ごめんなさいを言いたくて

シンシア

こめんなさいを言いたくて

 いつもと変わらない一日の始まりであった。


 朝食のパンを食べている。


 私の向かいの席には青髪のご主人様が座っている。


 丸パンにオレンジマーマレードを塗ったものを嬉しそうに頬張っている。


 本当にこの人は何でも美味しそうに食べるのだ。あまりにニヤニヤとしながら食事をするので最初の方こそ、そんなに自分は可笑しな食べ方なのかと落ち込んだのだが、私のことなど目に入らないぐらいに食事を楽しんでいると気がつくまでにそう時間はかからなかった。


「どうかしましたか? もしかして腹痛でしょうか」


「申し訳ありません。調子が悪いわけではなくて、相変わらず美味しそうに食べるなと思いまして」


「それならよかったです。食事に幸せを感じられるところは私の数少ない長所ですから気が済むまで見てくれても構いませんよ。ですが、自分の食事を疎かにしてはいけませんからね」


 ご主人様は手が止まっている私のことをしっかりと嗜めると食事を再開した。


 私もそれに続くようにパンを手に取る。


 何故だが、先程より美味しい気がするのは気のせいだろうか。



「そういえばリリー。今日学校は休みですが、用事があるので街まで出掛けますね」


 食事を終えた後に声をかけられた。


 ご主人様は魔法学校で先生をやっているので、学校がある日はこの家がある離れの森から一番近い街まで通っているのだ。


 なので、私は一人で家にいることが多い。それを不憫に思ったご主人様のたった一人の友人を家に呼んでくれることもあるのだが、やっぱり寂しさはそうそう埋まらないのである。


 明確な理由によって開けられた穴は特定のものでなければ埋められないのである。


「分かりました。私もついて行きたいのですがよろしいでしょうか」


「──あー、リリーに来て欲しく無いわけでは無いのですが何かと不便なことがある気がするので、待っていてくれればすぐに帰れますよ」


 らしくない答えであった。


 来て欲しく無いわけでは無いと言いながら私がいると不都合なことがあるようだ。ご主人様が煮え切らないでどっちつかずなことを口にする時は決まって何か隠し事をしているのだ。


 いつもであれば素直に言うことを飲み込み「分かりました。急がなくていいので気を付けて行って来てください」と返すだろうが、何故か今日はそれが、それだけのことが出来なかった。


「私が居ては邪魔ですか。ご主人様は私のことが嫌いなのでしょうか!?」


 葉っぱのつゆほども思っていない言葉であった。


「そんなつもりで言ったわけではありませんよ……」



 ご主人様は私と目線を合わせてはくれない。眼は一層に湿度を増しているように見え、頭の上に生えている耳はくったりと寝てしまっている。


「ですが、貴方にそんなことを思わせてしまうということは私に非があるのは確かなので申し訳ありません」


「──」


 すぐに否定したかった。私は十分に愛されていると言いたかった。言葉が喉の所で引っかかって出てこなかった。必死に口をパクパクとさせるが言葉の気配すらしない。


 いっぱいの申し訳なさを抱えて俯いている今のご主人様に私の気持ちを汲み取れと願うのは酷な話であった。


「申し訳ないです。私も今一度、貴方にどうすれば気持ちを伝えられるか考えます。あまり遅くはならないので留守番よろしくお願いします」


 ご主人様は小さな声でそれだけ言うと帽子とローブを持って家から出た。


「───」


 声が出ないのだ。

 喉に手を当てて出そうするが音にならない。

 だが原因はなんとなくわかっている。私が自分を否定しているからだ。



 私がこの家に初めて来た時。


 何処かで意識を無くして倒れていた私をこの家までご主人様は運び入れて、看病をしてくれた。


全身はボロボロで酷い頭痛に襲われていた私を助けてくれた。


体の調子は戻ってもここに来る以前の記憶と声は一向に戻る余地がなかった。


 声を失くすほどのショックを受けた原因が記憶にあるかどうかはまだわかってはいないが、記憶を取り戻すことに諦めをつけて新しい家族であるご主人様の声をよく聞いて真似することで私はもう一度話せるようになったのだ。


