バレンタイン・イブ

飛花

バレンタイン・イブ

 来週からテストだなんて知らない。明日、いや0時過ぎたから今日、わたしは幼馴染みの男子に手作りのチョコレートをあげる。


 言うなれば、本命チョコとなるのだろうか。義理チョコとしてあげるけれども。そんなことはどうでもいい。受け取る側はいちいち気にすることないだろう、ましてやあいつのことだし。


 バレンタインといえば、でお馴染みのガトーショコラを作ってみようと思う。母や弟にバレたらからかわれることは確かだから、眠い目をこすりながら夜中に起きる。


 えーなになに、まずチョコレートを湯煎して? スマホでレシピを見ながらゆっくりと作る。人にあげるものだから、絶対に失敗したくない。ゆっくりしすぎていたら夜が明けていた、なんてことないよね?


 ハンドミキサーを落としたり、型が小さすぎたり、オーブンの終了音が大きすぎたり、膨らむのがちょっと小さかったり、綺麗に外れなかったり。けれどなんとか形になった。


 わたしにしては上出来じゃない? そう思いながら少しだけつまみ食いをする。

……ん! 思っていたより美味しい! 失敗したとき用にもう一回分の材料は用意していたけど必要ない。わたしってもしかして天才?


 次にラッピング。まずビニール袋に入れて、それをいい感じの百均の巾着に入れて……うん上出来。


 あ、軽くメッセージもつけないと。そう思ってわたしはメモ帳を取り出して、青のボールペンを手に取った。


『篠崎アオイへ 

 久しぶりに会えて嬉しかったよ

 まあ学校違うし仕方ないんだけど

 今度久しぶりに遊ぼね』

 

 メモ帳を千切ろうとして気づく。一番最近で彼に直接会ったのは、去年のホワイトデーだということに。


 今年もチョコレートを渡すから昼過ぎくらいにいつもの場所に来て、とはLINEを送ったけれど、彼は来てくれるのだろうか?


 突然の不安に、狼狽しそうになる。この一年で彼に恋人ができている可能性はゼロではない。ならば、渡せない可能性もある。今年は一旦置いておいても、来年渡すことができる確率は上げておきたい。


 となると……告白しかないのか? いや、告白したら二度と会えなくなってしまうかもしれないけれど。


 今度はミニ便箋を出して、青いボールペンを握りしめた。


『篠崎アオイへ 

 いつもはメモ帳なんだけど、今年はちょっとした便箋です。

 何故って、今年はアオイに伝えたいことがあるからです。

 わたしはアオイのことが好きです。

 去年から全然会えていないのがちょっぴり寂しいな。

 だから、わたしと付き合ってほしいです。』


 手紙って、自分の心の欠片を入れるものらしい。だからこれほどまでに緊張しているのだろうか。最後の方の字が震えてしまった。仕方ないことだとはわかっているのだけれど。


 わたしはミニ便箋を丁寧に折って、便箋に付属の封筒に入れる。そして、青色の星のシールで封をした。そうして、チョコレートと一緒に巾着に入れた。


 新聞配達の音がした。それと同時に、わたしは手に持ったチョコレートを丁寧に抱きしめた。

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バレンタイン・イブ 飛花 @shil2o

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