人に言えない秘密

涼風すずらん

第1話人に言えない秘密


 僕には人に言えない秘密がある。


 人の心が読めるんだ。


 昔の人はなんの力もなくほのぼのと平和に暮らしてきたけれど、今は誰もかれもが特殊能力を持っている時代だ。

 僕に与えられた力は人の心を読む力。これは唯一無二と言っていいだろう。政府が調査した国民の特殊能力一覧表にも載っていない特別な力だ。特殊能力の種類は決まっていて必ず一覧表に載っている。僕は例外なのだ。


 僕がこの力に気づいたのは小学校に上がったばかりの頃だった。担任の先生の心を読んでテストに出る部分を知って、クラスのみんなに教えてしまったのだ。僕がもっと早い段階で自分の能力に気づいて、そして賢い子供だったなら黙っていただろう。もちろん僕は怒られ、どこでどう知ったのか問いただされた。

 僕は正直に人の心が読めるんですと答えた。思えばこれも馬鹿な回答だ。先生からはふざけるな! と怒られ、両親からは嘘をつかないで正直に答えなさいと言われた。そう、誰にも信じてもらえなかったのだ。それもそうだろう。政府の調査には『人の心が読める』という特殊能力は記載されていないのだから。仕方ないのでこっそり職員室に忍び込んでテスト用紙を見たということにした。

 そんな経験もあって僕はこの特殊能力について一切人に話さなくなった。この特殊能力、不便なのが無意識で行われるということ。人の心を読む・読まないの選択ができないのだ。ああ……切り替えさえできれば便利な能力なのに。


 それから大人になり、僕は人の少ない田舎に引っ越した。人に会うたび心を読んでいたら疲弊してしまう。実際子供の頃は必要以上に外出しないようにしていた。

 しかしそれでも全く人に会わず生活することはできない。今もほら、女の人が歩いてくる。もう少し近づいたら彼女の心を読んでしまうだろう。






 私には人に言えない秘密があります。


 それは特殊能力を持っていないということです。


 何も持っていないのは恥ずかしくて、両親にすら言ってません。一番多くの人が持っている特殊能力『一度も信号で止まらず目的地へ行ける』を持っていると言っていますが、車に乗るようになってからは疑われることが多くなりました。幸いにもここは信号の少ない田舎なのでまだ疑われている程度ですが時間の問題でしょう。


 どうして私には特殊能力がないのですか? 必ず持っていると言われているのに……。


『欠陥品』


 そんな言葉がずっと頭の中で繰り返し囁かれています。

 気分転換の散歩のはずなのに落ち込んできました。ああ、このままどこかへ行ってしまいましょうか。誰もいないところに。

 こちらへ歩いてくる男性に人っ子一人いない場所はありますかと聞いてみましょうか。


 声をかけようとすると男性はなぜか驚いた顔をしていました。

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