えないとはいえ、前に管理人の話をしてからもう7年も経ちました。7年経ってようやく管理人の事やもう一人の人の事だって知ったのです。
思えばミアには不思議なとこがありました。学校の歴史のきょ―――教科書? アリス⋯?
「あの、アリスさん! アリスさんってあのアリス・バートラッドさんですか?」
「え、バートラッド⋯? あ、アリス⋯⋯?」
「えっと、名前が思いつかなくてですわね、つい⋯。」
と、急に顔を引き攣らせながら言うアリスさん。ん? 急にどうしたんでしょう? うーん、考えても分かりません。それにしてもこんなに有名だというのに今までミアは知らなかったんですね⋯。そうぼーっと考えていると
「⋯⋯これは、他のバートラッド族にバレたらどうなるか、分かってやってると見なして良いのかな?」
と、ミアがにっこりと笑って言いました。え、その顔なんか怖いです⋯。というか今、族って言いませんでしたか? それって一体どういう―――
「いえ、そ、そのですわね…。」
―――現在―――
まぁ結局この時はバートラッド族について教えてはくれませんでしたが、アリスさんがやらかしたことは目を見るよりも明らかでしょう。そういえばバートラッド族ってどのようなものでしたっけ?
あぁ、そうだこの後です。この後、あんなことをしなければこの結果も変わっていたのでしょうか。
いえ、手遅れになったのはあいつが現れてからに違いありません。
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