マリとマリン 2in1  茉莉花

@tumarun

第1話 隠れ家

 2人は、大学の東門を出たところにいる。翔は本日分の講義も終わり帰るのだが、茉琳は、ついていくというのだ。


「茉琳も物好きだよな。俺と一緒にいたって面白くもないでしょ」


 茉琳は、身も心も全て捧げるっていうほどに愛した男がいた。チャラくて遊び好きな彼氏だったらしく、遊び回っていると噂で聞いた。お連れさんも沢山いて賑やかにしていたらしい。

 それに対して翔はボッチ街道一直線。昔受けたイジメで、異性に対しても一線を引いてしまっている。そんな彼に茉琳はついていくというのだ。


「別にいいなりよ。翔と同じものが見れて、話もできるっていうのがいいなりよ」

「嬉しいことを言ってくれるね」

「翔と一緒っていうのが味噌なんよ」

翔は、頬が熱くなっていく。

「ところで、翔」

「何?」


 茉琳が改めて聞いてきた。


「あのね、この前、カフェテリアで男に絡まれたなり?」

「ああ、あったね。俺も被害を受けたし」

「巻き込んでごめんなしー」


 縮こまって茉琳は指同士をツンツンさせている」


「それでね。助けてもらった人たちにお礼をしようかと思ってなし」

「あきホンさんとか、お誾さんとか?」

「そうなりぃ」


 以前、このカフェテリアで茉琳は元彼がつるんでいた男たちに乱暴を受けた。抱きつかれたり、胸を揉まれるとかの狼藉を受けている。その時に茉琳を助けてくれた人たちがいた。


 翔は苦笑いをしながら、


「お誾さん、すごかったね、男を投げ飛ばしていたよ」


 その時に茉琳に抱きついていた男を投げ飛ばした女傑がいた。2人は、お誾さんと呼んでいる。


「そういえば、お誾さん、レポートの提出は間に合ったのかな。困ってたもんなあ」


 やはり、彼女も茉琳と男の揉み合いで翔同様の被害をうけた。彼女の場合は書きかけのレポートが入ったタブレットがテーブルに溢れたコーヒー漬けになり使用不可になってしまう不幸だった。


「この前、バッタリあった時に言ってたなり 『助かったばい。ありがとぉねぇ』 ていったなしー」


  ブファ


それを聞いて翔が噴き出す。


「どこの言葉かわからなくなるね。ハハ、まっ、いいだに」

「よかっ、よかっ、えかったね」


 そうして茉琳は表情を改めて、


「でねぇ、お礼に食事でも誘おっかと思うのよ」

「あきホンなら『別にお気になさることはありませんのに』っていうだろうし、お誾さんだって『気にせんどきぃ』って言うと思うよ」


 翔は何とはなしに、聞かれるであろう言葉を真似てみる。既に標準語が,どっかいった世界になってしまったようだ。

 それを聞いて、茉琳は頭を手で掻きながら、


「そうなのよね。でもウチの気持ちも収まらないちゃね。どうしたらいいなりね?」

 

 とうとう茉琳は腕を組んで左右に頭を捻る。


「まっ普通にお誘いすれば良いと思うよ。是非って言えば断る様な方達じゃないと思う」

「わかった。翔が言うなら、そうしてみるなし」


 にっこりと笑って茉琳はポっと手を叩いた。踏ん切りがついたのだろう。


「でねえ?翔。どこにお誘いすれば良いと思うナッシー」 


翔は自分の膝から力が一瞬抜けたのを感じた。片足だけだったんで倒れることは免れたのだけれど、


「みんなを招こうとしてるのに決めでないわけ?」

「だって、ウチもよく知らないしー。聞くことできるの翔だけなり?」


 翔はしまったと手で顔を覆ってしまう。茉琳は元彼に自分以外の女を近づけさせまいと、兎に角,寄ってくる女を排除した。とうとう、友人と呼べるものもいなくなるほど苛烈にしたんものだから、今もぼっちだし、逆に嫌がらせをされる方になってしまった。こう言うことを周りに聞くことなんてできない。


