創作の秘密
木曜日御前
創作の秘密を知ってるかい?
この世界の創作には、実は大きな秘密がある。
とある男性が小説を書き始めようとした日。
乗車率200%の電車の中、スマートフォンを使い、ウェブ小説の異世界ファンタジーを読んでいた。
降りるまで後三駅ほど、息も吸うのも辛い中で、彼はふと思ったのだ。
「主人公がとんでもない、規格外なキャラクターだったら、もっと面白いのでは」
天啓を得たかのように、彼は思考を巡らす。
どんなキャラなら面白いか。どんな要素があったら面白いか。世界は。武器は。
溢れ出した彼のワクワク感。
この溢れ出したワクワクがどこにいくか。
ワクワクは人には見えない七色のシャボン玉となり、天へと昇る。
昇っていった先は、天界の大きな雲の中へとやってくる。雲の中には、創作平野という不思議な空間に繋がっていた。
空間には無数の小さな雲らしきモノが浮遊しており、シャボン玉の一つが小さな雲とぶつかった。
ぱんっ。
軽い破裂音と共に、雲はもくもくと激しく動き、次第に人の形を作り始める。
そして、出来上がったのは、筋肉ムキムキマッチョ、ケツアゴが割れたらこ唇が特徴的な人型だった。
『ちょっと、しっかり作り込みなさいよ!?』
声もなく、ゴシック体の文字が人型の横に浮かび上がる。暫くして、シャボン玉がまた一つやってきて、人型とぶつかった。
劇画調の鋭い眼差し、髪型は豪華絢爛、ドリル巻き髪。身体はギリシャの彫刻のようだが、ぶらりと三本目の足もよく見える。
『まあ、なんて芸術品な身体! 世界中の人が羨んでしまうから、服も用意して』
そう叫ぶ人型の前に、また一つシャボン玉がやってくる。そうそう、やっと服が。とシャボン玉に手を伸ばすが、まるで嘲笑うかのようにふいっと手を避けて、違う雲とぶつかった。
ぱんっ。破裂音と共に、雲はまた同じように人型を変えていく。生まれたのは、きゅるるんとした瞳が愛おしいつるっぱげの美少年だった。見ようによっては少女に見える風貌だった。
しかし、二人とも裸である。少年の人型はガチムチの人型を見ると、目をキラキラと輝かせた。
『こんにちは! 名前は決まりました?』
少年もまだ声が決まってないため、可愛い丸文字フォントで文字が空間に浮かぶ。
『残念ね、まだよ』
元気に挨拶する姿に、ガチムチはつるつるの頭を撫でる。暫くして、シャボン玉がふわりと飛んできて、少年の頭を撫でた。金色の前髪の長いマッシュボブだ。
『ちょっと、あなたの可愛いお目々がもったいないじゃ無い!?』
『なんか、創造者様曰く、「目隠れ美少年は
『全く、創造者様はほとんど変態ね』
創造者、様々な創作を作る人達が、この世界にはたくさんいる。
そんな創造者たちのワクワクを受け取り、具現化する世界がこの創作平野なのだ。
創作平野は無限数あり、創造者が新しく世界を考える度に増えていく。
また、世界に浮かぶ雲たちは、ワクワクを受け取って、人間や動物、その他の新しい生き物、家具や武器へと具現化していくのだ。
創造者の頭の中は、この広大かつ自由な創作平野へと繋がっているのだ。
『まさか具現化したら、ガチムチになるなんて思わなかったわ。キュートなヒロインかなとか思ってたのに』
『まあ、想像とは不思議なものですからね』
まっ裸で笑い合う僕たちに、ふよふよとシャボン玉が二つやってくる。
それぞれが人型たちの身体に触れる。
パンッ、パンッ。
ガチムチの人型は、ド派手な赤いタイトなドレス。胸元は立派な胸筋が露わになり、大臀筋の盛り上がりも激しい。
それに比べて、美少年型の服はヨーロッパのお姫様のようなピンク色のフリフリドレスに、バラの飾りが可愛いハーフボンネット。
「あら、可愛いじゃない。って、声も決まったのね、って思ったより酒焼けしてるわね」
「確かにガスガスですね……って、僕の声、高すぎでは!?」
