第8話「登城初日、宰相補佐とブロンドの天使」微ざまぁ




――四月―― 



卒業パーティでの婚約破棄騒動の黒幕はショーン伯爵令息ということが明らかになり、あの件は全面的にリンディーとショーン伯爵令息が悪いということが立証された。


俺はリンディーと正式に婚約を破棄した。


もちろん彼女の有責でだ。


リンディーとショーン伯爵令息は家から勘当された。


おそらくどこかの鉱山に連れて行かれ、二人で仲良く肉体労働していることだろう。


アーベル先輩が尽力してくれたこともあり、悪友たちが俺の悪口を言うやつをとっちめてくれたのもあり、卒業パーティでのリンディーの暴言を真に受ける者は少なく、俺の名誉は守られた。


心配していた文官への内定も取り消されることもなく、今日から俺は晴れて文官になる。 









「ルイス・クッパー子爵令息ですね。

 宰相補佐のウィルモード・ローレンシャッハ侯爵令息がお呼びです。

 宰相補佐室までお越しください」


「はいっ?」


登城初日。


受付で名前を書いたら、仕事ができそうな美人な受付嬢さんにそう言われ、宰相補佐室に連れて行かれた。


えっ?


なんでいきなり宰相補佐室に連れて行かれるの?


俺なんかした??


もしかして卒業パーティでの一件が尾を引いてて、登城初日でクビになるとか??


嫌な考えがぐるぐると俺の頭の中を駆け巡る。


そんなことを考えていたら、あっという間に宰相補佐室の前まで着いてしまった。


そして俺を扉の前に残し、ここまで案内してくれた美人受付嬢さんが帰ってしまった。


えっ? 受付嬢さん帰っちゃうの?


一人で入れってことですか?


せめて扉をノックして、「宰相補佐、ルイス・クッパー子爵令息を連れてきました」という声だけでもかけてほしかった。


新人文官の俺にとって宰相補佐なんて雲の上の存在……。


彼の執務室の扉をノックするだけでも勇気がいるのに……!


ええい! 男は度胸だ!


俺は腹をくくって扉を叩いた。


トントントントンと四回ノックすると、中から「誰だ?」という低い声が聞こえた。


「ルイス・クッパーです! 

 お呼びにより参上つかまちゅりましゅた!」


か、噛んだ……!


テンパりすぎて噛んでしまった!!


「……」


相手からの返事はない、やっぱり返す言葉を間違えた?


と思ったらいきなりドアが開いて、中から出てきた金髪の長身の男が出てきた。


彫刻のように整った顔立ちの美青年だった。


凄いイケメンがいるもんだなぁ、世の中不公平だなぁ……と思っていたら男に抱きしめられた。


「やぁ待っていたよ!

 呼び出してごめんね!

 本当はこっちから会いに行きたかったんだけどさ、宰相補佐の立場上そうもいかなくてさ!

 あのときは助けてくれてありがとう!」


ええ……と?


俺の方は、金髪のイケメン宰相補佐とお知り合いになった記憶はないのだが?


「……????」


俺が頭にハテナマークを浮かべていることに、イケメン宰相補佐は気づいたらしい。


「あれ?

 僕のこと覚えてないかな?

 そうか、今日は眼鏡をかけていないから」


そう言って俺の事をまっすぐに見つめてくるサファイアブルーの瞳には、見覚えがあった。


「もしかして……文官試験の日に会った瓶底眼鏡の……?」


「あーー良かった!

 思い出してくれたんだね!」


それは二か月前、粉雪が舞っている日だった。


目を「33」の字にして道端に蹲り、眼鏡を探してる男がいた。


「君はあの日、引ったくりに財布を盗まれ、眼鏡を落として、捻挫して、途方にくれてる僕を城まで運んでくれたんだ。

 眼鏡にヒビが入るし、コンタクトを家に忘れてしまったからとても助かったよ」


「でもあのときの男性は茶髪のボサボサ頭だったような?

 それにあのとき助けた男性の目は『33』の字でしたよ」


こんな目立つプラチナブロンドのサラサラヘアーのイケメンなら、嫌でも記憶に残っているはず。


「あれは変装用のカツラだよ。

 眼鏡とコンタクトを外すと目が『33』になっちゃうんだよね。

 今はコンタクトを付けているからこんな顔をしているんだ」


コンタクトの力って凄いな。


「33」の目をした男性を、女の子が一目惚れしそうな美男子に変えてしまうんだから。


「信じられないって顔してるね。

 なら証拠を見せてあげるよ。

 エリーゼ、僕の机の引き出しからカツラと眼鏡を取ってくれないか?」


エリーゼって誰?


「もうお兄様、人使いが荒いわ。

 それよりいつまで男同士で抱きあってるの?」


お兄様……?


部屋の中から女性のような高い声がした。


この声には聞き覚えがある。


「えっ……?

 君はもしかして……?」


茶色のかつらと眼鏡を持ってやってきたのは、卒業パーティで俺を助けてくれた金髪美少女だった!


「あなたは、卒業パーティで会った……」


もしかしてこれは運命の再会……!?


「文官試験最下位合格者さん!」


……にはならなかった。


文官試験最下位合格者のワードから一回離れてくれないかな……。


俺はちょっと泣きそうだった。


「エリーゼ、彼は僕の恩人だよ。

 失礼な事を言わないように。

 彼にはルイス・クッパーという立派な名前があるんだからね」


宰相補佐が少女から茶髪のかつらと眼鏡を受けとり、身に着けた。


それは俺が試験の日に見た冴えない男だった。


「それにルイス君が試験に遅刻しなかったら、おそらく彼は首席で合格していたよ。

 遅刻して一科目試験を受けられなかったのに、それ以外の試験は満点だったんだからね。

 そうだろう?

 学園の入学試験も卒業試験も首席だった、ルイス・クッパー子爵令息」


なるほど、エリーゼ嬢のサファイアブルーの瞳を見たとき、既視感があったのはこのためだったのか。


宰相補佐とエリーゼ嬢の瞳の色は同じ天色。


兄妹だから顔立ちも似ている。


それにしても宰相補佐は、かなり詳しく俺の事を調べているんだな。


「文官試験最下位……って聞いてたけど、アホじゃなかったのね。

 それどころか試験を受けられなかった一科目以外満点なんて、秀才じゃない!」


エリーゼ嬢は俺のこと少しは見直してくれたかな?


「エリーゼには説明したよね?

 文官試験の日に僕を助けてくれた人がいたって。

 その人は僕のせいで最下位合格になったけど、とっても優しくて賢い人だって」


「文官試験最下位というパワーワードが強烈すぎて、その他の事はぼんやりとしか……」


ええっ……エリーゼ嬢にとって俺はそんな感じの認識なの?!


「僕のせいで試験に落ちたらコネで採用しようと思ったんだけど、その必要はなかったようだね」


宰相補佐が俺に向かってウィンクした。


「はぁ」


宰相補佐ともなると、コネで文官を採用できるんですか……凄いな。


「コネを使っても採用できなかったら、責任をとってエリーゼをお嫁にあげようと思ってたんだけど、その必要もなかったね」


「ええっ?!」


エリーゼ嬢を俺の嫁に??


「ちょっとお兄様、何を勝手なことを……!」


「そうですよ!

 エリーゼ嬢には卒業パーティのとき一緒にいた美形の恋人が……!」


卒業パーティのとき、エリーゼ嬢はコルテン・ベック伯爵令息のパートナーだったはずだ。


悔しいが美男美女でお似合いだ。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





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