第9話「春はすぐそこに」


「ルイス君はコルテンのことを言っているのかな?

 彼は僕とエリーゼのいとこだよ」


エリーゼ嬢とベック伯爵令息がいとこ?!


二人の顔立ちが似ているのはそういうことだったのか。


血縁者なら顔立ちが似ていて当然だ。


「『卒業パーティで好きな子に告白したいから、告白するとき付き添ってくれないか!』って、コルテン様に泣いて頼まれたから、仕方なく彼のパートナーとして卒業パーティに参加しただけよ」


確かベック伯爵令息は確か宰相の甥だったな。


彼のいとこということは、宰相補佐とエリーゼ嬢は宰相の息子と娘?


知らずに俺は、とても高貴な人に恩を売っていたらしい。


「エリーゼの付き添い虚しく、コルテンは好きな子に告白して玉砕したようだけどね」


「えっ? ベック伯爵令息は振られたんですか?」


あんな品行方正で成績優秀なイケメンを振る女性がいるのか?


「『婚約破棄騒動があった日に告白するなんて、デリカシーがない。それにいとこに付き添って貰わないと告白出来ないなんてダサい』って言われて振られてたわ」


リンディーが起こした騒動がここにも影響を及ぼしていたのか?!


「それはその……元婚約者が騒動を起こしたせいで申し訳ありませんでした!」


俺は勢いよく二人に頭を下げた。


「頭を上げてルイス君。

 コルテンが振られたのは後者の理由の方が大きいから」


えっ? そうなの?


宰相補佐の言葉に俺はホッと息をついた。


「婚約破棄騒動は建前ね。

 相手の令嬢、コルテンが私に告白の付き添いを頼んだって知ってドン引きしてたもの」


良かった〜〜。


ベック伯爵令息に土下座して謝らなくて済んだ。


「来年からコルテンは『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』の会長だ」


「えっ? ベック伯爵令息が会長?

『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』の会長は、強面先ぱ……バナード・アーベル先輩だったんじゃ?」


「君が卒業パーティでバナードに言った言葉が効いたみたいだね。

 彼はあのあと、初恋の人に会いに修道院に行ったんだよ。

 婚約者ができたから、彼は今年で『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』を卒業だよ」


「そうだったんですか」


強面OB先輩、初恋に向き合うことが出来たんだな。


「人の縁は不思議だね。

 幼馴染の僕がいくら説得しても彼は聞く耳を持たなかったのに、初対面の君の何気ない言葉が彼を動かしたんだから」


「いえ、俺は特になにもしていません」


本当にたいしたことは言ってない。


強面OB先輩が一人で語って、一人で満足していただけだ。


それが強面OB先輩の気持ちの整理に繋がったのなら、俺も少しは彼の役に立てたのかな?


「エリーゼ。

 ルイス君は優秀だし、困ってる人を見捨てない優しさも持ち合わせているし、人の心を動かす魅力もある。

 僕はエリーゼにルイス君みたいな人に嫁いでもらいたいんだけどな」


宰相補佐、いきなりそんな話ぶっこまないでください!


「もう!

 お兄様ったら何言ってるのよ!」


ほら、エリーゼ嬢の機嫌を損ねた。


あれでも、エリーゼ嬢の頬が赤いような?


「エリーゼが卒業パーティで、婚約者に婚約破棄を突きつけられているルイスくんを助けたのは、彼が僕の恩人だと分かっていたからだろ?」


えっ? そうなの?


確かエリーゼ嬢が助け船を出してくれたのは、リンディーが俺のことを文官試験最下位合格と言ったあとだ。


エリーゼ嬢が兄である宰相補佐から、恩人のことを「文官試験最下位合格者」だと聞いていたとしたら、彼女が俺を助ける理由になる。


「あの日はコルテン様が告白する日だったから、婚約破棄騒動を早く終わらせたくて行動しただけです……!

 確かに文官試験最下位合格者って言葉を聞いて、彼が兄の恩人だと分かったわ。

 だから彼の無実を証明しようと、コルテン様に『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』を呼びに行かせたの。

 クッパー子爵令息が、婚約者に罵られても一言も弁解しなかったと証言したのもそのためよ。

 だからって私がクッパー子爵令息のことが気になってるとか、いい人かもとか思っているとか、好きとかは別で……『好き』って私何を言ってるの私?!

 お兄様もクッパー子爵令息も今の話は忘れて!

 聞かなかったことにして!!」


エリーゼ嬢は早口でまくしたてるように喋り、墓穴を掘っていた。


彼女の顔は耳まで赤く、彼女の目は渦のようにぐるぐる巻きになり、かなりテンパっているように見えた。


そんな顔をされるとこっちまで照れてしまう。


俺は女性に好意を向けられることに慣れていないんだ。


「エリーゼ嬢が、俺を助けてくれた理由がよくわかりました」


エリーゼ嬢の顔がボンと音を立てる。


「ち、違うから……!

 べ、別にあなたの顔が好みだったとかじゃないから!

 そのどこにでもいそうでいなそうな、平凡で善良を絵に描いたような顔がどストライクでツボったとか、そういう事じゃないから!

 か、勘違いしないでよね!」


今のは褒められたのかな? それとも貶されたのかな?


しかしエリーゼ嬢がツンデレ系だったとは、クールな美少女だと思ってた。


それにしても美少女の生「勘違いしないでよね!」は迫力だな。


これでようやく俺にも春が……。


「ふつつかな妹ですが、末永くよろしく頼むよルイス君。

 でもまだ妹は中等部の学生だから、交際するのは妹の卒業後にしてね」


「えっ? 中等部?!

 エリーゼ嬢って今いくつなんですか?」


「十四歳だよ。

 今年で十五歳になるかな」


「はいっ?!」


大人っぽく見えるから、エリーゼ嬢は俺と同い年ぐらいだと思ってた。


まさかエリーゼ嬢が四つも年下で中等部の学生だったとは……。


どうりで彼女の顔に見覚えがなかったわけだ。


高等部にこんな美少女がいたら、男子生徒の間で話題になっていただろうから。


なるほどエリーゼ嬢の胸のあたりが少し寂しいのはそういう……。


「クッパー子爵令息、今私のことを見て失礼な事を考えたでしょう!」


エリーゼ嬢にぎろっと睨まれた。


俺の心の声はダダ漏れになってるのか?


それともエリーゼ嬢は人の心の声が聞こえるのか?


何にしても、俺に春が来るのはもう少し先のようだ。





――終わり――





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こちらのお話の後日談として書いた「卒業パーティーで婚約破棄された彼を、公爵令嬢である私が拾います!」 https://kakuyomu.jp/my/works/16818023211983335891 を別作品としてアップしています。

後日談は「第9回カクヨムWeb小説コンテスト」に参加する為に、別作品としてアップしました。

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【完結】「『卒業パーティでの婚約破棄禁止!』と注意書きのあるパーティで、婚約破棄する奴なんていないだろう……と思ってたら、俺の婚約者が『あなたとの婚約を破棄するわ!』と叫んでいた」 まほりろ @tukumosawa

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