 「俺だって、知らないよ。夜なら居酒屋ぐらいかな。いっぱい奢るっていったら」


 翔は、自分で言ってて寂しくなっていく。俺も茉琳と一緒で飲みに誘える友達っていないんだと。


「じゃあ!そこぅ、そこにしよう。翔は何処のお店に行ったなシー」

「はやっ決めるの、はやっ! いいの? 本当にいいの? 女子、それも花の女子大生だよ。居酒屋が悪いとは言いません。せめて,せめて」


 翔は拳を握りめて熱弁していく。


「お洒落なカフェとか、ワインバーとかビストロとか知らないの?」

「知らなーいしー。いつもヒーくんに、ここ美味しいよって処に連れていってもらっていたなしー。名前も覚えていないなり」

「くっ、女王様目。  でも、どっかないでしょ?」

「ない」


 茉琳は着ているカットソーを押し上げる胸を更に持ち上げ、言い切った。


「こっこいつぅ」


 翔の顳顬に力が篭る。


「居酒屋でいいとして、お誾さん辺りなら、いい返事してくれるかもだけど、あのハイソなう雰囲気のあきホンさんなんかじゃ納得しないでしょ。リストランデぐらい紹介しないと相手にしてもらえないよ」

「う、うぅ」


 茉琳は下唇を噛み締めて、悔しがっている。


「ズバリすぎて反論できないなり。でも,でもでも聞いてみなきゃわからないなしよ」

「そうかもしれないけど、まずダメだね。他を探してみないといけないかな」

「いいもーん、ぜったいきくっちゃ。 翔のあほんたれ」

「ぐぬぬ、勝手にどうぞ」



 2人は言い合いながら、大学近辺にある繁華街へ入っていく。すると、


「この前寄ったベットショップなりぃ。ハムちゃん,まだいるなしか?」


ここは、以前、茉琳が行きたいと駄々を捏ねて寄った処だった。


「あれぇいないなり」

「もう、買われたんだよ」

「残念、可愛かったのに」


 翔はがっくりと肩を落とした茉琳を連れて繁華街の中心部へ入っていった。暫く進むと、ある店舗の前で歩みを止めた。


「あった,あった。ここだね」

「ここになんかあるなりか?」


 茉琳が見た軒先には丸印に茶の文字が絵かがれた暖簾が下がり、その下ののショーケースの中には緑色の茶筒が何本もディスプレイされていた。ガラス張りの茶葉入れもあったりする。お茶屋さんがあった。


「茉琳、茉琳、こっちこっち」


 店舗の左側に1人が何とか通り抜けられるぐらいの通路があり,翔は茉琳を誘って中に入っていく。

 奥に行くと、こじんまりとした部屋にはテーブルが三つほどあり、その周りには壁埋め込みのソファーが囲っていた。各テーブルの上には、ルーレット式占い器とメニューがわりのプラカードが置かれている。