 そんなご主人様のことを真似事の声で否定するなんてことをして良いはずがないのだ。


 ご主人様のあんな顔も声も初めてであった。


一緒に暮らそうと言われた日から全て私中心に考えてくれていることは痛いほど伝わっているし分かっているつもりだ。


 私はじっとしていることが出来ずに気づけばローブを羽織って外に飛び出していた。



 ご主人様が家から出てから三十秒程で外を確認したがもう姿はなかった。


それもおかしなことではなかった。


この森はご主人様の魔力に日々あてられ続けているので、常に魔力で満ちている状態なのだ。


これは魔法使いが最大の力を発揮出来る領域の条件の一つに当てはまる。


つまり、ご主人様にとってこの広大な森一つを飛び越えることなど造作もないことであるということだ。


 これは大変困ったことである。私がこの小さな体でこの森を超えるとなるとそれだけで日が暮れてしまう。


どうしたものかと扉の前で途方に暮れていると、左側の木々から青色の体毛の大きな狼がこちらに向かってくる。


ルガティという名前のご主人様のペット?である。


「ルガー!」と声を出したかったがそれは叶わなかった。


ルガーは心配そうな目でこちらに近づいてくる。私はしゃがみ込んでルガーの首元に触れて必死に念じる。


「ご主人様に今すぐ謝りたいの。だから街まで連れてって欲しいの。お願い」


 ルガーは私の目を真っ直ぐ見つめると困っているような表情を見せて首を震わせる。


「主の様子がおかしかった。とても悲しそうだった」


 音として聞こえはしないが確かにはっきりとそう聞こえた。


「私が悪いの。だから謝りたくて」


「それは出来ない。リリーを街まで連れていきもしもの事があったら主とどんな顔で会えばよいものか」


「そうよね、わかったわ。ありがとう。一人で頑張るわ」


 私はルガーの頭に触れて撫でると親愛の意味を込めて頬擦りをした。何か伝えたげな様子であったが、私は立ち上がって歩き出した。


「待ってくれ。私は行くのを止めたいのだ」


 ルガーはそう伝えたかったのかもしれない。そんな事を考えていた時見知らぬ声色が聞こえた。


「待ってくれ! 俺が連れていく! 絶対に離れないから」


「!!!」


 私は後ろを振り向くと青髪の青年がそこにはいた。初対面なのに、知り合い、いや大切な家族のような不思議な感覚がする。


「信じられないかもしれない。だけど俺はルガティだ」


 私は彼に駆け寄る。そして、手を握った。声は出ないので念じるしかなかった。


「疑ったりしないわ。ありがとうね」


「すまない。狼の体じゃないと心の声が聞こえないんだ。だけど今話せる状況じゃないのはわかった」


 ルガーは私の背中にそっと触れると青白い光に包まれた。眩しくて思わず目を閉じる。目を開けた次の瞬間には青色の大狼が背を低くして待っていた。


 私はありがとうの意味を込めて一礼した後に跨った。フワフワとしていて触れている部分が心地いい。鞍があるわけでは無いが座り心地に違和感はない。下手すると寝てしまいそうなくらいだ。


 ルガーは私が乗ったのを確認するとゆっくりと一歩ずつ歩き始める。私は振り落とされないように姿勢を低くして、しがみ付くように両腕でモフモフの体を抱える。


 徐々に速度は増していく。


 さらに伴って体はルガーの毛の中に沈んでいくようであった。私を包み込むように守ってくれているようだ。


 物凄い勢いで森を駆け抜けているのが感覚的に伝わってくる。ゾロゾロ、ガサゴソと木々や草花が動いているかのような音が聞こえるような気がする。もしかすると私達のために道を作ってくれているのかもしれない。


 顔が埋もれているので確認することは出来ないが、私は心の中で感謝の言葉を念じる。

 

