第2話

 阪神君は巨人君の友達だ。巨人君と違って体つきは人並み以上、明朗快活で周りからも慕われていた。どちらかと言えば親分肌だ。いつも周りには人が集まって何やら楽しそうにしていると巨人君は少しうらやましかった。ただ、あまり友達のいない巨人君に気軽に声を掛けてくるのが阪神君だ。今日も「おーい、三角ベースやろう。」と休憩時間に声を掛けてきた。いつもは手持無沙汰で、三角ベースをやる子たちを壁際で見ているだけの巨人君だが、そうやってたまに阪神君が声を掛けてくるのが楽しみだった。


たまたま、阪神君と二人きりで話をする機会があった。阪神君の言う事には、「周りに友達が多いから楽しく話していると思っているでしょ?」と変な事を言い出した。友達と仲良く楽しく過ごしているに決まっているのにどうしてそんなことを話すんだろうと巨人君は不思議に思った。「ところが、それほど親しい友達はいないんだ。」と話してきた。それを聞いた巨人君はびっくりした。あれ程楽しそうなのに親しい友達がいないなんて。何か阪神君がうそをついているんじゃないかと疑って必死でその気持ちを打ち消した。


ある時、前を歩いていた阪神君がハンケチを落とした。巨人君はそれを拾い「ハンケチを落としたよ。」と少しはにかみながら急ぎ足で阪神君に追いつきそういってハンケチを渡した。「お前は優しんだな。」と阪神君は嬉しそうに言った。阪神君はどうやら巨人君の優しい所が好きらしい。そう考えると何か小恥ずかしいムズムズする感じだ。自分としては当然と思うことも何やら新鮮に見えるらしい。ほかにそんなことをいう子は一人もいないのに。


年が変わると学級が変わり、阪神君は別の学級になった。あまり話をすることもなくなっていった。何学年か過ぎ、ほとんど阪神君のことも気にも留めなくなっていたころに、たまたま阪神君と会う機会があった。久しぶりに会った阪神君は巨人君に「自分ちで誕生日会をやるんだ。お前も来いよ。」と誘ってきた。皆で集まって阪神君の誕生日会をした。ボールで遊んだり、鬼ごっこをしたり普段そんな大人数で遊ぶことが無かった巨人君はなんだか夢心地になり楽しかった。別れの時、「実は引っ越すことになったんだ。」と話してきた。唐突なことでどう反応していいかわからずにいると、「そういうことだから、最後にお前ともあそんどこうかなって。」と何だかさみしそうに笑った。あれから阪神君とは一度もあっていない。たまに阪神君の事を思い出し、どうしてるかななんて考える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る