フィオール・ラ・ラーナは着ぐるみである。

あずま八重

着ぐるみの秘密

 彼女、〈フィオール・ラ・ラーナ〉は着ぐるみである。それは設定という名の公然の秘密であるわけだが、ただのゆるキャラ着ぐるみでないことを知るのは、彼女専属の着ぐるみアクターたる私くらいのものだろう。


 頭の上でピコピコと動く三角のケモ耳、短パンの青いツナギの切れ目から伸びるしなやかなシッポ。そして、手足を局所的に覆う厚い体毛とそこに秘されし肉球。

 クドイほど強調しよう。これらが、ぜんぶ、ホンモノという事実を、 私 だ け が 知 っ て い る という唯一絶対の優越感。――これを最&高と言わずして何と叫ぶのか。


「今日もずいぶん楽しそうにゃね、ご主人」

 桶で洗われながら、フィオール・ラ・ラーナがにゃごにゃご笑いかける。

「フララのお蔭だよ。毎日楽しい!」

「イベントにょときだけじゃにゃく?」

「そ。一緒に居られる時間全部!」 

 ふふふ。にゃごにゃーご。幸せな時間である。


 着ぐるみ設定である背中のチャックは、ジッパーを下ろすと。何を言っているか分からないことだろう。だが、そうとしか言えない。

 意思を持っている着ぐるみをまとうのは、AIが搭載されたメカに乗り込む感覚に近い。だからパイロット気分で楽しいし、空調でも入っているように暑くも寒くもない快適空間がそこにある。


 私が乗り込んでいない間も、生きた着ぐるみとして喋るしわりと自由に動ける。だが着ぐるみは着ぐるみ。衣類として定期的に洗わなくてはいけない。

 丁寧に手洗いを済ませたら、あとは天日干しひなたぼっこさせてやる。気持ちよさそうに陽の光を浴びるフララと、それを眺めて幸せオーラを享受する私。この幸福な秘密の生活を続けるためにも、来週末のイベントも成功させなくては。


 ……まぁ、あまり有名になると独り占めできない寂しさはあるけれど。



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フィオール・ラ・ラーナは着ぐるみである。

2024.01.17作


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フィオール・ラ・ラーナは着ぐるみである。 あずま八重 @toumori80

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