【015】空気
□学校裏サイト 掲示板
#459 12月12日23:45
ねち夫を殺したのはTだ。
#460 12月12日23:46
なあ、それってマジな話なの?
#461 12月12日23:46
ほら、あのクラスって元々いじめが酷かったろ? いじめの中心にいるのがTらしい。
#462 12月12日23:48
Tと同中の者です。Tは両親を事故で亡くしているらしい。ねち夫が家族を侮辱したから殺したんじゃ
#463 12月12日23:49
462.天才か
#464 12月12日23:51
その事故聞いたことあるぜ。確か、信号無視してたって話
#465 12月12日23:53
あ、ワシは運転ミスって聞いたぞい?
#466 12月12日23:53
人はねたんじゃねえの?
#467 12月12日23:54
あやふやしてんなぁ
#468 12月12日23:56
んなことより、実際どうなの?
Tは殺してんの? 殺人犯とか一緒に授業受けるの無理だわー
#469 12月12日23:58
真っ先に殺されるんじゃね?
#470 12月13日00:01
秋ヶ丘って昔から不祥事ヒデえよな
#471 12月13日00:03
Tはいじめられて当然
#472 12月13日00:04
これは制裁だ。正当な手段だ
#473 12月13日00:05
うわ、三組の登場だぁ
□多村 弥咲
「これって……」
佐藤さんとコンピュータ室に入ると、一番端の席で学校裏サイトと呼ばれるサイトへ進んだ。
「これが『空気』の正体」
佐藤さんは学校裏サイトの掲示板をスクロールさせていく。罵詈雑言の嵐が次々と書かれている。それは今も続いているようだ。
「このサイト自体ができたのはずっと昔から。でも、このサイトでは弥咲我悪者になるようにチャットを打っている人がいるのは間違いない」
佐藤さんは過去の掲示板を探っているようだった。
「ねえ、これはさ、もしもの話なんだけど」
「ん?」
佐藤さんの顔を見た。
佐藤さんはパソコンに視線を向けたまま、話し続ける。
「よく推理小説で聞くじゃない? 実は田中を殺したいやつがいて、自分が犯人と思わせないように、弥咲を犯人に仕立て上げた、とか」
「……」
僕は息を呑んでいた。
実際、そうであったら、確かに怖い。
「積極的に弥咲のことを書いているのは三組の人達っぽいね」
僕は流れるコメント欄を読みながら言う。
時折、あ、この人誰だかわかるな、と思うほどにコメントに個性が出てしまっている人もいる。
「……私は一年三組じゃないから、わからないけど、どういうクラスなの?」
「うーん、どうだろ。僕視点からじゃあんまり変なことは言えないし、しいて言うなら、スクールカーストがハッキリしてると思うよ」
「スクールカースト? なにそれ?」
「え? 知らない?」
「うん」
驚いたと同時に、納得もした。
佐藤さんはスクールカーストで言えば上位だ。その単語を意識する必要もない位置にいたのだろう。その単語を知る、ということは意識している証拠だ。
「まあ、クラス内での、地位みたいな、もの?」
「う、んん?」
クラス内に地位が付くのが、佐藤さんには理解できない様子だった。
「ウチのクラスじゃあ、谷山君、な……中野さん、西田君、高橋さんみたいな人がクラスを引っ張ってるのが、直感的にわかる。後は中間層に海老名さん、倉橋さん――」
「ちょ、ちょっと待って。弥咲、……クラスメートの全員把握してるの?」
「? そうだけど?」
「……なんていうか、すごいね」
「???」
何がすごいのかよくわからなかった。
「あ、見つけた。一番最初のコメント」
佐藤さんの答えに、僕もパソコンを見た。
そこには――。
#035 10月18日15:24
クラスにいる女子Sの痴漢に遭った。
そのの犯人は幼馴染みの男Tだ。
□井上 麗奈
「見つけた……」
そもそも西田は学校裏サイトなるものが誰でも入れると言ったものの、それを探すまでの過程を一切口にしていなかった。お陰で一日がかりで探す羽目になってしまった。
そもそも、こういう裏サイトを作ることに嫌悪感を覚える。が、今の問題はそこではない。どうせ消してもどこかでまた増える。もぐら叩きに興じるつもりはない。
コメント欄には吐き気がした。
秘匿性を重視すると、こうなるのか。
一年三組の異常性に、少し気づけた気がする。
けど、収穫はあった。
この始まりのコメント、と言うべきか。
システム上、コメントを打った時間が記載されるらしい。
少し、驚いた。
そのコメントが打たれた時間は、痴漢事件が起きた当日。……いや、起きた直後だったからだ。
それって、つまり……。
□高橋 美香
え、ちょ、待って、え?
なんで、多村と佐藤さんが一緒にいるわけ?
あー、どうしよう。なんか、見ちゃいけないものを見た気分。
コンピュータ室から出ていくのが見えてしまった。何かが、あるのかな?
あの二人は、痴漢事件が遭って、複雑な関係のハズ。一緒にいるのを初めて見た。
なんだろう。モヤモヤする。
部活が終わっても、それは変わらない。
コンピュータ室に、一体どんな用事があったんだろう?
いや、そもそもコンピュータ室は放課後に使う人が少ないから、空き教室目当てだったとか? ……それでも、なんで?
思えば、最近はおかしなことだらけだ。
ナナのことも、そう。
最近のナナは、何かを隠している。
それも、苛立っているようにも見えた。
言いようもない、不安。
私の足はコンピュータ室に向かっていた。
本当は下校時間が過ぎたあとに学校を彷徨くのは禁止されているから、足早だ。
コンピュータ室に入ろうとして、足を止めた。
人がいる。
誰だ? 誰か、いる?
「――」
声を出さなかったのは奇跡だ。
パソコンの前に座っていたのは。
無表情を貫いていたのは。
ナナだった。
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