秘密と教訓

千瑛路音

秘密と教訓

秘密・・・ないな。


思春期の頃は秘密だらけだったが、年を取っていくとどんどんどうでもよくなっていく。人が気にしていることと、自分が気にしていることに若干ずれを感じたりもしてそれもばかばかしく感じることが多くなった。とにかく、人に迷惑をかけないこと、の方が最近では重要じゃないかなと感じ始めてきた。ただ、そういうのに気を遣うのも結構大変だ。それも秘密と同じように自分が重要だと思うことと、人が重要だと思うことに若干ずれがあるように思う。


秘密といえば一つ思い出したことがある。

小学校高学年のころ、先生が何かに対して怒っていて、その犯人を捜していた。自分ともう一人を問い詰めていたが、自分は自分の事を犯人でないことはわかっていたが、もう一人の方が黙っていたので自分も黙っていた。その件はそのまま立ち消えとなったが、その後、自分がほかの同級生と喧嘩した時、短気を起こした自分をそのもう一人の方が止めにはいった。その人が自分を止める理由はなかったのに。今、思い返してみると、ずっとその人は以前の件を覚えていたのだなあと思う。そういえば、ほかにもいろいろ思い当たる節はある。自分が評価している人の人物像とその人がこちらをどのように思っているのか、行動しているかはぜんぜんあてにならない。きれいごとにならないように慎重に言わせてもらっても、あまり独断専行で突っ走らないでとりあえず時間が解決してくれるのを待つ方がいいのかもしれないなあ。


巨人君は、黄色の巨人のマークが入ったキャップをいつも被る。だからあだ名が巨人君だ。やせぎすで、人の目を気にしいである。おどおどしていてほとんど人と目を合わさない。その為、人から何か隠しているのではなんて疑われたりする。しかし、巨人君は素直でいい子。人から疑われるようなことはしないのだ。ある時、兄弟とボール遊びをしていた。ゴム製のとても柔らかい奴だ。プラスチックバットで野球をやる。巨人君はあまりスポーツは得意ではない。走るのも苦手だ。なので、投手をやらされる。基本的に守備がうまくないのだ。そして、球はカーブが得意だ。ゴム製のボールは回転をかけると思った通りに空中で曲がってくれる。こう親指と四本の指の指先で押さえつけ、四本の指を反動で広げるとボールは面白いように回転する。そうやってカーブをかけるのだ。打者の背面から大きく曲がって下手をすると外角へとそれていく。それを調節するとストレートよりコントロールが効く。決め球に使うのだ。


その日もやはり決め球にカーブを選んだ。スルスルスルと空中を滑るようにゴム製のボールは打者の頭を横切ってストライクゾーンへと入っていく。バコーン。打者は体のデカい長兄であった。いつもカーブが来るのは分かっていたことなので、それを狙っていたのだ。ボールは思った以上に飛距離を伸ばし、ぐんぐん青空へと飛んでいく。広場に設置されていた防護ネットを超えてぐんぐんと。これは取りに行かないといけない。そう即断するとダッシュで広場から出てボールを追いかけた。なかなか見つからなかったが、ようやくゴム製のあの超柔らかいボールが見つかった。側溝の、昔は側溝は蓋が無くややヘドロで黒くなっていたりした、中にプカプカと浮いている。流される前に急いでボールを掴むと手が汚れるのも気にせず急いでみんなのところに戻ってみる。「あったよー。」と嬉しそうにみんなに声を掛けてみたが返事はなかった。無いはずだ。広場には誰もいなかった。不安になり辺りを見渡す。誰もいない。たとえようもない孤独に見舞われて、周りをきょろきょろと探す。目には少し涙がたまっていたがそれも気にならないほど動揺していたのだ。


皆夕飯時で先に帰っていたのだった。帰路どんなにか心細かったことだろう。皆にそのことを言うと自分に対して悪かったと思ってしまわないか心配だった。ずっと秘密である。

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