 そこまでで私の意識は途絶えた。







 チクチクとむず痒い感覚に襲われ、私は咄嗟に目を開ける。


 視界には青色が広がる。


 綺麗な色である。光の加減によっては紫色にも見えるような青。大切なご主人様の髪の毛と同じ。


 そんな事を考えていると体が揺れる。グルルゥと鳴き声が聞こえる。


 ルガーの背中の上である。


どうやら気を失ってしまっていたらしい。


私は気を取り戻したことを伝えるように背中を撫でる。


すると、ルガーは足を畳むようにして姿勢を下げて降りやすくしてくれる。


その動きに促されて私は地面に足を付けた。


「連れてきてくれてありがとね。後は大丈夫」


 首元に触れながらそう念じる。


「付いていくと言った」


 短い言葉と共に口に咥えた灰色の布を差し出してくる。


 どうやら着せて欲しいらしい。青色の体毛は目立ってしまうからだろう。


 私はルガーの体に布を巻きつけるように被せる。


包帯で巻かれた幽霊犬のように見える。


連れて来てもらった恩があるのにもかかわらず、失礼な想像をしてしまった。


これだけは悟られてはならないとすぐに意識から幽霊犬を飛ばす。


 それから私がローブのフードを深く被り直し歩き出すと、灰色の大狼は右側をピッタリとマークするように並走するのであった。


 



 五分程歩くと街への入り口である正門が見えてきた。


この狼は過保護なようで森を抜けた先、ギリギリ門番が捕捉出来ない距離まで乗せてきてくれたのだ。


一同居人の私にまでこんなに従順であるとはびっくりである。


何度か一緒に森を探検したことがあるが、あの森はご主人様の領域であるため私に対して危険なことは何一つ起こらなかった。


そのため見張り役としてついて来てくれた大狼の出番などは、あって無いようなものなのでこんなに深く接したのは初めてである。



 今一度ご主人様がどれだけ私のことを想ってくれているかを身に染みて感じる。



 街へ入るにはこの門前の橋を通らなければならない。


橋では騎士団の方々が検閲をしているのだが、厳しいという噂を聞いたことがある。


私は一人で街へ来るのは初めてなので上手くできるか不安であった。


そんな不安な気持ちを抱えていると横にいるルガーが低い声を鳴らす。


大丈夫だと励ましてくれたのだろうか。


 私は一歩一歩確かに石畳を踏み締める。


「何も起こりませんように」と願うように一歩一歩足を進める。


「おい! そこの子供!お前一人か?」


 声を掛けられた。


 私は顔を上げて必死に伝えようとする。口をパクパクさせながら隣の狼に触れる。ルガーはそれに応じるように低い声を鳴らす。


「ん? 犬が一緒っつうわけね。まぁそれは問題ないんだが、通行証はあるか」


 私は首を横に振る。


そんなものが必要だとは知らなかった。


無ければ入れないのなら仕方がない。


 私は無理強いすることなく立ち去ろうと、お辞儀をした。


顔を上げる時にフードが取れてしまった。


「お! 俺の目がビンビンに反応しているぜ。こんな魔力感知は久しぶりだナァ!」


 そう男が言うと、鎧で武装した衛兵達に取り囲まれてしまう。


 それと同時にルガーは男と私の前に割って入る様に前に出る。


体は前に出しつつも後ろ足と尻尾で私を囲う様に守ってくれる。


より低い声を出して臨戦体制である。


 私はそんなルガーの体を撫でて大丈夫だからと必死に伝える。


「おいおいおい。抵抗しない方がいいぜ。俺はこの大事な門前を任されているんだ。それ以上敵意を出してみろ。どうなるかは知らないぜ」


 男は舌舐めずりをすると私達のことをしっかり捕捉する。


 そもそも魔力感知とはどう言うことなのだろうか。


私とルガーが纏っているご主人様お手製のローブは確かに体内の魔力をゼロだと誤認させる細工が施されている。


だが、私は魔法使いほど体内に魔力を保有することは出来ないので一般人と変わらない程度の魔力量しか無いはずなのだ。


それなのに男の目は凄い魔力量だと判断した。何かの間違いだ。


側にあんな凄い魔女がいながら初級の魔法すらまともに扱うことが出来ない私が保証する。



 誤解であると言いたい。


 私は男の目を見て訴えかける。


「おっとそんな顔してもダメなものはダメだ。街へ入らないからって、易々と帰すわけにはいかねぇよ。こうしてる最中にもどんどん魔力が上がっているぜ。漏れ出ているみたいにコントロール出来てねぇな!」


