高校時代の同級生と飲んでいる

403μぐらむ

飲め飲め

数時間で書き上げたので粗があるかと思いますけど許して!



「うぇーい! カンパーイっ」

「うっし、乾杯!」


「あけましてーおめでーとーうっ」

「っつ―ても、すでに小正月も終わった時期なんですけどね―」


「「あははは~」」


 俺、小杉俊作こすぎしゅんさくは絶賛新年会を楽しんでいる最中。

 新年会と言っても俺ともう一人、尾花菜々海おばなななみの二人だけで飲んでいるんだけどな。


 菜々海とは高校の二年生、三年生と二年連続の同級生だった。

 高校時代はかなり仲が良くて、女子の中ではカノジョ以外じゃ一番よく話したし、もしかしたらカノジョ以上に一緒に青春を謳歌した女友達かもしれない。


 そんな菜々海とも進学先の違いから高校卒業以来連絡は取っていなかった。

 俺も慣れない一人暮らしと新しい環境での生活にドタバタしてしまい、そういった連絡ごとなど念頭になかったといえばそれまでだ。


 今みたいに気軽に連絡取れるLINEとかあれば、少しは違ったかもしれないけどあん時の俺のケータイはガラケーだったしね。

 まぁ、菜々海以外にも仲良かった高校の友達とも段々と疎遠になっていったので遅かれ早かれの違いでしかないとは思うのだけど。


 そんな俺と菜々海が何故にここで楽しげに酒を酌み交わしているかというと――まあ、偶然の再会ってやつだったりする。


 半年ほど前、転勤で東京に出てきた俺は早速新宿の駅構内で迷子になっていた。






「――っと。今乗ってきたのが湘南新宿ラインという路線で、次に乗るのがJRじゃなくて都営の大江戸線なんだよな……。ってどこに行きゃいいんだよ……」


 案内看板が多すぎて、俺は大江戸線の文字を見つけられなくなって焦っていた。


 その姿があまりにも田舎から大都会東京に上京したての可哀想な青年にでも見えたのだろう。一人の女性が声をかけてきてくれたんだ。


「迷いましたか? お手伝いしましょうか」

「あ、ありがとうございます。あの、大江戸線ってどっちにあるでしょうか?」


「ああ、それはですね……あれ? もしかして俊作?」

「え? あ、はい。確かに小杉俊作ですけど、どなた様でしょうか」


 いきなり名前を呼ばれたのでビビる。こんな美人の知り合いはいなかったはずなんだけど。


「あたしだよ。菜々海、尾花菜々海だよ。久しぶり! こんなところで会うなんて奇遇すぎるね!」


「えっ……マジか? 菜々海なのか……いや、見違えたよ」

「俊作は変わんないね。学生服がスーツに変わっただけみたい」






 それからは大体週に一回乃至二週に一回は食事二割飲み会八割って感じで会うようになった。


 一番の女友達、菜々海からすると一番の男友達ってことだったので離れていた一〇年なんて時間はあっという間に埋まっていった。


 飲み会はいつも七時ころから始まって終電が無くなる手前で解散となる。

 偶に飲んだあとカラオケとかに行くこともあるが、オールなんて出来る歳でもないし終電が無くなってタクシーで帰れるほどお給金も宜しくないので頑なに守っていたりする。


 去年のクリスマスもここじゃない別の居酒屋で二人して飲んでいたので、お互いにステディな異性はいないものと認識している。

 俺も高校のときに数ヶ月だけいたカノジョと大学のときにやっぱり数ヶ月だけいたカノジョくらいしか交際の遍歴はない。そしてもうカノジョいない歴何年なのか数えるのも止めた。


