第1話

「はぁ…はぁ…転移…完了しました。」


ひどく疲労しながらも、周りにいる人達にそう伝える少女。

その少女の目の前には、意識のないもの達が倒れている。


「代表、終わったのですね。御身体は大丈夫ですか。」


と、その後ろで少女をいたわる青年。


「大丈夫です。それより、はやくこの方達を医務室に運んでくだい。魔力の影響で眠っているだけですが、このままだと風邪をひいてしまいます。」


「ですね。おい、この方々を医務室に運べ!」


そう指示する青年。

すると周りにいた者たちが動き出し、一人一人運んでいく。


「代表、僕も運びますのでここを離れます。代表はしっかり休んでください。」


「ありがとうございます。」


「では」


青年は少女の元を離れる。


「ふぅ…」


少女は誰も居なくなったところで、膝から崩れ落ちる。


「これでいいんでしょうか。これで世界は救われるのでしょうか…」


と不安そうに空を見上げる少女。

空はその少女の気持ちを表すように曇りだった。



「ごめんなさい…ごめんなさい。」


少女が泣きながら手を握る。

視界が霞んでいて、よく顔が認識できない。

もう片方の腕は感覚がない。

どういう状況なのかも確認できない


「ごめんなさい…こんな結果になってしまって。」


少女は泣きながら言葉を紡ぐ。


「ごめんなさい…君は何も悪くない、悪くないから…」


握る力を強める。


「私がこの代償を払う。だから君は…」


視界どんどん暗くなっていく。

それと同時に、暖かいものに包まれる感覚を覚える。


「生きて。」



「う、うぅ…」


目が覚めるセント。


「今の夢は…てかここどこだ。」


見知らぬ天井。

セントは身体を起こす。


「ッ!?」


視界に入ってきたのは、壁も床も天井も全てが白い部屋にベッドがあり、そのベッドの上には同じ学校の生徒や教師が寝ている。

そして、隣のベッドにはリリアが眠っていた。


「あ、リリア!」


セントはそっとリリアに触れる。


(寝てるだけ…か。)


一安心するセント。

その時


ウィーン


セントから見て正面にあるドアが自動で開き、1人の少女が入ってくる。

青髪ショートヘアに水色の瞳の少女。


「あ、起きましたか。」


起きているセントに気づき、向かってくる。


(誰だろう…)


セントは警戒をする。

そして、少女はセントのベッドの横まで来る。


「おはようございます。」


笑顔で挨拶をする。


「え…あ、おはようございます。」


セントも挨拶を返す。


「身体に変わりはありませんか?」


「身体…あ、えと、ちょっと違和感があるけど気にならない程度だから大丈夫…です。」


「そうですか。何かあったら言ってくださいね。」


「あ、はい。分かりました。」


「絶対ですよ…あ、自己紹介をした方がいいですよね。」


「あ、はい。」


「すみません、名乗らずに話をしてしまって。」


「い…いえ、大丈夫です。」


「良かっです。では…私は『カスリム』と申します。」


「あ、僕は『セント』…です。」


「セント…ですか。いい名前ですね。」


「え、ありがとう…ございます。」


セントはペコリとお辞儀をする。

その時、


ピピピ


突然、機械音が部屋に鳴り響く。


「すみません。連絡が来たようです。」


そう言って、カスリムはポケットからスマホに似た物を取り出す。


「出てもいいですか?」


「どうぞ、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


セントに感謝をし、通話に出るカスリム。


「もしもし…はい…はい…分かりました。今行きます。」


1分くらいで通話を終え、その端末をポケットにしまうと、セントの方を見る。


「すみません、急用で…」


「僕なんか気にしないで行ってください。」


「すみません、後で戻ってきます。その時にお話しましょう。」


「お構いなく。」


「あ、私がいない間はココに誰も入らないので、自由にくつろいでいてください。まぁ、ベッドしかないですけど。」


「分かりました。自由にくつろいでます。」


「それではまた後で。」


「行ってらっしゃい。」


「あ、そうでした。」


「え?」


「私には敬語じゃなくて大丈夫ですよ。」


「あ、うす。」


「では」


カスリムは部屋を出ていく。


「忙しない子だったなぁ。」


セントは立ち上がり、リリアのベッドに座る。


(また来るって言ってたし…)


「少し待つかな。」


リリアの寝顔を見ながら、そんなことを呟く。



「…」


カスリムが出ていってから数十分。

セントはボーッと天井を見つめる。


「…することねえな。スマホは圏外だし、なんかしようにもベッドしかないし、みんな寝てるし…暇だなぁ…」


と言っていると、


「ただいま戻りました。」


カスリムが何かを抱えて部屋に戻ってくる。


「すみません、話が長引いてしまって。何も無かったですか?」


「え、あ…うん。」


「それは良かったです…ココいいですか?」


「あ、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


カスリムは近くに置いてあった椅子に座る。


「その方は仲良いがのですか?」


「え、まぁ、幼なじみだから結構仲は良い。」


と、2人でリリアを見る。


「あ、コイツはリリアっていうぞ。」


「リリアですか…可愛い名前ですね。」


「だよな…僕も思う。」


セントは微笑む。


「…」


「ん?どうしたんだ?」


ふとカスリムの暗い表情に気づく。


「…確認したいことがあるんですけどいいですか?」


「あ、うん。」


「ここで目覚める前ってどこに居たか分かりますか。」


「え?あぁ、東京の…」


「そうですか…」


カスリムの表情が一段と暗くなる。


「…セントさん。」


「あ、はい。」


「本当にすみませんでした。」


カスリムは頭を深く下げる。


「え、何!?急にどうした!?」


急の謝罪に焦るセント。


「私は謝っても謝りきれないことを貴方たちにしたんです。」


「え、マジでどうした?」


カスリムは頭を上げ、セントを真っ直ぐと見つめる。


「セントさん…ここはセントさんたちが知っている世界じゃないんです。セントさんたちから見れば異世界と言われる場所です。」


「…は、え?な、何言ってんの?」


突然の告白に困惑する。


「いや、おかしいだろ。だって…」


信じれず、何か言い返そうとした所で、学校でのことを思い出す。


「…いや、なんでもない…ごめん。」


「いえ、突然こんなことを言われたら、誰だってそうなります。それに…謝るべきはこっちなんです。こっちの世界に呼んだのは私なので…」


「カスリムが…」


そこから数秒間の沈黙があり、カスリムが先に口を開く。


「少し、移動しませんか?」


「え?」


「ここで話すのも息が詰まりそうですし、信じてもらうには見てもらうのが一番ですからね。」


「え…そ、そうだな。」


セントはカスリムの提案に了承する。


「あ、コレどうぞ。外はちょっと寒いので。」


とカスリムが抱えていたものを、セントに差し出す。


「ありがとう…」


それを受け取り広げてみると、黒を基調とし、赤いラインが目立つ襟付きパーカーだった。


「これ…」


「はい、私と同じものです。」


「やっぱりそうなんだ。じゃあ、着させてもらう。」


と、制服の上からパーカーに腕を通す。


「では、行きましょう。」


「うん。」


セントは立ち上がり、カスリムと部屋を出る。


「こっちです。」


カスリムに案内されるがまま歩く。

その途中だった。


「この階段です。」


と階段を登っていく2人。

そして、登りきったところでドアがあり、そこの前で立ち止まる。


「…では、開けます。」


「…おう。」


カスリムは扉を開ける。扉の向こうから風が入ってくる。

そして、2人は扉の向こうに出る。


「ここは…屋上?」


目の前には青空が広がり周りには柵以外何も無い場所。


「こっちです。」


2人はそのまま進みづける。

そして見えてくる景色。


「……え。」


セントは景色に驚愕する。

その瞳に映るのは、岩と草そして、所々にある廃れた建物が流れゆく景色。


「これが今の私にできる証明のひとつです。」


「何…これ。何も無いじゃん。」


目を疑いたくなるような廃れた景色に、言葉が出ないでいるセント。

すると


「100年前くらいは色々とあったらしいんですけどね。」


「え?」


カスリムの言葉に、カスリムの方をむく。

カスリムは手すりに手を置いて、遠くの景色を見つめていた。


「それもわずか1年で滅びてしまったらしいんです。」


「…1日…なんで。」


「ブラッドスカイパニックが起こったんです。」


「ブラッド…え?」


「ブラッドスカイパニックです。空が昼夜構わず赤くなって、魔物が凶暴化し、天災が起きることです。」


「なるほど…ん?魔物?」


「はい、魔物というのは…」


と説明をしようとした瞬間。


『エネミーアプローチング』


突然、そんな音声が聞こえてくる。

その音がした瞬間だった。


バサッ


何かが、2人の上を通過する。


「なんだッ!?」


セントは上を見る。

そこには、カラスに似た見た目で、角の生えた見たことの無い生物が飛んでいた。


「…何あれ。」


「来ましたか…セントさん、あれが魔物です。」


「あれが…」


セントはその魔物と呼ばれた存在の方を見る。


「あれが魔物。」


「セントさん、後ろにいてください。」


「え、おう。」


背後にまわるセント

カスリムはそれを確認して、魔物に向き直る。

魔物はそれに反応して接近してくる。


「素早く方をつけます。」


そう言いカスリムは手を前につきだす。

その瞬間、カスリムの突き出されたでの前に光の玉ができていく。


(なんだあれ。)


セントはカスリムの背後から観察する。


「グワァ!!」


魔物は接近を続ける。


「…」


カスリムは狙いを定める。

そして光の玉は勢いよく射出される。


「があぁ!!」


魔物はお構い無しに近づいてくる。


バシュン


その魔物は一瞬にして撃ち抜かれる。


ドーン


魔物は屋上に墜落する。


「…倒しました。」


カスリムはセントの方をむく。


「…さっきの光のやつって…」


「あれは魔術です。体内や体外にある術式に魔力を込めて使う力です。」


「魔術…魔力…」


「少し連絡してもいいですか?」


「あ、うん。」


「ありがとうございます。」


お辞儀をし、先の部屋で見た端末を取り出し、魔物の死骸へと向かう。

そして、その死骸を見ながら通話をし、 戻ってくる。


「すみません。セントさん。」


「意外と早かったな。」


「死骸の回収を頼んだだけなので。」


「なるほどな…」


「あ、魔物の説明の途中でしたね。実物はさっき見たアレですね。まぁ、色々と個体はありますが今は省きます。でですね、魔物は動物や虫ににた形をする生物で、見境なしに生き物を襲う生物です。」


「なるほど…」


「で、続けて説明になるのですが」


「ん?」


「私たちはそんな魔物からの人々を守り、土地の解放を目的とする組織『リビルド・ノア』です。ここはリビルド・ノアの基地です。」


「あ、ここ組織の基地だったのか。」


「そうですね…」


(魔物に魔術…ここまできたら)


「信じるしかねえよな。」


「え?」


「あ、いや…ここまで見せられてここが異世界って信じないわけにはいかないなって思ってさ。それに…」


「それに?」


「カスリムたちがこの世界に必死に抗ってるのなら…僕もこの世界に抗ってみたくなってさ。」


「え…いいんですか…」


「おう、僕が戦力になるかは分からないけど…僕らをこの世界に呼ぶほどピンチだったら、協力するよ。」


セントは手を前に出す。


「…ありがとうございます。」


そのセントの言葉を聞いて嬉しそに笑い、セントと握手をするカスリム。


「よろしく。」


「よろしくお願いします。」


屋上にいる2人。そんな2人の心情を表すかのように、空は晴れる。


「あ、そうだ。」


「はい?」


「僕のことはセントって呼んでくれ。」


「あ…はい、分かりましたセント。」


屋上にいる2人。そんな2人の心情を表すかのように、空は晴れる。


(カリムちゃんが笑顔だ…)


そんな2人を屋上の入口から覗く少女が一人。


「…面白いねぇ。」


その少女はフッと笑みを浮かべ階段を降りる。



「お母さん…ただいまぁ。今日もいっぱい稼げたよ。」


と玄関の扉を開け、そんなふうに報告する少女。

服はボロボロで、身体の至る所には痣や傷がある。


「ゴホゴホ…おかえりなさいスイトピ。」


辛そうに咳をしながら、その少女に笑顔を向ける女性。

少女と同じく服はボロボロで、顔は酷くやつれている。


「見て見て!!パンお昼に貰ったんだ。お母さんにも食べて貰いたくて、持ってきた。」


と、ポケットから半分食いかけのパンを出す少女。


「ッ!?スイトピ…あなたお昼は…」


「ごめんなさい…パン半分食べちゃった。」


「半分しか食べてないの?」


「うん。お母さんに食べてほしくて!!」


「ッ…スイトピ…あなた…」


(この子、私のために…)


「ありがとう…貰うわね。」


少女からパンを受け取り、1口食べる。

そのパンは乾燥しており、少し硬かった。


「どう?美味しい?」


「うん…美味しいよ。」


「やったー、じゃあ私、晩御飯調達してくるね。」


「あ、気をつけてね。」


「うん。行ってきます。」


少女は嬉しそうに家を出ていく。


「…ごめんなさい、無力な母で…ごめんなさいスイトピ。」


少女が出ていってから、その女性は悔しそうに謝ることしか出来なかった。



「それで、まだ何か聞きたいことはありますか?」


「そうだなぁ…」


屋上から部屋に戻ったセントとカスリム。


「うーん…あ、リリア達って大丈夫なのか?寝てるけど…」


「あ、そのことですか…それなら__。」


「身体に問題は無いよぉ。この世界に適応するために寝てるだけさぁ。」


「え?」


突然、扉が開き1人の少女が入ってくる。


「え…耳?」


セントはその少女を不思議そうに見る。

何故かと言うと、銀髪のボサボサ髪に、白衣を羽織る少女。その少女の頭の上には、白い光の輪が浮いていた。


「ファウストさん」


「やぁ、カリムちゃん。それに…セントくん。」


「ッ…なんで僕の名前を……てか誰だよ、その輪っかもなんなんだよ。」


名前を呼ばれ、警戒をするセント。


と少女の頭の輪を指さす。


「まぁ、そんな怒鳴らないでぇ…私はこのリビルド・ノアの研究部代表のファウストだよぉ。種族はエンジェルだよぉ。」


「ん?研究部?エンジェル?」


「あれ?もしかして組織内容と種族のこと説明してなかったのぉ。」


「あ…」


「忘れてたようだねぇ。」


ファウストは仕方なさそうにセントの方を見る。


「えーと、この世界にはヒューマン、ビースト、エルフ、エンジェル、デビルの5種族が存在するんだよねぇ。各種族の説明は省かせてもらうよぉ。それで、私たちリビルド・ノアは種族混合組織と呼ばれる分類にわけられるんだぁ。まぁ、文字通り色々な種族で構成された組織だねぇ。ここまでは大丈夫ぅ?」


「…大丈夫。」


「よし、で続きなんだけど、私たちの組織は混合なこともあって結構なほどの人材がいるんだよぉ。だから、大きく2つに仕事を区切ることにしたんだよねぇ。ひとつが私が代表をつとめる『研究部』だよぉ。戦闘が苦手な人が中心的に働いているねえ。仕事内容は主に、組織の人事管理、研究、薬の開発、販売って言ったところだよぉ。それで、もう片方のほうのせつめいだけどもう片方はカリムちゃんが代表をつとめる、『行動隊』なんだよねぇ。行動隊の説明は、カリムちゃんに頼もうかな。」


と、カスリムに説明をふるファウスト。


「あ、はい。分かりました。えーと『行動隊』ていうのはですね、魔物の討伐、商品の運搬、現地調査と言った、戦闘を伴われるかもしれない仕事が中心的です。組織の構成は大雑把に言うとこんな感じですね。」


「なるほど…理解した。けどカスリムってこの組織の代表じゃなかったの?」


「それはですね、私はこの組織の総代表と、『行動隊』の代表を兼任してるんです。」


「あ、そういうこと。」


「理解出来たかなセントくん。」


「全部理解出来た。けど、なんでお前は僕の名前を知ってるんだ?名乗ってないけど。」


「それは簡単だよぉ。屋上の会話を覗いてたからねぇ。」


「は?覗き見とか趣味悪すぎでしょ?」


「初対面に趣味悪いとはぁ…君少し常識外れてたりするぅ?」


「さぁ、どうだろうな。」


セントはニヒッと笑みを浮かべる。


「…ふっ、面白いねぇ。ここではそういう常識外れの人間が意外と生き残ったりするから楽しみだよぉ…んじゃぁ、私はこれでおいとまさせて貰うよ。じゃあね2人ともぉ。あ、そうだ。今寝てる子達は最低でも2日後には起きるから安心して。」


そう言って部屋を出ていくファウスト。


「ファウストさん…嵐のようでした。」


「カスリムって誰にでもさん付けなのか?」


「まぁ、そうですね。まぁ、ファウストさんは歳上なので。」


「え?アイツが?カスリムより若く見えるけど…何歳?」


「私が聞いた話だと、1000歳は超えてると。」


「え、ババアじゃん。」


「ダメですよ。そんなこと言っちゃ。」


「すまん…あ、そういえば、アイツが2日後までは起きないって言ってたけど、僕はその間何してればいいんだ?」


とカスリムに聞く。


「そうですねえ…やはりセントは行動隊ですよね?」


「そうだな。」


「ならば、明日にでも身体検査して、訓練を始めれるよう手配しときますね。」


「お、ありがとう。明日から頑張るぜ。」


「辛くなったら言ってくださいね。」


「おうよ。」


「あ、まだ部屋の用意ができてない…すみません、今日一日はこの部屋で過ごしてもらっていいですか?」


「全然いいぜ。」


「ありがとうございます。助かります…あ、そろそろ時間だ。すみません、そろそろ別の仕事があるので私行きますね。」


「あぁ、おう。」


「必要品は後で持ってきます。」


「わかった。」


「それでは…」


そうして、カスリムは部屋を出ていく。


ボスッ


セントは自分のベッドに寝っ転がる。


(少し寝るか。)


そうして、セントは眠りにつくのだった。



ウィーン


(…誰か来た?カスリムか?)


セントはドアの開く音に反応して目を開ける。


「…あれ?おこしちゃったかなぁ。」


「お前は…ファウスト。」


そこにいたのはファウストだった。


「なんでここに?」


セントは身体を起こす。


「それがねぇ、カリムちゃんが忙しいからその代わりに来たよぉ。」


と、持ってきた箱の中から色々な物を出す。


「はい、まずはコレねぇ。」


と、1つの端末を渡す。


「コレって、カスリムの使ってた…」


「スマートデバイスって言うものだよぉ。情報を調べたり、連絡したりできるんだよぉ。充電は満タンにしてあるから、もう使えるよぉ。ユーザ設定もやっといたよぉ。」


「え、ありがとう。」


「全然いいよぉ…機械には詳しいからねぇ。」


セントは試しにスマートデバイスを起動する。


「ん?なんかメールが来てる。」


どれどれぇ…本当だ。」


メールと書かれたアイコンの上に数字が書いてあるのに気づき、タップする。


「…あ、カリムちゃんからだねぇ」


「えーと…『私から用意する予定でしたが、忙しくて用意出来ませんでした。本当にすみません。』…律儀だなぁ…」


「まぁ、カリムちゃんだからねぇ…」


と、今度は箱から服を出す。


「はい、隊服ねぇ。君それが似合うから、同じものを用意したよォ…」


と広げてみれば、カスリムから借りているパーカーと同じものだった。


「これ私が考えたデザインなんだよぉ、チャックをしめると、襟付きなのがポイントだよぉ。」


「いいデザインだな。シンプルなのは好きだぞ。」


「やっぱりそうだよねぇ、シンプルイズベストだよぉ。あ、はいコレもねぇ。」


と、指なしの手袋も渡される。


「これは刃が通りにくい素材出できてるからぁ。」


「はぁ…すげぇな。」


「でしょぉ。」


セントは手袋をはめ、グーパーと繰り返す。


「で、これが最後ね。一番大事な物だねぇ。」


と、渡されたのは四角の中に『RN』とデザインされた腕章だった。


「これは、私たちリビルド・ノアの証明なんだよぉ。だから絶対に無くさないでねぇ。」


「うす。」


と箱の中のものを全部渡し終わったファウスト。


「んじゃあ、渡したことだし…お話しようぅ?」


「え…話すことあるのか?」


「まぁねぇ。ここに来た目的は君と話すためでもあったからねぇ。」


「なるほどな…んで、何を話そうって?」


「そうだねぇ、まずは屋上でのことについて話したいなぁ。」


「あぁ、覗き見のやつか。」


「言い方が悪いよぉ。」


と近くの椅子に座るファウスト。


「覗き見かどうかは置いとて、なんか気になることでもあったのか?」


「いやぁ。ただ、キミに違和感があってさぁ。」


「違和感?」


「そう。キミたちの世界には魔術とかは無かったんだよねぇ」


「そうだな。」


「だからかなぁ…キミが異様にこの世界に慣れてるように見えてさぁ…」


「そうか?」


「うん…魔術とか見ても驚かなかったしぃ…魔物が来ても意外と冷静だったからぁ…」


「あぁ…確かになんでだろうな。」


「自分でも分からないのかぁ…」


「まぁでも、受け入れないでウダウダ言ってられるような感じな世界では無いとでも思ったからなのかな?」


「否定はしないよぉ…この世界は何処も彼処も終わっちゃってるからねぇ」


と天井を仰ぎ見るファウスト。


「だからこの組織があるんじゃねえのか?この世界を変えるたに。」


「え…あぁそうだねぇ。確かにそうかもねぇ。」


と笑みを浮かべながら浮かべ、立ち上がるファウスト。


「じゃあ、私は行くとしようかなぁ。」


「え、もう行くのか?」


「キミのことが1つしれたような気がしたから今日はこれでおさらばかなぁ…」


「急だなぁ…」


「まぁ、仕事は残ってるしねぇ。それじゃあねぇ。」


そう言って、箱を持って部屋を出ていくファウスト。


「本当に急な奴だったなぁ…」


と寝っ転がるセント。


「…寝よ。」


そうして、またも眠りにつくセントであった。

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エンドワールド 星月シグレ @Sigure3

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