 ダメだ。


完全にこの人の目は誤作動を起こしている。それに何故だか気が立っているので交渉の余地などない。



 取り囲んでいる槍の矛先はジリジリと迫ってくる。


ルガーの威圧も最高潮で今にも飛びかかかってしまいそうである。


私は彼を宥めるのに必死である。


抱きついて気持ちを流し続ける。


「大丈夫だから、大丈夫だから」と伝え続ける。


 そんな私の行動を無下にするかの様に男は衛兵に指令を下した。


「やれ!」


 男の声を号令に槍は一斉に私達の元へ迫ってくる。



 私は目を瞑る。


もうダメだと瞼に力を強く込めるたその瞬間、眩い光に襲われる。


 三種類の光であった。


 一つは金色の光。

 一つは青白い光。

 一つは深い青色の光。



「ルガー、よくギリギリまで我慢しましたね。私が駆けつけるのを待ってましたか?」


「リリーが大丈夫大丈夫ってずっと宥めてくれましたから。それに主の監視無しに姿を表せば私は即打首ではないですか」


 二人の声を認識した時に初めて私の体が浮いていることに気が付いた。私は人間の姿のルガーの右脇に抱えられているのだ。さらに、私の目の前にはご主人様の姿があった。


「───!!!」


「後でこのお転婆にはしっかりとお仕置きが必要ですね。貴方もですよルガー」


 ご主人様は後ろを向いて笑いかける。


 それを見て涙がポロポロと溢れ落ちる。


 ぐちょぐちょになる視界に映り込んだのは金色の大きな盾のような物体であった。


それはルガーの周りを回っている。


まるで「ボクも助けに来たよー!」と言いながら意志を持っているようだった。


「さてと、私の可愛い従者を泣かせた罪は重いですよ」


 ご主人様は杖を構える。


「泣かせたのは主じゃないですか?」


 ルガーが余計な茶々を入れる。


「うるさいですよ。焦らなくても後でたっぷりお仕置きするので黙っていてください」


 魔法の一つでも飛んできそうな剣幕だが、私を抱えているからか、今はお咎め無しであった。


「おいおい、またアンタかよ、ネコミミ。勘弁してくれよ。俺は街の平和の為に仕事しているだけだぜ。アンタと揉めると隊長にこっぴどく叱られるんだ。それに可愛い従者って言うなら俺の可愛い部下共も腰抜かして倒れてるんだが?」


