🌴南国タイのクリスマスにまつわるお話🎄
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
全1話 年末年始は仕事?休暇?
カズマとチカは年が明けてムエタイの本場タイに取材に来ていた。ボクシングのようにリングでどつきあう現代のムエタイとは違って、どちらかと言うと中国拳法のように独特の型を持つ古式ムエタイの取材だ。そのはずだが・・・・・・
「あ゛〜〜〜ぎもぢい゛〜〜〜」
「チカ! エロい声出すのやめい!」
「だって気持ちよすぎるもん!」
「分かる! 分かるけどその声はやめとき! こっちが恥ずかしゅうてたまらんわ!」
「だって身体の深いトコロをグリグリとおされてほぐされて痛ギモなんだもの!」
「言ってることは正しいけど、その言い方! でもココはめっちゃ気持ちええやろ?」
「うん! はぁ〜、カズマとタイに来てよかったわあ〜」
「せやろ?」
「「はぁ〜、癒される〜!」」
今、二人はタイ式マッサージを受けてまったりしていた。
「タイ式マッサージってプロレス技みたいなイメージがあったけどコレはちょっと違うわね」
「たしかにそういう技もあるけど、ボクはそれはオススメできへん。チカラ抜いてるときに反動使うて背骨やクビを捻ったり曲げたりするのは危ない。昔、タイ式マッサージの総本山のワット・ポーで教えてはるレベルの先生に捻られてスジ違えたもん」
「それはカズマの身体が硬いだけでしょ?」
「うっさいわ! でも足首から腿にかけてはタイマッサージは最高やで! 微妙に角度を変えて丁寧に筋肉を下から上までほぐしてくれるから、ようけ立って仕事をしたり、歩いたりした後は特にええで!」
「分かる〜! ねえねえ、カズマそれはそうとちょっと気になることあるけど聞いていい?」
「なんやねん?」
「タイって仏教の国でしょ?」
「せや」
「なんで街中でクリスマスツリーやらサンタクロースやらトナカイやらのデコレーションをこんなにたくさんみかけるのよ? このタイマッサージ屋さんにも飾ってあるし」
「ああ、はいはいはい。そりゃ日本とおんなじやん? 日本かてクリスチャンがそんなようけおらんでも、仏教徒でもただのお祭りとして、クリスマスを祝うとるやんけ。タイ人もお祭りごと好きやさかいな」
「そういうことじゃなくって、ワタシが言いたいのは今はもう一月も十日を過ぎているのにどうしてってこと! ロシアならクリスマスを昔のユリウス暦の12月25日、今ふつうに使われてるグレゴリオ暦なら1月7日で祝うって知ってるけど、まさかタイもそうなの? それにしたってもう過ぎてるじゃない?」
「タイでもクリスマスは日本と同じ12月25日やで」
「だったらなんで!」
「めんどくさいからや」
「はあ?」
「こっちの、タイの人たちなあ、お祭りごとが大好きで気合の入った飾り付けとかするけど、後片付けが好きでないねん」
「どういうことよ?」
「飾り付けするときはウキウキと楽しいやん? だから、みんなぶわーっと自主的に集まってくるんや。でもそれを片付けるのって別に楽しくないやん? そしたらそれってもう仕事やん?」
「まぁそれはわからなくもないわね」
「仕事やったら責任者がちゃんと決めてやらなあかん。誰がいつ片付けるんかってな。ところが、このクリスマスの飾り付けのお片づけは、正直言って緊急性がない。だから、仕事の優先順位では後回しになるんや」
「なにそれ!」
「せやから、それぞれの飾り付けの場所の責任者次第やな。別にあっても困らんかったらずっとそのままやし。なんだか邪魔やな思うたり、そろそろ片付けた方がええんとちゃうかと思うたら下のものに言うて片付けさせるねん。日本みたいに12月25日過ぎたら、ぱっと切り替わって片付けられるって事はこの国じゃあないわ」
「つまり、ホントにめんどくさいから、誰かに指示されるまで片付けないってわけね」
「まぁそういうことやねん。あと仕事やから、勝手に飾りを処分したら『上司の許可もなく勝手に独断専行した』って怒られて割に合わんもん」
「なるほど。でも、仏教の国なのにこんなに長くサンタクロースを働かせているなんてなんだか皮肉ね」
「いやあ、サンタクロースさん、優しいからきっと喜んでサービス残業してはるで」
「南国タイのサンタクロースさんの勤務状況が、想像以上にブラックだった件!」
「「あははははははは!」」
「いやいやいや、そうではありませんぞ!」
「「え?」」
「失礼ですが、お二人の楽しい会話が、つい耳に入ってしまいましてな」
二人の頭の方から太く低い男の声が聞こえた。今の二人からは位置と角度のせいでその声の主を見ることはできない。
「サンタクロースの勤務状況は確かに過酷です。でもそれは12月24日の深夜までの話。よい子のみんなにクリスマスプレゼントを配ってしまったら、もう仕事は無いのですぞ」
「あぁそう言われたらそうかも」
「タイではサンタクロースのディスプレイが1月半ばまで飾られていますけれど、サンタクロースも配達の仕事をしているわけじゃなくて、ただココにいてボケーっとしているだけですからな。まぁいい骨休み。バケーションですな」
「たしかにせやなあ」
「大体真冬の北極圏、ラップランドに急いで帰ったって寒いばかりで仕方がありませんぞ。こうしてあったかいところで日光浴したり、ゆっくり休んでマッサージで体をほぐしてもらう方がずっとよいです。仕事が終わったらビジネスライクにさっさと帰されるよりも、のんびりしていっていいこの国のほうが私には居心地がよいですぞ」
「「ええ?」」
「私としてはこのままクリスマスのディスプレイはそのままにしておけるとありがたいのですが、旧正月も近いですし、残念ながらいつまでもこのままと言う訳にもいかないですな。私のバケーションもそろそろ終わりです。ああ、私のほうはマッサージが終わりましたから、お先に。お話しできて楽しかったですぞ。ホーホーホー」
2人の頭の方から遠ざかって行く足音がした。
「「ちょっと待って!」」
カズマとチカはマッサージをやめさせて慌てて後ろを向いた。
そこにはマッサージ店を出ようととしている大柄な白人男性の姿があった。真っ赤なベースボールキャップからはみ出した長い白髪。真っ赤なTシャツに真っ赤な短パン、足元はビーチサンダルだ。腕も足も毛むくじゃらで、少し日焼けしすぎて赤くなっていた。
大男はこちらを振り向き片手を挙げてウインクしながら小さな声でこう言った。
「メリークリスマス」
オマケ)近況ノートに関連写真を貼りました。
https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818023212110949810
https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818023212250351215
🌴南国タイのクリスマスにまつわるお話🎄 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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