「この創造者、アンタのこと、男子ってこと忘れてるんじゃないの?」
呆れたようにガチムチが肩を下ろしていると、またシャボン玉が飛んできて、違う小さな雲とパンッと融合する。
新しい人間かと見れば、ぽわぽわと一冊の本となり、二人の元へと飛んでくる。二人は本を開いて、書かれた文字を読んだ。
「ドラァグクイーンに、女装男子で、タグに『男の娘』だぁ!? こいつ、なめてんのぉ!?」
「異世界転移と異世界転生どっちも使いたいからって、それぞれ属性付与するのは大胆ですね」
「しかも、悪役令息!? けど、本当は虐げられていてざまぁ。敵をもふもふハムスターにすることで、もふもふも……てか、こいつ何でも盛ればいいって思ってない!?」
「ドリンクバーで飲み物全部混ぜるタイプの人間そうですね。追放とスローライフをどう盛り込むかは、検討中らしいですし」
引き攣った二人の元に、また二つのシャボン玉がふよふよ飛んでくる。なんならば、どんどんどんどんワクワクのシャボン玉の大群が襲ってきた。シャボン玉の中に埋まる二人と、たくさんの小さな雲たち。
パンッ、パンッ、パンッ。
「ちょっと、大宇宙の敵って何よ!!」
パンッ、パンッ、パンッ。
「メイド服に、巫女服、スクール水着!? 創造者様は、僕のことをなんだと思ってるんですか!?」
パンッ、パンッ、パンッ。
「ちょっと! すね毛や胸毛顎髭生やすんじゃないわよ!」
パンッ、パンッ、パンッ。
「猫耳とか、うさ耳とかなんですか!? 僕は普通の人間です!」
パンッ、パンッ、パンッ。
「地下帝国でミミズ人間とモグラ人間の抗争を、私のラップで解決なんて出来るわけないでしょ!!!」
パンッ、パンッ、パンッ。
「なんで、僕こんなに攫われてるんですか! お色気シーンもいりません! もっと活躍させてください!」
「「この小説、何がしたいんだぁああ!!!」」
軽快な破裂音の中、二人は時には姿を変え、世界を変える。シャボン玉に振り回されながら二人は、どんどん出来上がっていく世界の宙を飛んだ。
広がっていく、世界の始まりは、主人公二人の視界に焼け付けていく。
暫くして、シャボン玉がいったん落ち着いた。その頃には、二人はどこか夕日輝く海辺の砂浜に倒れていた。
「全く、カオスもいいところよ」
オカメインコのような化粧をしたガチムチは、スパンコール輝く赤いセクシーなドレスの上に、黒鉄で出来た鎧を着けている。
「この話、ラストどうするんですかね」
美少年は、アールヌーボーなドレスを着ており、華奢な身体を強調している。瞳の色も七色に輝いていた。
「最悪、隕石エンドとか書いてあったわ」
「最後まで書けるんですかね。てか、書き始められるんですかね」
「それは、こいつの力量次第よ。風呂敷、広すぎて太平洋って感じだけど」
「信じるしか無いですね」
そんな二人に、最後。ふよふよとゆっくりと飛んできたシャボン玉。
パンッ、パンッ。
二人はにっこりと笑って、お互い向き直る。
「やっと名乗れるわね。私はケツアゴカチワレーヌ。相棒、あなたの名前は」
「僕は、
「ふふっ、太子。これは骨が折れる作品。私たちで、創造者様の尻を叩かなくちゃ」
「ええ、僕たちの働き次第ですね」
二人は熱く強く握手を交わす。その眩しい姿は、創造者である男の脳裏に浮かんだ。
男は、はっと目を開くと、スマートフォンのメモ帳に残す。
『主人公二人の名乗るシーンは、夕日の海辺でかっこよく』
こうして、創作は形を作り、物語となっていく。
空を見れば、世界に散らばる雲の中には、私たちの脳内の登場人物たちがいるかもしれない。
これが、創作の秘密である。
創作の秘密 木曜日御前 @narehatedeath888
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます