秘密で成り立つ場所

こなひじきβ

秘密主義の店

 俺の経営する小さなこの喫茶店では、アルバイトを雇っている。良くある話だが一点だけ他のアルバイト募集と異なっている。丁度今、年齢不詳な少女の採用面接を行っているところだ。


「客から注文取れるなら問題ねぇ、採用だ」

「えっ……。ほ、本当に経歴書要らないんすか? わたし、質問もまだ全然されてないっすけど……」

「俺は他人の事情に首突っ込む趣味は無いんでな」


 面接開始からわずか30秒で採用を言い渡された少女は動揺している。明らかに中学の制服で、目はオレンジ色の前髪で隠れていて見えない。この暑い中で長袖長ズボンを着用している彼女は、間違いなく隠し事だらけで他の所じゃきっと門前払いだろう。


「ほら、うちの衣装だ。寝間着以外は自由に使ってもらって構わねえよ」

「あ、ありがとうっす」


 しかし、俺はとにかく人手が欲しかったために迷わず採用した。客から注文が取れて、何も詮索せずに俺に注文を通してくれればそれで良い。


「……」

「何だ、給料に不満でもあるのか?」

「いや、不満なんて無いっす。ただ……その、順調すぎていいのかなー、って」


 彼女はまだ俺に対して警戒を解ききってはいない。これまで知られたくないことを色々聞き出されそうになってきたのだろう。だが、それも俺は興味を持たない。


「秘密なんてのは、誰もが抱えてる。内容は人それぞれだが……どうにか聞き出した結果は、知らなきゃ良かったような事ばかりさ」

「……」

「だから、俺からは何も聞かねぇ事にしてんだよ。言うかどうかはテメエ次第、ってな」

「はぁ……?」

「ほら、さっそく客だ。注文を取ってきてみろ」

「えっ!? い、いきなりっすか?」

「何とかなんだろ、ほら行け」

「は、はいっす……」


 今日の客は、黒いハットを被った初老の男性一人。注文したコーヒーを飲んで帰っていく。


「……あの、店長。今日の仕事、もしかしてこれだけっすか?」

「ま、そーだな」

「えぇ……。ちゃんと給料出るんすよね……!?」

「まー、今後次第だな」

「……もしかして、変なところに来ちゃったっすかね?」


 俺の店のモットーは、秘密主義である。他人の秘密には一切干渉しないのが鉄の決まりだ。それは今日から入った彼女に対しても例外ではない。


(客がコーヒーカップの下に仕込んだ紙切れの内容は……と。今夜のターゲットは……ほう、こいつは大物狙いだな)


「今日は良くやったな、お疲れさん」

「全然疲れて無いんすけど……。本当に大丈夫なんすか? この店」

「ああ、大丈夫さ。お前が思っているよりはな」

「んー……?」


 誰の詮索もしない。そして誰にも俺の詮索もさせない。


「さて……もう一つのお仕事に行きますかね、と」


 俺の汚れ仕事という秘密は、誰に聞かれても話さねえ。話しちまったら、絶対に碌な事にならないから。俺の秘密の夜は、まだまだ明けることは無い。

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