20話

 そしてそのまま幸子さんもケー君もいなくなった。

 しばらくして、隣のおばさんが言うには

「今度新しくできたデパートに行ってみたら幸子さんが働いていたよ」という。

 父も私も家族中が心配していたのに、彼女はのうのうとデパートの売り子さんになっていたとは―――。

 最始に彼女を連れて来た親類の人に問いただすと、幸子さんのお父さんが、新しいデパートで幸子さんが働く申し込みをして、支度金が万円を貰ってしまったという事らしい。それで仕方なく?私の家に無断で、デパート勤めをしたようだった。あの当時の五万円は大金だ。

 そしてそのデパートで働いていた近郷の人と結婚したという。

 それから三年後、私は山ちゃんの家に向かう途中、子供の手を引いて、背中に赤ちゃんを負っている女の人に会った。会ったといっても、角を曲がる時、私は自転車だったので、曲がり角で止まった。そして目の前にいた女の人を見た。

 彼女は幸子さんで、男の子の手を引いて、もう一人背負っている。

 私はまだ結婚もしていないというのに、彼女はもう二人の子持ちなのだ。その驚きで声も出なかった。

 幸子さんが私の家を出る前の晩、彼女は夕食の用意を台所でしていた。茶の間と台所の間のガラス戸は空いていた。

 茶の間にいる私が何気に見た瞬間、幸子さんは好男兄を見て、流し目を送っていた。たまたま好男兄が来ていた時だった。

 夕食後、私は茶の間で、帳簿の整理をしていた時、好男兄が私に聞いた。

「あの幸子とかいう人はどこの部屋にいるの」と。

私は二階に上がったすぐの部屋と教え、またソロバンをはじいていた。

 暫くして私が二階に行くと、枕元のライトが点いていて、ノートに走り書きがしてあり、読んでくれというように開いてあった。

 その内容は、好男が、自分が眠っている所に来て、抱きすくめられ、キスをされた云々とあった。

 私は気にはなったが、流し目をして誘っておいて、そんなことを書く彼女に嫌気がさしていた。それで家族には黙っていたのだ。それが原因でいなくなったとは思えない。でも計画的にいなくなったとするなら、こんな風に原因を作ろうとすることも分からなくもない。浅はかな考えではあるけども。

 だったら、私が茶の間で帳簿の整理をしている間に、隣の部屋にいるケーくんとも何もなかったとは言えない。ケーくんをも手玉に取り、働く場所をもかっさらい、結局、自分はデパートに勤めているとする彼女は、どういうつもりなのか。

 たかだか十八歳で、兄にもケーくんにも色気を使い、あげく、まだ約束が開けない家から出ていき、デパートに勤め、勤め先の店員といい仲になり結婚したという事は、たとえ実の父親から逃げたいとばかりは言えないのではないか。それは彼女自身にならなければわからない事だろうが、どうしようもないことなのだろうか。

 私の父の立場はどうなるのだろうか。

 女の武器とはよく言ったものである。同じ家にいて、母と祖父の交わりなどを見て育ったんだからか、彼女が女になってしまったのは仕方ない事なのか、それとも父親から逃げるには、結婚しかなかったのか、私の知っている彼女は、もっと素朴で、男を手玉に取るような人ではなかったと、思いたい。

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私のできるまで なまはげ @namahagejp

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