 一応童貞だけは卒業しているが、ただそれだけのことであって自慢できることではないのでこの件については口をつぐむことにしている。


 そう、クリスマス。あの日は酷かった。思い出すだけでも笑えるのか泣けてくるのかよくわからない。ま、例年のようにボッチじゃなかったからいいのかもしれんけど。






 ――二人で飲んでいると外から入ってくる客がなんだかウルサイ。なんだろうと耳を傾けると雪が降ってきているってハナシ。


「外は雪だってよ」

「ホワイトクリスマスって言えばシャレオツだよねー」


「俺等はローストチキンじゃなくて鶏の竜田揚げだけどなー」

「竜田揚げで上等じゃなーい」


「問題なす」

「でっしょー⁉ よしっ、茄子の揚げ浸しも頼もう」


 クリスマスのくの字もないし、色気よりも食い気と飲み気だけだった。


 そんなこんなでラストオーダーまで飲んでいたら悪酔いしてしまったらしく、とうとう菜々海がダウンしてしまう。


「も~飲めないし、動くのしんどー」

「帰るんだからもう起きてくれよ」


「むーりー。歩いたら吐く~」

「吐くな、勿体ない」


「もったいないんだぁー。じゃ、やっぱ無理。俊ちゃんが送って行ってよぉ」


 タクシーの配車アプリを使うが、今夜はクリスマスかつ雪が降っていることもあって車が来るのがいつになるかわからない。


「菜々海、ちょっと待っていろよ。一か八か道に出て流しか個人タクシー捕まえてみる」

「さすが俊ちゃん。男だね!」


「何言っているかよくわかんないけど、寝るんじゃないぞ? 俺、お前んち知らないんだからな」


「そしたら俊ちゃんのお家にお持ち帰りくださ―い」

 馬鹿なこと言っているんじゃないよ……。


 菜々海はとても魅力的な女性だ。俺の知る中でダントツの美人だし、とても可愛らしいひとだと思う。


 酔っ払ったこの姿も俺のことを信頼してくれているからこその醜態だと思っている。

 だって、俺もそうだから。菜々海といると変に緊張とかしないし、無駄に自分を誇張するようなこともしないで済む。等身大の自分でいられるんだよな。だからとても安心できる。


 この子がずっと俺の傍にいてくれたらなんて考えることもあるんだけど、せっかくの構築した今のこの関係を無にする危険は冒したくない。


 守りに入っている、のはわかっているけどあと一歩が踏み出せないでいる。

 これを突破するのに必要なのは勇気なのか勢いなのか……。


 この日もそうだった。


 なんとか個人タクシーを一台捕まえて、菜々海を自宅へと送り届ける。

 タクシーには待ってもらっておいて彼女をベッドに寝かしたらそのまま帰る。玄関の鍵はドアポストに放り込んでおいた。


 あのまま一緒に朝を迎えることがあったなら今頃どうなっているんだか。


「もしかしたら、この新年会もなかったかもしれないしな」


 年末年始は帰省したりしてちょっとお互いに忙しく会える日が作れなかった。

 LINEでは普通に会話できていたから大丈夫だとは思ったけど、クリスマスの夜のこと菜々海はどう思っているのか気になって仕方なかったというのが本音だったり。


 で、今日が今年初の対面。菜々海は普通に笑ってくれるし、楽しんでくれているようでホッとしている。


 場所はいつもの大衆酒場。しかもチェーン店という安価なところ。

 気のある女の子を誘うには些かチープすぎるが、彼女の指定なのでこれは仕方ない。


 俺と菜々海とじゃオトナなバーなんかはぜんぜん似合わないのはわかっているけど。

 最近いいアイリッシュパブを見つけたから今度はそっちに行くのもいいかもしれない。



 去年は再会後ほぼ毎週会っていたのに三週間も空いたから結構久しぶり感がある。

 菜々海もは浮かれているからか飲むペースが早い。おいおい、大丈夫か?


