第3話 ︎︎照れ屋なお披露目

「おにいちゃんっ、はいあーん♡」


「あ、あーん……むぐ」


「おいしいっ?」


「……う、うん。美味しい」


「だよねぇ良かったぁ。今あげたたこ焼きにはわたしのありったけのあい──気持ちを込めたからぁ~♡」


 今間違いなく愛って言ったよな、うん。隣に居る美乃里の形相がとんでもない絵面になってるんだけども大丈夫なのかこれ。命の危機を感じる。


 とまあさておき──海辺から満足して戻って来た智香ちゃんと美乃里、屋台から帰ってきた紗彩ちゃんも加えて、現在テント内には男(俺)が一人、麗しき美少女たちが四人という色んな方面から恨み節を買いそうな何とも贅沢な構図となっている。


 それなりに値の張る高性能で大きめなテントを用意したとはいえ、五人も揃えばけっこうギチギチに圧迫された空間の中で漂う女の子特有の甘い香り……内心かなりドキドキしているのを悟られないよう、俺は平常を取り繕う。


「ここの海岸って海の家とかないんですねー。ちょいっと残念です、それに暑いし」


 ハンディファンの送風に当たりながら再度買ってきたかき氷を口に運び入れている紗彩ちゃん。お腹を下したりしないのだろうか、ちょっと心配。


「……さ、紗彩は、海苦手なの?」


「はい? 急にどーしました美乃里さん? あたしはふつーに好きですけど」


「だ、だって、まだ、海に入ってないっぽいし、その服一度も脱いでないし」


 おずおずと遠慮がちに口を挟む美乃里。


 美乃里は紗彩ちゃんが大好きだからなぁ……一緒に遊んでくれないことに少し不満なんだろう。


「あー……その、あたしは遊ぶよりも、悠々と景色を眺めていたいロマンチスト的なアレなんで」


「ろ、ロマンチスト? よ、よく分かんないけど……でも、智香に付き合うのも疲れたし、そろそろ紗彩も一緒に遊ぼーよ」


 直後に「なんでそゆこと言うのッ!!」と憤慨する智香ちゃん。静粛に。あと口の中のたこ焼き飛び散ってるから。


「あたしをごしょもーなんですか? ん、んー……」


「……? な、なに? なんかイヤなの?」


「い、いえ、イヤってわけじゃないんですけど……その、こういう公共の場で素肌を晒す行為に若干抵抗があるといいますか……あたしの体なんてみっともないですし」


 紗彩ちゃんは恥じらうように自分の肩を抱き、なぜか俺から目を逸らす。何もしてないのに好感度が下がった気がするのはきっと気のせいだと思いたい。


「さ、紗彩はスタイルいいじゃん。こんな私みたいなチンチクリンとは違って、大人びてるし」


「あ、ありがとうございます。美乃里さんこそスタイルいいですよ? そんなチンチクリンだなんて言い方は良くないです」


「そ、そう? あ、ありがと。さ、紗彩にそう言われると、ちょっと自信付くかも……」


「はい、十分に素敵です。なのでもっと自信持ってください?」


「う、うん。……えへへ」


 ……いいなあ、この二人の関係性。何というかこう、微笑ましくて。保護者目線で見守っていよう。


「──じゃなくてっ。だからその、紗彩とも一緒に遊びたいのっ。仮に変なヤツが絡んできてもお兄が全てボッコボコのフルコンボにしてくれるから安心だし」


 それは言い過ぎ。


「……っ。ですけど、やっぱり、恥ずかしい……」


「紗彩を変な目で見てくるヤツは全部私が追い払ってあげるからっ。と、智香だっているし」


 美乃里に見遣られた智香ちゃんは「任せて! 紗彩を困らせる卑しいヤローどもは全部お姉ちゃんがギッタンバッコンして海の底に沈めてやるからッ!」と勇ましく豪語。いつから暴力系になったのキミは。


「……」


 強気に迫られて言い淀む紗彩ちゃん──が、しかし。すぐに表情を明るくさせて美乃里に向き直ると、


「分かり、ました。そうまで仰って下さるなら、少しだけ」


「う、うんっ、遊ぼっ、一緒に!」


「はい」


 音を上げたように苦笑していた。


 ……良かった。さっきからずっと周囲の目を気にする素振りを見せていたし、実は心の中では海を楽しめていないんじゃないかと心配していたが……この表情から察するに、そういうわけではなさそうだ。


 海までやって来た今日の目的はあくまでもひまりちゃんを元気づけるため。とはいえせっかくの海であるし、みんな仲良くこの機会を満喫してほしい。お兄ちゃんとしての心からの願いだ。


「じゃあその……つまらぬものですが、失礼します」


 そう言い、紗彩ちゃんは着ていたラッシュガードを脱ぎ──露わとなったライトブルーの三角ビキニ。


 シンプルながらも中学生離れした紗彩ちゃんの恵まれたスタイルを良く際立たせるナイスチョイス。雪のように透き通った色白の肌はさながら名画のように繊細で、スラリと伸びた両足はモデル顔負けの長さ。


 そして元より美人なルックスを掛け合わせて全身を捉えると、これはどう言い表せばいいのか──最低限言えることは一つ、俺の目は釘付けになっていた。


「ど、どぉですか? あたしのこんな姿、別に、大したもんじゃないでしょーけど……」


「……可愛い」


「へっ?」


「めっちゃ可愛いよ、紗彩ちゃん。ちょっと今、本気で意識飛びかけた」


「な、なに言ってるんですかお兄ちゃんっ。そ、そういう悪ふざけは」


「悪ふざけじゃないって……本気で可愛い。ああ、ほんと可愛い。なんてことだ、この世にこんな素晴らしい女神が存在していただなんてッ……!」


「あ、あうぅ……や、やだぁもぉ。お、お姉ちゃあん」


 うわ、めっちゃ照れてる紗彩ちゃんめっちゃ貴重、可愛すぎか。よし、もっと褒めてみようかな──と思った矢先、


「なあぁああに口説こぉとしてるのぉおおおにいちゃあぁああーん~~??」


「えっ、と、智香ちゃんっ? 急にそんな顔して一体どうし──ぐえぇえええええッッ」


「んぁああああああおにいちゃんのうわきものぉおおおおおおおおおおッッ!! もっとわたしも褒めてぇえええええええええーーッッ!!」


 待って、そのヘッドロックはマジで待ってッ、苦しいッ、死ぬッッ! あとついでに大きなお胸で溺れ死ぬッッ!!


「……」


 ああ、引き離されたひまりちゃんが寂しそうな目で俺を見ているッ! は、早く寄り添わなければッ、


「……おにーちゃんのばか」


 俺の胸に東京タワーがズドンと刺さった。


「……お兄のバカ。行こ、紗彩。一緒に水掛け合いっこしよ」


「あ、は、はい。……すみません、お兄ちゃん。……エッチ」


 なんで?


「うぅうううわきものぉおおおおおおおおおおーーッッ!!」


「お、落ち着いて智香ちゃんッッ!! 死ぬッ、俺死ぬッッ!!」


「んあぁああああああああああああーーッッ!!」


 頼むから落ち着いてくれ智香ちゃん。冗談抜きでこのままいくと俺の首がポッキリ逝っちゃうからッ……あ、折れた。死んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日・水・金 12:00 予定は変更される可能性があります

お隣の三姉妹はお兄ちゃんと呼びたいらしい MOMO @momokichisan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