「ここって喫茶店なりか?」

「そう、お茶屋さんが喫茶店もやってるんだよ。奥にあって分かりづらいから隠れ家的な喫茶店なんだよね」


 木目を生かした壁には、小さい額に入った絵画が飾られている。それを茉琳はキョロキョロと頭を振ってみている。


「どっかの秘密の隠れ家ってう感じなり」


 翔はドヤ顔になって、


「秘密基地と言ってくれても構わないよ」

「へぇー、で翔は の目的は?」

「抹茶のロールケーキ! ネットで調べたら,結構評判で……」


 と、そこへ


「も〜し〜,誰かおるかえー」

「来た来た。中に入ってください」


 禿の髪型の女性が入ってきた。後ろからもう1人入ってくる。


「おー,おったでえっ。久しぶりっちゃね」

「お誾さん!」


 彼女を見て茉琳が目を丸くしている。その後ろから髪をウルフカットにしている女性も入ってくる。


「かおリンまで、どうしてなり?」

「茉琳、誕生日っていつだ?」


 翔はあえて茉琳に聞いてみる。


「チョッチ前に過ぎたなり」

「遅くなったけど、お祝いしようかなってね。サプライズだよ。驚いた?」


 翔が説明していく。


「え、でも,何でえっ,何でなしぃ」

「前に聞いた時にお前、何気に、さらっと言ったんだよ。誕生日だって。これは誰にも話してないなって、祝ってもらえてないなって思ってね。みんなを誘ったんだよ」

「えっ! でも、でも………」


 茉琳の目に涙が滲み出でくる。


「「「茉琳。誕生日おめでとう」」」


 とうとう,溢れて涙が流れ出した。


「うっ、ウチのためなんかのためえ……」


 茉琳は、話そうとしてくるのだけれど涙が溢れ出ているせいか、言葉が閊えてなかなか話せないでいる。 多少落ち着いてきたかと


「ウチなんか,祝う様なヒィとおりゃあせんと思うてた。せやから、せやから。うわぁーん」


 また、茉琳は滂沱の涙を流してしまう。

暫くして、やっと泣き止んだ頃に、翔は包みを茉琳に渡す。


「これがプレゼント」

「翔には、前にポエムもらってるなり?」

「あれは、略奪されたの、こっちはプレゼント」


 早速、茉琳は包みを開けていく。


「これはオクシタンのハンドクリーム! 人気ブランドなしや!」

「どう、ネットで調べたんだけど,よかったかな? 他意はないから」


 茉琳は、ヘッドシェイクのように被りを振る。何度も。何度も。

 側に座る、かおリンは、やはりトートバッグから、パッケージを取り出して茉琳に渡した。


「じゃあ、これ。あきホンは、ちょっと来れないから,私が代わりに。因みに他意はないから」

「ウチも出したから3人合同たい。開けてみー」


 請われて茉琳は、包みを開けていく。


「これってディオールのフローラルリップ」

「どうねえ。お気に召したとぅ?」


 再び、彼女は頭をシェイクし出す。それが治まった頃、徐にかおリンが茉琳の耳元に顔を近づけて内緒話を始める。


 ブン


 音が出そうな勢いで振り向き、茉琳は翔を凝視した。その目から涙が再び溢れ出す。そして彼女は堪えきれずに目を瞑り上を向いたのだけれど涙は止まらない。


「なんで、そんなことしてくれるなしー、翔のバカァー」


 そんなことを叫んでいる。


「でも、でもウチも好きやしー」


 とうとう想いも吹き出した。

 それには翔も慌て出した。茉琳にかおリンが何を吹き込んだかがわかったのだ。


「かっ、かおリン,だめだよ。言っちゃあ。茉琳も誤解するよ。秘密って言ったじゃないですか。茉琳,違うからね」

「他意はないなんて,恥ずかしがらないの。思いの丈をぶちかましなさいって」


 かおリンが宣う。翔は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

実はリップの購入にも、翔は資金提供している。リップを異性に渡す意味は…。


 しばらくして、店員に濃厚抹茶クリームのロールケーキを人数分頼み、同じく頼んだジャスミン茶も全員楽しんだ。


「なあ、茉琳。茉琳の茉って字は、どう言う意味か知ってる?」


 茉琳は、赤くなって冷めない頬を恥ずかしながら、チラッ、チラッと翔を覗き見ては答えない。


「それはね、茉莉花。ジャスミンの一種。このお茶ってことなんだね」


 茉琳は、顔を綻ばせて、答えがわりに微笑んでいる。

そして、首肯した。


うん、ありがとう








後日、居酒屋ってことを、あきホンに聞いたところ、すぐ了承された。言ってみるもんです。





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