秘密と教訓

第3話

　巨人君は中日君が苦手だ。中日君はすぐ巨人君に厳しく当たる。やれ服がズボンから出てるだの、やれ猫背だからみっともないだの。ほっておいてほしい。だけどだからと言って中日君が言っていることは間違っていないので文句も言い返せない。しぶしぶ従うのみだ。

中日君とはよく昼休み時間に野球をやる。あのゴム製のボールとプラスチックのバットでだ。巨人君はやっぱりピッチャーだ。相変わらず守備が下手なのだ。よく中日君にはどやされる。やれ打たれすぎだとか、やれなんで今の打球が取れないんだとか。一度など簡単なピッチャーフライを落としてしまったときは、詰め寄ってきて膝蹴りをかまされてしまった。だって、ゴム製のボールは軽いので風によって簡単に飛ばされてしまうのだ。だけれども言い訳はできない。なぜなら中日君はちゃんとフライは取っているから。

ある日、運動会の練習日であった。しかし、中日君の様子がおかしい。何やら気難しい顔をしている。どうやら体操着を忘れたようだ。練習の時、中日君は制服のまま機械体操に参加した。機械体操では巨人君を中日君の体に乗せて持ち上げるものがある。練習が始まったが、巨人君はもじもじしている。なぜなら中日君の体に乗ってしまうと中日君の制服が巨人君の靴で汚れてしまうから。そうやってもじもじしていると中日君は「早く乗れ。」と言ってきた。「でも…。」とさらに巨人君がもじもじしていると中日君は「いいから。」と言った。そういわれると巨人君はしようがないので中日君の膝の上に土足で上がった。中日君の白い制服は校庭の赤土によって汚されてしまった。それでも中日君は表情を全く変えず淡々と練習を続けていた。

教室で中日君が女の子と話をしていた。練習の時とは打って変わって表情は柔らかかった。どちらかと言えば何かいつもの中日君らしくなくなんかどぎまぎしているようにも見えた。練習の後から巨人君の中日君に対する感情は若干の変化を見せているようだ。昼休みの時、いつものようにゴム製のボールで野球をやっている。そしていつものように中日君が巨人君にあれこれ言ってくる。そして、ボールはまた、ピッチャーフライになった。ふらふらとあがったボールをしかし何だか今度は取れるような気がした。キャッチ。すると中日君が「よしっ。」と歓声を上げた。巨人君はなんだか誇らしく思った。授業開始の鐘がなり、急いでみんなで教室へと走っていった。