 男は腕を上げて降参の意を表す。


「それは申し訳ありません。ですが、リリーに槍を向けるなんて重罪の他あり得ませんからやっぱりここで全員纏めて燃やしましょうか」


 とてつもない気迫を感じる。


今のご主人様に口出し出来る人がいるのだろうか。


あまりの覇気に先程は茶々を入れていたルガーでさえ黙り込んでじっと主人を見つめている。




「また大きな騒ぎを起こしたもんだ。エリン頼むから魔力を抑えてはくれないか」


 頭を抑えながら街から出て来たのは豪華な甲冑を纏った男であった。


「隊長!」


 門番の男は彼に向かって頭を下げる。


男の反応からわかるように騎士団の中でも相当偉い立場の人なのだろう。


それと同時にご主人様のことをエリンと呼んだということはご主人様と親しい間柄である人物でもある。


「さっきぶりですねリンド。そうしたいのですが、久しぶりの怒りを抑えるのは難しそうなので、すぐにこの場を離れるということで手を打ってはもらえますか?」


 選択肢が他にあるわけではない。


これは手を打てと言っているようなものであった。


「ああ、わかったよ。後の処理は全部任されたよ」


 ご主人様は詠唱を始めた。


「嬢ちゃん、懲りずにまた来てくれよ。こいつも悪い奴じゃないんだ。通行証はエリンに渡しておくから、いつでも会いに来てくれよ。俺の名前を出してくれて構わない」


 私は目一杯頭を下げた。いつになったら下ろしてくれるのだろうか。


「では二人とも帰りますよ」


 ご主人様がそう言うと眩い光に包まれた。


 次の瞬間には見慣れた家の中であった。


ルガーは私をソファーの上に下ろしてくれる。


「リリー、それじゃあ後の事はよろしく頼む。楽しかったよ」


 ルガーはそれだけ言うと、物凄いスピードで家から出て行った。ご主人様はその様子を見送った。


「私ってそんなに恐ろしいでしょうか。私がその気になればどんなスピードを出そうと逃げることは出来ないとわかっているはずですが」


 ご主人様はまったくと呆れた様子で首を傾げる。


「リリー」


 私は呼ばれる。


「──」


「声が出ないようですね」


 ご主人様は私の前まで来ると膝を折って立膝になる。


「ほら、ぼぉーっとしてないで、抱きついて良いですよ」


 私はご主人様の胸に飛び込んだ。しっかりと受け止められた感触を背中に回された腕から感じる。


「ごめんなさい。ご主人様に酷いこと言ってごめんなさい。一緒に居て欲しかっただけなの。ごめんなさい」


 痰が切れたみたいに言葉が涙が溢れ出た。トントンと背中を優しく叩く音がする。


「申し訳ありません。私も少しショックを受けすぎました。考えてみればリリーに私の想いが伝わってないなんて少しでも思ったことは無いです」


「ううん、悪いのは私です」


「もう謝るのは禁止ですよ。充分伝わりましたから」


 続けてご主人様は門前であったことについてを教えてほしいと言う。


「通行証が必要だと知らなくて、謝ろうとお辞儀をしたらフードが取れて、そしたら魔力感知がどうとか」


「もしかすると、リリーも私の魔力の影響を受けてしまっているのかもしれません」


 家がある森が日々ご主人様の魔力にあてられて領域と化しているのであれば、ご主人様と密に接している私も魔力にあてられていると考える方がスムーズである。


「体調に変化が見られないので大丈夫だと思ったのですが、どうやらリリーも私の魔力にあてられてしまっているようですね。いけませんね、失念していました」


 体調の変化とは頭痛であったりするのだろうかと先程の豪華な甲冑の男の言葉を思い出す。



「リリーに怪我がなくて本当に良かったです。それに、よくルガーを抑えていてくれましたね。あのまま飛びついていれば処分は免れなかったかもしれません」


「ええ!!!」


 身の毛もよだつ話である。


 私のことを守ろうとしたがために犠牲になるなんてことは絶対に嫌である。


そういうことは事前に伝えておいてほしい。



「私、もっとご主人様のこと知りたいです。教えてください」


「そうですね。面白い話は出来そうにありませんが、それでもよいのであれば」


 緊張の糸が切れて、どっと疲れが襲ってくる。


さらに、ご主人様が背中で呼吸に合わせた心地の良いリズムを取ってくれるのでなんだか眠たくなってくる。



「疲れましたよね。一旦、寝てしまっても構いませんよ。一緒にベッドに行きましょうか」



 ご主人様に抱えられて二階に上がった所で私の意識は無くなった。







 私はリリーを抱きかかえて寝室がある二階に上がる。


小さな寝息が聞こえてくる。


起こさぬようにそっと扉を開けてリリーをベッドに寝かせる。


ふと見た寝顔があまりにも可愛らしいものだったので、たまらずその額に唇を落とす。


もう一度顔を眺めて起きていないことを確認する。



「ふー、寝てくれたので助かりました」


 私は来ていたローブの下から小包みを一つ取り出す。


 これは私が今日どうしても秘密にしたかったもの。


「喜んでもらおうと思ったことで余計に悲しませてしまうとは──私はダメダメな親代わりですね」


 この小包みの中には今、ベッドですやすやと寝息をたてている少女へのサプライズプレゼントが入っているのである。

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