「俊作ぅー! あけおめっ! いえい」

「何度も言うなぁ~それに今更おめでとうってないわー。もうちょっとで二月だぞ」


「うっさい! 飲め」

「言われなくとも飲むワイ」


 俺たちの話の内容はいつもだいたい一緒。

 高校の時の話。

 それぞれの進学先での話。

 会社の話。

 日頃の愚痴。これが一番盛り上がるけどね。


 なんでもない意味のないようなその場限りの話ばかり。

 でも俺らの間ではいくら話しても話が尽きるようなことはない。



 ふと時計を見る。

 そろそろいい時間になってきている。てっぺん前だけど菜々海の状態から終わりにしたほうが良さそう。


 最後のオーダーにハイボールをジョッキで頼む。もちろん二人共だ。ホントなら菜々海にはミネラルウォーターが良さそうなんだけどさ。


 飲み干したらお開きってことでそれぞれの帰路につく。

 もうちょっと一緒にいたいけれど、それはまだ叶わぬ想い。


「それじゃぁ帰るぞ⁉」


 とはいうものの歩けない菜々海。あれだけ飲んでいればこうなるのも必然かな。


 仕方ないのでおんぶすることにする。そろそろアラサーの女性が酔い潰れておんぶとはね。

 今日は時間も早いので電車で送ることにする。そうそう毎度タクシーなんて使っていられないからさ。


 駅まで菜々海を背負って歩く。俺はじゃっかんアルコールを控えめにしておいたからぜんぜん問題ない。


「あれ、尾花先輩ですか?」

「ん? どちら様?」


「すみません、尾花先輩の後輩で菅原と申します。私、尾花先輩とは今一緒のチームなのですよ」

「へーそうなんだ」


「失礼ですがカレシさんですか」

「ちがうよ、友達」


「あの、先輩はお体の具合が悪いのですか? 昼間はぜんぜん元気だったんですけど」

「ちがう、ちがう。これはね、単純に酔い潰れているだけ。ちょっと飲ませすぎたかもしれない」


「えぇっ!! 尾花先輩が酔い潰れるなんて初めてみました」

「そなの?」


 いつもはキリリとしていて、酒の席でも酔うことなんて見たことがないという。ましてや酔い潰れるなんて想像すらできないという。


 菜々海は仕事にも厳しくて、だらしないことすると後輩ちゃんを叱っているんだと。

 でもフォローはしっかりしてくれるので優しくて頼れる先輩だとこの後輩ちゃんは言っているんだけど、それって人違いじゃないよな?


 俺と飲むときはいつも馬鹿みたいにしゃいでいるし、酔い潰れるものも何度も見ている。

 どちらかというと菜々海はだらしないほうだと思われるのだけど。


 どこをどう見てもキリリとしたところなんて見当たらないんだが。俺の認識のほうが間違っているのかな。

 でも今もこの通り酔い潰れておんぶ状態なわけで。


「先輩のことよろしくお願いします。では失礼します」

「ん、任された。君も気をつけて」


 後輩ちゃんもこんな時間まで残業なんてお疲れ様だぞー。それに対してキミの先輩はこんなだぞー。



 さて。


「よっ、菜々海。起きているんだろ?」


 さっきから後輩ちゃんの言葉にいちいちビクってしていたので起きていたのは知っていた。


「な、なによ」

「おまえ、キリリとしたビジネスウーマンなん?」


「他所ではそうよ」

「うそだろ? ぜってー」


「うそじゃないもん」

「「もん」とか言われてもなぁ つっか起きたなら歩けよ」


「やだ。おんぶがいい」


 背中が温かいし、ふにゅっと柔らかい感触も悪くないのでこのままなのはいいんだけど。

 俺の知っている菜々海はうっかり者の甘えん坊。


 高校の時のそれと同じだ。

 当時も生徒会の役員をやるくらいだからしっかりしていたんだと思うけど、俺が知るのはうっかり者のほうなんだよなぁ。


「あなたの前だからよ」

「ん? なんだって」


「あなたの前だけ素のあたしなの。俊作には本当のわたしを見てもらいたから……」


 んーーーーーー。うーーーーーん。そっかぁーーー。


「俺もさ、素だわ。まじで。考えてみたらお前の前で取り繕ったことしたことないよな」

「うん。そうだと思ったしそうだといいなって思っていた」


「まぁお互い……そういうことだったんだな」

「うん……」


 ここら辺はツーカーの仲というか、オトナなのでみなまで言わなくても言いたいことはちゃんと通じている。


「えっと、聞いていいか? いつから?」

「……高二の夏から、だよ」


 マジか。高二の夏って言えば俺に初めてのカノジョができた頃だ。

 俺から告白してオーケーもらって心弾ませて菜々海にも報告したような気がする。

 あのときあんまり話にノッてこなかったのってもしかしてそういうことだったのか。


「あのときあなたは全く気づいていなかったみたいだけど、私、一人ですごく泣いたんだからね」

「うん……」


「すぐ別れたからざまぁって思ったけど、あなたそのせいで恋愛から遠ざかって。私、告白するタイミング失くしちゃったんだよね」

「なんかゴメン」


 あの頃の俺は舞い上がったり落ち込んだりで周りのことなんて全く見えていなかったから分からなかった。


「でもいいの。新宿で再会できたのは運命だと思うの。思っておくの」

「そうだな。あんなの滅多におきることじゃないもんな」


 東京に人が何人いるのか知らないけれど、あの日あの時ピンポイントで会うことなんてとてつもない確率だと思う。運命なんて信じていなかったけど、こればっかりは信じていいと思ってしまう。


「俊作」

「ん?」


「ずっと大好きだったよ」

「ん。もう離れ離れにならないようにしないとな」


 菜々海がギュッと抱きついてくる。


「俊ちゃん……」

「えっと、いまから……ウチくる?」

「うんっ」




 このあと、朝までめちゃくちゃイチャイチャした。



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