初恋

口羽龍

初恋

 真菜子(まなこ)はいつものように東京の夜を歩いていた。その横にいるのは彼氏の孝二(こうじ)。真菜子は孝二と同じ高校に通っていて、高校で知り合った。最初はそうじゃなかったが、徐々にひかれていき、デートをするまでになった。


 今日もデートをしている。だが、帰らなければいけない時間だ。これ以上帰らないと、両親が心配する。それは、孝二もわかっている。孝二は両親と離れ、独り暮らしなので、帰らなくてもいいが、真菜子は家族と暮らしているので、そうはいかない。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバイ」


 孝二と別れて、真菜子は家に向かった。家までは電車で20分、そこから徒歩で5分ぐらいだ。そんなに遠くはない。


 真菜子は帰りの電車の中で、孝二の事を思い浮かべた。孝二と仲良くなって、いつかは結婚したいな。だけど、恋の事は、両親にはまだ秘密にしておきたい。どう言うかわからないから。


 20分ほど走って、電車は真菜子の家の最寄り駅に着いた。真菜子はホームに降り立った。冬の冷たい風が吹く。真菜子は少し凍えた。早く家に帰って、温かくしたいな。


 5分ほど歩いて、真菜子は家に帰ってきた。家は明かりがついている。まだ母は寝ていないようだ。


「ただいまー」

「お帰り、遅かったじゃないの」


 真菜子が家に帰ってくると、母の声がした。いつもの声だ。


「バイト!」


 だが、真菜子はアルバイトだと答える。本当はアルバイトなんてしていないのに。恋の事を話してはならない。


「そう・・・」


 だが、母は疑わしいと思っていた。こんなに遅くまでアルバイトをするなんて、ありえないだろう。


「ごはん、もうできてるから、食べなさい」

「はーい」


 手を洗った真菜子は、ダイニングにやって来た。テーブルの上にはカレーライスがあるが、カレーライスは冷めている。少し前に作って、そのままにしていたようだ。真菜子は何も言わずに、食べ始めた。


「そっか、バイトしてるの」

「うん」


 母は嬉しそうだ。真菜子もこれからの事を考えて、頑張っているようで、とても嬉しい。きっといい大人になるだろうな。


「頑張ってね」

「わかった」


 カレーライスを食べ終えた真菜子は、すぐに洗面所に向かった。歯を磨くようだ。夜遅くまで忙しくて、両親と話す時間が取れないようだ。そして、真菜子は独立していくんだろうか?


「おやすみ」

「おやすみ」


 洗面所から戻って来た真菜子は、すぐに部屋に向かった。もう寝なくては。明日も高校だ。居眠りは許されない。


 真菜子はカーテンから外の夜景を見ていた。今頃、孝二はどうしているんだろう。とても気になる。気になるけど、早く寝なければ。明日もまた会えばいいから。


 真菜子は工事の事を考えながら、ベッドに横になり、寝入った。




 翌日、いつものように真菜子は起きた。今日も学校に行って、デートに行かなければ。


 真菜子はダイニングにやって来た。そこには両親がいる。すでに両親は食べ終えていて、真菜子よりも早く家を出る父は新聞を読んでいる。


「おはよう」

「おはよう」


 と、父が新聞を下に置いた。何かを話そうというのか?


「なぁ、彼氏、できたんじゃないのか?」

「ううん」


 真菜子は秘密にしている。だが、父は怪しいと思っている。本当は彼氏がいて、毎晩デートをしているのでは? 秘密にしなくていいから、話してほしい。


「秘密にしてるのか?」

「いや、本当にいないんだって」


 真菜子は否定している。だが、母も怪しいと思っている。彼氏がいるのでは?


「本当か?」

「うん」


 2人は認めた。だが、2人は諦めていないようだ。


「お父さんな、お母さんと付き合い始めた頃、両親には秘密にしてたんだわ」

「本当?」


 真菜子は驚いた。まさか、父も秘密にしていたとは。自分と同じだ。


「うん。なかなか言えなくて、結婚する時になってようやく言う気になったんだ」

「そうなんだ・・・」


 そう思うと、自分も父も一緒だなと思っていた。結婚する時になって、孝二の事を話そうと思っていた。


「どうした?」


 父は真菜子の表情が気になった。やっぱり、何かを隠しているんじゃないだろうか?


「私も、恋をしてたのに、言う気になれなかった」


 やっと真菜子は、孝二との恋を認めた。やっぱり秘密にしていたのか。両親は驚いた。


「そっか・・・」

「バイトしてるって言ってたけど、私、嘘ついてた。本当は彼氏とデートだったの」


 本当はアルバイトをしていない。それを両親はわかっていた。なら、真菜子はそんなに夜遅くまで何をしているのか、知りたかった。


「そうなんだ」

「ごめんなさい」


 真菜子は謝った。嘘をついていて、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だけど、両親は許してくれるんだろうか? 嘘を言ってはならないと、子供の頃から言われてきたのに。とんでもない事をしてしまった。


「いいんだよ。誰だって秘密にしたい事はあるんだよ」

「そうなんだ」


 だが、両親は許した。誰だって、秘密にしておきたい事はあるんだもん。


「2人の恋、応援してるからね」

「ありがとう」


 真菜子は思った。これからは照れずに、秘密にせずに、堂々と恋をしよう。

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初恋 口羽龍 @ryo_kuchiba

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