【018】追跡

 □高橋 美香


 もう、どういうことなのさ。

 偶然、隣町に出かけたと思ったら、ナナを見つけてしまった。

 駅前で、誰かと待ち合わせしていた。

 ナナは前に好きな人がいるって言っていた。だから、もしかしたらデートかもしれない。そう思って、ひとまずそのお相手の顔だけは確認しようと思った。

 そしたら、その相手が多村だった。

 どういうこと?

 なんで、多村が。

 というか、多村のイメチェン具合が尋常じゃない。不覚にも、私でもドキッとしてしまった。

 なんだ、アイツ、磨けば光るじゃない、とか。

 そんなことも思ってしまった。

 けど、そんなことはどうでもいい。

 どうしてナナが多村と一緒に?

 隣町のショッピングが急遽、ナナの追跡に変わってしまった。二人が入ったのは複合商業施設。その洋服屋。

 お互い、試着して見せ合いをしている。

 その洋服屋はカップル率が多かったけど、二人はどのカップルよりもいちゃついていた。正直見ているこっちが恥ずかしくなるレベルだ。

 ナナが多村に服を渡して試着させようとしている。その服はどれも多村に似合っていた。

 ナナが代わりに着替えることになった。

 試着室から出てきたナナは女の私も見惚れた。他のカップルもナナを見て驚いていた。

 それほどまでにナナは輝いていた。相変わらずの美少女っぷりである。

 多村が何か言うと、ナナは満更でもなく照れていた。二人して笑っている。

 あんな笑顔、見たことがなかった。

 私には決して見せてくれなかった笑顔。

 なんだろう。モヤモヤする。

 いや、このモヤモヤの正体にもう気づいている。

 疎外感、孤独感、苛立ち、怒り。

 それら全部がごちゃまぜになったもの。

 二人が次に行ったのは小物を扱うお店。

 綺羅びやかなアクセサリーが棚に並んでいる。

 私は少しだけ距離を縮めた。

 二人の会話が聞こえてきた。

『ミサくん、お揃いのもの、買おっか』

 みさくん……。

 あの時も、ミサくんと言っていた。

 やっぱり、ナナの好きな相手は……多村なのか。

『これとか、奈々花さんに似合うかな?』

 奈々花、さん!?

 多村のくせに、ナナのことを名前呼びするなんて……。

『え、そうかな。……えへへ』

 くっ、かわいい……!

 けど、ムカつく。ムカつくぅぅぅっ!!

 何がどうなっているのか。

 本当にわけがわからない。

 その時にはもう、逃げ出していた。

 私には、ナナがわからない。

 友達が上手くできなくて困っていた私に一番初めに声をかけてくれたナナ。昼休みに一緒にご飯を食べてくれるナナ。放課後や休日にショッピングを楽しむナナ。それが、私の知るナナ。

 けど、最近のナナは違う。

 何か隠している。

 それが怖い。

 あなたは、誰なの? わからない。

 わからないわからないわからない。

 どうすれば――。

「高橋美香さん、ですよね?」

 声を、掛けられた。

 誰に?



 □井上 麗奈


 いやいやいや、ちと待たれり。

 これ、どういう状況?

 痴漢事件に関わりがあるかもしれない中野奈々花と高橋美香に会いに行こうと家に向かったはいいが、二人は隣町に出掛けている。

 ということで、隣町に来た。

 早速、高橋美香を見つけた。

 が、状況がおかしかった。

 高橋美香は物陰に隠れていた。

 そう、何故か尾行していた。

 そして、尾行相手が中野奈々花と多村弥咲だった。

 …………いやいや、どゆこと?

 私の桃色脳細胞では、高橋美香は実は多村弥咲のことが好きで、その恋敵である中野奈々花との友情か、恋かを選ぼうと葛藤し、その末にストーカー行為に至っている、という妄想。

 ……んなわけない。というか、恋愛経験ゼロの私が幾ら考えても仕方がない話だ。

 だが、偶然とは思えない。

 中野奈々花と多村弥咲と高橋美香。

 この三人が奇しくも揃っていること。

 中野奈々花と多村弥咲を見る限り、恋人にしか見えない。いちゃつきっぷりは正直妬ましく思う。

 できれば、私も葉山部長と……。

 と、話が脱線した。

 多村弥咲はいじめられているのではないのか? 中野奈々花は隠れて交際していた?

 わけが、わからない。

 中野奈々花と多村弥咲は休憩代わりか、ショッピングモールにある喫茶店へと入っていった。

 私も入ろうかとしたが、突然と高橋美香が走り去っていくのが見えた。

 私は高橋美香を呼び止めてしまった。

 高橋美香は驚いた顔を浮かべていた。

「だれ……?」

「刑事課の井上です」

「あ、刑事さん……あのときの、」

 高橋美香は私に見覚えがあったのか、納得したように頷いている。

 荒れていた息を整えると、私に目を合わせた。

「それで、私に何か用が?」

「立ち話もなんだから、少し落ち着いた場所で話さない?」



 □多村 弥咲


 良い雰囲気の喫茶店に来た。

 けど、最近は喫茶店だと刑事さんたちの事情聴取を連想してしまったりしている。

 奈々花さんは壁際の一番端の席を選んだ。向かい合うようにして座る。

 僕はホットコーヒー、奈々花さんはカフェオレを注文した。少し経つと、それらがやって来る。ホットコーヒーを飲んでひと息。

「奈々花さん、今日はありがとう」

「えっ?」

「あまり外に出る機会とか、なかったから、今日は楽しかった」

「わたしも、楽しかったよ」

「……奈々花さんはどうして今日誘ってくれたの?」

 僕の最大な疑問。

 奈々花さんは目を丸くした。

「それはミサくんと出掛けたかったからだよっ……って、九割方そうなんだけど、実は聞きたいことがあったんだぁ」

「聞きたいこと?」

 奈々花さんはさも自然な振る舞いで。

 僕は不意を突かれた気分で。

 訊かれた。

「ミサくん、最近佐藤さんと一緒にいるよね? 何しているのかな?」

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