AVが武将オタクの甥っ子にみつかった。

りりぃこ

武将オタと秘密のDVD

 今日は休みの日でゆっくりするつもりだったのに、急遽兄貴の息子、ショウタを預かることになった。


 ショウタの妹が風邪をひいて、お義姉さんは病院に連れて行かなくてはいけなくなり、更に兄貴も外せない仕事が入ってしまったからだ。


 7歳の、メガネをかけた小生意気そうなガキ、ショウタに会うのは、正月ぶりである。


 とりあえず外にでも連れ出すかと思いきや、突然の大雪で、家に引きこもらざる得なくなってしまった。

 7歳と何で遊ぶのか、子供慣れしてない俺にはさっぱりわからん。とりあえず、蔵から昔の玩具を色々持ち出してきた。


「なんかロボットとか好きか?パズルとか……」


 俺がガチャガチャと出してきたものの中から、ショウタは古い双六に興味を示した。


「これやりたい。武将双六」


「ああ、これ。双六しながら陣地拡大していく奴だな」


「僕今、武将ハマってんだ」


「へえ。戦国武将か?」

 何気なく俺が言うと、ショウタは顔をしかめた。


「まあ戦国時代がどこからどこまでっていうのは諸説あって、応仁の乱から夏の陣まで説が主だけど、僕的にはやっぱり戦国は室町幕府を倒した時まで説を推したいわけ。そういう意味では僕が好きなのは、戦国・安土桃山・江戸初期武将なわけだから、一口に戦国武将好きって……」

「おじちゃんには、お前が何いってんだかわかんねえよ」

 こいつ、めんどくせえ。


 そう言えば、前にお義姉さんが、「うちのコ、最近ちょっとオタクになってて……」みたいなこと言ってたもんな。

 子供がアニメゲーム好きなのは当たり前だろ、オタクでも何でもないじゃないか、って思ってたけど、そっちのオタクだったのかよ。


「まあいいや、やるか、双六」


 とりあえず、俺は双六を広げた。


 双六はごく普通に進んでいくが、時折ショウタが、「この時期にはもう半兵衛は死んでるのに……」だの、「何で長宗我部が陸奥征服してんの。あいつは四国でしょ……」とかわけわからない文句を言ってくるのでうるせえ。


 これだからガチ勢は嫌なんだ。


「おい、これはあくまでフィクションだ」

「フィクションって?」

「面白い嘘の事だ」

「ふーん」

 ショウタは素直に頷いた。

「まあ、確かに史実に基づいたら、ゲーム要素が面白く無くなるもんね」

 小生意気に、ちゃんと理解をしてやがる。


 なんやかんやで双六は楽しかったらしく、もう一回、もう一回、と3回もやった。


「おし、もうおしまいだ。昼飯にするぞ。焼きそば作るから、テレビでも見とけ」


 俺は立ち上がる。


「焼きそばにウインナー入れて」

「うるせえ。魚肉ソーセージだ」

「えー」

「お前の大好きな武将達は、多分肉なんて食ってねえぞ。魚で強くなってんだぞ」

「確かに!」


 素直だな。


 とにかく、俺は焼きそばを作りに台所に立った。


「テレビ面白いのやってない」


「んー、じゃあ俺の部屋に漫画本あるから、適当に取ってこい」


「わーい」


 ショウタは俺の部屋に走っていく。


「……あれ?大丈夫だよな」


 ショウタを見送ったあとにふと俺は思った。

 うん、大丈夫だ。本棚のわかりやすいところに、人気アニメの原作漫画をおいてある。変に漁ったりしないだろう。

 うん、大丈夫大丈夫。そう言い聞かせて、俺はフライパンを振るった。


 すぐに焼きそばが出来上がったが、ショウタは戻ってこない。

 さては部屋で読んでるな、と思って、俺は自分の部屋に向かった。


「おい、焼きそば出来た……っておいっ!!」


 俺は部屋の様子を見て大パニックを起こした。


 そりゃそうだろう。


 ショウタの目の前には、俺の、男の秘密、AVが3枚並んでいたのだから!!


「おま、っ!!何でっ!!」


「3巻取ろうとしたら、落ちてきちゃったんだけど」


 はっ!そう言えば、昨日、何となく部屋の片付けをして、見てない本やDVDをネットオークションで売ろうと写真を撮って、適当に片付けてたんだった!!


 俺は素早く、落ちているAVを確認する。


 ……大丈夫、まだ誤魔化せる。


 パッケージがそんなにエロくない。ちゃんと服を着ている女優が微笑んでいるだけのパッケージだ。何とか普通のドラマだとか何とか誤魔化そう。

 大丈夫、タイトルの意味さえ聞かれなければ!!


「ねえおじちゃん」


 ショウタが声をかけてきたので、俺は身構えた。


「熟女って何?」


 聞かれるよねー!そりゃ聞かれるよね。くそ、何で低学年が熟女って漢字読めるんだよ!!


「あー……年上の、女の人ってことだ」


「じゃあ『熟女とラブラブ』っていうのは……」


 おい、読み上げるんじゃねえよ。


「あー、ほら、江とか。徳川秀忠よりずっと年上だったらしいじゃん?そんな感じ」

 薄らぼんやりとした大河ドラマの知識で俺はこの武将オタクに説明する。

 ショウタは頷いた。

「あー、江は23歳くらいで嫁いだらしいね」

 まじかよ。江、全然熟女じゃねえな。


「え、僕このDVD見たい」

「絶対だめ」

 俺は慌てて言う。だめだ、歴史で例えたら興味を示されてしまう。


「じゃあこれは?ロリっ娘」

 ショウタは次の質問をかましてくる。

 マジでやめてくれよ。


「あー、えっと、小さい子供のことかな」

「『ロリっ娘と結婚したら』……」

 お願いだから読み上げないでくれ。

「そう言えば、徳川秀忠の二番目の娘って3歳で結婚したらしいよ」

「まじかよ」

 そこまでのロリっ娘は求めてないな。


 つーか、AVネタに豆知識挟んでくるのやめてくれ。


 そして最後に、アニメ絵のDVDを指さして質問をしてきた。

「ねえ、『ふたなり』って何?」

「それは……」

 俺は必死で頭をフル回転させる。

「……二刀流、だ」

「二刀流……!それって……」

 ショウタはキラキラした眼をしている。

 何だ、今度は何の武将の豆知識が来るんだ。一周して俺は、ちょっと期待しながら俺が身構えていた。


「大谷選手、みたいな?」


 そこは武将じゃないのかよ。



 とにかく、俺は固く固く、このDVDの事はショウタに口止めをした。

「絶対に言うなよ。男と男の約束だ」

「わかった」

 ショウタがしっかりと頷いたので、俺はちょっと安心した。



 しかしその後、あっさりと俺の秘密は兄貴とお義姉さんにバレた。


 ショウタが、3歳の妹を「ロリっ娘」と呼んだことが原因である。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AVが武将オタクの甥っ子にみつかった。 りりぃこ @ririiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