花唄
南条足時
花唄(短編ver)
① プロローグ
太郎は高校二年生の夏に熊本県の天草に転校した。親の事情ではなく本人の意向だ。太郎は難関な私立高校に付いていけず、また都会が苦手だった。
9月1日、新しい担任の先生吉永先生が太郎を教卓後ろに立たせ自己紹介が始まった。
「東京から来た紐手太郎です。よろしくお願いします。」太郎の隣の席は女子生徒の彩だった。彩は茶髪のロングヘアと濃いメイクが印象的だった。
次の日、太郎は時間通り校門をくぐり下駄箱で靴を履き替えていると圭佑と彩が現れた。どうやら圭佑と彩は恋人関係らしい。そのまま三人で教室に入った。すると、最初にドアを開けた圭佑は上から落ちてきた黒板消しで粉だらけになった。いたずらを図った張本人は転校生の太郎を狙っていたのかもしれないが、皮肉にも黒板消しは圭佑を直撃した。
朝のホームルームが終わると移動教室で理科の授業が始まった。太郎は圭佑と同じ班だった。圭佑はまだ頭の上が粉だらけだ。午前中の授業が終わると屋上で圭佑と弁当を食べた。
圭佑は言った。「俺んちは貧乏で大学に行く金はない。太郎は大学へ行くのか?」と言った。太郎は答えた「俺は勉強が嫌いで私立高校を辞めた。今は勉強のことは考えたくない。」
放課後、校庭で太郎と圭佑が話していると彩が現れた。彩は圭佑の荷物をかかえて「今からちゃんぽん食べに行くけど太郎も来ない?」といった。
ちゃんぽん長崎亭は天草で数少ないちゃんぽん店だ。三人は小浜ちゃんぽんを注文した。雲仙の名物らしい。彩は麺を勢いよくすすり少し下品な食べ方であった。男子二人も勢い良くちゃんぽんを飲み干した。そのあと三人はカラオケ屋に行った。彩の好きな歌は「怪獣の花唄」のようだ。三人はラストサビの部分をハモりながら熱唱した。そのあと太郎と圭佑はZORNの「Rep」をデュオで歌った。
② 青春時代
1年後、圭佑と彩は破局した。原因は過度な性暴力のようだ。ゴムの有無で揉めた後、結局ゴム無しでやったが身体拘束が許せなかったらしい。圭佑は電気屋さんでかった新しいマッサージ機を試したかったらしく、彩を縄で拘束した。そのあと喧嘩になって現在に至る。彩と圭佑の破局後、彩は黒髪のボブヘアにイメチェンした。大学受験を控えていることもありイメチェンは正解だったのではなかろうか。その頃彼女無しの太郎は成績がクラス1の優等生だった。奇遇にも太郎と彩は同じ長崎大学の推薦を合格した。
彩は太郎のことをまだ男性として意識していなかったが、太郎は彩のことをずっと意識していた。転校してきた時から。卒業式では彩と太郎は一緒に写真を撮った。二人は長崎市内のシェアハウスに一緒に住むことが決まっていた。ちなみにそのシェアハウスは性行為禁止の物件であった。
3月末、二人はシェアハウスに入居した。大家さんのマサオは38歳でこの物件を管理している。掃除や料理は当番制だ。
「はじめまして。よろしくお願いします。」太郎と彩は頭を下げた。
マサオはホストみたいな髪型をしていて若く見える。シェアハウスには他に20代後半の舞と20代半ばの武史が住んでいた。二人は交際中のようだ。大学生活は始まると、太郎と彩はそれぞれ長崎市内でアルバイトをした。太郎は新地中華街で皿洗いのアルバイトに従事した。一歩の彩は家庭教師のアルバイトで稼いだ。大学1年生の夏、二人は初めてお互いの体を許した。市内のホテルに1泊した。彩はひたすらアイスクリームを口の中で味わい続けた。それが終わったあと太郎は彩の果実を味わった。二本の指を彩のトンネルに向けて出し入れしたあと、ゴム付きでダンスを始めた。彩は「逝く」と叫びながらマシュマロを揺らし続けた。翌朝、二人はハウステンボスでデートをしていた。絶叫マシンで思わず「逝く」と叫びそうになっていた彩の手を太郎は握り続けた。
学生時代ずっと仲が良かった太郎と彩だが必然にも別れが訪れた。就職活動で太郎は沖縄のホテルへ、彩は東京の家電メーカへ就職することになった。
最後のデートは学校帰りのカラオケだった。太郎は「遠く遠く」を、彩は「怪獣の花唄」を歌った。
先に長崎を去ったのは太郎で、彩が長崎空港まで見送りに来た。
「離れても忘れるなよ」
二人は空港ロビーでキスを交わした後大きく手を振った。
③ アラサーの幸福
5年後、彩は既にほかの男性と結婚していて子供が2人いた。だが離婚もしていてシングルマザーだった。太郎は相変わらず独身で彼女すらいなかった。太郎はときどきあの歌を口ずさんだ。彩が好きだったvaundyの「怪獣の花唄」だ。彩を失い、忘れられない心境がこの歌とマッチした。
その頃太郎は沖縄ではなく埼玉にいた。彩も東京にいるはずだがどのSNSを使っても返信はないし本人かどうかすらわからない状況だった。だから彩がシングルマザーであることや今どうしているのかを知ることが難しかった。
そんな時、太郎には別の縁談が持ちかかった。親がお見合いを薦めてきたのだ。結婚相談所で知り合ったその女性は太郎と同じ29歳である。黒髪のショートヘアと大きな瞳は彩を思い出させる。太郎は初めてお見合い会場に足を運んだ。「はじめまして。宮本有香といいます。よろしくお願いします」といった。有香はとても美人だし断る要素なんてないはずだ。太郎はその数日後印鑑を押してしまった。
④ 過去がくれたもの
太郎はいま33歳だ
太郎にとっての彩は初体験の相手でしかないのかもしれない。太郎にはいま有香にそっくりなかわいい娘がいて、仕事も順調でとても幸せだ。
それでも時々"あの唄"を聴いては彩のことを思い出したくなる。
でももういいんだ。と割り切って今を生きてる。
青春には戻れないし。
今が大切だから。
END
花唄 南条足時 @nanjovel3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます