迷宮巡りのアルケミストと共感呪術士

フクロウ

第1話 リプリー・ヴァレンタイン

「世界の秘密の一端を知っていればいかようにもできます」 


 リプリー・ヴァレンタインが手をかざすと、そこら中に転がっていた鉄屑てつくずが集合した。集合した、と言うのは文字通りまるで号令にでも従ったかのように薄暗い洞窟の中に落ちていた鉄屑がリプリーの手に引き寄せられるように集まってきたからだ。


 先人達の遺品──と言えばまだ格好がつくかもしれないが、それらはいわば残骸だった。迷宮ダンジョンへと潜り、志半ばに朽ちていった者達が身に付けていた今はもうガラクタ。それが、それだけ・・が選択され岩の下や砂礫されきの中、あるいは低い天井から意志を持ったように移動してくる。


 魂が宿っているかのように。


 リプリーはもう片方の手を何かをかき混ぜるようにくるりと回す。と、鉄屑が互いに連結し合い形を成していく。


 傍目から見ればそれは直剣を模しているように見えた。


 叫び声が上がった。喉を潰したようなか細い声だ。


 声の理由は、リプリーの元に迫る複数の影にある。地を蹴るモノに翼を持つモノ、さらには液状のモノや知恵あるモノ。それらが渾然一体となって波のように襲い来る。


 リプリーは腕を下ろした。それを合図として複数の直剣が四方に飛び交っていった。


 ことは一瞬のうちに終わった。叫び声が消え、代わりに緩やかな風が舞う。


 数え切れないほどいた魔物の群れは地に伏し微動だにしなかった。鉄屑が四散し、再び砂礫の中で永遠の眠りにつく。


 リプリーは普段通りと何も変わらない顔をして後ろを振り向いた。線の細い端正な顔立ちにみどりの瞳。


「終わりました。行きましょう、エリザベート様。迷宮の奥に眠っているという本当の貴方を探しに」


「え、ええ」


 エリザベートと呼ばれたブロンドの女性は枯れた喉を労るように咳払いをすると、乱れた前髪を手櫛で直した。


 先へ行くリプリーの後を急いで追う。洞窟の奥は光の届かない暗闇が待ち構えていた。 

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迷宮巡りのアルケミストと共感呪術士 フクロウ @hukurou0223

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