ぞっこん

鹿嶋 雲丹

第1話

 この女は、オレにぞっこんだ。


 まだ付き合って半年くらいだが、熊みてぇなガタイの旦那に飽きて、オレみたいにスマートでキレイな男と浮気している。


 オレの方は、完全にお遊びだ。


 家事の得意な可愛い嫁もいるし、まだ小さい娘もいるからな。


 最近、またちょっと気になる女ができたんだよ。


 この女、いつ捨てようか……いや、金を出してくれるうちはチヤホヤしといてやるか。もったいないから。



 この男は私にぞっこんだ。


 もう、付き合って半年になる。


 男の嫁が、家事と子育てに熱中していて、てんで相手にされてない可哀想な男だ。


 私は、熊みたいな体つきの旦那が好きだ。


 逞しい体一つで金を稼ぐなんて、最高じゃないか。


 こんな軟弱な男とは、今まで付き合ったことがなかったから、どんなもんかと思って付き合ってやったけど。


 そろそろ飽きたし、ぽいかな。ケチだしさ。


 ただ捨てるだけじゃつまんないから、旦那にちくって、首でも締められたら面白いかしら?


「お待たせ〜……ごめんね、遅くなっちゃって!」


 私は上目遣いで、しがみついた先の男を見る。


「大丈夫だよ、十分くらいいつものことだろ。さ、行こうか」

 オレは、落ちない女はこの世にいない、最高の微笑みで女を許す。


 ばかだな、こいつ。


 私は。オレは。


 そう思いながら、相手の冷たい手のひらを、ぎゅうっと握りしめたのだった。

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ぞっこん 鹿嶋 雲丹 @uni888

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